パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 ちょっと文字多いかも。

漫画版であった歓迎会へ。 会うのが初めてのフレンズも。


☆菜々ちゃんの歓迎会へ。

汗ばむ陽気の時間が過ぎ、観光は陽が沈むのに合わせて終了した。 日帰りなのもあり、整備された駅周辺をフラフラしただけであるが。

一応、漫画版であった水族館と思われる、建物の前まではいった。 まだオープン前であったから、入れなかったけれど。

 

だけど、見るべきポイントはソコだけじゃない。

 

青空広がっていたリウキウチホーは、沖縄の方で見られる独特の建築様式がある。

それを初めて見て、それなのに郷愁にも似た感覚を味わえた。

 

石等の自然由来を感じさせる建材が使われていたからかも知れない。

コンクリートジャングルにいると、ザ・人工物ばかり見ていたからね。 その反動で目新しく感じたな。

一方で都会の喧騒がない生活を「良いなぁ」と思ったのも確かだ。

 

さざ波の音が聞こえ、母なる海が隣にいる生活。 誰や時間を気にしないスローライフを送りたい。

前世ほど思わないが、今世でも思う。 仕事仕事では堪らない。 せっかくパークにいるから尚更に。

 

時間を好きなように使いたい。 そして旅がしたい。 かばんちゃんのように。

そして、新しい発見と輝きの日々を送るのだ。 かつての幼少時代のように。

 

…………妄想だけどな。 現実は上手くいかない。 でも夢見たって良いじゃない。 だってヒトだもの。

 

 

「またね、あんじゅ」

 

「おう。 またな」

 

 

故にか。 フリーになった時、寂寥感が押し寄せたのは。

 

都市部の大きな駅。 改札外で、カコと手を振って別れた後。 振り返れば、見慣れたビル群に文明の喧騒。

 

僅かに夕陽の淡い光が残り、空に星が瞬き始める時間。 暗い世界を照らすは、発光する大中小の、カラフルな宝石。 ふたつひと組で、決められた道を転がるのもいる。

その都度、摩擦か風か。 音が俺まで届いてきて……ココがいつもの場所だと再認識させられた。

 

 

「むぅ」

 

 

眩しさに目を細めた。 それだけで光の線が縦に、横に伸びる煌びやかなステージに。 けれど派手なステージで踊る者はいない。

 

ときどき、けも耳と尻尾をフリフリした……フレンズのシルエットが横切って行くが、彼女らは文明に慣れているのか。

そのまま、影の世界へと溶けてしまう。 タイリクオオカミお姉さまなら、この辺を上手く表現出来そう。 まだ会ってないけど。

 

 

「昔は、感動したのになぁ」

 

 

昔と今を比べてボヤきつつ。 俺は寮へと歩みを進める。

踏みしめる大地は硬く、歩きやすい。 そこに物足りなさを感じるから、俺も随分と贅沢になったものだ。

 

 

「あぁ」

 

 

天を仰ぐ。 地上と比べると小さく……だけど天然の宝石が、まばらに輝いている。 どこか優しい光である。

なんとなく手を伸ばしては、掴もうとするんだけれど、届かない儚さ。 幼稚な行動だけど、今は この切なさを搔き消したくて。

 

他のちほーなら もっと たくさん、綺麗に見えるんだろうか。 それこそ、宝石箱をひっくり返したような。 人工物も、この辺と比べれば少ないからね。

また、サンドスターの影響で環境が違う。さっきまでいた、リウキウも そうである。

それぞれの大地から見た空は、どう映るのだろう。 ワクワクするのかな。

 

取り敢えず、今は。

 

 

「帰ろう。 先の事は、また明日考えよう」

 

 

明日から本気出す。 そう問題を先延ばしにしつつ、寮まで ひたすら歩く。

取り敢えず、菜々ちゃんが来た最初の1年……今年は大丈夫だろう。

漫画版の通りなら、一応そんな雰囲気である。

 

問題は、あの先が分からない事だ。 平和なパークを描写した 第1世代の、あの世界の終わり。

 

パークの危機は如何にして起きたのか。 こんな時、前世のけもフレファン……考察班のフレンズがいてくれれば、良い対策法が立案されただろうか。

 

 

「知り合いは、たくさん出来たのに。 なんだろうなぁ、この孤独感」

 

 

冷たい。 そのクセ、ドロッとした気持ちが胸の内を渦巻いて落ち着かない。

 

結局、この不安を除くには行動するしかないようだ。 管理センターの小動物に意見具申したように。

 

 

「何かしなきゃ」

 

 

ボヤきつつも、歩みは止めず。

 

俺の存在や行動は、世界に迷惑だとしても。 何もしないのは嘘になる。

もっと詰めていくと俺の存在そのものが嘘なのかも知れない。 だとしたら聞こう。 創作世界である けもフレワールドに、何故俺が存在するのだと。

その意味は、何か。 この世界が夢みたいなものなのか。 その割には、五感はしっかりしている。 喜怒哀楽もある。 生きてきた記憶もある。

 

それらに意味を見出そうとする。 それはヒトの悪い癖か。 「良い夢でも良いじゃん」となれないのだ。 なるヒトもいるだろうけれど。

まあ、なんだ。 幸い大凡の方針は決まってきた。 今頃悩んでどうする。

人生、何かの意味を見出したいだけの自己満足でも良い。 フレンズや皆と一緒にいたいだけ、パークから出たくないから守りたいという、利己的な思考だと罵倒されても良い。

生活費の為に働いて食費や電気水道代を払い「これが俺の人生だったんだな」と終わるよりマシだ。 そもそも、最初はパークライフを謳歌するつもりで島に来たんだ。 前世や本土で味わったような道を歩みたくない。

なら、信じた、歩きたい道を進んで行こう。 他に道は見つからない。 これが俺なんだと、自信を持って行けば良い。

 

かのようにして。 言い訳するように、歩き続けて。

 

 

「いつ帰ったんだよ」

 

 

気が付いたら寮の自室という、ある意味ホラーな展開。 良く事故らず帰ってこれたと褒めてくれ。

 

思考の海に溺れていたか。 溺死する前に浮上して良かったわ。 ホント。

 

 

「うん?」

 

 

して、無意識か。 ポストから出したであろう、便箋を手に持っている。

 

宛名は……まさかのフレンズ、サーバルからだった。

 

あー。 これは、あれだわ。

漫画版のアレだ。

 

内容を見る。 案の定、菜々ちゃんの歓迎会……その予定日と時間、招待状だった。

 

電子メールで起こされるやたら綺麗な文字ではなく、少し太いような、それでいて角張っていない、柔らかく大きめの文字で作られた文を読む。

 

ななちゃんの かんげいかいを します。 ぜひ きてください。

 

そんな感じの、内容。

 

 

「ははっ」

 

 

沈んでいたぶん、笑いが漏れる。 感動の涙も、溢れてくる。

 

 

「サーバルは、凄いよな」

 

 

この紙ひとつで、前向きになれた。 してくれた。

 

知っていても、実際に見て聞いて感じるのとは全然違う。

 

電子メール等が普及した現代。 このような手紙類が珍しく感じてしまう。

 

一方で、温かい。 忘れていた温もりだ。

 

心への明るい刺激は、きっと、ヒトを笑顔にするんだなと思えるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。 菜々ちゃんの歓迎会へ。

サーバルが企画して、親友のカラカルと相談しつつ開かれたもの。

パークに来た菜々ちゃんを歓迎しようという趣旨のこの件。

漫画版を見ていると、相談時にサーバルが会に出そうとしていた料理名の書かれたメモをカラカルに渡しているのだが……文字の読み書きが出来る風である。 ヒトの影響か。 か し こ い。

アニメでは読めなかったからな。 これが文明の差なのだろうか。

 

それにしても歓迎会か。

 

俺の時なんかは…………あれ。 記憶にございませんね。 のけもの なんでしょーか。

 

いや、うん。 仕方ないハズ。 まだパークがドタバタしていた頃に、臨時職員として上陸したのだから。 そうだ。 そうに決まってる。

だから忘れられているとか、嫌われてるとかハブられているワケじゃない……よな?

 

 

「き、嫌われていたら招待状は届かんだろ。 うん」

 

 

自身を安心させるように、ブツブツ言いながら会場の建物へ。

漫画版では、誰かの家なのか借りた建物なのか分からなかったけれど、足を運ぶと後者ぽい。 大きめの家風の、公民館みたいだ。

 

それなりのモノを収容しなければならないのだ。 一般の家じゃ難しいんだろうな。

 

あ、家で思ったけれど。

 

漫画版にて、カラカルやチーターは 立派なヒト基準な家に住んでいる。

一方でキタキツネやキンシコウは森に住んでいる感じ。 なんだろうか。 望んだり、試験的なのに合格すると都市部に住めるのだろうか。 分からん。

 

一方で、本土や大陸からヒトと共に移住してきたイエイヌやイエネコという例外もあるようだがな。

 

パークもよく持ち込みを許可したものである。 なんでも持ち込み許可を得るには「サンドスターによる突然の変異───アニマルガールに変身しても、パークは責任を負いません。 援助はしますが、今までと変わらず家族として大切に接して下さい」という書類にサインしないと駄目と聞く。

本土ではヒトの身勝手でペットの問題が深刻なのだ。 この世界のパークは、その辺を配慮して……持ち込んで良いけど、ちゃんと世話しろよと言っているみたい。 して言うだけでなく、面倒もある程度は見てくれる。 優しい。 悪く言うと緩い。

 

アニメでは、生態系の維持に配慮がどーとかで、ラッキービーストは緊急時以外、絡まないようにしていたが。 イエイヌやイエネコは、該当するのだろうか。 分からん。

そのうち、ガイドライン等が見直されるのだろう。 まぁ俺は現状維持で良いと思うんだけどね。 イヌもネコも好き。 可愛いは正義。

 

 

「ココがあの女の……こほん。 会場の建物ね」

 

 

ふざけつつ、普通の、一軒家にあるような扉を開ける。 すると紙を輪にしてつなげた飾りものや、歓迎会の文字が目に飛び込んできた。 学生の時、作った記憶が薄らとあるなぁ、これ。 懐かしい。 して、その辺の全作業を俺に押し付けて、カコ以外は皆帰りやがった。 アイツら許さん。

 

続いて、長テーブルの上に、たくさんの食事。 勿論サラダもある。 これはカラカルのアドバイスからだな。 対してサーバルは草なんかで喜ぶのかなという反応。 返答したカラカルは、ヒトの女の子に重いのは駄目だといい、取り敢えずサラダなのよ的な事を言っていたかな。

作ったのは……まあ、誰かにお願いしたか。 サラダは兎も角、他の料理で使う火とか包丁とか危ないし……。

して、調理実習で作業を俺とカコに任せ、携帯を弄っていた連中も許さん。 挙句、俺の分の料理をリア充男が彼女に渡していた。 マジ許さん。

代わりにカコが、自身の分を少し分けてくれた。 美味かった。

嗚呼、当時の味方はカコだけだったよ。 よよよ。 昼や放課後はミライと菜々もいたが。

 

 

「あっ! いらっしゃい、あんじゅ!」

 

 

して、アルパカ……じゃなくて、サーバルが1番に お出迎え。 屈託のない満面の笑みが、心に沁みるよ。 よよよ。

 

 

「えぇ!? なんで泣いちゃうの!? ゴメンね、なんか悪い事言っちゃったかな?」

 

「違うんだ、サーバル。 歓迎会とかの集まりに招待されて優しくされたの始めてでね。 ゴメンよ」

 

「そうなんだ?」

 

 

我ながら、なんか悲しい事を言っている気がするが、取り敢えずサーバルを心配させてしまったので謝る。

 

 

「じゃあじゃあ!」

 

 

何か。 俺の涙に効果音を付けてくれるの? 滂沱とおっしゃるか。 何気にディスッてるのかな?

 

 

「また、何か お楽しみ会をするとき呼んであげる! 何もなくても、やっぱり呼んであげる!」

 

 

おぅ。 なんて優しいんだ、この子。 やっぱり泣くしかない。 ディスッてるなんて思ってごめんよ。

 

感謝……ッ! 圧倒的感謝……ッ!!

 

 

「ありがとう……! ありがとう……!」

 

 

涙を拭つつ、礼を述べる。 親しきフレンズにも礼儀あり。 ちょい違うか。

すると、サーバル。 腰に手を回してギュッとして、

 

 

「うんうん! 菜々ちゃんを 皆でお祝いして、一緒に楽しもう!」

 

 

おぅ。

 

ここは、主役の菜々が泣く場な気がするが、俺だって泣いてええやん。 だってヒトだもの。

 

 

「うん。 そうだね、ごめん」

 

「もー! 謝らないの。 ほら、料理も皆で用意したんだ。 取皿は傍に置いてあるよ。 食べて食べて!」

 

 

こんな俺にも、笑顔を向け続けてくれるサーバル。 ここは、ご好意に甘えさせて貰おう。 それもまた礼儀か。

 

ところでと、まわりを見渡す。 コアラが料理を取り分けてたり、黒にチェックのスカートな、オトナの雰囲気を醸し出すタイリクオオカミお姉さまが、白に朱を染めたような、綺麗な色をしたスカートのトキや、相変わらず探検服なミライと談笑している。

サーバルの親友、カラカルは主役の菜々が来るか、外の様子をジッと伺っているな。 常識を兼ねているイメージがある一方、忍耐力強いと思う。 俺は無理。

後で挨拶しておこう。 カラカルもだが、オオカミとトキとは、何気に会うのは初めてだ。

 

 

「ありがとう───菜々は、まだ来てないのかい?」

 

「うん。 もう少し したら来ると思うんだ」

 

 

たぶん、漫画版の通りならキタキツネも来る。 元気にしてるかな、あの子。

 

さて。 じゃあ、来るまでに挨拶回りをしておこう。

 

 

「分かった。 じゃあ、それまで料理食べたり、他の子と話してるね」

 

「うん!」

 

 

こんな時、挨拶の順番ってあるのかな。 ヒトを避けてきた身としては、その辺のスキルがゼロなので。

 

取り敢えず、知り合いのコアラから話しかけるか。 恐怖のパップネタは……流石(さすが)に無いだろ。 たぶん。 料理の前でそんな危険なネタは、してはならない。

コアラ的には気にして無いんだろうけど、此方はたまったものではない。 言いそうになったら、阻止だ。

 

 

「や、やあコアラ」

 

 

やーい、ビビってやんの。 あ、俺か。

 

 

「あっ! あんじゅさん、お久しぶりですぅ」

 

「おう。 体力測定以来かな」

 

「そうですねぇ。 あの時は見守ってくれて、ありがとうございましたぁ」

 

「何もしてないんだけどね。 でも、コアラはよく頑張ったね。 得意な事も見れたというか、うん。 良かった」

 

「あ、パップの「オット他ノ子ニ挨拶シナキャー」分かりましたぁ」

 

 

危ない。 やはり恐れていた単語が出てきたか。 俺の言い方も悪かったが。

 

コアラに悪いが早めに切り上げて、ミライのトコの集まりへ。

女子集団に男が単騎(たんき)で突撃するのは勇気があるが、幼少の頃に経験したからか。 ちょっと足が重くも、何とか声を出す事が出来た。

 

 

「やあ、ミライ。 して、初めまして皆さん……かな」

 

「お久しぶりです、杏樹(あんじゅ)さん」

 

 

笑顔で返事を返してくれるミライ。 嬉しいな。 学生の頃や前世にて、無視される事もあったからね。 あの時は……うん。 そろそろ思い出すの止めようか。

 

 

「初めまして、杏樹さん。 タイリクオオカミです」

 

「初めまして。 トキといいます」

 

「ご存知の方もいるようですね。 改めまして。 俺は杏樹と言います。 宜しくお願いします」

 

 

して、同じように敬語で返事をしてくれるフレンズ。 何だろう。 文明を感じつつも感動するんだけど。

 

柔らかな表情で返事を貰える喜び。 オトナの世界の取り繕ったナニかではない。

そして、何より。 アニメに出て来た子との出会い。 性格や世代違えど感動がある。

 

タイリクオオカミ。

アニメのロッジにて登場。 全体的に黒な服装で、スカートを履いている。 だからか、ちょっと大人っぽいというお姉さんな印象。

オッドアイで漫画を描いており、アミメキリンに先生と呼ばれる。 オオカミは表現豊かとされ、それに(ちな)んだ行動や言動を取っていた。

 

漫画版ではコンビニ回で登場。 何をしているのか分からないけれど、此方はオッドアイではなく、ゆったりとした余裕のあるお姉さん。 菜々曰く、素敵なフレンズだったか。

俺からしたら魅力(みりょく)違えど、皆素敵(みな すてき)だと思うけどね。 キタキツネはまあ……ワガママだけどさ。

 

そして、トキ。

日本では絶滅種であるから、アニメでは目のハイライトが消えている。 歌うのが好きなのは共通しているな。 その声は音痴というか、独特なのも共通……。

漫画版ではピクニック回で登場したかな。 第1世代は普通の目に見える。 大陸から来た子なのかも知れない。

その美しい朱色はトキ色とも言われるそうだが、うむ。 こうしてフレンズとしての姿も美しい。 歌はアレだが。

 

よし。 折角(せっかく)出会えたのだ。 場はなんであれ、友だちになれるよう、好印象を与えないと。 紳士ぽく、お近付きになろう。

 

 

「いやはや、御二方(おふたかた)とも美しい。 ご友人に持つ菜々が羨ましい限りです」

 

「「「えっ?」」」

 

 

ハモった。 ミライも含む。

あれ、スベったぞ。 なんか信じられないモノを見たかのように目見開かれたんだけど。 俺みたいなルックスに言われるのは、キモかったよね、そうですよね。

 

 

「すみません。 お恥ずかしながら、素敵な集まりに来るのは初でして」

 

「い、いえいえ! お褒め頂きありがとうございます」

 

「私も、褒めてくれて嬉しかった」

 

 

フォローしてくれる始末。 顔が赤いからね、ちょっと怒ってるのかな。

あぁ……失言であった。 後悔先に立たず。 仕方ない。 次から気を付けよう。

 

一方で、ヒトであるミライ。 ちょっぴり悲しげに見て来る。 リカオンの件もあるからな、フレンズに迷惑かけるなと思っているのかも。

 

 

「あー、えと」

 

「大丈夫ですよ。 ちょっと羨ましいなぁと思ったりしただけです」

 

 

あれ、羨ましいの?

ミライも褒めて欲しかったの?

 

 

けも耳と尻尾! 私も欲しいですっ!

 

 

違った。 勘違いだった。

 

ヨダレを振りまきながら、身悶えするとか……危険人物過ぎる。 いや、知っているんだけど。

ほら。 オオカミもトキも、ちょっと引いてるやん。 この辺にしておけ。

 

 

「あー、そろそろ菜々が来るかも」

 

「はっ! そうですね」

 

「様子見てきます」

 

 

そう言って、落ち着きを取り戻したのを確認した後。 皆に軽く会釈して、カラカルの所へ。

今の彼女は、玄関の外が見える窓の側。 時々、縦長な けも耳が傾いて可愛い。

 

菜々が来て、落ち着いてきてからの方が良いだろうけど、料理をもしゃもしゃするだけってのもね……主役まだだし。 フレンズは気にしてないけれどさ。

 

 

「どうも、初めまして……カラカル、さん?」

 

 

ちょっと低い姿勢で話しかけると、流石に無視できないのか。 カラカルが振り返ってくれた。

 

 

「あっ。 ごめんなさい、菜々ちゃんが来ないか見ていたの。 入ってきたタイミングで、クラッカーを鳴らしたいから」

 

 

ふむ。 説明ありがとう。 そこは漫画の通りであるか。 キタキツネ風に言うなら「火薬クサッ」なシーンを計画している模様。

そんな彼女の姿形は、サーバルと似ている。 違う点はオレンジっぽいような色に、黒く縦長のけも耳。 アプリ版でもサーバルとは親しい間柄だったが、第1世代の時点で仲良しであったか。 仲が良いのは良きことかな。

 

 

「失礼しました。 俺、杏樹と言います。 また後ほど」

 

「ああ、貴方がサーバルの言っていた」

 

 

あら。 サーバルが俺の事を教えていたようです。 話がスムーズになりそうで良いですねぇ。 さすがサーバル、略してさすサバ。

 

 

「ケーキ屋の女性店員に興奮し、寮の部屋に連れ込んで管理センターに通報されたという」

 

「違うからね!? いや、違わないけど違うから!」

 

 

あかん。 ダメな方を教えていた。 それと嘘じゃないけど、ふたつの事件が混ざって言い方がアウト。

話スムーズにならねぇよ。 てか、情報入るの、早いよ!

サーバルは、初代からトラブルメーカー体質なのか。 さすサバ!

 

 

「冗談よ、からかっただけ。 改めて、カラカルよ。 よろしく」

 

「そ、そっか。 よろしく」

 

 

いや、ビビった。 そういえばアプリ版では、揶揄う描写が多かったかな。 名前からきているんだろうけど。

漫画版では常識人な印象が強かったんだがな。 これはこれでフレンドリーで良いかもしれない。

 

 

「話し方も、それくらい砕けた方が良いわ」

 

「そうか?」

 

「そうよ。 話声を聞いていたけれど、あまり畏まらなくて良いと思う」

 

 

あ、聞かれていたのね。 フレンズって、ヒトより聴力良さそうだもんね。

都市部や遊園地の喧騒が無いところでは気を付けよう。 寮の自室でも、特定の音や声は出さない方が良い。

また誤解されるのは勘弁だ。 あれ、俺のプライバシーは何処。

 

 

「そうですね……じゃなくて、そうだな。 俺も楽だし」

 

「そうそう。 あ、みんな、主役が来たわ!」

 

 

カラカルが、窓を見、次には皆に聞こえるように声を上げる。

して、クラッカーを何処かから出すと、俺に渡してきた。 え、パリピしろと?

 

 

「じゃ、一緒に祝いましょ」

 

「え、ああ。 モチロン」

 

 

一応、というか菜々を祝う為に来ているからね。 寂しかったのもあるが。

取り敢えず、祝わないで飯だけ食ってゴチになりましたぁ、あばよ なんて事はしない。

 

 

「じゃ、みんな扉の前でスタンバイ!」

 

 

サーバルを前にして他の子たちも、いつのまにか玄関先に集合。 手にはいつのまにかクラッカー。

 

まあ、うん。 この流れ的に不参加はないだろう。

 

やった事はないから、得意でも苦手でもない、この行為。

でも……やる事に意味かどうかとか、考えない。 相手が喜んでくれるなら、笑顔になってくれるなら、それで良い。

 

 

 

 

 

ガチャリ、と玄関扉が開く。

 

刹那。 皆で一斉にクラッカーを鳴らした。

 

起きたのは、大きな音と火薬の匂い。 して、祝福と感激の笑顔。

 

嗚呼。 主役じゃないのに、俺まで笑顔になっていた。

 

心地良い。

祝うって、こうだったんだっけ。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
タイリクオオカミ
新旧大陸両方に分布し、多くの亜種がいる。 一般にオオカミというと、タイリクオオカミのこと。
上下関係がハッキリした群れを作り生活する社会性を持った けもの。 表情、仕草など、いろんな行為で意思疎通を図る。

杏樹のメモ:
狩りで仲間と連帯する作戦をとる けもの のようで、頭が回るイメージ。 漫画版では社交的というか、淑女な感じかな。
前世で某動物園にて。 オオカミたちの遠吠えを見聞き出来たのは感動した。 力強く勇ましい。 俺は、そう感じた。

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