パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文だらだら。 違和感あるかも。
ちょっとガバいかもです。

漫画版であった、体力測定。 フレンズによって、得意な事は違います。 それはきっと、ヒトも。


☆サーバルとコアラの体力測定

ヒトの姿でありながらも、元の けもの の魅力や特徴を受け継ぐアニマルガールことフレンズ。

 

その身体能力は、けもの の頃よりも飛躍しており、ヒトを凌駕して余りある。 皆が皆ではないけれど。

 

アニメでいうと、サーバルがバスの運転席を持ち上げていたね。

 

トキは、かばんちゃんを持って空を飛んだ。

 

ビーバーとプレーリーは、協力して立派なログハウスを建てた。

 

様々な可能性や不思議、有用性と危険性を孕む数々の能力。

今現在、フレンズとヒトで大きな摩擦は聞かないけれど、将来は分からない。

 

だけどフレンズは、その名の通り、決して悪い子ではない。 良い子たちだ。

 

雲の上のヒトたちも、そうなのだろう。 だからこそ、来園者との接触は許可されているし、互いに手を取り合うし、笑い合う。 そこに嘘偽りはない。

 

菜々が漫画で言っていた。

 

フレンズは、ヒトと動物の架け橋になるような、そんな存在だと。

 

そう、思っているそうだ。

 

俺も、そう思う。

前世より想いは強い。

 

パークに来て、目の前で見たから。

その温もりに触れたから。

 

信じるな、という方が無理だ。

 

ともだち であり。

守るべき こども たち であり。

希望と輝きだ。

 

それでもヒトとは、心のどこかで恐れているのかも知れない。

その裏に隠れる、陰の存在を。

 

そうでなくても、根掘り葉掘り調べたいという無邪気な好奇心。

分からないものを理解したいという欲求。

 

歩き方を知らず、走り続けた先にあるもの。 それは希望か絶望か。

 

明日行う予定の体力測定も、健康状況の確認以外に別の意味での……つまり、データ収集が含まれているのは違いない。

 

これらは妄想だ。 だけど、全く的を得ていない訳じゃあるまいて。

 

何にせよ、ぼちぼち起こりうる事件への対策を考えねば。

放っておいてもセントラル事件は、園長たちが何とかするだろうけれど。

 

 

「カコが悲しむのはさ、見たくない」

 

 

非力なヒトに、俺に出来る事。

 

ある筈だ。

 

そして。

 

何回だって、誰かを救えるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーバルとコアラ、キタキツネの体力測定日。

 

立ち会うヒトは俺と菜々、ミライの3人。

 

測定場所はココ。

 

低木が生え、黄金色の草が広がる雄大な大地。

 

サバンナちほー。

 

いつか遠い未来にて、かばんちゃん始まりの地となるのだろうか。

 

そんな感じに、青空の下でボケーと考える俺だが、ミライの声で我に帰る。

 

 

「昨日言ったとおり、今日は体力測定をします」

 

「やったー!!」

 

 

元気で明るい声が響いた。

側にいる第1世代サーバルだ。

 

その明るさで、元気が少し湧いてくる。 アニメでもそうだったが、前世で何度励まされた事か。

 

「けものフレンズ」のヒロイン枠であるサーバル。

 

胸元は白色で、腕のロング手袋やスカート部分は黄色に黒色の斑点。 少し短めの尻尾は黄色と黒の縞々。

 

服装は同じハズなんだけど……色合いというか、髪の長さか。 少しアニメと雰囲気が違うかな。

性格は大凡共通で、天真爛漫って感じなんだけどね。

 

本当は、主役に出会えた奇跡に感謝感謝の雨霰の涙が出て良いんだけどさ。

 

今は別の涙が出そうだよ。

 

 

「サーバル」

 

「え? なになに、あんじゅ?」

 

「危ない時は、無理しちゃ駄目だからね。 ヒトに、パーク職員に助けを求める事も忘れないで」

 

「急にどうしたの?」

 

「どうしました?」

 

「先輩?」「杏樹さん?」

 

 

サーバルのみならず、エプロン姿のコアラ、馴染みの菜々とミライにも首を傾げられた。

 

いや、本当にどうしたんだろうね。

ただ、言いようもない不安な気持ちを抑えたかっただけかも知れないな。 朝は余計にそう思わせるから。

 

未来は漠然として、見えるようで見えない。

その始まりを切る朝日は不安にさせるんだ。

 

それは暗い夜道を1人で歩くのに似ている。 先が見えない。 そこに何かあるかも知れない。 誰かいるかも知れない。

恐怖だ。 大抵は悪い方向に考えてしまう。

 

そういえば、第1世代のサーバルや、他の子は、どういう理由で交代したんだろう。

寿命か、セルリアンに捕食されたか。 もし後者ならば……もし、その場にいたら、救えると良いな。

 

 

「いや。 たださ、セルリアンが出るかも知れないから」

 

「大丈夫! 自慢の爪でやっつけちゃうんだから! あんじゅも、ミライさんも菜々ちゃんもコアラちゃんも。 みんな私が守ってあげる!」

 

 

サーバルらしい、元気な解決法。 なにより、その笑顔が1番の抗うつ剤。

 

煢然な気持ちなんて、どこかに飛ばしてくれる。

 

 

「杏樹さん、大丈夫ですよ。 何があっても、私たちがサポートします」

 

「そうです! 先輩は構えていれば良いんです!」

 

 

ありがとう。 ミライ、菜々。

こんな先輩を励ましてくれて。

 

 

「わ、私もお手伝いしますよ。 ケガしたらパップを差し上げます」

 

 

ありがとう。 コアラ。

気持ちだけ受け取る。

 

 

「みんな、ありがとう。 改めて測定をしていこうか」

 

「おー!」

 

 

俺は幸せ者だなぁ。 こんなにも、素敵な ともだち に囲まれていたんだもの。

 

前世では、ぼっちの挙句に労働中に死んでしまったけれど。

冷たく拠り所のない心は、今や温かく包み込まれている。

 

とりま、そんな素敵な仲間たちと仕事をしよう。

 

手遅れだけど、先輩として振る舞うべく菜々に指示を出した。

 

 

「菜々、点呼よろ」

 

「はーい点呼とるよ! サーバル!」

 

「はいはーい!」

 

「コアラ」

 

「はーい」

 

「キタキツネ! キタキツネ?」

 

「お出かけするって! 3日くらい」

 

「……また勝手なことを」

 

 

うん。 どうやら漫画版の通り、キタキツネは欠席の様子。

知ってた。 最初から見当たらなかった時点で。

 

 

「仕方ないですね。 お二人だけということで」

 

「……監督不行届で、ほんとに ごめんなさい」

 

 

落ち込む担当の菜々。 対して怒らず、笑顔で進行を促すミライ。

俺も前世で、こんな上司と部下の関係が欲しかった。

 

いや、過去を悔やんでも仕方ないけれど。 今は今である。

 

 

「うーん。 私が来る前は泥棒癖が直ったと聞くけど……この辺を しっかり教育しなきゃダメかぁ」

 

 

菜々がボヤいた。

 

はて。 漫画版の通りなら、食料泥棒は菜々が担当になっても、何度かやらかしている筈なんだけど。

 

 

「キタキツネは、もう泥棒してないの?」

 

「え? はい。 私が担当になってからは、やってません」

 

 

ありゃ。 俺の影響だろうか。 良い傾向であるけれど。

 

俺、なんか したっけ?

 

 

「前任者である杏樹さんの教育が良かったんですよ」

 

 

ミライが褒める。 素直に嬉しいけれど、要因がハッキリしないので微妙。

 

 

「うーん? キタキツネはワガママだからなぁ……俺が何かしたくらいじゃ、変わらないと思っていたけれど」

 

「変わってますよ。 小さな事かもしれませんが、この調子で いきましょう」

 

「私も先輩を見習って、立派な飼育員になりますっ」

 

「いや。 俺、臨時職員だから。 飼育員じゃないから」

 

 

反射的に否定してしまう。

特に立派という言葉は、俺には合わない。

 

利益不利益、自己満足や遊びで活動している部分がある。 後ろめたい。

 

そんな俺の心境を察してか。 ミライが はっきりと褒めてきた。

 

 

「でも、その時は臨時でも飼育員です。 そして、短期間でフレンズの教育を行い、良い結果が出た。 専属ではないのにも関わらず、これは大きな成果です。 管理センタースタッフの皆さんも褒めてましたよ」

 

「そうですよー!」

 

「そ、そうか」

 

 

俺の行いは、そんなに良かったのか?

 

なんだか、褒められて恥ずかしい。

 

 

「あー、ほらほら! 測定時間がなくなるぞ! まず最初は何やるんだ?」

 

「あんじゅー、照れてるの?」

 

「照れてますねぇ」

 

 

サーバルとコアラがニヤニヤ。 片手を口に当てて、少し目を細めて見てくる。

 

ええい。 オトナを揶揄うんじゃない!

 

ああ、でも。

 

擽ったくも懐かしい。 悪くない気分だ。

尊く、だけど手を伸ばせばそこにある。 郷愁にも似た何かで、けれど しっかり 存在するもの。

 

 

「サーバルちゃん、なんだなって」

 

 

ボソッと。 とても小さな声が出た。

 

でも、耳の良い サーバルだ。 俺の声に、大きな縦長の けもの耳をピクッと動かして反応してきた。

 

 

「呼んだー?」

 

「何でもないよ。 じゃ、1キロ走から やろうか」

 

「わーい! 私、走るの超得意だよ!?」

 

「私、苦手ですぅ」

 

 

誤魔化し成功。 これ以上は日が暮れるので回していこうず。

 

 

「ミライ、説明よろしく」

 

 

そして投げる。 立派な職員と褒められた後にコレという。 我ながらヒドイ。

 

けれども、ミライたちは嫌な顔せず対応していく。 あかん。 浄化されるぅ。

 

 

「分かりました───ここから1キロ先、ゴール地点まで走って下さい」

 

「えーと」

 

「私、合図しますから、菜々さんは計測をお願いします」

 

「はい」

 

 

そう言われて、ストップウォッチを渡される菜々。 漫画版同様、菜々が計るらしい。

 

 

「10秒ぴったりで止めるって難しいよね」

 

「私もやりたいですぅ」

 

 

フレンズは相変わらず自由である。 して、ストップウォッチの用途を理解していると見る。

この辺もまた、文明に触れてきた第1世代なんだなぁと感じるね。

 

皆じゃないけどね。 菜々に連れ出されるまで森生活だったキタキツネなんて、コンビニを食べ物かと尋ね、菓子パンの袋を「くんくん」したと思ったら、次には袋ごとパクつき、菜々が慌てた。 野性味溢れる行動だ。

 

いかん。 現実に戻ろう。

 

そこにはサーバルとコアラの自由さに菜々、困惑中の場面。

 

うん。 微笑ましい。

 

けれど侮れん。

 

一応、菜々に注意しておくか。 しても、見逃す可能性はあるんだけど。

 

 

「菜々。 サーバルは超速いと思うぞ。 しっかり見ておくように」

 

 

スタートして、約34秒で到達したからねサーバル。

 

ほぼ時速100キロ。 わーお(驚愕)。

 

コアラは5分だったかな。

 

菜々は 2分かそこらで来ると思っていて、目の前を走り抜けたサーバルに気付くのが2、3秒遅れた。

 

その為、正確に計れていないのだ。

 

因みに。 漫画版の菜々のセリフ的に、一流のマラソン選手ならば3分らしい。

 

如何にフレンズが凄いか、分かる回であった。

 

 

「はい。 分かりました」

 

 

菜々は笑顔で返答しつつ、1キロ先まで駆けていく。 御苦労。 して、幼き頃を思い出させてくれる後姿だ。

 

もう、あの頃に戻れない。 寂しい。

 

あ、でも園長との再会は楽しみだな。 きっとまた、彼とは会える気がするんだ。

 

 

「それじゃ、準備体操をして待っててね」

 

「はーい」

 

 

今は、まあ。 目の前に集中さ。

 

見せてもらおう!

フレンズの身体能力とやらを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1キロ走。

雄大なサバンナを、1キロ真っ直ぐ駆けるというもの。

 

ヒトにとっては長距離であるが、フレンズにとっては短距離なんだそう。

 

フレンズ基準が既にある、ということだろう。

 

だけど、フレンズとヒトの境界線は曖昧だ。 どこまでがヒトとして見て、フレンズとして見るのか。

 

書類上は「特殊動物」とされており、英名風で「アニマルガール」、愛称は「フレンズ」となっているけれど。

 

その調査や研究資料は少ない。

 

食性がヒトと同じでも問題ないとか、けもの耳や尻尾は生物学的に繋がってないとか……だけど感触はあり……けものプラズムによって身体が構成されており……あー、空を飛んでいる鳥のフレンズから光の粒子が見えるのはそれで、サンドスターではなく……能力の使用で擦り減り……度が過ぎると けもの に戻り……セルリアンに捕食されると全て……輝きが消えて、けものに戻る……まあ、よく分からん。

 

馴染みが研究員のカコだから分かるだろオメーとかは勘弁。 ぺっ。

 

学生時代は赤点頭だった俺だ。 理解出来ぬぅ!

 

頭がパッカーンしちゃうよ!

 

そもそも、発見から閉鎖段階に至るまで謎だらけの存在であっただろう子たちだ。

人類の叡智を結集しても、理解の範疇を超えているのではないか。 多少は進展があったとしてもだ。

 

…………閑話休題。

 

とにかく。 謎はあれど「すっごーい!」光景を見れる感動は 揺るぎない。

 

 

「よーい」

 

 

ミライがスターターピストルを天に上げる。

 

サーバルが、クラウチングスタートの姿勢。

コアラも真似て……女の子座りに。 ちょっと違う。 でも可愛い。

 

 

───ドンッ!

 

 

号砲が鳴り響いた瞬間。

 

 

「───はぁっ、はっはっ」

 

 

最初のスタートは、コアラが先。 既に辛そうです。

 

 

「待てー!」

 

 

次に楽しそうな声を上げて、サーバルが地面を蹴った。 刹那。

 

 

───ズバァアアァアアンッ!

 

 

「うおっ!?」

 

 

風が巻き起こり、周囲の黄金色の草が軽く横倒しに。

ミライも、帽子を片手で押さえて飛ばないようにする。 表情は嬉しそう。

 

コアラを一瞬で追い抜き、あっという間に点になった。

 

速い。 速いよ。 風まで感じたよ。

 

そんな光景に、コアラも驚きつつ、健気に走り続ける。 偉いぞコアラ。

 

 

「あぁ! フレンズさんは素敵ですっ」

 

 

ミライ。 ヨダレ垂れてるぞ。 菜々には見せられないよ。 美人が台無しだよ。

 

まあ、でも。 意見には同意する。 身体能力だけではない。

頑張る姿や笑顔は素敵なものだ。 いつか、俺が忘れていた光景が、また間近で見られる。 幸せだよ。

 

 

…………。

 

 

1キロ走、結果。

サーバル34秒14。

コアラ5分12秒。

 

うん。 注意した意味はあった様だ。 計れた模様。 して、コアラは予想通りの結果である。

 

だけど完走したのは、偉い。

 

因みに。 サーバルは前回の測定では、35秒だったらしい。 漫画版のセリフより。

 

 

「……サーバル、凄いですね。 危うく見逃すところでしたよ」

 

「うむ。 どんどん いってみよう」

 

「くたびれたですぅ」

 

 

コアラとの差は、より深いものに。

 

けれども。 得意な事は違う。 競うものではない。

 

ありのままの自分で良いんだ。

 

 

 

 

 

第2種目

岩山アスレチック。

 

岩山に赴き、測定。

ゴツゴツした岩山を越えて、帰ってくるまでを計る。

 

 

「ガイドさん、これマジです?」

 

 

ヒトだったら体力測定じゃなくてロッククライミングの競技なソレに、菜々が声を高くする。

 

気持ちは分かる。 俺も生で見て、今ビビってるから。

 

 

「はい。 これがフレンズ標準です」

 

 

標準……平均から決めたのだろうか。

コアラみたいに、ヒトかソレ以下の身体能力の子も、中にはいるんだけどな。

 

 

「菜々ちゃん、わたしからスタートね」

 

「うん。 ちゃんと計ってるね」

 

 

おう。 計りたまえ。 俺は見ている。

 

 

「よーい」

 

 

ミライがスターターピストルを再び天に上げる。 片耳を塞いで、目を閉じる姿は、どことなく可愛いお姉さん。

 

 

───ドンッ!

 

 

「いくぞー!」

 

 

号砲と、サーバルの元気な声でハッとした。

 

いかん。 ミライじゃなくて、サーバルを見なきゃ。

 

前を向けば、既に奥の方に。 跳び箱を連続で飛ぶような軽やかさ。 そして凄い跳躍力だ。 そして速い。

 

因みにスカートの中は見れなかった。 高低差がそこまで激しく離れていなかったのだ。

 

いや、そこよりも身体能力を見たいんだけど。 本能か。 男って悲しい生き物よね。

 

 

「ゴール! 何秒だった?」

 

 

何だかんだピョンピョンして、あっという間に戻ってきたよ。 サーバル、速いよ!

 

 

「58秒……ヒトなら多分、1時間近くかかると思うよ」

 

「だな。 フレンズって、スゲー」

 

 

因みにコアラは……。

 

 

「ネ、ネバーギブアップですぅ!」

 

 

わあー、と岩山にしがみついて叫ぶコアラがソコにいた。

 

ネバーギブアップは、決して諦めない姿勢の意味であるが……ここでは永遠に諦めます的な意味か。

 

取り敢えず、途中棄権。

 

しかし。 ヒトが助けに行くには困難な場所で止まっている。 こんな時はどうするのか。

 

それは、菜々とサーバルが答えてくれる。

 

 

「途中リタイア。 サーバル、助けに行ってあげて」

 

「はーい」

 

 

得意なフレンズに助けてもらう。

 

この辺、開園準備から感じている事であるが、飼育員さんに限らず、ヒトとフレンズの関係性を感じる場面だ。

 

見ていて、嬉しくなる。 自分のことじゃないのに、俺まで助けられたような、そんな気分になるんだ。

 

 

「コアラを助けて落ち着いたら、次に行ってみようか」

 

 

まだ種目は続く。 次は怪力がみられるぞ。

 

 

 

第3種目

岩なげ。

 

デカい大岩を持ち上げて投げて、その距離を計る。 言うのは簡単だが……。

 

 

「これキツくない?」

 

 

ヒトなら、普通は持てない大きさの大岩が、そこにあった。

俺と菜々、ミライが手を伸ばして周りを囲めるかどうか。

 

 

「これもフレンズ標準300キロです」

 

 

無理ぃ……。

 

標準ってなんだろうね。 俺は 考えるのを やめた。

 

 

「今回は合図なしなので、自分のタイミングで」

 

 

呆けている間も、測定は続く。

 

早速持ち上げようとするサーバルに、ミライが軽く説明。

 

 

「あ、それ、すごく助かる」

 

 

対して、嬉しそうに言うサーバル。

 

自分のタイミングでやれる自由とはありがたい。 何かに合わせようとすると、それだけ意識を他所に持っていくからね。

 

そういえば漫画版では、ミライがスタートの仕方の説明の度、注意と称したフェイントスタートをかましていたなぁ。

 

その度にサーバルがズッコケたり、岩山から落ちた気がする。

今回、俺が前半で時間を取ったからか、その辺はナシだった。 ちょっと残念。

 

 

「ほりゃ」

 

 

軽い掛け声で、ひょいっと大岩を両手で持ち上げてしまうサーバル。

 

華奢な身体と細い腕のどこに、300キロを持ち上げるチカラがあるのか。

本当に300キロあるのかと疑いたくなるほど。

 

 

「すご」

 

「ホントだね」

 

 

そして、

 

 

「おりゃーー!」

 

 

その大岩が、サーバルの腕から放たれ、宙を舞い……。

 

 

ズドカーンッ!

 

 

「すげぇっ!?」

 

 

地面に接触。 轟音と砂埃を辺りに まき散らしながら、僅かに転がった。

 

本当に300キロあるんだろうな、これは……。

 

アニメで、サーバルがバスの運転席部分を持ち上げられるのも納得というか。

これ、ゾウの子みたいな、パワーある子だったらどこまでいくんだろうか。

 

フレンズって不思議だ。 跳躍力のみならず、こんなチカラまで……見た目だけじゃ全ての能力って分からない。

 

 

「16メートルです」

 

 

ミライが測定。 16メートルは……フレンズ的には、どんくらい凄いのか。 少なくとも、

 

 

「ねぇ 菜々ちゃん。 16メートルって すごいの?」

 

「ヒト基準だと、明日から怪力女認定かな」

 

「……ヒトだとね」

 

 

ヒト的には、凄まじいチカラだ。 このチカラが平和的に使われる事を願おう……。

セルリアンをぱっかーんする時とかね。

 

 

「ふぎぎぎぎ……ぐぎぎぎぎぎぎ」

 

 

そしてコアラは……無理そうですね。

 

 

「あ、あんまり無理しないでね」

 

「コアラちゃん、がんばってー!!」

 

 

無理をさせ、無理をするなと無理を言う。

 

だけど、ココは殺伐世界ではない。 社畜のフレンズも……まあ、いないワケじゃないけど、彼女たちには無縁であって欲しい。

 

 

「これくらいなら、持ち上がるです……!」

 

 

小さな岩に持ち替えて、ブルブル震えながら、なんとか持ち上げるコアラ。

 

それを見て、サーバル含む、皆が微笑ましく見守る。

 

チカラは子供並み。 可愛いじゃない。

 

して、それをバカにしたり、咎めるヒトなんていない。 優しい世界がココにある。

 

 

「……私、全然だめです」

 

「大丈夫! 次があるよ!」

 

 

漫画版の通り しゅんと、落ち込むコアラ。 対して励ます菜々。

 

ここまでくると、コアラの身体能力はヒト並みか それ以下。

 

だけれど、コアラは樹上生活を行う けもの だ。 次の種目は恐らく得意な種目だと思い、菜々は言っているのだ。

 

 

 

第4種目

木のぼり。

 

測定に適した木のある根元に移る。 しっかりとした幹で、新緑が優しい陰を落として火照った身体を癒してくれる。

 

 

「コアラといえば木のぼり!」

 

 

菜々は今度こそ大丈夫だと、我が身のように喜んだ。 可愛い。

 

だけど、そう上手くは いかぬ。

 

いざ登ろうと幹を掴んだコアラであるが、つるつると滑り落ちるばかり。

 

一方でサーバルは、爪でも立てているのか。 どんどん上の方まで登って、あっという間に天辺まで。

 

 

「つるつるしていて、登りづらいです」

 

「むぅ」

 

 

出来ると思っていただけに、難しい顔を浮かべる菜々。

 

仕方ない。 イメージ的には、木登りが得意そうではあるからね。

 

けもの やヒトにも個体差はある。 それはきっと、フレンズにもだ。

フレンズの場合、亜種はいても同一種は稀にしか いないようだが……さておき、得意と思われても出来るとは限らない。

見た目や名前のみでは、得意不得意は判断出来ない。

だから、過剰な期待を掛けて勝手な失望をするのは失礼だ。 ところが世の中にはソレをして、口にして相手を傷付けるヒトもいる。 前世で、そういう奴がいた。

 

菜々はそんな子じゃないけれど、予想外に違いはなく。

どう言葉を掛けて良いか考えあぐねているようだ。

 

そこに、

 

 

「ただいまー、っ……あうっ!」

 

「サーバル! どうしたの? 大丈夫?」

 

 

木から降りてきたサーバル。 左足を痛そうに抑えている。 この世界線でも足をくじいたか。

 

漫画版だと、岩山で落ちた時に足をくじいたんだっけ。 この世界線では、降りる時にくじいたか。

 

 

「あっ。 でも全然平気だよ」

 

 

心配かけないようにか。 本心からか。 えへへとサーバルは笑った。

 

それに反して、見ていて痛々しい。

 

心が痛むというか、心配する。 笑顔が余計に そう思わせる。

 

いや、本人は本当に大丈夫なのかもしれないけれどもね。

アニメで、崖から落ちても へっちゃらなワケであるし。

 

あれ。 だとしたら、擦り傷が出来るレベルって、ヒトにとってはヤバいコトなのでは?

 

いや、でも木の枝に引っかかるとか、そういう次元だろう。

うーん。 フレンズの耐久力もまた、謎である。

 

 

「医務室に運んだ方が良いですね」

 

「……そうですね」

 

 

菜々は 左足のロングソックスを脱がしつつ、患部を見て……ミライと話す。

この辺から察せるのは、フレンズは衣類の概念を理解しているという事か。 アニメでは毛皮扱いというか、脱げる事を知らなかったな。

 

して医務室、というのは。

身近でいうところの、学校や会社で診断や手当を行う部屋であるが、ココでは近隣の施設……ビジターセンター内にある医務室に運ぶコトかな。

状況が悪いなら、セントラルの けもの病院行き。

 

だけど、これはヒトの、従来の対応の ひとつ。

 

さあて。 フレンズ……コアラの出番、くるか。

 

チラリ、と見やれば。 予想通り、コアラが ててて、と近寄ってきて……エプロンのポケットから白くて丸く平らなモノを取り出す。

 

 

「ケガですか? それなら私が直してあげます」

 

「え? 治すって?」

 

「コアラ特製パップです」

 

 

じゃじゃじゃじゃーん、です。

 

現るは、特製パップ。 フレンズは、どうやって作っているのか知らないけどさ。

元の けもの のパップを思うと……受け取りたくない。

 

だが、それを知らないサーバル。 足にパップを当てて 塗り込んでくるのを黙って見ている。 俺も見ている。 うえぇ……。

 

 

「これを痛いところに ぬって……」

 

 

おぅ……知らぬが仏。

 

 

「すごーい。 さすがコアラちゃん、もう全然いたくない! ありがとう!」

 

「よかったですぅ」

 

 

うむ。 良かったと思う。 今度は本当に痛くなさそうな、笑顔を浮かべるサーバル。

そして、安心しつつ、合わせて微笑むコアラ。

 

嗚呼。 コレだよ。 優しい世界は。

 

決して利益不利益で誰かを助けるのではなく、そして自分の能力を他の誰かの為に使う。

そして助け合う姿。 美しく、尊く清らかだ。

 

 

「すごい。 フレンズには傷を癒すような力もあるんですね」

 

「みたいだね。 聞いてはいたけど、見るのは初めてだよ。 運動能力が高いばかりが、フレンズの特徴ってわけじゃないんだ」

 

 

菜々が言うので、返事をする。

 

フレンズは、見た目と身体能力の高さに目がいきがちであるけれど、その特殊なスキルは その子特有であったりする。

 

ひとつとして同じ子や能力はなく、一方で得意な事は違う。

 

苦手な事は他の子に助けてもらい、自分に出来る事があれば、それで他の子を助けてあげる。

 

この気持ちをいつか、俺は忘れていた気がするな。

たくさん助けて貰ったのに、逆に俺ときたら、自分のチカラだけが頼りだと思い込み……今の光景と会話で思い出したよ。

 

うんうんと頷いていると、落ち着いたサーバルがコアラに質問をする。

それ以上は いけない。

 

 

「ところで、パップって、なにで 出来「コホン! コホン!!」……ミライさーん、急にどうしたの。 よく聞こえなかったよ」

 

「サーバル。 世の中、知らない方が良い事もあるんだよ」

 

「そ、そうそう!」

 

 

慌てる職員一同。 コアラには悪いけど、仕方ないよね。

第2世代と思われるアプリ版でも、パップネタはあるけれど……フレンズになった後の作り方は謎である。

それでも知らない方が良いらしい。 うん。 そっとしておこう。

 

 

「さあさあ! 元気になったところで、200キロ走いってみましょう!」

 

 

慌てるお姉さんと化したミライ。 そんな姿も見ていて楽しい。

して、最後の種目……長距離走もまた、スケールでかいね。

漫画版では、この辺で切れてるんだけど、見れると思うと嬉しいゾ。

 

 

「あら?」

 

 

ここで、ミライが無線機を手に持つ。 いや、このタイミングでまさか。

 

して、悪い予想とは当たるもの。

 

しばらく やり取りが行われたと思えば、無線機が元の位置に戻され……申し訳ない顔をコチラに向けてきた。 予想がつくのが悲しい。

 

耳を塞いで、聞こえないフリしとこ。

 

 

「杏樹さん、管理センターから連絡がありまして。 他の場所に移動して欲しいと」

 

「あー! 聞こえなーい 聞こえなーい!」

 

「お願いしますー! 杏樹さんの助けを求めている方がいるんですよー!」

 

 

懇願された。

 

くっ。 出来れば長距離走も立ち会いたかったが、俺の助けを求めているならば……行くしかない。

 

さっき思ったろ? 利益不利益、都合で残るのは良くないんだ。

 

仕事どうこうじゃなくて、世の為ヒトの為……いや。 パークの為、笑顔を見る為だ。

 

 

「分かったよ、ミライ」

 

 

だから、取り敢えず。

 

笑顔でミライ達に手を振った。

 

 

「行ってきます」

 

いってらっしゃい!

 

 

そうして、皆に笑顔で送り出される。

 

いってらっしゃい、か。

 

懐かしい響きだ。

 

幼き頃の記憶。 それは前世か今世か。 恐らく両方。

 

込み上げてくるモノがあるな。

 

 

「温かいな」

 

 

また涙が。

 

いかん。 次の目的地で心配されてしまう。

 

俺は涙を裾で拭うと、口角を上げる。

 

次のヒトやフレンズに会ったら、笑顔でスタートしようと思ったからだ。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
パップ
薬草等などの粉を糊状にし、紙や布につけて患部の皮膚に貼り付けて治療すること……なら良いのだが。
ここでは、その、恐らくコアラの(自主規制)ではないかと。 いや、分からないけれど。

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