パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文続き。

リウキウへ。 マイルカと出会います。


リウキウと楽しい予感。

 

管理センターを後にし、オコなカコの許しを得たのち。

共に駅に行き、電車に乗り込んだ。

目指すは漫画版でも登場した リウキウチホー。

 

サンドスターの影響を受けてか熱帯気候。 砂浜や海が美しい南国のような場所である。

漫画版のコマや今世での写真等を見た感じ、琉球建築の建物や特徴的な石積みの塀が確認できる。

前世では生で見る事がなかっただけに、楽しみだ。

 

最初、俺となら何処でも良いよと、嬉しい事を言ってくれたカコ。

ならば、いった事がない場所に行こうということになって、ココになった。

水着があれば、カコのナイスバディを拝めただろう。 だけど無い物ねだりはしない。

代わりに胸はある。 此方を拝めよう。 うん。 改めて俺のキモさに身震いした。

 

……ナニ言ってるんだろうか。 煩悩を追い出さねば。

 

では話題を今現在に変えよう。

 

今乗っている、この電車。 本土のと代わり映えはないけれど、他のちほーに行く時は重宝する。

漫画版でも、菜々たちが旅行に行った際、出てきたな。

ヒトだけでなく、フレンズも利用可能。 キタキツネやギンギツネも菜々と共に搭乗している描写があった。

 

良い時代になった……じゃなくて、パークは良い島だ。 (たま)に動物園である事を忘れるくらいには。

 

うん……ココ、動物園だよね?

 

いや、パークを普通の動物園にカテゴリしてはならないけれども。

 

そんな文明的な時代も、いつか終わってしまうのだろうか。 分からない。

 

セントラル事件や例の異変の陰に慄として過ごすつもりはないけれど、現状、ココでジタバタしても仕方ない。

 

カコの両親を救う時はジタバタして、結果としては救えたのだけれど。

過去の経験もあって射幸心とは持ってしまうものだが、今回は落ち着いていこう。

とはいえ。 あの時は命冥加な両親であったが、本当に良かった。 これは揺るぎない本心だ。

 

そして。 こうしてカコと一緒に、オトナになった後も微笑み合いながら歩けるのは、重畳に至り。

 

共にいて笑い合える。 何気なくも、それが最高の喜び。

屈託あれど、今の幸福と平和を享受(きょうじゅ)しよう。

 

 

「今日も良い天気だね」

 

「うん」

 

 

電車の真ん中の車両。 端っこに座りつつも、窓越しに、流れる建物や青空を見ながら呟いた。

 

平日の昼間近くだからか。 あまり乗客はおらず、席もストレスなく、好きなところ に座れる。

 

それに加えて左右の光景が良く見えた。 動かずして流れる世界は、それはそれは時を超えているような、新世界に行くような気がして……心躍らせてくれる。

して些細な話でも、カコが付き合ってくれる喜び。 俺、幸せです。

 

 

「杏樹、ところで」

 

「うん?」

 

「管理センターは、大丈夫?」

 

 

唐突に、不安そうな声を出された。 心配を掛けてしまったようだ。

 

ここは安心させなきゃ。

俺は顔を覗き込むカコに、微笑んだ。

 

 

「大丈夫だよ。 優しいヒトだったから」

 

 

ぶっちゃけ。 不確定要素たっぷりの未来を考えると、大丈夫じゃないんだけど。

 

これは自身を安心させる為の言葉でもあり、不安な気持ちを抑える為だ。

 

 

「なら、良いんだけど」

 

「大丈夫。 うん、大丈夫」

 

 

会話が止まり、走行音に支配される。 空虚な箱は、ただただ未来へと揺れ動くのみ。

 

いかんな。 折角の明るい日なのに。 また暗くなってしまった。

 

何とか話題を変えねば。

 

そう思った刹那、ゴォッと車両の冷房音。

冷たく心地良い風を受けて、驚いた。

 

 

「うおっ!?」

 

「リウキウに入ったみたい。 外、見て」

 

 

言われて見れば、建物は見当たらなくなっている。

 

代わりに広がるは、母なる蒼い海と白い砂浜。 波は白線となって揺れ動く。

何処までも濃く壮大で、ひとつの神秘を両の眼に映し出す。

 

 

「おおっ!」

 

 

感嘆の声が出た。

 

パークは島だ。 四方を海に囲まれているのだから、何を今更と言うヒトもいるだろう。

 

だがしかし。 広大なパーク故に。 内地にいると、海をプライベートで見る機会が訪れない場合もある。

 

その気になれば見に行けるが、目的や時間を考えると歩みを止めてしまうのだ。

 

広大な海と心休まる波の音を見聞きする事で不安や悩みを拭う事は考えた。

だけど「明日もあるし」とか「行って何になる」とか「金と時間と体力の浪費」とも考えてしまう。

今世は前世ほど酷くはないつもりだけど……やはりか。 こういう機会でもなければ、やる気が出ない。

 

いかんな。 気持ちを切り替えねば。

 

ココはジャパリパーク。 規格外の動物園であり奇跡の島々。

 

仕事だ無駄だと考えて生きて「これが俺の人生です」「パークライフです」とはなりたくない。

ならば、今を楽しめ。 どうしようもない不安を抱えても、文字通り どうしようもない。

少なくとも今は楽しむ時間だろ、俺。

 

 

「あんじゅ」

 

 

カコの綺麗な声が。 いかん。 これ以上心配させるワケには……。

 

 

「あ、いや。 着いたら どうしようか」

 

「その前に、見て。 あそこ」

 

 

予想とは違う返答に、思わずカコを見る。

すると此方には目を向けず、振り返って外に人差し指を立てているではないか。

 

窓に薄ら反射して見えるカコの表情は、輝いており、純粋無垢の良い笑顔。

何を見つけたのか。 馴染みの事だ、予想は容易である。

 

けもの さん を見つけたか。

 

 

「海鳥? それともイルカかな」

 

「イルカ。 マイルカ!」

 

 

正解だった。

 

ふっ。 嬉しそうに言われては、見ない訳にはいかないな。

 

外を見やる。 すると電車と並列するようにして、10頭ほどのイルカの群れがぴょんぴょん水面から跳ねていた。

 

 

「おお」

 

 

電車と競争しているのか。 その光景は無邪気な子供を見ているようで微笑ましく、同時に運動能力の凄さを垣間見れる。

 

模様は黄色と灰色のパターンが交差しており、背面は黒、腹は白。

 

感想としては、典型的なイルカ。 名前的にも。

 

 

()()のイルカ だね」

 

「もっと嬉しそうにしても良いのに!」

 

 

隣で はしゃぐ馴染みのお陰で、逆に冷静だよ。 俺の分まで 喜んでくれ。

 

いや。 内心喜んではいるんだよ?

 

マイルカ。

アニメ「けものフレンズ」のラスト、フレンズとして出てきた子だから。

 

真のイルカ、英名common(コモン:普通の)とあるメジャーなイルカ。

俺が見ているのは けもの であるが、それはそれで美しき光景。

群れをなし、跳ねる姿は芸術すら感じさせる。

がっかり する事はない。 寧ろ、この時でないと見られない輝きであり……。

 

 

「スゴい! フレンズ化に立ち会えるなんて!」

 

「ファッ!?」

 

 

え、ナニ。 群れの1匹が本当に輝き始めたんだけど。 カコ大興奮、俺、混乱。

 

白い光のまま、皆とぴょんぴょん跳ねているけど大丈夫なのアレ。

仲間も普通に飛んでるけど想う事ないのかね。 眩しくないのかね。 太陽光とは違うのよソレ。 たぶん。

 

まさかフレンズ化を目視で見ようとは。 報告どうしよう。 取り敢えずスマホのビデオ回そうそうしよう。

 

スマホを構えて撮影しつつ、混乱と疑問符が俺の頭を支配しているうちに、光越しのシルエットはヒトの姿に変形していき……やがて。

 

 

「ホント、奇跡の仕組みは分からん」

 

 

光が消えたと思ったら。

 

 

女の子が、他のイルカと共に跳ねていた。

 

 

アニメ、アプリ同様の姿。 黄色のリボンにセーラ服の襟付き青色ワンピース。 スカート下から尾を生やす。

足にタイツ等は確認出来ない。 素肌に直接黒い靴を履いている様子。

頭部は共に跳ねるイルカの特徴を引き継ぎ、黒色の髪であり、流線形。 鼻孔、胸びれ背びれも髪の色や形で再現されている。

 

海水にもサンドスターが含まれているのだろうか。 いやはや。 奇跡は予測がつかない というか なんというか。

 

取り敢えず。 全然分からん。

 

 

「見たあんじゅ!?」

 

 

見ましたよカコさん。 だから肩を掴んでガクガク揺らすのヤメテ。

混乱する頭が更にシェイクされるから。

 

ハンドサインで落ち着くよう促しつつ、俺は応えた。

 

 

「見た、見たよ。 自然の流れでフレンズ化の光景を見れるとは僥倖だね」

 

「うん!」

 

 

カコがスゲェ良い笑顔で何よりです。 純粋無垢な表情って、オトナになっても出来るようだ。

忘れてしまった懐かしい感覚が、世界が、少し思い出せたよ。

 

だがしかし。 オトナはソレだけで終われない。 ホントは嫌だが、仕事の話を考えねば。

 

 

「あー、カコ。 コレって報告案件?」

 

「うん。 あの子たちは野生だと思うけど、管理センターやアニマル・コントロール上、把握したい筈だから」

 

 

カコも真面目に対応。 まあ、そうなるか。 面倒だけど連絡入れておこう。

管理センターの小動物に言っておけば良いか。 連絡先教えて貰ったからね。

 

 

「分かった。 管理センターに、後で言っておく」

 

「ありがとう。 それと」

 

 

まだあるのか。 面倒が増えるのは勘弁なんだけどな。

休みの日にまで働きたくないでござる。

 

 

「イルカは陸から海に戻った哺乳類で、呼吸がしやすいように鼻……噴気孔が上についている のは有名だけど、その時に水面近くだと太陽光が眩しいから瞳孔はUの字型で」

 

 

違った。 蘊蓄(うんちく)語りであった。

 

ミライと似ているところがあるなぁ、と微笑ましくはある。

だけど口頭で言われて覚えられるほど、俺の頭は出来ていない。 ぶっちゃけ今、その知識は右から左に抜けている。 すまない、カコ。

 

 

「───あの子に、フレンズになったばかりの あの子に会いに行こう」

 

 

そこだけ聞き取れて、サムズアップと笑顔で応えた。 勿論、肯定的な意味で。

 

先程の仕事に対する憂鬱感?

 

気の所為(せい)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレンズになったばかりの子とは、個体差あれど、混乱や不安な気持ちが 多少あったり する。

 

突然ヒトの姿になり、話が出来、かつての仲間と異なれば仕方ないだろう。

 

例によって女の子の姿である件や、喋れる件は謎らしいが。

取り敢えず、管理センターの小動物に報告。 迎えが来るまで、その不安な気持ちや混乱を落ち着かせる目的、パークでのルール等の教育もあって歩み寄ってくれとのお達し。

 

小動物は職員管理が管轄の様子だけど、真面目に取り合って担当部署に連絡してくれた。 ありがたい。 いずれ礼はしなきゃ。

 

ところが、ここに来て問題発生。 というのも、

 

 

「陸地と違って、海に()む子だから会い難い」

 

「泳ぐか? 水着買う?」

 

 

それは海に棲む子に歩み寄るのは困難なんじゃね、という事。

 

電車から降りて、暑い陽射(ひざ)しの下。

リウキウの砂浜から沖を眺めつつ、解決法を模索する。

歩み寄るというか泳ぎ寄るってか。 俺、泳ぐの苦手なんだけども。

 

あ、でも。 カコの水着姿が見れると思えばオールオッケー!

 

 

「1度声かけ する。 電車と同じ方向に遊泳を続けていたから。 浅瀬に寄ってるかも知れない」

 

 

うん。 簡単な方法から試すよな。

 

まあ、でも。 そう簡単に解決したら、苦労しない。

そうしたら今度こそ水着だ。 水着だひゃっほい。

 

そして、マイルカと戯れる。 眩い日差しの中、マイルカとボール遊び。

輝くカコたちの笑顔が浮かぶ……良いと思います!

 

 

「顔に出てる」

 

 

しまった。 先に浮かんでどうする。

 

 

「あ、いや、これはだな」

 

「な、馴染みだもん。 分かるよ」

 

 

もごもごと口を動かしつつ、分かってるよと、頷いて見せるカコ。

あかん。 高校までずっと一緒だったのだ、俺の思考もある程度読めてしまうか。 頭良いし。

 

 

「早く、マイルカのフレンズに会いたいんだと」

 

 

うん。 健全な解答をありがとう。 改めて俺が汚れた心だと分かったよ。

 

まあ、間違いではない。 半分正解だ。 その先は知らなくて良い。

 

 

「あんじゅ?」

 

「何でもない。 声掛けしてみるよ」

 

「お願い」

 

 

誤魔化しつつ、仕事に かかろう。

 

カコよりも、俺の方が声は大きいからな。 それでも、何処にいるか分からないマイルカに聞こえるか分からないけれども。

 

あっ。 声……音で思ったが。

 

イルカって下顎を使って骨伝導によって音を感知しているんだったか?

フレンズ化した後って、どうなんだろうか。 ヒトと同じ感じになるのだろうか。

 

視力も どうなんだろう。

 

ハンドサインを見て理解していると 何かの話で聞いたような。 その為、視力は良いとかなんとか。

ただ、水面ではボヤけて見えるらしい。 フレンズは その辺大丈夫な気もするけれど……どうなんだ?

あとは……フレンズ化した後も、エコロケーションを使うのだろうか。 水中とかで。

 

疑問は多々あるけれど、取り敢えず沖に向かって声出しだ。

 

 

「おーい!」

 

 

夕日に向かって「バカヤロー!」なんて事はしない。 そも、今は昼前である。

レンジャーの隊長さん辺りは、やりそうだけれど。 元気かなぁ、隊長さん。

 

それよりも。

 

 

来ないなら水着だね!?

 

 

水着姿のカコを所望する。 漫画版みたいに、フレンズの水着姿もグッド!

一瞬、妄想の女子空間に海パンの、マッチョな隊長のポージングが見えたのは気の所為(せい)だ。

 

 

「さっきより、大きな声出てる」

 

「いろいろ気の所為だ! ただ、これで来たら苦労は……うん?」

 

 

しょーもない 思考や やり取りをしていると、沖の方から黒い点が。

 

それは、大きな水飛沫を上げながら、ぴょんぴょん跳ねて寄ってくる。

 

やがて大きくなっていき、視界で分かるようになると。

 

 

「マジで来たよ」

 

 

青色ワンピの女の子……マイルカのフレンズを視認した。

スカート下から出ている、力強くもエレガントなイルカの尾が、大変目立つ。

 

その上下に振れる尾による最大速度は、如何程(いかほど)か。

進行方向に対して真っ直ぐ見ているから分かりにくいが、かなりの速度である。

 

昔見た資料には、時速50キロか60キロと書いてあった。 車並み。

ただし。 けもの の時より能力が飛躍しているであろう、フレンズは更に上。

 

うーむ。 考えても答えは出ないな。 けれども。 この世に、奇跡に疑問が尽きないのは楽しい事だ。 考えて答えを探る。

そこにもまた、生きる活力が生まれるのだ。

 

 

「あんじゅ! 来た! 来てくれた!」

 

 

カコ、またも大歓喜。 俺の肩をバシバシ叩いてくる。

 

うん。 見てるから分かる。 して、地味に痛いのでヤメテ。

いや、まあ。 イルカに叩かれるより絶対にマシなんだろうけど。

 

ミライは、愛ゆえに笑顔で叩かれにいきそうだが。 いや、言い過ぎた。 流石にソコまでは……言い過ぎだよな?

 

とりま、仕事を兼ねた遊びの時間だ。

 

 

「おーい。 マイルカ! 可愛く言えばマルカちゃん! ともだち になろー!」

 

 

寄って来るマルカに手を振って、相手の好奇心を刺激する。 して、あわよくば仲良くなりたい。

 

そうすれば、いろいろ会話も弾むだろう。 不安な気持ちも消し飛ぶさ。

 

 

「フレンドリーね」

 

「フレンズだからな」

 

 

カコに笑われた。

 

普段と違うからかね。

仕方ない。 パークが そうさせた。 前世の意味でも、奇跡を見た意味でも。

 

そして普通でなくなったのは、何も俺だけではない。

 

 

「ともだち!? ともだち になってくれるの!?」

 

 

嬉しそうな声が聞こえる。

 

いつでも、どににでも ありそうで、それは今この瞬間にしか 無いものだ。

 

そういう意味では、普通とは あってないモノであり。

 

毎日が かけがえのない日々なんだ。

 

俺はそう、思えるようになった。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
マイルカ
クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科

模様は黄色と灰色のパターンが交差しており、背面は黒、腹は白。
行動は非常に活動的。 群れを成し、水面からジャンプしたり、水面に尾ビレを叩きつけたりする。

杏樹のメモ:
アニメのラストに出て来たのが マイルカだったか。 幼い雰囲気を醸し出しつつも、とても元気な子である。 こちらまで元気になって、明るくしてくれる。
和名でマイルカ(真のイルカ)、英名でもcommon(普通の)とあるが、有名なのはハンドウイルカの方だろうか。
だけど、俺は どちらも好きです。

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