神聖で孤高(?)の白虎と出会います。
前世や本土、スーパーでの買い物。 多くの者が経験し、ベテランの方に至っては、ご近所戦隊マダムズとの
欲による負傷者が出ても止まるんじゃねえぞと怒りと悲しみを乗り越えて戦利品を持ち帰る。 ある者は、何も得られず敗北感に挫折する。
ある意味で戦場ともいえるスーパーの大安売りイベントだが、怪我なく生き延びるだけならば激戦が終了するのを待てば良い。 後には何も残らないがな。
かつてビビリーな俺は、巻き込まれる前には敵前逃亡、戦場から離れているのが常であった。 銃殺刑はないので安心して逃げるのであります。
だが今回、友の為に戦火に身を投じなければならない。 前世で良いように使われて奴隷労働社会で命を散らした身としては、これ以上働きたくないでござる状態なんだけどね、引き受けた以上は突入しなければ。
「行くか」
ヒトは群れる生き物。 こうなるのは仕方ないかも知れない……俺は嫌いなんだがな。 あれ、俺ってヒトじゃないのかも。 ナニモンだよ俺。
「ふっ、主も鍛錬に参ったか」
何か聞き慣れない言葉が聞こえたよ。 練炭の間違いかな、前世ではネガティブ思考に陥ると、その単語が稀に出てきたからな。
うん。 なんか悲しくなってきた。 早く行こう、任務を遂行するのだ。
「……行くか」
「無視しなくて良いだろう!?」
幻聴も死ぬ前は聞こえたなぁ。 デブハゲ上司の声が何もない空間で聞こえるとかな。
「あれ、俺……死ぬのか?」
「突然、妙な事を言わないでくれないか。 というか頼む。 こっち向いてくれ」
死神か天使か知らないが、ココは言う通りにしておくかな。 そして後悔するまである、後悔しちゃうんだよ。
「やっと向いてくれたか」
そこには白い天使のような、だけど勇ましく神聖な女性が立っていた。 けも耳と尻尾が生えているのでフレンズのようだ。
白い髪に模様のように黒髪が混ざり、ショートヘアの髪にはトラ特有の縞々模様が印されている。 瞳の色は薄くも宝石のように美しい水色。
格好はトラのフレンズの色違いといったところか。 白色のワイシャツに灰色チェック柄のミニスカートとネクタイ、髪やガーターベルト付きニーソックスの色も黒色の縦縞が引かれた白、お尻……スカート下からは、長くしなやかな尻尾が生えている。 あと巨乳。
「うほっ」
驚いた。 この子は……ホワイトタイガーじゃないか。 この時代だ、初代であろう。
インドに生息するベンガルトラの白変種であり、先天的なメラニン色素の欠如・欠乏であるアルビノではない。
トラ全体の数が減ってしまった今では飼育下でしか目にすることができないそう。 全世界でも250頭あまり、国内には30頭ほどしかいない希少種らしい。
フレンズ化した彼女の性格イメージは、やはり武道派。 白い けもの とは神聖な印象を与えてくるが、実際、古来より神聖なものとされてきたとか。
地域によっては崇められている他、中国の民間伝承に登場する四神の一体……西方を守る白虎も この けもの から来ている……のだったか? 四神はジャパリパークに フレンズとして存在しているハズだから、いつか会いたいね。
そんな、スゴそうなフレンズである彼女であるが……よもや、スーパーという大衆な場所で出会おうとは。 はっ。 ひょっとしてスーパーとは神聖な場所だったのか、違うか。 違うと言ってくれ。
「満足したね、じゃあの」
だが急いでいるので戦場に戻る事にしよう。 ココは貴様の戦場ではない、直ちに持ち場に戻れ。 いえっさー。
「ま、待ってくれ!」
聞こえなーい。 前世で訪問販売とかを何度も受けたりしていると、こいうのは一々立ち止まって相手にしてはいけないと学んだからね。
善意を向けてはならない。 相手はソレが狙いなのだ、その善意に漬け込み罪悪感を持たせて契約や商品を買わそうとしてくる。
相手も事情があるのだろうが、それで我が身を滅したら元も子もない。 それはヒトの社会が「まだ」存在しているパークでも通用する。 してしまう。 悲しいけどパークはまだ、ヒトの社会なのよね。 今回の相手はフレンズだけど。
「……うぅ」
ふっ。 泣き落としなんて効かんぞ。 それと泣きたいのは俺の方だよ、俺が泣くんかい。
「友を作るのが、こんなにも困難とは」
「おーけー! 俺は杏樹ってんだ、友になろうぞ!」
思わず戻った。
いやマジ泣きしかけたわ、その気持ち分かるゆえ。
「ほ、ホントか!?」
パッと顔を上げ、笑顔になるホワイトタイガー。 ちょ、やめて。 友を通り越して「結婚しよ」とか言いそうになる。
神聖そうな、だけどボッチな子に対して、なんて恥知らず! それから馴染みのカコもいるのに! 女の敵め! それは誰か。 俺だよ。
「ホントホント。 ただ、急いでいたもんだからさ、悪い」
「そうだったのか───我はホワイトタイガーだ。 すまない、そうとは知らず」
「いや、大丈夫。 でも後で話そうか、ほら、バーゲンセール中だし」
今なお、マダムズで溢れる店内を見回して言う。 ホント、ここってパークなんでしょうかね。 将来、廃墟になる気が起きないんですがそれは。
「ばぁげんせぇる、というのは分からんが。 それが、この組手の名前なのか」
「は?」
トンチンカンな事を言ってきたぞ、この娘。 アレか、この子もラーテル同様、都市部を知らぬのか。
「スーパー、来た事ないの?」
「ない。 「とてもスゴい」という意味だと思ってな、恐らく道場か鍛錬場かと来てみたんだが……違ったか?」
スーパーが鍛錬場なら、ショッピングモールはナニか。 ダンジョンか。 すっごーい。
「違う、激しく違う」
「ならば、なんだというのだ」
「店だよ、ヒトの」
「みせ?」
「また後でな。 詳しくは担当者にでも教えてもらいなさい」
あかん。 この娘も色々知らない様子。 これ以上は かまえない、ハチミツを手に入れねば。
「うおおお!」
我、杏樹臨時職員。 表で待つ友の為、マダムズに挑むモノなり!
そう行き勇んで、熱気溢れるヒト混みに突撃してみたんだが、
「ゴフッ」
第一層目すら突破出来ず、跳ね返されて床に転がされた。 恐るべしマダムズ。
鍛えてない俺には無理ゲーである。 だが、ハチミツはこの先なのだ。 迂回路がないので、何とか進まないとならん。
「修行か」
「ねぇ、今のどこをどう見てそう思うの?」
背後から声を掛けられて、イラッときたよ。 この娘にとっては満員電車も修行だと言いそうである。
なら前世の俺は毎日修行の日々だったな。 活かす場もなく死んだ気がするが。
「俺は、この先にあるハチミツを手に入れたいの」
「任せろ」
そう名乗りを上げるは、ボッチ……こほん。 孤高の白虎のフレンズ。
「我が神域の一撃、見せてやろうぞ」
「ヤメテエエエェ!? それはセルリアンにしてえええぇぇ!?」
スーパーを血の海に沈める気か! ホワイトタイガー、スーパーウーマン!
「問題ない。 急所は外す」
「問題しかないよね? ヒトを何だと思ってるの? マト? 修行相手?」
「友になれればと思う。 して拳を交え終われば、それは友だ…………たぶん」
「お前は友に拳を振るうのか!?」
理性を感じられそうで、ある種の狂気を感じてきたよ。 誰ですか。 この娘を都市部に連れてきたのは。
担当者よ、もっと教育してくれ頼む。 じゃなきゃ、ヒトとフレンズの間に亀裂が走るよ!
「フレンズ同士なら……ラーテルと気が合うんじゃないか? あとはパーク・レンジャーの隊長」
「誰だ?」
「俺の知り合い。 ラーテルは会ったばかりだけど……表にいると思う、余裕があれば紹介するよ」
「お、おお! ありがとう!」
喜びに打ち震える白虎。 俺の中で、強く高潔な印象が崩れてしまった。
後代よ、これが先代だ。 可愛いから良いけど。
「だけど今はハチミツだ! また後で!」
「なら商品棚の上を移動すれば良い」
真顔で解決案を出された。 うむ、さすがフレンズ。 目の付け所がしゃぁぷ……いや、野生的。
「俺には無理だ。 第一、そんなことしたら怒られ「なら、我に任せてくれ」おい待てぃ!?」
静止を聞かず、白虎は脇の商品棚の上にピョイとひとっ飛び。
天井や照明器具等にぶつからず、ちゃんと調整して飛んだのだ。 スゴい。 そして目立つ。 白いのもあって。
「ハチミツだろ? 取ってくる」
そう笑顔で言って、商品棚の上を どこぞの忍者のような素早さで駆けて行く。
それは側からすればズルとか以前に、危険行為のソレだ。 商品が傷付く危険性と やらかしているヒト……フレンズや、周りと店に迷惑をかけるものだ。
治安向上に努めなけれならない職員としては止めねばならない。 だが、俺は良い子じゃない。 楽にハチミツを手に入れられるならばと許してしまった。
誰かに責められたら、止めようと思ったけどダメだったと言い訳するつもりまである。 自身ではなく、初対面の、尊いフレンズを利用して己の欲を満たす。 挙句には彼女に全ての罪をなすり付ける。 マダムズより欲深く罪深い男が、ココにいた。
「職員失格だな」
罪の意識から自虐した言葉を呟くも、口角は不気味に上がっていくもので。
こうなるともう、客観的に見ていたり。 自分自身が自分ではなく、「他人」を見ている。 汚れた心を「他人」として罪を認めない。
一方で顔や言葉で綺麗事と言い訳をする。 なんだろうか、まるで俺が嫌ってるヒト達のソレじゃないか。
本物を求める割には自身は偽物である。 この矛盾は何か。 こんな事をしていては、パークやフレンズへの愛すら偽物になっていく。 全てを裏切る。 それは…………イヤだ。
いや、偽物だからこそ本物に恋い焦がれ、求めてしまうのかも知れない。 セルリアンのように輝きを奪う気はないが。
ただ利己的な行動をずっと続けていると、ツケを払わされるかもな。 異変発生時とか。
「取ってきたぞ───どうした?」
「へ? あっ、いや。 ありがとう、助かったよ」
白虎によって思考の海からサルページ。 危うく溺れて鬱になるとこだった。
ハチミツの瓶を受け取り、二重の意味で礼を言う。 こんな口だけのモノで罪が帳消しには ならないだろうが、言わねば相手に悪い。 それと自己満足。
「〜ッ! 我に出来る事ならば、何でも言ってくれ! そう、友だからな!」
凄い笑顔を向けられたよ。 どんだけ飢えてたの。 そう考えると、とても可哀想な娘に見えてきちゃうよ。
「あー、うん。 嬉しいけどさ、女の子が軽率に何でもとか言っちゃダメだよ」
「そうなのか」
「そうだよ。 特にヒトの男には」
「分かった。 だが何故だ?」
そりゃ
なんて生娘に言える筈もなく。
「男は飢えたオオカミなの。 食べられちゃうんだよ」
「我の力、見くびるな。 襲われても返り討ちにする力はある」
即堕ち2コマになりそうですね。 それから、純粋な心故、騙されそう。
「ヒトと友になるのは良い事だ。 でも、中には悪いヤツもいる。 覚えておいて」
「覚えておこう」
取り敢えず、言っておこう。 パークは希望の光だけではない。 光が強い分、絶望の闇も深まる。
「だが、あんじゅは、良いヒトだろ?」
「へっ?」
思わず、変な声が出た。 俺が良いヒト? そんなワケない。 そう否定しようとして、
「初対面の我と、友になってくれた。 拳を交えたワケじゃないのにな」
その笑顔、ツラいさん。 可哀想だと思って近寄った挙句に、俺はキミを利用したからね。
「いや……その。 ラーテルとか隊長とか他に友だちが出来たら、俺は見捨てて良いぞ」
罪の意識からか。 また変な言葉を口走る。 だが、白虎は首を横に振って言うのだ。
「友に制限などない」
それにと続けられて、
「もし悪い事をしたならば、友として叱ろう。 しようとするならば、全力で止める。 助けを求めるなら手を貸そう。 だから先を案ずるな。 何にせよ、お前は我の友だ。 それとも、迷惑だったか?」
「……ホワイトタイガー」
友という言葉って重い
目の前の娘は虎であるし、群れるのとか嫌いそうだと思う。 俺なんて要らない子じゃないだろうか。
いや、それは俺の妄想なのかも知れない。 信じて馬鹿を見、挙句に死んでしまった前世だが……フレンズの事は信じても良いんじゃないか。
「ははっ」
「どうした?」
「いや、ボッチの白虎が言うと重みが違うなと」
「孤高だ」
「冗談だよ───迷惑なものか。 これからも、どうぞ宜しくね」
「ッ! ああ! 宜しく頼む!」
その後。
会計を済ませて白虎と共に外に出ると、ラーテルが突撃をかまそうとし、キタキツネとミツオシエが必死の静止を呼びかけている場面であった。 危なかった。
ミツオシエにハチミツを渡し、ラーテルを落ち着かせ、キタキツネに肉まんを買えとせがまれつつも、皆に白虎を紹介してやる。
その武道派な言動に、キタキツネは若干引いてはいたが、ラーテルとミツオシエには概ね好意的であった。 良かった。
「今度、どっちが強いか勝負するか!」
「いやぁ、ホワイトタイガーさんに出会えて良かったですよ。 これで更に駒が増えて……いししっ!」
「今度、私の為の別荘を建てて貰おうかしら」
「ありがとう、あんじゅ。 1度に友が増えて……出会えた事に感謝する!」
ここに来て、今更ながら強烈な不安に再度襲われた。
大丈夫、だよな? 紹介しても大丈夫だったよな!?
あーかいぶ:(当作品設定等)
ホワイトタイガー(ベンガルトラ白変種)
ネコ目ネコ科ヒョウ属
インドに生息するベンガルトラの白変種。 体毛は白色もしくはクリーム色に黒の縞模様。縞模様は個体によって茶色だったり、ほとんど見えないものもいるらしい。
かつてはインド北部や中東部に数頭いたといわれる白いトラだけど、トラ全体の数が減ってしまった今では飼育下でしか目にすることができない。 全世界でも250頭あまり、国内には30頭ほどしかいない希少種。
通常のトラと異なり、目が青く、肉球の色が肌色らしい。 そして名の通り……体が白い。
杏樹のメモ:
前世にて、某動物園で見たことがある。 ガイドの時間に食事を与えるシーンがあったのだが、ジャンプする姿は迫力があった。