パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 短め。

菜々とキタキツネと お話。 相手の気持ちを汲み取るのは難しい。


閉会後。 菜々とキツネサマ。

菜々ちゃんの歓迎会は、ほぼ漫画の通りに終了。

 

菜々と共に来たキタキツネが開口一番、火薬クサッと叫び、菜々が涙を浮かべながらサーバルに抱きついて礼を言った。 尊い。

 

それは良いとして、ウッカリしていて阻止するのを忘れていたんだが。 開会の挨拶の後、トキが歌ったのも、漫画版の通りとなってしまった。

 

表現するならジャ◯アンを再現しました的な、凄いインパクト。 ガラスが割れ、悲鳴が上がり、キタキツネは「耳がもげる」と床に倒れる程に。

アニメでは、かばんちゃんは平気そうであったのに……世代だろうか。 漫画版とアプリ版のトキの歌は危険である。

なお、アプリではサタンの産声だと表現されていた。 今となっては笑えない。

 

見た目、とても美しい歌姫なんだけどね。 その、まあなんだ。 個性は大事だと思うよ。

その個性で、ちょい先の未来……パークのお客さんによるポイ捨てを解決したワケだし。 有用性がある。 進んで聞く気が起きない辺りが。

アレ……なら害悪じゃね? モスキート音ってレベルじゃなくね? そう思う俺もまた、パークにとっては害悪であった。

改めて、俺の心は穢れていると再認識。 悲しい。

 

最後、閉会前にサプライズとしてカラカルが、びっくり箱で菜々を驚かそうとしたら、サーバルが余計な風に仕込んだらしく、出てきた蛇のオモチャに双方驚いた。

して、カラカルがサーバルに怒って幕を閉じる……という。

 

ここまでは大凡知っている。 漫画版の終わり方である。 俺の知らない部分は、そう。 この後の流れだ。

 

 

「───皆さん、今日はありがとうございました」

 

「こちらこそ、ありがとう」

 

 

菜々が改めて礼を述べ、皆が笑顔で応対する。 言葉や雰囲気から閉会の流れであり、シメの言葉を掛け合っているのだ。

 

既にタイリクオオカミやトキは帰宅。 ミライはサーバルとカラカルの片付けの手伝い。

 

 

「菜々、次から肉まん以外も欲しいわ。 今日の食べ物、次から各種持って来なさい」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

 

キタキツネ、相変わらずの女王さま発言。 都市部に出て来て、多少の規則や道具の使い方、言葉は覚えたようだけれど性格は変わらず。

 

 

「仕方ないわね……あんじゅ!」

 

「ダメダヨ」

 

「まだ何も言ってないんだけど!?」

 

 

目が合った刹那、ボス風の口調で拒否らせていただく。

だって、安易に予想がつくもん、フレンズって純粋な子が多いから思考が読みやすい気がする。 気がするだけだが。

 

 

「どうせアレだろ、菜々がダメだから俺を使うという考えだろ」

 

「そうよ。 何か問題?」

 

 

ヤダ、キタキツネサマ、なんの躊躇もない。 俺を下僕か何かだと思っているのか。 生憎、ソッチの趣味はないのだけれど。

見た目が可愛いければ、全て許される訳じゃないです。

 

 

「問題しかないね、俺は料理が出来ないんだよ」

 

 

それから根本的な問題を答えておく。 健康管理等の側面から、フレンズへの餌付行為がダメなのもあるが、俺は料理が出来ない。

 

仮にも独り暮らしのようなモンなのに、何故に、というのは愚問だ。

今のパークには、コンビニという素晴らしくもブラックな文明があるからな、文明万歳。

して、閉鎖されたら飢えそうである。

 

 

「先輩、料理が出来ないんですか?」

 

 

菜々に突っ込まれた。

いけないよ、先輩だから出来るだろうとか、しっかりしていると思っちゃ。 だってヒトだもの。

 

 

「出来ない」

 

「そんな自信満々に言わなくても」

 

「何を言う。 出来ないのに出来ると言う方が問題だ、知ったかも良くない」

 

「いや、まあ、そうですけれど」

 

 

前世でも今世でも、後輩に馬鹿にされるルートを辿りそうだな俺。

だがしかし。 バレた時の気まずさを考えれば安いもんだ。 して、地位も安く見られてアゴで使われちゃう。 使われちゃうのかよ。

 

 

「先輩、その。 良かったら私が教えても」

 

「気持ちだけ受け取っておく。 俺なんかの為に貴重な時間を割く事はないよ」

 

 

ぶっちゃけ面倒なので、断っておこう。 寮の連中に、また通報されても困る。

 

 

「そう、ですか」

 

「いや、そんなに落ち込まないで」

 

 

目に見えてしゅん、とする菜々。 凄い罪悪感があるんですがそれは。

 

 

「して、キタキツネも何故落ち込む?」

 

「だって、杏樹が料理出来ないとなると、私の食べ物、増えないんだもの」

 

「喰わせるの前提かよ」

 

 

作れても、おいそれと喰わせないけどな。 腹でも壊したら大変だ、ブラックマターを作る気はないが、万が一が発生すると管理センターに叱られる。

 

そうだ、喰わすというと。

キタキツネの食料泥棒癖は直ったのだろうか。 してないとは聞いたが、直接聞いてみるかな。

 

 

「それはそうとキタキツネ。 もう食べ物は盗んでないよね?」

 

「盗んでないわ。 どう? エラい?」

 

 

ドヤッ、と胸を張られた。 それなりに胸はあった、どこ見てんだろうな俺。

そんなキタキツネに突っ込むは、現担当者の菜々。 ご苦労である。

 

 

「盗まないのが普通なんだよ」

 

「普通は、な。 まあなんだ。 立派に成長したと思うよ、エラいぞキタキツネ」

 

「へへっ」

 

 

菜々は咎めたが、俺は褒めて撫でてやる。 甘ちゃんだと思うが、キタキツネの性格上、こっちの方が教育に良いかも知れない。

 

 

「むぅ。 先輩、あまり甘やかしちゃダメですよ」

 

 

あれ。 菜々には意図が伝わらなかった、というか不機嫌な顔なんだけど。

 

 

「普通って、個人差があるし……ましてや森や山、海に住む半野生状態のフレンズはヒトの社会が分からないからさ。 褒める時は褒めようかなって」

 

「まあ、それは……分かるんです。 分かるんですが」

 

 

ブツブツ言い始める菜々。 へ、なに、ナニが不満なんだ?

 

 

「ああ」

 

 

分かった。 褒めて欲しいんだな!

分かるぞ、努力しているのに他のヒトばかり褒められるのを目の前にすると嫉妬するよね。 菜々も可愛いなぁ。

 

 

「菜々も、偉いぞ」

 

「へ?」

 

「ちゃんとキタキツネの事を見てるんだなって分かるよ」

 

「ありがとう、ございます」

 

 

ちょっと歯切れ悪く、礼を言われた。 どうしたの、いつもの太陽みたいに笑う君はどこだい。

 

でも、次にはパッと笑顔に。 今のは、何だったのか。 気の所為だろうか?

 

 

「ごめん、変な事を言ったか」

 

「いえ。 嬉しかったです、私の事も見てくれてるなぁって」

 

 

ヤバい、そんな事を言われたら俺ちゃん、後輩に ときめいちゃうじゃない。

 

でも直ぐに冷静に。 俺は臨時職員で、彼方此方に派遣されている。

菜々と共に行動するのは稀だ、そんなに見ている時間は無い。

 

 

「あまり、一緒にはいないけれどな」

 

「それでも、です」

 

「そ、そうか?」

 

「正直に言えば、ずっと一緒にいたいなー、なんて思いますけれど!」

 

「お、おう」

 

 

後半、ちょっと強く明るい口調で言われてしまった。 やはりか、気にしているのかな。

 

しかし、ずっと、ね。 俺には重い言葉なんだよなぁ。 未来への不安があるから。

 

 

「俺も、皆と一緒が良いな」

 

 

恥ずかしくも、願っている事を口にしたら……菜々、口を尖らせた。

ナニか、当たり障りのないコト言ったつもりなのに。

 

菜々の気持ちが分からないよ。 本屋で猫の気持ちみたいに菜々の気持ちって売ってない?

 

 

「な、なんだい?」

 

「なんでもありませんよー、だ!」

 

「えぇ」

 

 

そっぽ向かれた。 全然分からん、だれかたすけて。

そう思ったからか、無意識に撫で続けていたキタキツネから救いの声が。 なんか、やたらふにゃふにゃした甘えた声だけど、この際気にしない。

迷惑行動のみならず、役に立つ事もあるのね。 キツネサマサマである。

 

 

「あんじゅー。 今度、あんじゅの部屋でも会を開けば良いのよ」

 

 

一瞬下ネタに聞こえたよ。 欲求不満というか心が汚れ過ぎ、きっと疲れているのよ杏樹君。

 

 

「ああ……数人なら、大丈夫かな」

 

 

この際だ、取り敢えず適当に相槌を打ってお茶を濁すのだ。

 

 

「そうすれば、皆と一緒にいられるわ。 そうね、3、4人くらいなら平気でしょ」

 

 

皆、ね。 キタキツネからしたら俺の皆は3、4人程度らしい、もっといると思ったんだけどイマジナリーフレンドであったか、泣けてくるね。

 

 

「なんなら、一緒に住んじゃえば良いのよ」

 

「えっ!?」

 

 

更に爆弾を投下するなよ、キツネサマ……。

俺より先に悲鳴を上げたるは菜々。 そりゃ、俺みたいなヤツと1つ屋根の下とか嫌だろう。

 

 

「そうすれば、菜々が料理を作ってくれるじゃない」

 

「お前なぁ」

 

「あぅ……杏樹先輩は、どう思います?」

 

「ダメだろ、常識的に考えて。 ウチは男性寮だしパリピ万歳な住民が多いし、フレンズや女性が来たのが分かると大騒ぎするんだぞ。 そも、同居は許可されていない」

 

「「…………はぁ」」

 

 

ねぇ。 なんでそこで ふたり ため息なのさ、俺に輝きでも奪われたのかい。

アレ、俺って実は無自覚系セルリアンなのかしら。 ナニそれ怖い。

 

 

「先輩らしいですけれど。 私としてはもうちょっと、そう、もうちょおおおっと女の子を見た方が良いです」

 

「もう料理を作らなくて良いわ。 代わりに お金頂戴。 自分で買うから」

 

 

おかしい、何故ふたりに責められているのか。 ナニを間違えたというのだね。

 

 

「まぁ……うん。 キタキツネが成長しているようで嬉しいぞ」

 

「褒めるなら、お金頂戴」

 

「先輩も成長して下さい」

 

 

俺、パイセンやぞ。 そんな風格はないんですね、分かります。

予想通りルート突入ですかね、見下される系の方向で。

 

 

「あー、ミライ、サーバルにカラカル。 俺も手伝うよ。 皿洗いとか やるよ?」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

「逃げた」「ちょっと待ちなさいよ」

 

 

なんか外野がワアワアしているけど、その内収まるだろう。 それまで逃げとこ。

 

あっ。 言ってない事があったわ。

 

 

「菜々、キタキツネ」

 

「なんです?」「なによ」

 

 

今日、今のうちに言っておこう。

 

 

「───これからも、どうぞよろしくな」

 

「あっ! うん! じゃなくて、はい!」

 

「え、ええ。 モチロン」

 

 

おや。 目を見開かれて、元気良く返事をされたよ。 ちょっと俺も嬉しいじゃない。

 

 

「よろしくお願いしますね! 先輩っ!」

 

「よ、よろしく……するわ」

 

 

同時に恥ずかしい。 今、振り返る訳にはいかない。

 

俺の情けない顔を晒さないのは、せめての、先輩としての威厳。

 

いや、羞恥心からかな。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
サーバル
哺乳綱ネコ目ネコ科サーバル属

本種のみでサーバル属を構成。 中型の肉食獣。 主にサハラ砂漠以南のアフリカ大陸に分布。 モロッコでも小規模な個体群が隔離分布しているそう。

狩りのスタイルは、茂みなどに身を隠しながら忍び寄り、発達した後肢を利用したジャンプによる奇襲を得意とする。


杏樹のメモ:
サーバルのフレンズは、アプリ、アニメの主役ともいえる。 性格は明るい印象を受けるが、けもの のサーバルは特定動物。 危険な猛獣と思った方が良いだろう。
フレンズとしての彼女は……良い子だ。 トラブルメーカーなトコはあるが、その明るさには救われるよ。

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