パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。 曖昧や偏った知識など注意……(震声

少し お話します。


マルカと お話と。

マイルカは、ハンドウイルカと比べて神経質ともいう。

 

飼育数的にも劣っているらしく、日本でイルカというと、灰色っぽくて人懐っこいハンドウイルカの方を思い浮かべるヒトが多いかも知れない。

 

だがしかし。 ココはジャパリパーク。

 

けもの は いても のけもの は いない。

 

特にフレンズは、その名の通り ともだちだ。

野生だろうと飼育下だろうと、同じマイルカ科だけど名前が違うからとか人気の差で差別はしない。

 

本来の 姿と能力が異なる場合も多いが、逆に魅力を高めているとさえ俺は感じている。

 

 

「わあー! 陸に上がったの始めて!」

 

 

こうやって、目の前でキャッキャッと はしゃぐ青色ワンピの女の子……マイルカのマルカを見ると、そう思う。

 

フレンズ化することで、会話のみならず、陸での活動も可能になったからね。

最初の上陸時、腹から乗り上げた挙句に歩行も危うかったが、もう慣れたのか。 不自由なく砂浜の上ではしゃいでいる。

陸への憧れもあったのか。 嬉しそうにしているところを見ると、心配する必要はなさそうだ。

 

これもまた、奇跡のひとつ。

 

この明るい輝きを見ていると、未来や今に怯え、過去を後悔し続けている俺が ちっぽけに感じてしまう。

 

うむ。 俺も明るく いかなきゃ。

 

 

「先祖返りかな」

 

 

微笑みながら、言葉を発する。 陸地というワードから、少し話を振ったのだ。

 

イルカの ご先祖様は、陸地にいたとされるからね。 その頃は、けもの姿でも足となる部分が あったのだろう。

 

勿論、マルカに先祖の けもの についての知識があるとは考え難いが。

ヒトが共通して そのけもの に対してイメージする、様々な能力をサンドスターにより体現出来たとしてもだ。

 

俺たちヒトだってそうだ。 「お前の先祖は、何してた?」とか知らん、或いは憶えていない質問をしているようなモノかな。

だけど、知り得ている知識から曖昧に答える事は出来るだろう。

生まれて間もないフレンズにも、ソレはある筈だ。 喋れるし歩けるし。

知識は如何程か。 俺は、その辺を探る部分もあって聞いてみたのである。

 

ところが、先に口を開いたのはカコだった。

 

 

「先祖返り、というと。 イルカには通常、胸びれ、背びれ、尾びれの3種類のひれが あるけれど第4のひれ、腹びれがあるハンドウイルカが発見された事があった。 これが水生の哺乳類の進化過程を明らかに出来るかも知れないと期待があり」

 

 

カコ。 お前が語ってどうする。 あと、その話も全然分からん。 右から左に抜けていくよ。

 

マルカも同じらしく、首を傾げている。 可愛い。 重要なのはコッチじゃね?

 

 

「なんだか よく分からないけど、物知りなんだね!」

 

 

それでも笑顔でカコを褒めてくれた。 なにこの子、天使じゃん。 いや、フレンズなのは知っている。

 

そうだ。 自己紹介がまだ である。 改めて、このタイミングでしておこう。

 

 

「自慢の馴染みだよ。 けもの について、色々と詳しいんだ」

 

 

アイコンタクトで、紹介の続きを促す。 流石にココまで来ると蘊蓄語りも中断している。

 

良かった。 止めるべきタイミングを自己判断出来て。 某けもの好きの後輩ちゃんは、その辺が怪しい故に。

誰とは言わない。 紛れもなくヤツさ。

 

 

「私の名前はカコ。 よろしくね」

 

「マルカはね、マイルカのマルカ!」

 

「おっ。 早速、その名で名乗ってくれるのか」

 

「うん! えーと」

 

「俺は杏樹だよ。 よろしく」

 

「あんじゅ! あんじゅ!」

 

「ふふっ」

 

 

おう……2人の笑顔が眩しい。 これは、俺も自然と笑顔になれるというもの。

 

作り笑い、愛想笑いで日々溢れた世界より、この刹那の方が うんと価値がある。

昔の俺は その事を知らない。 後悔した頃には遅かったのだ。

だけど、当時の苦労や苦痛を知っているからこそ、今この瞬間の……島での幸せを理解出来る。

そして、失う時の喪失感と悲しみも。 だからカコの両親を助けようとしたし、未来で起きるであろう事件を良しとしない。

そしてカコたちの笑顔が永遠ではなく、故に尊く思えるから、どんな金銀財宝より価値あるものだと言えるんだ。

 

誰かに共感して欲しい訳じゃない。 純粋な笑顔と愛情、夢。 懐かしい感覚。

幼き頃に見失った多くの輝きを感じ続けられるなら、それで良い。 所詮は自己満足だが、それで行動して皆が笑ってくれるなら……意味はある。

 

もっとも、どう行動すれば解決するのか分かっていないが。

 

その辺は、アレだ。 結局努力するしかないのだ。 未来や過去を知る場合の、転生者の最低限の努力だ。

注意喚起を促して終わるなら苦労はしない。

 

いや、注意をして解決するなら良い。 願わくば、苦労せず終わって下さい本当に。

 

 

「あんじゅ?」「どーしたの?」

 

「え? あ、いや。 生命の進化過程は、ぶっちゃけ詳しくなくてね。 ソレは置いておいて、今の話をしようではないか!」

 

「私としては、ぜひ知って欲しいのだけれど」

 

 

誤魔化したら食い下がられた。 優先はソレじゃない。

語るのが嬉しくて、少し暴走しているのかカコよ。

 

知識は重要だし、思考や行動を豊かにするが順序がある。

ココは、諭しつつ進行しよう。

 

 

「今は その時ではない。 マルカの為にも、今を知ってもらわねば」

 

「分かった。 えっとパークの……決まりから?」

 

「ぱーく?」

 

 

何から話すか、カコと考えていると。 マルカが再び疑問符を頭の上に浮かべていた。

 

パークを知らないのか?

 

いや、仕方ないのかもな。 陸ではなく海にいたのだし、野生であれば尚更知らぬか。

アニメでは、ヒトがいなくても「ジャパリパーク」の名をフレンズは知っている様子であった。

アレが代々言い伝えられている 言葉なのかフレンズ化に伴い備わる知識なのかは分からないけれども。

 

俺は前者だと考えている。 アニメ主人公のかばんちゃんは、ヒトのフレンズだから特殊かもだけど、パークの名はサーバルから教わっているから。

 

仕方ない。 ココは お兄さん達が手取り足取り教えてあげよう。

 

俺はアニメサーバル風に両手を広げて、説明を開始した!

 

 

「ふっ! 教えてあげよう! ここはジャパ「ジャパリパークだね!」あっ……正解です」

 

「やったー!」

 

 

話途中で答えられた。 両手を下げた。 テンション下がった。

 

対比するように、お向かいのマルカは万歳して喜んでいる。 隣のカコには苦笑された。

 

なんだろう。 調子に乗っていたら冷や水を掛けられた気分だよ。

マルカは、パークの名を何処かで聞いた事があるのだろうか。

 

思っていたより、かしこい かも。

 

 

「波立ててね! 動くヤツにね! おふね? に乗っていたヒトたちが、言っていたの! 『ジャパリパーク』って!」

 

 

か し こ い。

 

して、その笑顔は尊い。

 

 

「良く聞こえたな。 それから、良く覚えていた。 偉いぞ」

 

 

褒めつつ、優しく頭を撫でてやる。 遠くからだとイルカの皮膚に見える頭部だけど、近寄ると ヒトと同じ様な髪の毛だ。

感触は……ザラザラ感が ある気がする。 ゴムのような感触もあるような……うーむ。 上手く言えぬ。

 

突起のところ、ヒレを表している部分……背びれは避けて、胸ビレ……部分は 少し硬いような?

 

なにぶん、前世でイルカに触れなかったからなぁ。 比べられない。

それを言ってしまえば、パークにいる多くの けもの とは触れた事ないんだけどな、俺。

 

フレンズはフレンズ、けもの は けもので別にするべきだという意見はあるけど。

 

ただ、フレンズは 元のけもの と比較して どう違うのか、考えてしまう。

研究員達も、その上で評価や研究をしている節がある訳で……。

 

 

「えへへー♪」

 

 

まあ、良いか。 可愛い天使の笑顔が見られたのだから。

 

 

「───下顎を使って骨伝導により」

 

「カコ、その話は置いておこうね」

 

 

隙あらば解説をしたがるカコを鎮めつつ、話を続ける。 遊ぶのは それからだ。

 

 

「その通り、ココはジャパリパーク。 海底火山の噴火により、出来た島を丸ごと敷地としている超巨大総合動物園。 動物園といっても、レジャー施設等も豊富。 本土の都市機能と然程変わらない区画もある。 世界各国との繋がりもある、国際的な場所だったりもする。 それは政治絡みや営利団体、研究機関など様々。 当初はココまでの規模になるとは思われてなかったんだけどね、サンドスターやフレンズの影響で」

 

「かざん? どーぶつえん? れじゃぁ? コクサイ? さんどすたぁ? フレンズ?」

 

「あんじゅ。 もっと、簡潔に」

 

 

カコに注意されて、ハッとする。

 

つい、熱が入って マルカを困らせてしまった。 俺とした事が。

これではミライやカコのコトを言えない。 恥ずかしい。

 

いくら かしこい と思っても、早口に気難しく、特に知らない単語を並べられてはヒトとて理解に苦しむだろうに。

 

 

「ごめん。 簡単に言うと、ココは とても大きな動物園。 そして、リウキウチホーと呼ばれる、暑いところ」

 

「どーぶつえんって、何のこと?」

 

「博物館法で……いや。 いろんな けもの さん たちが暮らしている所なんだ」

 

 

この子に、どうやったら 伝わるか。 言葉を選びつつ会話を進めた。

 

フレンズの知能は、最初は何歳児並みなのか分からない。 話す時は子どもに話しかけるイメージで良いだろうか?

 

今世でも、本土で あまりヒトと話さなかった所為か。 説明ってムズいと感じる。

 

 

「けもの が暮らす? マルカも?」

 

「う、うーん? 野生でも近海であれば……少しちがう……いや、パークなら そう、かな? フレンズ化しているし」

 

「フレンズって?」

 

「パークだと、けもの さんが サンドスターと呼ばれる物質に当たって、俺たちヒト……女の子の姿に変身した子を言っている。 フレンズは、ヒトの言葉で《ともだち》って意味。 マルカもフレンズだよ」

 

「わーい! おっともだちー!」

 

 

興味津々に、目を輝かせながら連続質問攻撃をしてきて、答えを得れば嬉々として喜ぶマルカ。

 

興味を持ってくれるのは良い事だが……正直疲れてきた。

 

そろそろ馴染みに振るか。

 

 

「サンドスターって、なーに?」

 

「…………サンドスターは、火山から噴き出るキラキラ。 不思議なチカラで けもの を ヒトの女の子の姿に変えるんだ。 マルカみたいにね。 カコ、海底火山からも出ているんだっけ?」

 

 

ココで馴染みに振る。 今まで止められていたぶん、嬉しそうに喰いついてきた。 可愛い。

 

 

「出てる。 ちゃんと調べきれてないけれども。 その関係か海中にも微量ながらサンドスターが検出された。 海にいるマイルカがフレンズ化したのは、この影響だと私は考える。 地上の火山というよりも、海底火山の影響が強いかな。 元を辿れば、目に見える火山も海底火山だけれども───」

 

 

抑えられていたぶん、一度、話し始めると止められない止まらない。

 

だけど、今はありがたい。 今のうちに休もう。

 

サボっている訳じゃない。 元々、今日は 丸1日お休みである。 勘違いしてはならない。 休める時に休まねば、いつ休むのか。 今でしょ。

 

それに、カコはペラペラと嬉しそうに語っているし。

マルカも目をキラキラさせながら、うんうん頷いている。 本当に理解しているのだとしたら、スゴい学習能力である。

さっきまで火山だのサンドスターだの理解してなかったぽいのに。 その能力、くれないかな。 無理ですかそうですか。

 

 

「───で、なければ、けものプラズムにより構成される身体が維持出来るとは考え難く───その意味では、島から離れれば離れる程に身体は維持出来ない。 けれども、サンドスターの供給維持が可能なら島の外でもフレンズのまま活動可能であると考えて───」

 

 

なんだか脱線してきた。 カコ本人も、蒼き母なる海を見つめてブツブツ言い始めてコチラを見ていない。

 

 

「あのー、カコさん? 火山の話から脱線し始めたんだけど。 視線も脱線したんだけど。 全車両がレールから離れ始めてない?」

 

 

アウトオブ眼中ですかい。 おっと、コレは死語であったか。

 

 

「マルカはねー、それでも良いよ! おはなし、聞いてるのも楽しいから!」

 

 

尚も優しいマルカちゃん。 でも、そんな彼女に疑問をぶつけることにした。 カコの話についてだ。

 

 

「で。 その意味は分かるのかい?」

 

「分からない!」

 

 

笑顔純度100パーセントが眩しい。 だけど、分からないモノを素直に言えるのは偉いぞ。 褒めてやる。

 

 

「あんじゅは、分かる?」

 

「全然分からん」

 

「マルカと同じ!」

 

「そうだね。 だからって訳じゃないけど、あっちにある海の家……あの薄茶の建物に行ってくる」

 

 

振っておいてなんだが、遊ぶことにした。

 

カコには悪いが、この調子だと担当者が来てしまう。 フレンズと遊べず終わるのは嫌だ。

 

 

「なにするのー?」

 

「ビーチボールが売ってるから、買うんだよ。 それで遊ぼうか。 遊び方は教えるから。 ちょっとカコと待ってて」

 

「わーい!」

 

 

そう言って熱くて白い砂を蹴りつつ海の家へ。

 

足を取られないよう気をつけてるつもりだけど時々、足の中に砂が入る。

足の裏から伝わる熱さとザラザラ感は、楽しみを前にすると心地良く感じた。

 

背後を振り返ると、マルカが手を振って俺を見送っている。 青色ワンピが照りつく陽の光を反射して、とても明るく眩しい。

 

カコは……気付いてない。 まだ海の方を向いている。

ナニ黄昏てんですかね。 これからだよカコ。

 

 

「おっと。 急がなきゃ」

 

 

担当者が来る前に、遊ばなきゃ。 時間がなくなっちゃう。

 

 

「───不完全な化石に限らず、毛の一部でもサンドスターが当たると、フレンズ化する。 まだ条件はハッキリしてない。 けもの フレンズに限らず、神さまのフレンズもいる事から───」

 

 

まあ、戻って来る頃にはカコも我に戻っているだろう。 そうしたら、みんなで遊ぼう。 それが良い。

 

 

「───ヒトのフレンズは、確認出来ていない。 でも、もし条件が分かれば……失ったモノの再生も、可能になるんじゃないかという意見がある」

 

 

明るく行こう。 きっと、未来は大丈夫。

 

俺は、都合の良い部分だけを無意識に切り取ってきた。 悪いのは切り捨てた。 前世もそうだ。

 

だから。 何か不穏な言葉が耳に入ったのは、きっと気の所為だと思う事にした。

 




あーかいぶ:
腹びれイルカ
2006年、太地町の畠尻湾で捕獲される。 2013年死没。
メスのハンドウイルカ。 世界で唯一、生体が飼育されたとのこと。
次世代にどう継がれるのか等の調査で、繁殖の試みがあったようだけど、上手くいかなかったみたい。 腹びれには、骨格が確認されたそう。

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