パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 評価者の方々、ありがとうございます!
残業続き等のリアルがツライさん……。

漫画版であったケーキ屋の話辺り。 マーゲイに出会います。


☆キタキツネとケーキ屋へ。

何やかんやで、クリスマスシーズン到来である。 最近は寒くなってきたなと思っていたが、いつの間に12月であったか。

光陰矢の如し。 いや、労働社会にいて季節に気がつかなかったとか? だとしたら泣けて来るんだけど。

 

サンドスターの影響で気候や地形が異なる地方があるジャパリパークにも、一応の四季がある。 俺が住んでいる都市部周辺とか特に。

漫画版でも、季節を感じさせる描写があったりする。 菜々はマフラーを巻いていたり。 そのくせ、半ズボンなのは置いておこう。

 

閑話休題。

 

カップルが観光地や都市部に大量発生する時期。 同時にいない者にとっては苦痛な時期だ。 それはパークでも変わらない。

メリークルシミマス。 ネットでは互いの傷口を舐め合い、リア充を共に叩いて笑い合い、二次キャラの画像や写真を前にして豪華そうな食事を並べてエンジョイしたりする。

それもまた、ひとつの過ごし方。 俺も似た過ごし方をしていた身としては、アリだと言っておこう。

たっのしーならば良い。 それは重要にして救い。 そして生きてるって証拠だよ(大袈裟)。

 

 

「だが今日の俺は違う!」

 

 

部屋は飾り付け、パーティ用の三角帽を被り、テーブルには大きなケーキ。

他にもピザと、最近開発されたのか、ジャパまんという まんじゅう も用意した。 久し振りに豪華な食事の風景である。

来客? 恋人? ちゃうちゃう。 同居しているニホンオオカミとクリスマスを祝うのさ!

 

ふっふっふー。 リア充ならぬリア獣。 群れてヒャッホーウするのは嫌いだが、これくらいなら許せるぞおい。

何よりフレンズは気兼ねなく接する事が出来るからね。 ヒト同士のギスギスを考えなくて済むのが良い。

フレンズ最高。 パーク万歳。 恋人とは違うが、たっのしークリスマスとなるなら、素晴らしいパートナー。

マヨの悪夢とその後のパリピ連中との事故処理は……忘れよう。 ニホンオオカミも、言い付けをある程度守れるようになってきたし、都市部に出ても問題ない。

買い物だって出来ちゃう。 か し こ い。

 

さて。後は……ニホンオオカミが、買い物から帰ってくるのを待つばかり。

来たらクラッカー鳴らそう。 よし、スタンバイスタンバイ……。

 

 

「ただいまー!」

 

 

扉が開いた! 今や!

 

 

「おかえりぃ!」

 

 

パーン!

 

音がなり、紙吹雪が巻き起こる。

決まった。 祝いはここからだ!

 

 

「うわぁ!」

 

「いやぁ待ってたよぉ! 買い物お疲れねえ! 色々用意したからぁ、荷物傍に置いてねぇ!」

 

 

アルパカ風に、でもハイテンションに。 ニホンオオカミが喜びそうな感じで、案内を促す。

ふっ。 彼女なら大喜びしてくれる。 そんな満開の笑顔を期待していると、

 

 

「隣のパーティに呼ばれたんだ! あんじゅ も行こうよ! みんなでやると楽しいよ!」

 

 

そう言って。 買い物袋を玄関に置き、踵を返してしまった。 彼女の姿は一瞬だった。 なんと儚いことか。

 

 

「……………………ふ、ふふ。 群れるのが好きな けもの にはパリピ連中がお似合いだ」

 

 

今年もボッチ。 そんな歴史は断じて許し難い。

だがパリピ連中の輪に入るのは嫌だ。 プライドと生理的悪感により断固として拒否する。

 

 

「落ち着け。 他にも友はいるんだから」

 

 

こんな時は電話だ。 文明の利器を使えば良いのだ。

俺は電話帳から馴染みのカコの名を選び、コールボタンを押した。

数秒のコール音。

 

 

『お掛けになった電話番号は、ただいま電波の届かない───』

 

「クッ! 研究中か…………ッ!」

 

 

だが現実は俺に冷たかった。

カコと連絡がつかないのは、別段珍しくない。 研究に忙しいと電話に出られないのだ。

でも、これくらいでヘコたれない。 現実とは常にどうにもならないのだから。

 

 

「他で良い!」

 

 

馴染みが駄目だから、他の女とクリスマスを過ごそうというクズ思考に。 もう必死。

だってしょうがないじゃないか。 クリボッチは嫌なんだもん。 料理も冷める。 パリピ連中の所は嫌だ。

そうして別の番号へ電話を掛け始めた。

───ミライ、菜々、小動物。 レンジャーは……面倒なんで掛けなかったが。

ところが、こんな時に限って皆が音信不通。 誰とも連絡が取れなかった。

仕事か。 それともパリピに誘われて一緒にヒャッハーしているのか。

なんにせよ、望みの相手は出てくれなかった。

 

 

「フヒッ」

 

 

その現実に、俺の中でナニかが折れる音が聞こえた。 同時にキモい笑いが部屋に響く。

どうやら今年もボッチらしい。 知り合いのアニマルガールを呼ぶにも、彼女らは携帯を持っていない。 直接ナワバリに行く方法があるが、不確実だ。

こうなると、もうダメだった。 自分の人生が無価値に思えてくる。 何をやってもダメな気がしてきた。

何が転生者か。 何がパーク職員だ。 今年も前世同様にクリボッチじゃないか。

こんな汚く下衆な俺だ。 プライベートで付き合ってくれる子なんて、いやしないんだ。

思えばサーバルから誘いの連絡がない。 忘れられている可能性があるが、やはりどうしてか見捨てられている気がしてくる。

穢れなき島だ、フレンドリーだと勝手に憧れて上陸して……そんな俺は穢れている。 だから世界が変わっても孤独が襲って来るのだ。 何の冗談か。 質の悪い笑い話である。

 

 

「はっ、はは、ハハッ」

 

 

どうせ俺なんか、誰にも愛されないんだ。 また今世でも仕事上の愛想笑いや偽物に騙されていたんだ。 お情けで付き合ってくれたに過ぎない。 パークなら大丈夫だと思い上がった俺は馬鹿だったよ。 ヘヘッ。

と、三角コーンを被った男が、茫然自失となり白目を剥いていると。

バタンッ、と勢い良く玄関のドアが開く音が。

 

 

「ッ!」

 

 

ニホンオオカミが帰ってきたのか。 俺を心配して戻ってきたのか!

そんな期待と共に、振り返れば。 いたのは金髪の狐娘であった。 イヌ科という意味では同じだが。

 

 

「キタキツネ……ッ!」

 

「お邪魔するわよ」

 

 

それはワガママガール、キタキツネ。

最近は言う事を少し聞くようになり、ちょっぴり良い子な女の子。

だが今や株が急上昇。 聖母か何かにすら見えるほど。 いよいよ後光が差して見える。 それが例え共用廊下からの明かりだとしても、俺にはそう見えた。

俺はソレを、口元を手で覆い、信じられないといった表情で見るしかなかった。

タイミングに感涙した。 あまりの救世主っぷりに。

キタキツネが来た事情は知らぬ。 だけど多くは望まない。 共に過ごしてくれるなら。

ところが。 放たれた言葉は予想以上のものであった。

 

 

「あんじゅ! 私の恋人になってよ」

 

「ファッ!?」

 

 

あまりに突然の言葉。 面食らうのは無理もない。 だけどクリスマスを共に過ごしてくれるなら、「イエス!」と軽く言いそうになったのは内緒だ。

だがフレンズに、それもキタキツネに惚れた腫れたの話が分かるのか?

そう考えたら、不思議と平常心に。 熱が冷めた。 ネガティブも消え中和されてしまう。 感謝はしないけれども。

 

 

「ああ……ケーキか」

 

 

して、当たりをつける。 こりゃ漫画版にあった話関連だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都市部にあるケーキ屋さん。 リカオンが店員をやっている所だ。

俺が通報されたのもあって、行き辛いのだが……キタキツネに引っ張られて渋々行く事にした。

それと余談だが。 前に教えてもらったリカオンの連絡先、アレはケーキ屋の固定電話に繋がる。 個人ではない。 前にやらかして、ツライさんである。

 

 

「恋人同伴でケーキがひとつ貰えるのよ!」

 

 

そう言って、キタキツネは目を輝かせながらチラシを見せてくる。 クリスマスツリーの絵が描かれた紙には、確かにその旨が書いてあった。

漫画版の通り。 この事から、彼女も文字が読める。 か し こ い。 問題なのは恋人の意味を理解していない事だ。

 

 

「恋人の意味分かってないだろ」

 

「ケーキ券の代わりじゃなくて?」

 

「違う」

 

 

都市部の歩道を歩きながら間違いを言う。

やはり理解していないのも同じか。 欲に忠実というかフレンズらしいというか。

 

 

「まさかと思うが、菜々や他のフレンズを巻き込んでないだろうね?」

 

「してないわよ」

 

「そ、そうか。 なら良し」

 

 

あれ。 漫画版の通りなら、ジャイアントパンダとかタイリクオオカミとかコアラとか巻き込んでケーキを貰おうとしていたんだけどなぁ。

俺の影響か。 悪くはないけど。 寧ろ良いんだけど。

 

 

「ところで、あんじゅ」

 

「うん?」

 

「恋人って なに?」

 

 

さて。 なんでしょうね。 勝ち組かな。 結構だ、だからって格好付けて他人を巻き込むのはやめて欲しい。

学生時代の《アレ》とか弱そうな通行人を捕まえて女の前でボコボコにしてみるとか。

そんな事してない自称善良なカップルでも、俺ら彼女ナシが見たら僻むんだけど。

 

 

「菜々に教えてもらいなさい」

 

「なんでよ」

 

「俺より上手く答えられるだろ」

 

 

漫画版の通りなら、想い合っている者同士がなるもの……だっけ?

聞いたキタキツネは、じゃあ肉まんと私は恋人になれるのかと聞いていたかな。 肉まんの気持ちが分かるのかな。

さておき、説明とは難しいよね。

 

 

「ところで、菜々はどうしたの」

 

「寮にいなかったの。 仕方ないから、あんじゅの所に来たのよ」

 

「仕方ないのか、俺は」

 

 

ツッコミつつ、疑問に思う。

はて。 外の掃除でもしているものかと思っていたが。 俺の知らない展開が続く気がするな。 今更だけど。

菜々が熱を出した回でもあるから、具合が悪くて休んでいるのかも知れない。 部屋にいなかったなら病院とか行っているのかね。

だとしたら、連絡がつかなかったのも頷ける。 悪い事をした。

 

 

「後でまた、連絡するか」

 

「あっ。 ココがケーキ屋」

 

 

そんな俺や菜々の心配を他所に、キタキツネはケーキ屋へとズカズカと入店。 迷いがない。 俺も仕方なく背中に隠れるように入店する。

はぁ……キタキツネの欲への忠実っぷりは羨ましい。 そのスキル、俺にもくれ。

そしてオオカミに変身してマチガイを起こす。 起こしちゃうのかよ。

 

 

「いらっしゃいませ……あれ、あんじゅさん?」

 

「や、やあ」

 

 

ボーイッシュだけど丸耳がキュートな、リカオンに再会。 向こうは俺の事を覚えている。 なんか気不味い。 フレンズが覚えてくれているという感動が起きない。 ツライさん。

 

 

「ケーキ貰いに来たわ」

 

「カップルね。 あんじゅさん、また変な事を?」

 

「俺、そんな悪いヤツに見えるかな?」

 

 

いや、悪いヤツなんだけどさ。 またってナニか。 俺って人相悪いのかな。 地味にショック。

 

 

「そんなの、どうでも良いからケーキちょうだいよ」

 

 

キタキツネの どうでも良い発言も結構キますね。 いやぁキツいっす。

 

 

「まあ待って。 限定ケーキには条件があるんです。 マーゲイ、カップルだよ」

 

 

無視されてないかな俺。 やっぱ嫌われているのかも知れない。

この場にいるとツライんで帰って良いですかね。 料理片付けなきゃだし。 マーゲイには会いたいけど。

すると、そんな願望を叶えてくれるかのように、店の奥からメガネを掛けたフレンズが。 マーゲイだ。

アニメと同じ服装だ。 何となくサーバル似、独特の黒の流線が混ざる。 けも耳も可愛いが、ひょろりとスカート下から伸びるネコ尻尾が可愛い。

 

アニメではPPP(ペパプ)のファンで、マネージャーになるフレンズだが(漫画版では、なんとPPPの名が出てくる、PIPではない、俺もこの世界でチラリと見聞きはした)。

第1世代のマーゲイは、リカオンと一緒にケーキ屋の店員をやっている。 性格も異なりクールビューティな感じ。

俺が初めてケーキ屋に来た時、会いたかったフレンズだ。 その時は生憎と非番で会えなかったが……挙句に通報されたが、とうとう会えた。

ありがとうジャパリパーク。 ありがとう第1世代。

だからさ、もう帰って良いかな?

 

 

「いらっしゃい」

 

 

ポッと頰染め、そう言う彼女。 ナニを思ったんですかね。 菜々の時はナイスカップルと思っていたようだけど。

俺は、マーゲイの目にどう映ったのか。 元気でツンツンな狐娘に振り回される悪人かな、やっぱ悪いヒトなんだね。

 

 

「ケーキなら好きなだけあげるわ」

 

「本当?」

 

「その代わり」

 

 

マーゲイは一拍おいて、

 

 

「あなた たちの愛を見せていただきます」

 

 

聞いていると恥ずかしいよマーゲイさん。 愛とか、俺には重いし。

それとキタキツネは、俺の事をケーキ券だと思っているぽいんですがね。 それって愛なんですかね。

 

 

「───パフォーマンス次第で お店のケーキすべて差し上げますよ♪」

 

「おおお、イエスイエス」

 

 

リカオンが明るく言い、キタキツネのやる気を上げる。 俺は やる気ないんですがね。

ほら、その、恥ずかしいし。 帰ろうかと(きびす)を返そうとした刹那、

 

 

「あんじゅ!」

 

 

ガバッと視界にキタキツネのドアップ。 可愛い顔とて突然だとビビる。

そしてピョンと抱き着いてきて、

 

 

「アイラブユーあんじゅ!」

 

「ぎゃあああああ!?」

 

 

メリメリメリッ。

 

思いっきり抱きしめられた。 苦しく痛い。 こんなのハグじゃない、ただの絞め殺しよ!?

フレンズの握力ってホント恐ろしい。 こんなスマートな身体のどこに、こんなパワーがあるのだろう。 柔らかな感触を味わう余裕がない。

愛があるなら大丈夫かって? 俺に対してというより、ケーキじゃないかな。 俺に限れば苦しく痛いだけ。 嬉しくない。

 

 

「どう!?」

 

「うーん。 イマイチ萌えない」

 

ギ、ギブ……ぐるじいっ

 

「おい、恋人。 大丈夫?」

 

 

大丈夫じゃ、ないです。 だからキタキツネの腰をポンポン叩いてるんです。

レフリーは いないんスか。 マーゲイ助けて。 リカオンも助けて。 シヌゥ。

 

 

「あんじゅ、何とかしなさいよ」

 

 

そう言って、やっと離してくれた。 腰に手をやったまま、見つめてくる格好だけど。

息を整えるのに忙しく、ドキッとくる余裕がない。 彼女の目には俺は男じゃなくてケーキ券であるし。 そう思うと虚しい。 がっくり。

 

 

「そうは、いってもな」

 

 

息を整えながら悩んだ。

漫画版なら菜々が風邪でグッタリするところだ。 そして店の中に入れられて寝かされる。

病気イコール死ぬの思考であるキタキツネは、とても心配して添い寝。

それを見たマーゲイが萌えて、菜々が回復したトコでリカオンと共にお祝い。 ケーキをプレゼント。

でもなぁ。 野郎で嫌われている俺がやってもなぁ。 現状、具合悪くない。 仮病というか嘘は嫌だ。 騙すのは気がひける。 添い寝も抵抗がある。

決してヘタレじゃないもん。 騙したくない気分なんだもん。 失敗の可能性もあるもん。

 

 

「残念だけど、ケーキはあげられないかな」

 

「そうだな」

 

「えー!」

 

 

そんなー、と声を上げるキタキツネ。 漫画版の通りにならなくても仕方ないね。

別にこんくらいでパークの平和が乱れるとは思えない。 些細な日常のヒトコマだ。

 

 

「帰ろう、キタキツネ。 帰ればまた、来られるから」

 

 

キャンペーンは終われど、撤退すれば俺みたいに黒歴史は出来まい。 これ以上いると危険だ。 傷口は浅い内が良い。

苦労や恥の見返りをココで求めてはならない。 引くのも勇気だよ。

 

 

「やだー! ケーキ欲しい欲しい欲しい!」

 

 

うわーんと駄々を捏ねても駄目だ。 店員を見てみろ。 マーゲイは冷たい表情。 リカオンは苦笑。 ここからの起死回生劇は無理じゃないかな。

 

 

「じゃあ、俺も適当にやる。 それで駄目ならソコまでだ。 良いね?」

 

「うぅ……分かったわ」

 

 

諦めて貰えるよう、そう提案。 キタキツネは頷いた。 マーゲイもリカオンも「どうぞ」という具合。

仕方ない。 やるか。 漫画やアニメ、ゲーム等の知識からソレっぽいコトをしよう。 現実に通用はしないソレらを。

恥ずかしいが、それで諦めてくれるだろう。

 

 

「キタキツネ」

 

 

そう言って、顎に手を添える。 そうして少しくいっと上に持ち上げて俺と見つめさせる。

 

 

「えっ」

 

 

声を上げられるも構わない。 そのまま そっと、ヒトの方の耳元で吐息を掛けながら愛を囁いてみた。

 

 

「俺、パークに来て……キタキツネに会えて良かった」

 

「えっ、えっ」

 

「ワガママだけど根は良い子で、都市部のコトも色々学んで、最近は何だかんだ言う事を聞いてくれて。 今日なんて、部屋に来てくれてとても嬉しかった。 独り寂しかったんだ。 キミは俺の天使だよ」

 

「あ、あんじゅ? ホントにあんじゅなの?」

 

「狐耳が可愛い。 尻尾も可愛い。 笑顔が可愛い。 キミの全てが愛おしいんだ。 だから、これからも一緒にいて欲しい。 愛してる」

 

「っ〜!」

 

 

ここまで言って、そっと離れた。 キタキツネの顔を見ると……赤い。 怒っているのだろうか。 一方で俺はスゴい恥ずかしい。 凄まじく。 側から見たらキモさを追求した生ゴミなナニか。 黒歴史不可避だよ。

 

 

「…………ふむ。 愛を見させて貰ったよ」

 

「あんじゅさん。 そうやって、他の方も……?」

 

 

マーゲイはメガネをキラーンと輝かせて。 リカオンはジト目で反応。

ナニか。 良くも悪くもこれ以上はやらないよ。 こんなのキモいやん。

 

 

「約束通り、ケーキプレゼントだ」

 

 

えっ嘘。 マーゲイがホールケーキを寄越してきたよ。 美味そう……じゃなくて。 今のどの辺に感動したの。 キモさ辺り?

 

 

「あー、うん。 ありがとう。 良かったなキタキツネ……キタキツネ?」

 

 

赤いまま棒立ちするキタキツネ。 欲しがっていたケーキを前にして微動だにしない。 らしくないな。 大丈夫かい?

 

 

「キタキツネ、ケーキいらんの?」

 

「はっ!? いるに決まってるわ!」

 

 

慌ててケーキを受け取る。 俺は頷いた。 そうだ。 それで良い。 ヒトの犠牲を無駄にしてはならない。

これで逃げたらケーキは俺のものだ。 そして独り寂しく食べるまである。

 

 

「マーゲイ、リカオン。 世話になりました」

 

「いや、何もしていないが。 またな」

 

「また来てね」

 

 

手を振って店を後にする。 ケーキをくれたコトよりも また来てね、と笑顔で言われたのが嬉しかった。 拒絶されていなくて良かったと思う。

 

 

「みんなに、分けてあげるんだよ」

 

「分けたら取り分減るじゃないの」

 

「そんなコト言わない」

 

「えー!」

 

 

キタキツネと会話しながら、都市部を歩く。 外は暗く、雪が降ってきたトコだった。

街灯に照らされた綿がふわり、ふわりと舞い落ちる。

それらは冷たいのに、不思議と心が温かい。 なんでだろう。 キタキツネと一緒だからか。

 

 

「そうだ。 菜々に連絡しなきゃ」

 

 

思い出して、携帯を取り出す。 未だに彼女たちから返答がないのは悲しいが、取り敢えず菜々だ。

 

 

「どうしたの?」

 

「菜々に電話するんだよ。 心配だから」

 

 

コールして、呼び出す。 数秒のコール音の後。

 

 

『お掛けになった電話番号は───』

 

「よし。 帰ろう」

 

 

爽やかな笑顔で携帯を閉じた。 それ以上考えるを止めた。 温かい気持ちが氷点下まで下がるのは避けたい。 俺の頭がジャッジを下した結果だった。

 

 

「大丈夫?」

 

「キタキツネ……今はキミだけだよ。 俺を慰めてくれるのは」

 

「えっええと……?」

 

 

ふっと雪降る夜空を見上げつつ笑う。 現実とはどうにもならない。 だが悲劇とは時間が経てば癒えてくるもの。

この悲劇も、その内に笑い話になる。 ニホンオオカミのマヨネーズ事件がそうだ。 1年と経たずに立ち直れた俺だ。

明日にでもなればケロッとしているさ。 でなきゃ鬱だ。 今世でも鬱とか嫌過ぎるだろ。

 

 

「今日さ」

 

 

だから、そうならぬよう。 過去や未来に関係なく、今日は楽しく終われるように……俺は口を開く。

 

 

「ウチ、寄ってかない?」

 

 

そう言うと。 並列して歩く狐娘は、微笑んで頷いた。

 

 

ありがとう。

 

 

心の中でそう言った。 口に出せば、目にあるダムが決壊しそうだったから。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
マーゲイ
ネコ目ネコ科オセロット属
オセロットによく似ているけど、マーゲイのほうが頭がやや小さく、目が大きく、尻尾と脚が長く尻尾の模様も違うみたい。
後足を回して反転させられるので、頭から木を駆け下りることができるそう。
獲物となる動物の一種を引き寄せるため、その鳴き声をまねすることが報告されているんだって。

杏樹のメモ:
フレンズの姿は、メガネを掛けて知性が高そうな印象を受ける。 アニメではPPPのファンであり、マネージャーにもなった。
漫画版のマーゲイはリカオンとケーキ屋の店員をやっていた。 こちらはクールな性格に感じる一方、百合疑惑というか、カップル好きなのかなと思わすトコがある。

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