残業の日々はツライさん。
年明け。 そしてバンドウイルカと ちょっぴり出会います。
前世でもパーク職員でも。 職場で「もうダメ、シヌゥ」と聞いた記憶がある。
疲労困憊な仕事の日々。 会社や お上にこき使われてきた。 愚痴っても罪じゃない。 陳腐な事だが俺は思う。
ところが、別のベクトルで「シヌゥ」な目に合うと、奴隷労働社会に生きるのと どっちが賢いのかと考えてしまった。
今もあの日を思うと、震えが止まらない。
あれは、そう……大晦日より何日か前。 とても天気が悪い日だった。 雨なんてレベルじゃない、ヒドイ
さながらそれは、セルリアンに輝きを奪われる方が尚もマシかも知れないもの。 稲光が轟音を携えて地上を焼き払わんと猛威を振るうが如し。 パークは枯れ果て、ヒトだけでなく けもの や フレンズたちさえも恐怖に慄いた。
そう。 名を口にするのも憚られる恐怖の女王、イタリアオオカミが来襲したのだ!
恐ろしい災いだった。 とてもとても、恐ろしい災いだ。
あの日……ホラーに片足どころか全身浸かり切ったケダモノが俺を狙い、俺の心に未曾有の傷跡を残した日。
俺は精一杯、生き足掻こうと逃げに逃げた。 悪夢に捉えられたら最期、俺の清い心と身体はセルリウムやサンドスター・ロウ的に、真っ黒に染め上げられてしまうに違いないから。
背後から刻一刻と迫るヤツの魔の手から逃れるべく、タイリクオオカミの部屋を脱兎の如く飛び出した。
そこから先は必死過ぎて、どこをどう走ったのか覚えていない。 ただ唯一、ハッキリしているのは、どういう訳かケダモノとの追いかけっこに奇跡的にも勝利したということだけ。
恐怖に泣き叫び、疲労困憊の身体を引きずって……ふと前を見た時。 海の向こう、地平線の彼方より光の洪水が起きた。
涙ではない。 それは朝日が昇る瞬間───確かに。 俺は生の実感を得、感謝した。 安堵。 圧倒的、安堵。 自然の光がこうも有り難いと思った日はない。 まるで聖なる光。 俺を包み、癒してくれる聖母の輝き。
落ち着いてきたからか、今の時間を確認すれば……バッテリーが切れ掛かったスマホの時計では1月1日……正月。 俺が見たのは初日の出という事。
嗚呼。 俺は数日もの間、逃げ続けたのか。
かつてここまで、生きていて良かったと思えた日はあっただろうか。 ここまで年明けに感謝した日があっただろうか。
否。 ヒトの社会にほとほと疲れ、年が明けても何も明けないネガティブ思考の俺が、ここまでの思考に180度変わったのは……俺を知っているヒトが見たら驚きのあまり気絶するかも知れない。
それほどまでに、今の俺はこれ以上にない陽の輝きを浴びて笑顔を浮かべたのだ。 まともに飲まず食わず、だけど自分の力で、この瞬間まで生き延びた。
感に堪え切れず、俺は嗚咽を漏らしながら朝日に万歳。
そして、そんな状況だから断言出来る事がある。
「生きるって、素晴らしい」
生きていて良かったと思うワケ。
海と空の境界。 パークの向こう。 そこから射し込む爽やかな陽光に目を細めながら、俺は噛みしめるように呟いた。
「ここ……どこだろう」
漣の音で落ち着いてきた俺は、周りを見渡す。 目の前が海なので海岸線辺りだろうけど、辺りはそんなに大きな建物や人影もない。
小さな埠頭があるだけである。
「観光地じゃないよな」
少なくとも都市部から離れた何処かだ。 あのビッチが来るように感じないが、安全とは言えない。
しかしだ。 あの痴女ソノモノな格好で彷徨うものなら、フレンズとはいえ捕縛されてしまう。 或いはそうかも知れない。 サンドスターやプラズムの回復で直る可能性もあるが、短時間で超回復するとは思えない。
「管理センターに連絡……しよう」
枯れた声でブツブツ言いながら、スマホの電話帳を開いて再度掛け直す。 しかしダメだった。 そういうものだと受け入れる。 期待すると落ち込むから。
仕方ない。 代わりにショートメッセージで生存報告をするのと「あけおめ」とオマケで送信しておこう。
そうだ。 他のヒトにも同じ文面をば。 連続て操作し、送れる相手には送った。 本土の親やカコの両親にも送っておく。
まだヒトとの繋がりが切れていないと思えば、心の内でコンコンと温かなモノが湧いてくる。 心地良い。 返信がないのにそう感じるから、それは自己満足である。
「───疲れたな」
疲労困憊。 携帯を仕舞うと同時に妙な安心から緊張の糸が切れて……その場で寝転がった。
汚れるとか文明的かなんて考えない。 そこまで頭が回らない。 ヒトはやはり、ヤバい時は本能に従いたくなるものなのだ。
ごろん。
嗚呼。 固い土……冷たく気持ち良い。 もう少し脇に逸れれば砂浜だけど、ココで良い。
視界は海から空へ。 決して同じではない無限は光の洪水により、どんどんと白みから青へと輝く。 夜空の小さな光は、役割を終えたと強い光に流されていく。
パークのみならず、全世界共通の自然の満ち引きも、心境と余裕次第で尊くなるんだなぁ。
こう、空をゆっくりと眺めるのも随分と久しい。 働いていると明るいか暗いか、天気はどうかと利益不利益を気にするだけだった。
ボーっとする自然観察。 ヒトの世界を一時的に切り捨てる。 この星に生きる生命も含めて、ふと立ち止まり眺めれば美しい。 恵みを齎し、時として残酷であるも尊く儚い。
イタリアオオカミもまた、そうだと思える日が来る。 過去のモノになれば美化出来る。 そういえば おっぱい は美乳であった。
「隊長、無事だと良いけど」
目を閉じて、今回の犠牲者を思う。 かのマッチョマンなレンジャーを。
ショートメッセージの中に無事を問う言葉を添えたが、大丈夫だろうか。
「む、り……おやすみ」
俺はその答えを知る前に、意識は闇へと落ちていく。 眠気にとうとう勝てない。 限界だった。
最後に聴こえたのは、漣の音。 そして誰かが歩いてくる音。 疑問や警戒心は闇に沈み浮上しない。 そのまま俺は、僅かな感覚をも闇へと葬った。
ヒトや自然について想いながら、外で寝てしまったが、自然や けもの で言えば、寝るというのは危険行為。 最も無防備な状態だからだ。
その為、けもの は木の上で寝たり、穴の中で寝たり、或いは半分は寝て半分は起きていたり、あまり寝ない、立ったまま寝る等をするそうな。
ヒトは……かつてのご先祖様は火を起こして交代で見張り、オオカミを飼い慣らしたとされる、今でいうイエイヌを番犬としていたのだろう。
そして危険が迫れば共に仲間に知らせ、追い払ったり立ち向かったり。 或いは逃げたりもしたのかな。
だが今の俺は1匹狼ならぬ1匹羊。 カモともいう。 そして寝てるとくれば「食べて下さい」と言っているようなもの。
ヒトの世界が色濃い第1世代のジャパリパーク本島とはいえ、セルリアンや 普通の けもの が跋扈しているエリアもある。 安全かも分からないのに、見通しの良い場所で堂々と寝る。 畢竟、世界を侮っているといえよう。
だから、俺が かのオオカミに食われても仕方なく……セルリアンに襲われて意識不明になっても文句は言えなかった。
「……どこ?」
だから、何者かに別の場所へ運ばれたこの状態にも文句は言えない。 いや。 前者と比べれば遥かにマシか。 生きて再び起きれたのだから。
背から伝わる硬さと陽光の眩しさで目を覚ませば、お天道様が天辺に昇っている。 世界は青く輝いていた。 潮風が寒い。
起き上がりつつ、スマホを見たが……真っ暗だ。 うんともすんとも言わぬ。 バッテリーが切れている。 仕方なくしまった。
「さっき見えた港?」
見渡した感じ、雰囲気は変わらない。 位置が小さな埠頭の真ん中になったということだけだ。
「だ、誰だろ?」
病院やどこかのベッドの上で寝ているなら、まだ分かる。 でも、港に転がされた理由ってなんだろう。 ナニコレ怖い。
「だ、誰かいるのか!?」
怖さを紛らせようと声を上げるも、帰ってくるは漣だけ。 不安が増す。
どうしよう。 この場から離れようかと思ったその時。
「目が覚めたんだね! よかったー!」
「うおお!?」
突如として聞こえる女の子の声。 思わず驚きの声を上げてしまった。
慌てて周囲をキョロキョロと見渡す。 いない。 結構近い距離から聞こえたんだけど。 幻聴か?
「下だよ!」
「した?」
言われるがまま、埠頭の側面を覗き込む。 すると……そこには。
「おはよう! そして、こんにちは!」
マルカを白っぽくしたような、イルカのフレンズがいた。
水色のセーラー服風半袖ワンピース。 襟を白いリボンで留めている。 服のへそ部分にはパークロゴと錨を合体させたシンボルマーク。
「おお……ッ!」
感嘆の声が出た。 それは心身共に疲れたところに現れた、癒しの存在。 脅威ではない。 心を開ける気兼ねく接せる子。
初対面のハズなのに、先程までツライさんだったのに。 まるで旧友に再会したかのような安心感が俺を包み込む。
刹那。 全てが労られ、努力や苦労を含む万事が認められたかのような気がした。 お前は頑張った。 ココがゴール。 そう言われれば、何も考えずに受け入れただろう。 そこまでに彼女の、このタイミングでの登場は癒しと感激を呼んだ。 全俺が泣いた。
「バンドウイルカ……!」
そう。 彼女は水族館の人気者。 イルカショーでも馴染みある子であったり。
泳ぎの達人である けもの。 バンドウイルカである。
漫画版でも、海水浴の回、モブでチラッと出ていたような気がする。 あの子がバンドウイルカかは分からないけど。 こうして会えたのは嬉しい。
「あっ! 私のこと知ってるんだ! バンドウイルカのドルカだよ! よろしくね!」
「あ、ああ。 俺は杏樹。 一応パーク臨時職員をやってるよ、よろしくね」
「あんじゅ! あんじゅ!」
「……ははは」
ニコニコと挨拶をしてくれるドルカ。 笑顔が眩しい。 俺も釣られて少し、ほんの少しだけ口角が上がった。
それがどうも、ドルカ的には気になったようで、笑うのを止めて声を掛けてくれた。 優しい。
「大丈夫?」
「うん。 大丈夫」
大丈夫と聞かれれば、
ドルカを心配させまいというよりは、前世や今世での、或いは社会人のテンプレート。 そう言われたらそう返しておけというヤツ。
苦しくても疲れていても、それを素直に言うのは許されない。 周りだって相手だってツライさんだから。
ひょっとしたら俺よりツライのだ。 なのにそれを相手に伝えたら……相手はどう思うか。 労ってくれるのか。 休みを貰えるのか。 俺の場合は「俺は、お前より疲れてんだよ!」とか「仕事舐めるな」と怒られて更に仕事を押し付けられたり「役立たずは帰れ!」と言われたものだ。 互いに不快である。 少なくとも利益は生じなかった。
今回の相手はフレンズ。 そんな事は言わないだろう。 でも、最早癖だった。 心や感情は極力殺せ。 でなければ傷付く。 ここにきて無意識での自己防衛。 我ながら阿保だ。
「元気がなかったら言ってね? 元気じゃないなんてもったいないよ!」
「ありがとう。 でも、うん。 平気」
俺はきっと、こんな思考を持ち続ける限り、この子達のようにはなれない。
でもだからこそ。 憧れる。 そして俺の輝きだ。 それを側で見ていたい。 それくらいならきっと、許される。
「ホントに? あんじゅ、海の近くで倒れてたよ。 心配だからヒトが来そうなトコまで連れてきたんだ」
「あ、ああ。 ドルカが俺を移動したのか。 ありがとうね。 でも大丈夫だよ」
成る程。 ドルカの仕業であったか。 陸は大変だったろうに。 ありがたい。 取り敢えず怪奇現象じゃなくてよかった。
そして俺は大丈夫。 ツライさんじゃない。 ツライと思うからツライのだ。 昔言われた言葉である。 メンタル弱者の俺には根性論にしか聞こえず、ツライものはツライさんだったがな。 それで本当に大丈夫になるなら死ぬ事も無かっただろうに。
そんな思考を読み取ったのか。 ドルカは悲しげな顔になって見つめてくる。 いかんな。 イルカは心が読めるんだっけか。 だからって君まで悲しまないで欲しい。 こんな可愛い子に泣き顔は似合わない。
「服がボロボロだよ。 何だか疲れてる……大丈夫に見えないよぉ」
ジッと見つめて案じてくるドルカ。
このままだと、本当に泣いてしまうんじゃないかという暗い顔。 それは避けたい。 彼女もまた、ツライさんなのだ。
こんな時、どうすれば良いのか。 昔の上司達のように「俺の方がツライんだよ!」と怒鳴れば良いのか。 否。 それでは嫌う連中と変わらない。 必要なのは愛だ。 相手から一方的に愛を受けるのはいけない。 与えるのもダメかも知れない。 イタリアオオカミの例は俺的にNGである。 意識して接しなければ。
「そう、だな。 本当は疲れちゃってるかな……鬼ごっこの やり過ぎでね」
「おにごっこ?」
「相手はオオカミだったけど。 ああ、鬼ごっこというのはね、簡単に言えば追いかけっこだよ」
「あっ! それならやった事ある!
事実だけど、少し楽しげに話してあげた。 するとキャッキャッと喜ぶドルカ。
俺は頷く。 そうだ。 それで良い。 君は笑っていなさい。 子と接する親とは、こんな気持ちなのかも知れない。 その笑顔を見たいが為に。 日々を、今回を生き延びたとさえ思える。 俺のやった事は無駄ではない。 この通り意味がある。 なんと嬉しい事か。
このまま話を逸らしてしまおう。 俺の話になると大体ネガティブになっちゃうから。
「勝てたかい?」
「勝てたー!」
「そりゃ凄い。 おめでとう」
「ありがとう! 泳ぐの得意だから!」
褒めれば素直に受け入れて喜んでくれた。 そして一度潜って、ザパーンとジャンプ。 大きな水飛沫を散らして喜びを表現してきた。 俺にも こんな時期があったのだろう。 気持ちの話だ。
前世の記憶を中途半端に引き継いだ今世では、幼少の頃からダメだったが。 前世の頃はどうだったか。 今や昔の昔。 思い出せぬ。
昔と言えば、カコやミライ、菜々を思い出した。 今とあの頃を比べると大きさも違えば性格もちょっとは異なるか。 だけど純粋のままに感じる。 羨ましい。 園長は知らん。
「それはそうと」
都市部に戻らねば。 管理センターに直接行って、事の経緯を説明しないと。
イタリアオオカミがどうなったのかも分からない。 事と次第ではパークで安心して過ごせない。 ニホンオオカミも心配だし……いや。 彼女は近隣のパリピがいるから平気か。
「ドルカちゃん。 都市部への行き方って分かる?」
「としぶ?」
「ヒトが たくさん いるところ」
「ゴメンね。 ちゃんとは分からない」
申し訳なさそうな顔をしながら寄って来る彼女。 むぅ。 海側からもビル群は見えると思ったが、
「でも方向は分かるよ」
「そうなのか?」
「うん! あっち!」
そう言って、海面から片手を上げて指をさすドルカ。 白くシミひとつない綺麗でしなやかな細い腕と指。 そこから滴る水が陽光に反射して輝いて綺麗───。
「あんじゅ?」
「あ、ああ。 ごめん。 あっちか」
いかんいかん。 邪心は捨てろ。
慌てて見やれば、まあなんとなくながら けもの道が見える。 草を多少抜いて出来ただけな感じの。
埠頭があるんだから、もうちょいまともに舗装した道があって良い筈なんだがな。 殆ど使われてない港なのかも知れない。
「ありがとう。 俺はそこに行かなきゃならないんだ」
「むー。 もう少し お話していたかったなぁ」
「ははは、ごめんよ。 いろいろ助けてくれて本当にありがとう」
俺も もう少し話していたい。 礼も本当はしなくてはとも思う。 だけど、悲しいかな。 俺の安否を確認したいヒトもいるだろうし、俺自身、心身共にヘタっている。 長居する気力が起きぬ。 特に お腹空いたのです。 料理をひっかけて行かないといけないのです。
ダーク・イタリアオオカミがいたら恐ろしいが、流石にもう大丈夫だと願いたい。 願いたくない? フレンズを信じろ。
「あっ! 最後に握手っ」
踵を返そうとしたら、ドルカが握手を求めてきた。 断る理由はないな。 それくらいの要望、答えてあげねば。
ドルカは俺が握手しやすいように、わざわざ海岸から乗り上げて、トテトテと駆け寄って来る。 可愛い。
「うん、良いよ」
「さあ、手を繋いで? そしたら ともだち! ともだちが増えて私も嬉しいよ!」
「ともだち……うん。 ともだちだ。 俺も嬉しいよ。 ものすごく」
水が滴る小さな腕を伸ばされたから、素直に握り返した。 柔らかくて、冷たい海水に触れたと思えば温かな体温が手を伝ってくる。 その差が妙に心地良くて、つい彼女を抱き締めたくなる欲求に襲われた。 耐えたが。
というか、なんだか……その。 恥ずかしい。 ともだち。 そう言われるのも何度目か分からないというのに。
「そんじゃ……この辺で」
これ以上は危ない。 いろんな意味で。
「うん! また会おうね! バイバイ!」
「バイバイ。 ありがとう、世話になった……それから、その」
「うん?」
ああ。 コレは言っておかねば。 この挨拶をしないと時間が進まない。 そんな気がするから。
「あけまして、おめでとう」
「あけまして?」
「新しい1年が明けた、始まったから。 そうしたら、こう挨拶するんだ」
「そうなんだ! じゃ、あけましておめでとう!」
「うん。 あけまして、おめでとう。 それじゃ……その。 また」
「うん! またねー!」
そう言うと、笑顔で手を振って来る。 俺も手を振りつつ この場を後にした。 振り返ると、小さな点程になっても
「ふぅ」
ふと綺麗な青空を見ながら思う。 疲れ、空きっ腹を抱えての年越しだったが、良いところもあった正月であると。
前世でも嫌な年越しの仕方は少なくなかったが、今回は……その。 温かかったかな。 心が。 年越しは刺激的でデンジャーだったけど。 もっと言えば逃亡に必死で記憶が無い。 気が付いたら明けていた。
漫画版だと今は どの辺りだろうか。 キタキツネとキンシコウが お参りに行っているところかな。 だとすれば着物姿のふたりを見てみたかったが……この状況だ。 諦めよう。 今は自分自身の安全確保優先だ。
「管理センターに行って帰ったらシャワー浴びよう。 服も洗う。 美味い飯も食う。 そして寝る。 ニホンオオカミはパリピと遊んでいるだろうから大丈夫。 うん」
足を引きずるように、歩みを進める。 ヒトのナワバリ求めてなんとやら。 かばんちゃんじゃないが。
「俺もな……明るくいかなきゃな。 他の子に嫌われちゃうぞ」
独り言をブツブツ言いながら歩く男。 周りにヒトがいたら通報されそうだ。 寧ろしてくれ。 今は迷子に近いワケだし。
今は取り敢えず歩く。 それだけの体力が残されている、或いは回復した自身に驚いていたりする。
何にせよ良い事だ。 歩ける事は。
「ポジティブに行こう」
気楽に行こうよ。 先は長いよー。
アニメ フェネックの言葉が、ボイスが脳裏をよぎる。 そうだな。 先は長い。 事件も起きていない。
「今年からが、勝負か?」
漫画版は1年間を描いているようだった。 2年目以降、何が起きるのか分からない。
勿論、事件なんて起きない方が良いに決まってる。 でも、きっと起きる。 俺の妄想は当たるんだ。 外れる事もあるけどさ。 寧ろ外れろ下さい状態。
「今度は、逃げられない……いや。 逃げちゃダメだ」
逃げられなければ立ち向かう他なく。 それは転生者がどうとかじゃなくて、職員として出来る事をやらなきゃなと思う。
2、3月までは大丈夫かな。 その短期間に何が出来るか。 赤点泣き虫の無能小物職員が、足掻いても変わらないかも知れない。 でも何もしないのは、きっと嘘になる。
「ヒーローは引退したつもりなんだがなぁ」
汗でベトつく頭を掻きつつ、前を見る。 薄らとビル群が見えてきた。 ヒトのナワバリだ。
「取り敢えずメシは外」
腹が減っては戦はできぬ。
場合によっては、おかわり を寄越すのです。
あーかいぶ:(当作品設定等)
バンドウイルカ
鯨偶蹄目ハクジラ亜目マイルカ科ハンドウイルカ属
外見はほぼ全身灰色。 だけど詳しくみてみると背びれの先端の辺りの濃い灰色から、腹面にかけての明るい灰色にまで変化、腹部はほぼ白。 この体色で水中で上からも下からも見難いらしいよ。
標準和名とされる「ハンドウイルカ」のハンドウは、クジラとイルカの中間くらいの大きさで、中途半端な事からくるという説や歌舞伎用語の「半道」からくるという説があるみたい。
今は「バンドウイルカ」という呼称が広く使われていて、論文でもこちらが多数派みたい。
泳ぎの達人と称され、その遊泳力は昔からヒトによって羨望の対象とされてきたんだって。
杏樹のメモ:
イルカは心が読めるという話を聞いた事がある。 アニマルセラピーでもイルカの名は出てくるかな。
アニマルガールも、その影響があるのか。 喜怒哀楽を感じ取って、それに対する反応を示しているように感じる。 気の所為だという可能性もあるが……どうなんだろうか。