パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文続き。 短め。

出頭命令を受け、管理センターへ。
でも、そこも優しい世界でした。


固そうで、柔らかな。

広大なジャパリパークを管理する、管理センター。 支部はたくさんあり、都市部は勿論、ちほーの安全な場所や本土にもある。

 

それだけ、スタッフがいて……仕事量や情報量は多い。

運営や各機関、本土や調査隊、営利団体等との連絡が常に行われる。

 

その中には、パーク内のヒトやフレンズとのやり取りがあるわけで。

 

あー、つまり俺も含まれるのだ。

 

俺は何度も世話になった。 パークにいる以上、何かと絡んでいく。 それは間接的であったり直接的だったり。

 

職員は大なり小なり そうなのだ。 辞めない限りは、世話になり続ける事だろう。

 

今も、そんな感じであるし。

 

 

「杏樹さん。 リカオンさんの件といい、カコ博士の件といい……通報されないように配慮して下さいね」

 

 

管理センター内、事務所のひとつ。

左右に並ぶ同一系統の事務机の道の奥にある……孤立した、これまた同一の事務机の前にて。

 

鳴り止まぬ各机からの固定電話音と対応の声というBGMの中。

 

その中で俺は、目の前に座る背広の、小柄な女性に説教を受けている。

 

眼鏡でショートヘア。 知的な雰囲気でありながら、黒いスーツ越しにも出るべきラインは ハッキリ出ており……なのに、背が低くて小動物みたい。

それに反して、真っ直ぐ厳しい目を向けて言っている つもりの彼女。

でも、声が幼くて迫力ナシ。

正直怖くない。 話し方も嫌な感じじゃないね。 可愛いまである。

子猫や子犬が唸ってるレベル。 その気になれば仲良く出来そう。

 

揶揄うか。 通報されたけど、これはこれで良いオモチャ……じゃなくて、ヒトに出会えた。

 

 

「気をつけまーす」

 

「反省の色が見えないのですが」

 

 

馬鹿にされてると思って、ムスッとしつつ咎めてくる彼女。

 

ふっ。 喰いついたね。

 

女だからとか、小柄だからとかで、舐められていると思っているのだろう。 強ち間違いではない。

 

故に咎めてくる。 真面目なのは結構。

 

だがしかし。 同時に扱い易い部分もあるかもな。 カコが表で待っているけれど、ちょっと遊んで……いや、試してみるか。

 

 

「気の所為(せい)です。 ところで、連絡先を教えてくれませんかね」

 

「そういうところです。 ナンパは やめて下さい」

 

 

喰いついて来るね。 ゆっくりと巻き上げていこうかしら。

 

 

「いえいえ。 何かあったら、直接やり取り出来ますでしょ」

 

「電話越しには済ませられない事もあります。 何度も問題を起こすヒトに対しては特に

 

 

ふんすと、「1本取ってやった。 どうだ!」と胸を張られた。

ショウジョウトキのフレンズかな?

 

何にせよ可愛いねぇ。 勝ったと思っている辺り含めて。

 

 

貴女(あなた)に会えるなら、トラブルメーカーになるのも やぶさかでは ないです」

 

ふえっ!?

 

 

面白いぐらい決まったカウンター。

 

して変な、可愛らしい声が聞こえた刹那。

 

事務所の視線は一斉に彼女に向けられる。 電話の音が遠く鳴り響く。

 

その異様な雰囲気に、彼女は慌てて対応。 上司としての威厳を皆に見せようと、顔を赤らめつつも必死に。

 

 

「な、ななな何を見てるんですっ! 各自、仕事に しゅうちゅー!」

 

 

はーーい。

 

一斉にハモった声が事務所に木霊した。 皆、超良い笑顔なんですがそれは。

 

笑顔溢れる職場。 良いじゃない。

 

それに、

 

 

「愛されてますねぇ。 ククッ」

 

貴方(あなた)所為(せい)ですっ!」

 

 

上司が愛されていると分かる。 素晴らしい職場じゃないか。

 

羨ましいよ。 俺も前世で、こういう上司やヒトがいる ところにいれば……。

 

いや。 憶測(おくそく)は止めよう。

 

それに過ぎた事だ。 今はパークにいる。 ならば、パークの話をするべきだな。

 

パークの中にある、こういう優しいヒトの世界だって守るべきものに違いないんだ。

 

 

「失礼しました───俺の件は済みましたか?」

 

「……うぅ。 もう良いです。 後はこちらで処理します」

 

 

羞恥と怒りで俯きつつも、敗戦処理に かかられる。

でも、今のうちに 言う事を言っておこうか。

 

 

「では処理ついでに。 パークセントラルのセキュリティ強化及び周辺調査を推奨(すいしょう)します」

 

「突然、なんなのです」

 

「あと、緊急時マニュアルの再確認」

 

「……何か問題があったのですか?」

 

 

真顔で聞いてこられた。 何だかんだ取り合ってくれるらしい。 良いヒトだ。

 

愛される要因の ひとつだな。

 

ならば、対応される側としては真面目に詳細を説明するべきだろう。

けれど、その詳細が分からない。 悲しいかな、何故セントラル事件が起きたのか。

輝きに釣られて襲ったのだろうか。 ヤツらに意志はない筈。

 

また、ぱびりおん のOP風では「なんで セルリアンが!?」というセリフがあった気がする。

 

普段は安全が確保されている、という事だろうか。 取り敢えず全然分からん。

 

 

「いえ。 ただ、セルリアンについては分からない事が多過ぎますから」

 

 

急に自信がなくなった。

確かな情報が無ければ、組織は動いてくれない。

ここまで言ったは良いけれど、無意味な事になってしまうかも知れない。

 

 

「レンジャーや調査隊、警備員も います。 フレンズさんも手伝ってくれていますから、大丈夫ですよ」

 

 

そんな不安を感じたのか。 彼女は、安心させるように微笑んだ。

 

 

「……ええ、そうですね」

 

 

良いヒトだ。 こんな末端のヒトにも配慮した言葉をかけて くれるなんて。

 

だけど、何も解決してないんだよな。 言ってみたけどさ。

彼女だって、あくまで ひとつの部署の……班長みたいなモノだろう。

権限はきっと、小さい。 もし、調査隊の編成や派遣等が管轄外なら余計に。

 

俺が、どうこう発言しても変わらないかもな。 そう思うと、俺って無力だな。

なんだか目頭が熱くなってきたよ。

 

 

「心配、なんですね」

 

「へ?」

 

「だって、涙が浮かんでます」

 

 

そういう彼女の言葉は、柔らかく。 咎めるものではない。

 

どうやら、涙が見えてしまったようだ。 これでも耐えていたんだけどな。

 

 

「ああ……すいません。 失礼しました」

 

「良いのです。 上には私から掛け合ってみます。 どうなるか分かりませんが、出来る事は しますよ」

 

「忙しい中、ありがとうございます」

 

 

涙を拭いつつ、俺は礼を述べた。

なんだかさ、それだけで勇気を持って言った価値が生まれた気がした。

言ってみるものだ。 確かに結果は分からないけれど、これもまた、ひとつの進展である。

 

 

「あ、これを」

 

 

そういうと、メモ用紙を渡してきた。 数字が並んでいるから、電話番号のようだ。

 

 

「連絡先です。 登録しておいて下さいね。 何かあれば連絡します」

 

「いろいろ、すいません。 お願いします」

 

 

管理センターには、世話になりっぱなしだなぁ。

 

お堅いイメージのある背広組であるけれど、こういうヒトたちがいるならば……救いってあるんだなって。

 

 

「以上です。 表に待ち人がいるのでしょう?」

 

 

あ。 やべぇ。

 

 

「ああ! そうだった!? すいません、後はお願いします! 今日はありがとうございましたぁ!」

 

 

やべぇよやべぇよ。

カコを忘れていたよ!

 

幼馴染を忘れて、他の女の子とトークとか……都合上、仕方ないよね? 仕方なくない?

 

 

「そこ! 事務所内では、走らない!」

 

「はーい!」

 

 

笑顔を向けられながら注意され、間延びの返事を返しておく。

 

左右に座るヒトたちの表情も、心なしか穏やかだ。

 

不思議(ふしぎ)と、涙は引っ込んだ。

 

希望の光が見えた。 そんな気がして……俺は管理センターを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

ずっと待っていたカコは不機嫌に頰を膨らませており、俺は必死に謝る羽目になる。

 

なんだか誤解を解いたり謝ったりと、朝から忙しい。 前世も似た感じではあったけど。

 

でも違うのは。

笑顔を向けられて、応援して励ましてくれる ともだちに囲まれているコト。

 

そして。 俺も笑っていられるコトだ。

 




あーかいぶ(当作品設定等)
管理センター
ここでは広大なジャパリパークを管理する部署、或いは建物や携わるヒトたち。

各パークスタッフ(職員)やフレンズからの報告や要望に応えたり、他の支部や部署、各機関等と連絡を取り合う。
他にも経営や安全面、治安、職員の出面、フレンズの健康管理、仕事の指示等……仕事は多岐に渡る。

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