パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 違和感や、間違いあるかも。

ちょっとだけ、ボール遊び。 そして悩みます。


まだ、平和。

平和な第1世代は ヒトの文化がフレンズに最も伝わっている、或いは伝わり始めた世代だと思う。

 

漫画版でいうと、海水浴の際は水着を着用していたり、キタキツネが懐中電灯を使っていたり。 クロサイは別荘を建てる際、ハンマーを使っている。 チーターは、冬に家に篭ってストーブハーレムをやっていた。

 

それが堕落の道を行き、ヒトのように心を貧しくするかの問題は別として、ヒトによる影響は服や道具、社会的ルールに限らない。

文化的にも、ハロウィンをやったり、正月に参拝している描写がある。

 

特に試験解放区等のヒトの生活圏と共にする、或いは近いフレンズがそうだ。

文化や知識、情報を共有している感じ。

 

街のヒトたち……職員だろうが、フレンズだろうが、時間に差もなく、多少の精粗の差はあっても、基本的に同じような情報を知っていても何ら変ではない。

 

今は、そういう世代……かな。

 

しかし、フレンズの好奇心や見方によって、受け取り方は多様である。 それはヒトにも言える事ではあるが。

 

サーバルとコアラが、ストップウォッチが どういう道具か知っていたけれど、計測器というより遊び道具かのような発言をしていたように。

 

一方ではフレンズの能力に迫る研究へ使われ、他方では おもちゃにされる。

受容の形は異なっていても、刺激された多様な好奇心の まなざし は、ヒトとフレンズの知識のさらなる共有を促し、知的ポテンシャルを高める事となるであろう。

 

 

「マルカ、そっちにボールいくよ。 空中のビーチボールをジャンプして、尾でキックだよ。 《ボールキック》。 カコの方にね」

 

「わかった!」

 

「もし落ちちゃったら、《オーバーヘッドキック》……いや。 手で押して戻って来ても良いよ」

 

「マルカちゃん、頑張って」

 

「うん!」

 

 

だから、マルカとカコと、さんにん でキャッチボールモドキをやって遊んでいるのも、ひとつ の光景であり……将来は何かに役立つかも知れない。

 

マルカには遊びでも、カコや俺にとっては それだけに限らない。 色々と考えさせられる部分がある。

 

また、この時の 何気ない行動が未来を明るくしてくれるかも知れない。

希望的観測に過ぎないが、そう思うと全てに意味がある。

決して無駄ではない。 だから遊びを全力でやっても罪になるまいて。

 

なにより。 楽しめる内に楽しもう。

レッツ・パークライフ。

 

 

「うりゃあっ」

 

 

右手にボールをのせ、大きく振りかぶって沖に遠投。

それなりに大きなビーチボールが、青空を背景に放り出された。 我ながら上手く出来たと思う。

 

マルカの為にも、ある程度の深度がある箇所まで投げねば ならんので。

 

といっても、浅瀬の域を抜けないが。

 

 

「やー!」

 

 

それでも、マルカの……フレンズの能力か。 ザパーンと勢い良く水面から垂直に空へと飛び上がる。

 

その先には、俺の投げたビーチボール。 既に重力に引かれて落下を始めているが、マルカは上手く飛び上がる距離を調整した様子。

綺麗にボールの手前で止まった刹那、素早く空中で逆さになり、尾でビーチボールを叩いた!

 

しかも、叩かれたボールは しっかり カコに飛んでいく。

 

すげぇ。 訓練ナシの、口頭説明でココまで出来るとは。 オペラント条件付け等がいらない。 飼育員さん涙目である。 いろんな意味で。

まだフレンズの身体になって、1時間も経っていないだろうに。 これはマルカの ひと個体 としての能力なのだろうか。

 

 

「ひゃっ」

 

 

一方でカコ。 飛んで来たボールを手で弾き、バランスを崩して砂浜に尻餅。 可愛い。

 

同時に思う。 運動不足だと。

 

研究所にいるからか、出歩いてもスポーツ的な運動はしないからか。

思えば学生の頃も 体育の時間に似た光景が あった。 その辺、カコは昔のままな気がして……ちょっと嬉しい。

 

 

「ふっ」

 

「笑わなくても」

 

「ごめんごめん。 カコと また一緒に遊べて嬉しいなって」

 

「へ?」

 

 

へっ、て。

 

ひょっとして、イヤだったか?

うーん。 俺、カコよりは運動出来ると思っているけれど、おつむ が悪いからね。

あまり 気にしないようにしていたけれど、学生時代は周囲にからかわれてたし……。

 

 

「ごめん。 イヤだった?」

 

「ううん! そんなコト、ない! 私も…………嬉しい」

 

 

後半、内股気味の体育座りの姿勢から、俯いてモジモジしながら答えられた。 無理してるんじゃないだろうか。

 

 

「…………そうか」

 

 

カコの本心は分からない。 馴染みとはいえ、本人ではないから。

 

 

「あー、立てるか?」

 

 

今は考えても仕方ない。

俺は手を差し伸べた。 熱い砂浜に いつまでも座らすワケにはいかない。 カコの顔が赤くなってきているし。 立たせないと。

 

 

「うん」

 

 

して、素直に手を握ってくれる。 砂混じりで温かく柔らかな手は、どこか懐かしい。

 

 

「そらっ」

 

 

カコが浮いたタイミングで、ぐいっと手前に引き寄せれば、勢い良くカコが起き上がってくれた。 軽くて結構。

 

 

「ありがとう、あんじゅ」

 

「どういたしまして」

 

 

報酬に微笑みをくれた。 嫌われては いないかな。 それだけ分かれば、今は十分。 そう考えたら、自然と俺も微笑み返していた。

 

なんだろう。 安心したら恥ずかしくなってきた。 顔が熱い。

 

どうしようか、なんて言葉をかけようか迷っていると。

マルカがいつの間にか再上陸していた。 その表情は俺らとは真逆。 心配そうな、不安な顔。

 

はて。 どうしたのか。 尋ねようと思ったら、マルカが駆け寄りつつ声を上げる。

 

 

「ごめんねカコ! ボール、強く叩いちゃった」

 

 

おう……カコを転ばせてしまったと、罪悪感を持ってしまったか。

して、謝れる心を持つ。 優しく思いやりのある良い子じゃないか。

 

 

「マルカちゃんは悪くない。 私の方こそ、ごめんね。 上手く取れなかった」

 

「でも───」

 

 

カコも優しい。 逆に期待に添えられなかったと謝った。 その所為か、罪の意識が消えぬマルカ。

 

互いにオロオロの応酬合戦。 アニメの かばんちゃんとカメレオンの やり取りのよう。

 

でも、このままでは埒が明かない。 戦いごっこではないが、アフリカタテガミヤマアラシのように、ココは第三者、俺の介入が必要であろう。

 

俺はパンパンと両手を叩いて、間に入る事にする。 中和しなくちゃ。

 

 

「はいはい、互いに悪くないよ。 陽射しが強いから、熱くなっちゃっただけさ」

 

「暑くない。 大丈夫」

 

 

カコ。 そこは肯定して。 否定されると、円滑に進まない事があるの。

仕方ない。 証拠を提示、というか指摘しよう。 「カコの顔が赤い」を喰らえ!

 

 

「そりゃオカシイよねぇ。 だって、カコの顔は赤いんだもの」

 

「あ、あぅ……その、えっと」

 

 

途端に歯切れが悪くなる。 更に、色白の頰に朱がさす。 ふっ。 このまま、コッチのペースに引き込もう。

 

 

「マルカも、そう思うでしょ」

 

 

マルカも巻き込み、包囲網(ふたり だけだが)を作ろうとする。 逃がさない。 バブルネットフィーディングじゃないが。 イルカだし。 ココ、陸地だし。

 

 

「分からないけど……そう だね」

 

 

快活な雰囲気からズレて、少し静かに応えるマルカ。

 

少し違和感があった。 分からないけど、そうだという言い回し。

表情や声色的に分からない事が分かった、という訳じゃなさそうだが。

 

フレンズに個体差あれど高度な思考は難しいイメージなので……いや、これは偏見だ。 でも大凡合っているだろう。

ヒトと似て、同じ言葉を使いコミュニケーションを取れても、どこか野性味は抜けない。 考えはするが、ピュアな心のもと、原始的に終わる事が多いのではないか。

勿論、侮り過ぎて痛い目に合うパターンは避けたいが。

 

だけどコレは深刻に考える事じゃないだろう。 ただの遊びだ。 考えるなら、未来について考えた方が良い。 ベストアンサーは知らん。

 

 

「という訳でカコ。 皆で、海の家で休もうか。 担当者が来るまで、あと少しだろうし」

 

「……………………か」

 

 

何やら、蚊の鳴く声が聞こえた。 聞き取れたのも蚊の部分だった。

ぱっと見、虫が飛んでいるようには見えなかったが、いたのかも知れない。 その意味でも、さっさとココから離れよう。 そしたら、

 

 

「あんじゅが、奢ってくれるなら」

 

 

思わず顔を見ちゃった。 いや、奢るつもりであったけど。

 

なんか俯いてる。 赤いまま。

 

ホント、大丈夫だろうか。

 

 

「あー、うん。 その辺は大丈夫。 冷たいモノでも頼むか? なに食べたい?」

 

「カキ氷食べたい」

 

「良いぞ。 焼きそばでも、ラムネでも奢ってやんよ。 マルカもな」

 

「ヒトの たべもの って、初めて!」

 

「ふふっ。 お祭りの時みたい」

 

 

祭り? 本土での思い出かな。

あまり、記憶は無いんだよなぁ。 いや、正確には思い出さないようにしているというか。

ヒト絡みの世界は、面倒であったからさ。 カコ達には優しく振舞っていたと思うが、赤の他人の中には酷いヤツもいたから。

パークに来て、いよいよ忘却(ぼうきゃく)の彼方であったのに……前世の悲劇まで起床してきた。 いけない。 早く闇に押し戻そう。 アレは 無くて良いものだ。

 

 

「あんじゅ?」「どうしたの?」

 

「え? あ、いや。 俺も暑さに やられた かな……そら! 海の家まで競争だ!」

 

「陸で競争するのも、初めてだよ!」

 

「もう。 あんじゅ らしいけど」

 

 

心配されたので、誤魔化すように走り始めた。

 

今世は今世。 今は今。 昔の話は関係ない。 今が楽しければ、それで良いじゃないか。

 

未来はさ、何とかしなきゃって思うけど。 過去は どうにもならないんだから。

この思考も、何度となく繰り返し───この先も何度繰り返し悩むのか。

 

前世や過去、俺をのけものにした、酷い事をしたヤツらを未来永劫呪詛しても仕方ないのは、分かっている……つもりではある。

 

だけど。 やるべき事はやるべきだろう。 それは決められた仕事や世界だけに留まらない。

 

取り敢えず。 今は走れ、杏樹よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。 海の家でアイスクリーム頭痛を皆で引き起こし、店員さんに笑われ───互いに涙目に なりながらも、笑いあった。

 

ヒトやフレンズの少ない眩い白き砂浜。 さざ波とカモメの声、して純粋な笑顔がある屋根の下。

 

都市部の喧騒とは違った、自然の中にある安らぎ。

 

それを感じられる長いようで短い時間は、「の」の字のパークロゴをつけた、モスグリーンジャケットの担当者の到来で終了した。

 

別にそれは良い。 いつかは終わるのを知っていた。 マルカも、素直に笑顔で付いて行き……去り際、大手を振って別れた。 良い子だと思う。

 

この時間は俺やカコ、マルカを幸せにしたのは違いない。 そして、思い出となり明日の糧となる。

 

明日からも頑張ろう。 明確な目標は無い。 だけど、何もしないのは嘘だ。

都市部に戻っても、この熱が冷めないでいてくれる保証はないのだけれども。

 

ただ、やらなくちゃ。

 

幸い、様々なパーク職員との連絡先は知っている。 仕事の都合、自然と増えていたからね。

 

何か……何かしなければ。

 

 

 

 

 

それは転生者の責務か娯楽か。

 

恩か思想か。 ただの自己満足か。

 

ヒトやフレンズ、パークへの情か───。

 

 

その答えは、なんだろう。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
バブルネットフィーディング
ザトウクジラのエサの取り方。 エサを見つけると、数頭で噴気孔から泡を出し、円を描くように遊泳しながら水面に上昇する。
すると、エサの周りには泡の網(バブルネット)が出現。 泡の中に閉じ込められたエサ生物が、水面に押しやられたタイミングを狙って、仲間で一気に捕らえる。
非常に社会性の高い摂餌行動なんだそう。

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