パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

31 / 85
不定期更新中。 短め。

漫画であったポイ捨ての話。 トキに協力してもらいます。


☆パークの歌姫

ジャパリパークに来園した お客さんで日々溢れるアトラクション園内にあるベンチにて。

 

少し汗ばむ程度に良い天気の中、俺は道行く若人を腐った目で眺めていた。

ここだけ見ると、無気力になってしまった無職の男だと失礼に思う輩がいるだろうが、断じて違うと主張しておく。

 

たださぁ……ちょっと疲れたのよ。 朝起きたらマッチョがポージングしていたら、精神的に来るでしょ。

あの後、管理センターに連絡して帰って貰ったわ。 モーニングコールはいらん、朝から刺激物は身体に悪い。

 

 

「───そんでさぁ」

 

「───なにそれ、ウケるんですけど!」

 

 

前世、本土のどこかでも聞いたような口調が耳に入る。

 

して、ポイ捨てしていく光景も、どこかで見た光景である。

 

パークに来ても、ヒトはヒト。

リア充はリア充だ、俺と異なる種族である。

 

綺麗なジャ◯アンになる事もない、俺とか欲に塗れたままだし。

 

ありのままの姿で良いよ、気取らなくて良いよという優しき言葉を掛ける者もいるがな、こういうのを見ると変わるべきトコは変えるべきだと思うの。

 

ただし、目の前の光景全てがヒトではない、誤解はいけない。

様々な性格と役割があるのは、パーク職員を見てきた者なら分かってくれるかな。

 

マッチョもそうだが、菜々やミライ、カコ、管理センターの小動物……この近辺にいる接客員等。

 

自分の為、フレンズの為、パークの為、大切なモノの為に日々の役割をこなす。

 

俺にだって、役割がある。 いや、ベンチに座る役じゃないぞ。

 

 

「またか」

 

 

足下に転がってきた空き缶を見てボヤく。 これで何度目かなぁ、俺がゴミ箱に見えるんですかね?

 

俺はソイツを拾い上げ、指定されたゴミ箱に捨てに行く。

 

その光景は、周りにも見えている筈なんですがね、それでも俺の目の前でポイポイ捨てるヒトは なんなんですかね。

俺が見えてないのか、空気ですかそうですか。

 

フレンズもいるというのに、真似したらどうするんだ全く。

 

 

今の俺の役割、ゴミ拾い……臨時清掃員。

 

 

増えてきたポイ捨てに対処してくれ、ヒト増やしてとの事で俺が派遣されたのだが。

 

周りに散らばる、或いは歩いているゴミを見て思う、思っていたより深刻だと。

 

 

「フレンズの出番かな」

 

 

漫画版であった、あの回を再現するしかないのか。

 

正直、避けたかったが止むを得ない。

ヒトと けもの、無差別にダメージを与えるアレは歓迎会でお腹いっぱいだが、再び披露して貰わねば。

 

 

「ゴミはゴミ箱へポスターも役に立たなかったからね、直接訴えるしかないね、仕方ないね」

 

 

ヒトは誤ちを繰り返す、パークでもやらかしている。 だってヒトだもの。

 

だが、悪行を許すワケにはいかぬ!

 

 

「結果として生まれる苦しみを、味わうが良いわリア充どもぉ!」

 

 

苦しみ、地べたに這い蹲る若人を脳裏に浮かべて、暗黒微笑を浮かべる俺。

 

仕方ない、仕方ないのだ。

ヒトには罪を知ってもらわねばならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけだから、トキ。 君の素晴らしい歌声で皆に伝えてくれ」

 

「はい!」

 

 

アトラクション園内の、広場にて。

目の前で返事をしてくれるのは、純白に綺麗な朱色を染めたような、美しい服を纏う女の子。

 

頭部には、鳥の翼。 スカートと服の隙間からは、やや扇状に見える尾羽。

 

うん、音響兵器なフレンズ……トキです。

 

けもフレファンなら、知っている子であろう。 アニメにも出てきたからね。

 

歓迎会にも来ていたから、俺や菜々とは面識がある。 綺麗な朱色はトキ色と呼ばれ、歌が好きな子としてもパークでは有名らしい。

 

有名……なのだが、たぶんそれは、歌が破滅的な意味も含まれる。 不協和音というか、モスキート音ってレベルじゃねぇ嫌な声で歌うのだ。

 

勿論、トキには言わない。 不必要に傷付けるつもりはないからね。

 

話声は普通なのにね、フレンズって悪いトコも受け継ぐっぽいから、可愛そうだと思う。

 

後の世代……アプリやアニメでも、そうであるし。

 

だが、今回は役に立つ。 役に立って貰わねば困る……!

 

 

「あの、先輩」

 

 

トキの隣、この件に立ち合いになった菜々が、ひそひそ声で話しかけてきた。

 

 

「なんだい」

 

「トキに、ポイ捨て注意の歌を歌わすってマジです?」

 

 

おい、苦虫を噛み潰したような顔をするんじゃない。 正史(?)にて貴女が やっていたんだからな。

 

 

「良いじゃないか、トキは大好きな歌を歌い、罪深きヒトは反省する。 一石二鳥だよ」

 

「そう、なんですかね?」

 

「そうに決まってる」

 

 

ヒトは反省しても、時が経てば誤ちを繰り返す、ならその度にトキも歌える。

 

アレ、ヒトの誤ちも全部が悪じゃないね、トキが歌える場を作るとかリア充共も良いトコあんじゃん。

 

俺もその都度、ヤツらが苦しむ姿を見れるってモンだ。 あ、俺も苦しむから駄目か。

 

 

「何にせよ、ポイ捨てという悪行を止められれば良いのだ」

 

「なら、先輩が直接訴えるのは?」

 

 

無理です、パリピな若人にルールとかマナーの単語を口にしてみろ、気に食わないってんでヘイトを向けられて罵詈雑言を浴びせてくるぞ。

そうしたら、豆腐メンタルの俺ちゃんが立ち直れなくなるでしょ。

 

群れの力を見せられちゃうのは勘弁だ、取り敢えず適当に誤魔化しておくか。

 

 

「音痴なんで」

 

「歌わなくても良いんじゃ」

 

「歌の方が、人々の印象に残ると思うんだよね、特にトキのが」

 

「……そうですね。 忘れられないと思います」

 

「そんなに私の歌を評価して下さり……あんじゅさん、ありがとうございます!」

 

「ああ。 頼んだよ」

 

 

笑顔を向けられた。 ちょっと罪悪感が湧いてくるんだけど仕方ないね、パークと俺、そして君の為だよ。

 

 

「では、歌います!」

 

 

そう言ってトキは、頭部の翼を広げ空に浮き、

 

 

「ミは みんなのミ♪ ファは ファイトのファ♪ ソは おみそ汁♪」

 

 

ツッコミどころがある、して耳がもげそうな声で歌い始めた。

 

 

「ウギャアアアアッ!?」「耳がっ耳がああああっ!?」「キャー!?」「ナニこの音は!?」「不幸になる!」「この世の終わりダァ!」

 

 

そして上がる断末魔、斃れるパリピ。

 

 

「ふ、ふはは……! 見ろ、罪人どもが苦しんでおるぞ!」

 

「先輩もスゴい苦しそうなんですけど!?」

 

「オマエモナー!」

 

 

頭がクラクラして、周りのパリピや菜々共々、俺も斃れる。

 

それでもなお、周囲の罪人の苦しむ姿を目におさめようと、歪んだ笑顔で確認。

 

近くにいたフレンズ───こちらは無罪だが───は更にキツそうだ。 アードウルフやカバは、けも耳を塞いで悶えている。

 

 

「ゴミはゴミ箱へ〜♪」

 

 

だがトキの声。 耳を塞いでも、防ぎきれない。 脳を直接揺さぶられる不快感が早く終わってくれと願うしかない。

 

だからか。 「俺がルールだぜヒャッハー!」な若人も音を上げてしまうのは。

 

 

「「も、もうポイ捨て……しま、せん」」

 

 

遺言を残すかのように、一様に絞り出した声が出た刹那。

 

トキの歌が終わった。 短いようで長かったな、二度と聞きたくないです。

 

 

「ふふっ、どうでした あんじゅさん?」

 

 

その罪を知らぬかのような、天使が……いや、悪魔的な子が俺の前に舞い降りた。

 

 

「あ、ああ。 良かったぞ……また、ポイ捨てが多くなったら頼む、よ」

 

「はい!」

 

 

その時には立ち合いは勘弁な、もう味わいたくないでござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

管理センターに例によって怒られた。 おかしいな、良い事をしたつもりでいたんだが。

 

ヒトもフレンズも難しいね?

 

まあ今回トキが満足そうな笑顔だったから、良かったと思う。

 

後、罪人が正義に屈したような光景が見れて、俺も満足だよ。 くくっ。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
トキ
ペリカン目トキ科トキ属
全身は白っぽいが、春から夏にかけての翼の下面は朱色がかった濃いピンク色をしており、日本ではこれをトキ色という。
学名はニッポニア・ニッポンで、しばしば日本を象徴する鳥などと呼ばれるが、日本の国鳥はキジ。

杏樹のメモ:
アニメでは絶滅種としてか、目にハイライトがなかったが、漫画版ではその様子はない。 大陸から来た子だろうか?
歌が好きなのは共通しているが、アンコールをしたいものではない……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。