パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文続き。

漫画版にあった雪山の話。


☆遭難だ!

空は暗く灰色で、辺り一面は冷たい傾斜に白ばかり。 先が見えない不安は身も心も冷えさせた。

追い討ちのように顔に打ち付ける無数の粒すら冷たい。 貴様の人生はこうだといわんばかりだ。

 

そう語るココは何処(どこ)と問われれば。 吹雪の中にある雪山であると答えておこう。

決して俺の心境を表したポエムではない。 現実に雪山の中にいる。

 

それでナニをしているか。 歩いている。 徒歩。 ウォーキング。

蹠行性(しょこうせい)からなる ある程度安定した立ち方から、片足ずつ接地(どこも雪だが)してのロコモーション。 安全な場所を求めてな。 或いは大切な友を捜すために。

 

いや。 この面倒な言い回しには誤魔化しが含まれるな。

 

正直に言おう。 遭難中であります、ハイ。

 

いやぁね? サーバルとカラカルがハイキングに行ったと聞いてね?

こりゃ漫画版の通りになるかと思って、防寒グッズや食糧をバックパックに詰め込んで雪山に出向いたのさ。

ニホンオオカミは置いてきた。 教育が不充分過ぎる。 雪山に連れて来たら「先走っちゃった」方がマシな展開になるに違いない。

初日からイキナリ寮の部屋に置くのも恐怖であるが、部屋を守るように指示しておいた。 「大人しくしていて」と言うよりは使命を与えた方が良いと思ってだ。

性格的に飽きが来て、冷蔵庫の中を漁られるとか押入れを漁られるとか外出されて行方不明になるかも知れないからね。 守るように言っておけば、多少は抑えられるだろう。

彼女の笑顔純度100パーセントな「分かった!」は、時々不安なのだがな。 番犬を信用しよう。 あ、狼か。

 

だが今は今に集中しなければ。 このままでは命が危ない。 手先が冷たく足が重くなって来たよ。

幼い頃は雪を見てはしゃいだものだが、大人になると様々な弊害となる。 寧ろ害にしかならぬ。 特にこういう時は。 ツライさんだよ。

全く……サーバル達を救うつもりが、俺が救って欲しい側になりかけている。 いや手遅れか。

 

 

「なんで、こんな事に」

 

 

虚しくなって、思わず天を仰いだ。

 

今更ながら後悔しかない。 予め雪山には行くなよとか注意喚起くらいは出来たのに。

そうじゃなくても、闇雲に雪山に突入するもんじゃなかった。 そもそも漫画版の通りにいくならば俺が何とかしなくても、ふたりは助かるのだ。

これも、俺が格好良いトコを見せたいとか評価されたいという欲を出した結果。 当然の報い。 笑って良いぞ。 寧ろ笑えよ。

 

 

「なんて、マヌケ」

 

 

恥ずかしい。 情けない。 現在進行形で時間と体力を消耗する今、余計に思う。

だがしかし。 このまま低体温症になるとか、最悪な事態である死を甘んじて受け入れる気はない。

 

 

「取り敢えず、寒さを凌ぐ方法かな」

 

 

アニメのようにカマクラを作って凌ぐ事も考える。

このまま当てもなく彷徨うくらいなら、その方が良い。 ヒトの叡智。 見る相手がいなくても良い。

いないといけないルールもない。 必要な事だからやるのだ。 そして楽しそうだから。

この困難もパークのひとつとして愛そう。 どんとこい。 思うようにいかない諸々を良いようにする。 それが多種多様な世界の、関わり方のひとつである。

そう見方を変えれば、結構希望は見えてくる。 結局は自分がどう思うかで希望か絶望かが決まるんだろう。

普段は奴隷労働社会を憎み日々をガッカリして過ごしてきた反動か。 こんな危険な状況下に生を見出すとは。 皮肉と形容するべきか?

 

 

「でも時間がかかる……うん?」

 

 

そんな時。 幸運にも目の前にポッカリと大穴が。 洞窟だ。

 

 

「なんという僥倖(ぎょうこう)…………ッ!」

 

 

それは、幸薄な状況に訪れた一筋の希望。 口を大きく開き、俺を飲み込む闇とは思わない。

何にせよ、寒さを凌げる。 ひょっとしたら、この奥にサーバル達が避難しているかも知れない。

 

 

「迷う必要が、どこにある」

 

 

取り敢えず中に入ろう。 寒いんで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、お客さんが来るなんて 久しぶりだよ」

 

 

かくして。 俺は洞窟に入り、とあるフレンズに出会った。

 

ケモ耳より枝分かれしたツノが印象的な他、服装はクリスマスを想起させる格好。 襟元の鈴や髪を結わえている赤と緑のリボン等が良く目立つ。

 

ここまで来れば、多くの者は答えられるだろう。 ソリを引く けもの、トナカイだ。

 

彼女の笑顔での対応も相まって、この状況にも希望が出てきた。 1人じゃない。 その事実が心に響く。 あ、涙出てきた。

 

 

「えぇ!? なんで泣くの!?」

 

 

いかん。 本当に涙が流れていた様子。 慌てて拭つつ、俺は答えた。

 

 

「会えて嬉しいなって」

 

「そうなんだ? 私も会えて嬉しいよ!」

 

 

引くことなく、ニコニコして言うトナカイ。 嗚呼。 その笑顔だけで救われた気がするよ。

漫画版を見る感じ、物理的に期待は出来ないけれど。

寧ろ寿命を縮ませるまである。 アイスやかき氷を喰わせようとするとか寒いギャグをかますとか。 麓までの道も知らない。 実は殺しにかかっているんじゃないかと疑ってしまう。 いや、それは考え過ぎだと思うが。

ただし。 意図せずともサーバルとカラカルは凍傷になりかけたり、死に掛けるのだが……はて。 彼女らは今、いないのだろうか。

 

 

「俺は杏樹ってんだ。 キミはトナカイだね?」

 

「私のコト、知ってるんだ!」

 

「名前だけ。 ところで、サーバルって子を見たかい? 探してるんだよ」

 

「サーバルは知り合いだけど。 いやぁ、見てないなぁ。 最後に会ったのは半年前だよ」

 

 

どうやらまだ会ってない様子。 これから来るのだろうか。

或いは俺の影響で違う場所に行ったか、雪山でも違う山とか。 だとしたら大丈夫だろうか。 不安だ。

 

 

「何かあった?」

 

「うん。 サーバルと親友のカラカルがハイキングに出かけたらしいんだけどさ。 サーバルの事だから、ロクな登山グッズも持たず遭難してるんじゃないかと思ってね」

 

「へぇ。 ()()()()だ!

 

 

トナカイのギャグが炸裂。 急に寒さが増した気がする。

ナニか。 彼女の技だろうか。 サンドスターは謎塗れだからね、可能性はある。

 

 

「…………まあ、この吹雪だ。 闇雲に探しても仕方ないな」

 

 

洞窟の外を見て思う。 冷たく白い無数の綿が流れ行く様が視界に映る。 何でかアッチの方が温かく見えた。

それだけトナカイのギャグが寒かったということか。 出て行くつもりはないけれど。

真面目に話すと、外の視界はマジで悪い。 先が全く見えない為に捜索は困難。 下手に出ない方が良い。

そも、俺は専門家じゃない。 素人だ。 現に俺も遭難している。 スマホを見たが電波もない。 バッテリー消費を抑える為にオフにしておく。 ここはジッとして耐えるのだ。

 

 

「そうそう。 吹雪が止むまでココにいなよー。 あっ、アイス食べる?」

 

「いらん!」

 

 

殺す気か。 トナカイ、恐ろしい子!

 

 

「かき氷もあるけど。 シロップは何が良い?」

 

「フザケンナ!?」

 

 

素でやっているのが恐ろしい。 これが寒冷地に生息する子との差だというのか。

 

けもの は、生息地に合わせた進化や生態をしている。 トナカイが雌雄共にツノがあるのも、その為とされる。 オスだと繁殖期の抗争に使われるが、雪を掘る為にメスにもあるんだそうだ。

 

アニメでも様々な特徴が出てきたな。 フェネックだと砂漠に住む狐、耳が大きいのは熱を逃がすのに役立つとか。

 

だがな。 その地域に合わせて進化したということは。 他の地域に行けば合わないという事でもある。

温暖な地域に住まう子は、寒冷地対応が苦手だとかが分かりやすい。 皆が皆じゃないだろうけど。

 

 

「暑い日にアイスやかき氷を食べる事はあるけれど。 こんな極寒の雪山で、ヒトは好んで食わん。 ましてや遭難しているなら」

 

「そうなんだ?」

 

「わざとか? わざとなんだな? 俺を氷漬けにしたいんだな?」

 

「違うよー。 あっ、雪の かけあいっこする? そっちの方が涼しいよ」

 

「ヤメテェ!?」

 

 

生息地の差。 その所為で命の危機になるのは勘弁だ。

 

だが偉大なご先祖様たちは道具や服、建築物の工夫を凝らして様々な顔を持つ地形に進出した。

その後も努力が続けられ、今日(こんにち)の文明へと繋がっている。 トナカイには片鱗を見せてやろう。 大したモノじゃないけど。

 

 

「ほれ。 コレやるから、雪をかけるのはやめて下さい」

 

「うん? 何これ」

 

 

荷物を降ろし、中から取り出したるは大きめの缶。 中身はカンパンだ。 保存や携行に優れた非常食の代表。

最近のは非常食でも美味しく食べられるようになっているが、このカンパンは喉が乾くイメージ通りのソレである。 だけど開けて直ぐに食べられるモノだ。 手も汚れない。

 

 

「カンパン。 ほんのり甘い」

 

 

そう言いつつ、開けて食べて見せた。 ボリボリと。

トナカイにもひと粒渡してみると手で持って素直に食べ始めた。 山暮らしが長そうに見えて、意外と文明的なのかも知れない。 アイスとか、かき氷を提供してくるくらいだし。

 

 

「うーん? 美味しいと思うけど、やっぱアイスの方が」

 

()()()コト言うね」

 

 

ツッコミを入れないと、アイスを食わされそうだよ。 命の危機だよ。

 

 

「あっ! トナカイ!」

 

 

そうこうしていたら、聞き覚えのある快活な声が。

振り返れば、なんと。

 

 

「サーバル! カラカル!」

 

 

サバンナなふたり組が、洞窟に入ってきた!

 

 

「あれ? あんじゅ もハイキング?」

 

「違うわい。 ふたりがハイキングに行ったと聞いて、心配して山入りしたんだ。 見事に遭難したんだけど」

 

「奇遇ね。 私たちも遭難したわ……サーバルが道を知っているとばかり」

 

「やっぱり」

 

 

ずーん。

 

出会えたのは嬉しいが、その置かれた状況にカラカルと共に落ち込む。

悲しいかな、漫画版の通りになってしまったようだ。

 

 

「トナカイ久しぶり! 1年ぶりかな」

 

「あはははっ。 やだなぁ、半年ぶりだよ!」

 

 

一方でサーバルとトナカイは元気だね……羨ましい。 交友の広さ含めて。

 

 

「かき氷とアイスクリームがあるよ! どっちが良い?」

 

「アイスクリーム!」

 

「ああもう、最悪じゃない……絶対助かりっこないわ」

 

 

元気なサーバル、沈むカラカル。 なんだこの落差。 親友ならば、もうちょい互いをだな……。

 

 

「まあまあ、アイスでも食べて落ち着きなよ」

 

 

凍死という意味でか? トナカイ、恐ろしい子!

 

 

「いちご味おいし〜」

 

「おいおい」

 

 

サーバル、順応してんじゃねえ。

 

 

「低体温症になっても知らないわよ」

 

 

カラカルの言う通りである。 危険行為はやめなされ。

いやはや、あかんな。 サーバルの身体がブルブル震え始めた。 漫画版の通りと化しているんですがそれは。

 

 

はう? 今になって寒くなってきた」

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

 

やはり来て正解だったかも知れん。 共に遭難したコトに変わりないがな。

 

 

「寒さに打ち勝つ方法なら知ってるぞ。 気持ち次第で吹き飛ぶんだ」

 

「悪いがトナカイ、それはNGで頼む」

 

 

根性論とかムリィ。 俺、そういうの嫌いなのよ。 パーク・レンジャーな件があるので。

 

 

「温かいジャパまんとかないの? カラカル〜」

 

「あんたが忘れてきたんでしょうが」

 

「よし! 私がホットな話をして暖かく」

 

「吹雪が強まりそうなんでNGで」

 

 

トナカイが、またも精神論的なのをやろうとしたので止めておく。 それと、彼女が口を開くと寧ろ寒さが増す気がしてならぬ。

 

 

「贅沢なやつらだな。 なんだったら暖かくなるのさ」

 

「物理的に暖かくなりたいんだよ」

 

 

マジ顔で言ってきやがるトナカイ。 悪い子じゃないんだろうけどね。 その、性格の違いがね。

 

 

「暖をとれるもの……ぬいぐるみなら、あった」

 

 

サーバルのリュックからペンギンの大きなぬいぐるみが。 漫画版でもそうだったが、こうして見ると可愛い。 でもあまり役に立たないかも。

 

 

「サーバル、何故そんなものを持ってきた」

 

「ほら、抱きしめればグッスリと」

 

「グッスリ寝ている場合じゃないでしょ!」

 

 

俺もカラカルも、ツッコミで疲れる。 彼女の普段の苦労は どんなものなのだろうか……考えないようにしよう。

 

 

「ああ私……もうダメかも。 このまま死んじゃうかも」

 

「あ〜私もダメかも」

 

 

ここで俺の荷物について、誰も見向かないのはツッコんで良いんですかね。 なんだか悲しくなってきたよ。

仕方ない。 コチラからアプローチしよう。

 

 

「早まるな。 毛布を持ってきたから、これに包まるが良い」

 

「「おおっ」」

 

 

そう言って、バックパックから取り出したるは「」の字が大きく描かれた毛布。

そんなに大型ではないが、包まれる大きさはある。 それをふたりに渡してやった。

 

 

「ああ……暖かい」

 

「ありがとう、あんじゅ。 助かったわ」

 

「まだ助かったワケじゃないけどな。 ジャパまんみたいに 美味しくはないだろうけど、カンパンも食べる?」

 

「ゴメンなさい、いただくわ」

 

「あんじゅ、色々用意してるんだね」

 

「サーバル……お前が用意しなさ過ぎなんだよ」

 

「ひどいよー」

 

 

全く。 一時はどうなるかと思ったが、この調子なら平気そうだな。

 

 

「おー、雪が止んだみたいだぞ」

 

「ほんと?」

 

 

とてとてと、皆して表に出る。 確かに雪は止み、雲の亀裂から僅かながら淡い光が漏れ出している。

ここまで来れば、もう大丈夫かな。

 

 

「よし! ソリで麓まで滑っていこう」

 

「大丈夫なんでしょうね」

 

 

トナカイといえばソリ。 そんな感じに洞窟の奥から、小さなソリを引っ張り出してきたトナカイ。

なんというか、子どもの遊具に手が生えたような……サンタが乗るような立派なモノではない。

 

だが、乗った方が早く麓につくだろう。 カラカルもサーバルもソレを知ってか、トナカイを先頭に乗り込んでいく。

 

 

「よし行くぞ。 しっかり掴まってなよ」

 

「小さいわね」

 

 

いやはや。 見ていて微笑ましいね。

 

 

「しゅっぱーつ!」

 

「うわー!? め、めちゃくちゃ はやい じゃないの!」

 

「いいぞいいぞ! サンタクロースに なった気分だよ!」

 

 

ガーッと。

 

凄い勢いで下山していく御三方。 漫画版の通りだ。 もう大丈夫だろうと、俺は後姿を見送った。

 

 

「さて……俺は?」

 

 

雪山に取り残されたは、俺ひとり。

ビューと風が吹く。 寒い。

 

白き世界に取り残された、ひとりの男。

 

ボッチはさ……やっぱ寂しいね。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
トナカイ
鯨偶蹄目シカ科シカ属
シカ科で唯一、雌雄共に角がある。 角の用途が繁殖期におけるオスの抗争だけでなく、雪を掘ってエサを得る役割もあるためらしい。
寒冷な環境から身を守るぶ厚い体毛をもつとのこと。 毛の内部に空洞があり保温性に優れるそう。
蹄は大きく接地面が大きいため体重が分散され、雪の上でも沈むことなく歩くことに適応しているんだって。

杏樹のメモ:
歌であるように鼻が真っ赤というワケじゃなく、光るワケじゃない。 だけどフレンズの彼女の格好は、クリスマスの印象が強い。
漫画版の彼女は雪山暮らしが長いようだが、冷たいものを食わそうとしてきたのは……コレが適応の差? いや、性格の差か?
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