パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 ガバガバ駄文続き。

ニホンオオカミを預かります。 元気で野生的。


群れじゃなくても。

 

男部屋に女の子が来る。 そんなイベントに様々な妄想を膨らませて、願わくば距離を縮めたいと邪な思考を張り巡らす。 俺も男だ、男なら仕方ない。 仕方なくない?

 

いちおう本土にいた頃、カコという馴染みが部屋に訪れてはいた。 でもチョメチョメに発展はせず、けもトークがメインで終わったのが殆どである。

決してヘタレたワケじゃない。 ほら、ヒトは対話が出来る。 話し合うことで理解し合える。 本能で行動する けだもの じゃない。

その証拠というか、カコとはベットインする様な事態に発展はしなかった。 常に平和に笑顔で終了したのである。

うん。 ごめん。 ヘタレだわ、やっぱ。

 

 

「今度こそは、いや。 今回は駄目だ。 落ち着け。 クールになれ杏樹」

 

 

しかし今回はヘタレで良い。 コトを起こしてはならない。 だってフレンズだもの。

ヘルプで奉仕に来るんだか世話になりに来るんだか分からん子だけど、一線を超えれば最期、互いの清い身体はミライの涎に塗れるが如く穢れてしまうに違いない。

そんな悲劇を回避するべく、不浄なるモノは押入れの闇に葬り、イカ臭い男部屋を少しでも良くしようと換気と掃除までした。 自らも風呂に入って身を清めた。 滅多に使わない折り畳みテーブルを組んで、市販の茶菓子も用意した。 この時、俺の心はぴょんぴょんしており、幼き頃に置いてきたワクワクを取り戻したかのような喜びに満ちていたといえよう。

楽しみに混ざる僅かばかりの不安が程良いスパイスとなり、今か今かとソワソワして待機する。 時々携帯を見たり、ゴミが無いか見たり、外を見てみたり。

不備はない。 大丈夫。 ヨシ。 推奨されても現場で滅多にやらなかった指差し呼称までやった。 これもフレンズの為。 我ながら俺って単純だと思う。

して、再度携帯を見ようかとしたときだった。

 

 

ピンポーン。

 

 

「ッ! はいよーっと!」

 

 

時はきた。 全てはこの時の為。 俺は勢い良く玄関に駆け出し扉を開けた!

そこには───。

 

 

「あんじゅ、えと……さっきぶり?」

 

「はじめましてー!」

 

 

いつもの、服のセンスがアレで巨乳な馴染みカコと。

隣には ケモ耳と尻尾を生やした、ワンコで笑顔が眩いフレンズ。

 

 

「お、おお! 会いたかった!」

 

 

ニホンオオカミのフレンズが。

 

茶色の長袖セーラー服、ピンク色のチェック柄スカートを着る。茶色のニーソックスに白色のローファー靴。

お尻からは茶色の毛で覆われた尻尾が生えている。

髪型はツンツンした茶色のロングヘアーで、先端部分は白色に変色。 瞳の色・形は茶色のツリ目。

 

そして絶滅種の特徴というか……ハイライトが無い。

 

しかし、暗さを感じさせない快活さを感じさせてくる。 現に笑顔だ、 その笑顔の口元からは八重歯(やえば)を覗かせて可愛い。

 

 

「俺は杏樹。 よろしくね」

 

「うん! 私はニホンオオカミ! よろしく!」

 

「ここじゃなんだ。 ふたりとも、中に入って」

 

「うん。 ありがとう」

 

 

また寮のパリピが出て来てニヤニヤ見ているからね。 キミたちの目からは、どう映ってるんだい。

子持ちの人妻を自室に連れ込む犯罪者か。 それともナニか。 これから仲良くフィーバー(意味深)するように見えるのか。

何にせよ、犯罪行為ではない。 普通に話すだけだ。 故に面白いナニかではない。 だからさ。 また通報しようとするのはヤメテ。 マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何これ! いろいろあるんだね! 気になる!」

 

「お菓子だよ。 えっと この子も、ヒトの食べ物は平気だよな?」

 

「大丈夫。 他の子といっしょ」

 

「よし。 ニホンオオカミ、食べて良いよ」

 

「ありがとう! 大好きっ!」

 

「お、おお」

 

 

ふたりを部屋に連れ込み、茶菓子を提供。 ニホンオオカミは目をキラキラと輝かせ、尻尾をはち切れんばかりにブンブン振る。

それが隣に座るカコの身体にビシバシ当たってるんだが……大丈夫か? 目を細めてるし、嫌なんじゃ。

 

 

「幸せ」

 

 

あっ。 大丈夫そうですね。 そっとしておこう。

 

一方でニホンオオカミ。

どの お菓子を食べようか迷い……そして。

 

 

「これ! サンドスターみたいに、キラキラしたヤツ!」

 

「おっ。 良いぞ、少し固いけど甘くて美味しいよ」

 

 

チョイスしたのは、別の小皿に仕分けられた金平糖。 色とりどりでカラフルな粒子っぽい様が気に入ったのかな。 あと、サンドスターを知っている様子であったけど……研究所で学んだのかな。

アレって、ヒトが実験で使う際はどうするのだろうか。 溜められるものなのかな。

他に気になるとしたら、色彩が分かるのかなという点とか。

とか、呑気に思っていたら。

 

 

「はっ、 はっ、はぐっ、はぐぅ!」

 

「ちょっ、おま」

 

 

両手をテーブルに付けて前屈みに。 そのまま小皿に顔を突っ込んで食い始めた。

なんだろう。 側から見たら、何のプレイだよって感じ。 漂う犯罪臭。 イヌプレイ。 いや、イヌ科だけどさ。

 

 

───バリバリバキッ。 ごきゅん。

 

 

金平糖のカスを食い散らかす野生的で、ワンコで豪快な食い方。 ドックフードじゃないんだけどなぁ、それ。

俺は唖然と見、カコはそれすらも愛おしそうに眺めている。 いやあの。 大丈夫です?

 

 

「───可愛い」

 

 

カコさん。 未だトリップ中。 ナニこの絵面。 まともなのはボクだけか!

 

 

「可愛いけど、見た目ヤバいから。 女の子が四つん這いに近い格好して、野生的に食べてるから。 ヒトのする食べ方とか教えなかった系?」

 

 

手で掴む。 食器を使う等。 ヒトは食事をする際は、大凡そうする。 決して皿に顔を突っ込んでムシャムシャしない。 やるのは特殊な時だ。 少なくとも俺の中では。

フレンズは、特に生まれて間も無い子は仕方ない部分もあるけれど、ココはヒト社会が色濃い都市部側。

このセクターで、フレンズとはいえヨツンヴァインになって食事をするのは特殊。 というか相当変態だよ。

 

 

「…………教えると、本来の姿が観察出来ないということで」

 

 

あっ。 戻ってきた。 良かった、このまま説明もナシに時間が過ぎるのは気不味い。 絵面的にもツライさんであった。

 

それにしても本来、ね。 でもフレンズ化した時点で色々違うと思うんだがな。

それはカコも知っているハズだ。

 

 

「でも、完全じゃないんだよね?」

 

「うん。 アニマルガール化しても元の けもの の特性や魅力は引き継がれる。 だけど、()()()()()()()()()()()()()

 

「伝承にあるもの、イメージする印象とかかな。 キツネやタヌキは化ける、とか」

 

「そう。 だから本当にそうなのか分からない時があるの。 UMAやカミサマのアニマルガールがいるように。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

カコはニホンオオカミを見ながら、そういう。 憂の感情を僅かに覗かせつつも、喜びも混ざった複雑な表情で。

むぅ。 アニマルガールやサンドスターの研究。 とても大変なんだろうな。

 

そんな風に見られている当のオオカミさんはというと。 もう食べ終わったのか。 小皿を嬉しそうにペロペロしているところだった。 気に入ったようで何よりだ。

でもやっぱ、野生的。 飲食店に連れて行けない。 行ったら通報されそうだ。 して、俺が逮捕される、されちゃうのかよ。

 

 

「でも、アニマルガールとしても記録に残したい。 逆にこの姿から分かる事もあるかも知れない。 だからニセモノかホンモノか、関係なく研究対象」

 

「そうか。 でも、ココに連れて来たって事は、その辺の観察は もう大丈夫なのかな」

 

「うん。 だから、普通にヒトの知識を教えて大丈夫」

 

 

ならば、食べ方から入ろう。 この状態で外に出たら大変だ。 おまわりさん のお世話になるのは困る。

 

 

「観察記録みたいのって、いるのかな?」

 

「大丈夫。 偶に、電話越しの口頭(こうとう)で伝えてくれれば」

 

 

ここでカコ。 真っ直ぐ俺の目を見つめて、

 

 

「変なコトは、教えちゃダメ」

 

 

怖いよカコ。 俺がナニを教えちゃダメだというのだね。

 

 

「変なコトって?」

 

「そ……それは」

 

 

そこで目を逸らしちゃうの。 可愛い。 もっと見てみたいから、揶揄(からか)いたい。

でも話が進まないので、軌道修正に入る。 感謝したまえ。

 

 

「不法侵入とか、信号無視とか?」

 

「そ、そう。 反社会性の色が濃いの……あんじゅ、そんなコトしてるの?」

 

「してないよ。 模範とはいかなくても」

 

 

なんかマウント取りたがってない? カコもワンコなの? ヨシヨシして欲しいの? お腹撫でる?

 

 

「ごちそーさま! 甘くて美味しかった!」

 

 

そんな事を思ったからか。 お皿を綺麗に舐め終わったワンコ……じゃなくてニホンオオカミが、声を上げてきた。

本題に入らないとな。 いつまでも、俺とカコが じゃれあってるワケには いくまい。

 

 

「それは良かった……これからキミの教育をしていこうと思うんだけど、大丈夫?」

 

「なになに!? なにを教えてくれるの?」

 

 

おおぅ。 前のめりになって、至近距離で聞いてきた。 ホント、人懐っこいね。 初対面相手に距離が近い。 それなりに三白眼だから迫力もある。 でも、不思議と怖くない。

 

 

「そうだな。 ヒトの社会について」

 

「しゃかい?」

 

 

ああ。 分かるように話さなきゃな。 マルカの時もそうだったし。

 

 

「まあ、その。 群れの決まりかな」

 

群れ!?

 

 

あれ。 目を輝かせ始めたよ。 尻尾ブンブンだよ。 して、カコ。 顔をモフモフ尻尾でビンタされて幸せな顔をしてる。 ソッとしておこう。

 

……そういえば、彼女はアプリの話等だと群れや仲間に執着している感じだったな。

 

それはニホンオオカミに限らず、絶滅種に見られる傾向にあるんだっけか?

アニメだと……トキが歌で仲間を探していると言っていたし。 皆が皆じゃないかもだけど。

 

 

「そう。 皆が仲良く生きていく為に、ヒトの群れには決まりがある。 分かるかい?」

 

「何となく分かるよ!」

 

 

群れで生きたとされる けもの だからか、理解は出来る様子。 良いことだ。

 

 

「ねえねえ、あんじゅ! 決まりを守れば、私も群れに入れるかな!?」

 

「ッ」

 

 

───()()()()()()()

 

 

「あんじゅ?」「大丈夫?」

 

「あ、ああ。 大丈夫だよ」

 

 

いかん。 刹那の出来事とはいえ、今の言葉は()()。 考え過ぎなのもあるし、俺が過去を引きずっているのもあるだろう。

 

彼女を同じ目に遭わせたくない。 それは彼女の境遇からか、それとも俺の過去か。

何にせよエゴか。 だとして、何もしない選択はないけれど。

 

 

「カコ。 どれくらいの期間、一緒にいられるのかな?」

 

「決まりはない。 あんじゅの判断か、研究所や管理センターから指示があるまで」

 

 

ふむ。 結構、長い付き合いになるかも知れない。 その間は色々教えよう。 大変そうだが、充実した日々になりそうだな。

 

 

「じゃ、のんびり教えていこう」

 

「やったー!」

 

「それと、ニホンオオカミ」

 

「うん?」

 

 

喜んでいるから、それで良いかもだが。 いちおう、これは言っておこう。 自己満足になるけどさ。

 

 

「俺は群れるのは好きじゃない。 だから群れには入らない」

 

「えっ」

 

 

嗚呼。 ハイライトの無さと相まって漂う寂寥感。 でも続きがある、だからカコ。 責めるような目で見ないでくれ。

 

 

「でも、ニホンオオカミの友だちにはなれる。 それで良いかい?」

 

 

どうだ? アプリのカラカルとのやり取りからして、これでも大丈夫のはずだが。

 

不安の中、表情を伺っていると……期待通りの反応をしてくれた。

 

 

「うんっ!」

 

 

満面の笑みで。 ニホンオオカミは頷いてくれた。

 

ああ、良かった。 拒否られたらツライさんであった。

カコも一転、微笑みを向けてくれる。 良かった、嫌われなくて。

 

 

「あんじゅ。 それじゃ、ニホンオオカミの事……よろしくね」

 

「おう。 何かあったら連絡する」

 

 

こんなやり取りに安心したのか。 カコは微笑みながら俺に彼女を託し、職場へと戻る。

次に会うのはいつだろう。 その時には、ニホンオオカミは成長しているかな。

 

懐いてくるニホンオオカミの頭を撫でてみた。 目を細めて嬉しそうだ。

 

俺は、群れは苦手。 彼女が憧れるモノは俺には合わないと思う。

だけど、否定をしようとは思わない。 アレもまた、ひとつの輝きなのだから。

 

遠くから見て、羨ましく感じる時はあるけれど。 こうして友だちになれるなら、それで良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして。 俺とニホンオオカミの同居が始まったワケだが。

 

世間知らずで野生的な彼女や、同じ寮のヒトに遊ばれて苦労をしていくのは言うまでもない…………。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
ニホンオオカミ
ネコ目イヌ科イヌ属
ニホンオオカミは、19世紀までは東北地方から九州まで各地に分布していたらしい。
絶滅のおもな原因は、明治維新以降、狩猟用の銃が普及したことと、野生動物に対する日本人の意識変化などによる人為的圧力。 他にも病気によるもの等、諸説ある模様。
ニホンオオカミはオオカミ類のなかではもっとも小型のグループで、胴のわりには足や耳が短いのが特徴。 犬との違いは横顔で区別出来るらしい。 犬は頭から鼻にかけてくぼみがあるのに対して、ニホンオオカミはそれが平ら。
ユーラシア大陸に広く分布するタイリクオオカミの亜種とされるが独立した種とあつかう説もある。
現存標本も少なく、わが国には3頭の剥製標本があるだけ。 すでに絶滅してしまったニホンオオカミの生態についてもはや調べることはできない。

杏樹のメモ:
かつては畑を荒らすシカやイノシシを退治してくれる農耕の守り神だったとも。
アプリで「オオカミ」と「神サマ」の発音が一緒だとか、言っている描写があった気がするな。
それが……いや。 今はパークにいる この子が、笑顔で幸せに過ごせるようにしよう。 それが俺や職員に出来る事なのかも知れない。
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