パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 違和感や間違いがあるかも。

パークで起きる複数の事件と対策についてちょっぴり考えます。


妄想と対策。

疲労困憊の身体を引きずり、管理センターに辿り着いた俺。 長い道中、コンビニで添加物たっぷりだろう おにぎり購入。 ソレを食べつつ、イタリアオオカミに会いませんようにと内心ビクビクしながらも、壮大なビルディングはモノとも言わず俺を無言で迎え入れた。

中は何度目になろうか。 吹き抜けのある大広間。 偶に鳥のフレンズがひとっ飛びで最上階近くまで飛んでいくが最早、感動も起きない。 特に今は。

して、周囲の背広にギョッとされたり距離を取られるのも構わず美人の受付嬢の前まで這い寄った。 向こうは仕事柄、逃げる訳にはいかない。 必死の愛想笑いを浮かべて対応する。 コンビニでもそうだった。 接客という意味では共通する。 こんな時、相手は大変だろう。 立場が逆だと思うと……やはり接客業は俺には向かぬ。

でも今は悪いと思わないね。 俺が こんな目に遭っているのは対応に多少なりとも問題がある管理センターにあるのだから。 俺の苦痛はオマイら内勤には分かるまい。 かくいう俺は内勤の苦労を知らぬが。

受付嬢は無罪? 管轄違えど管理センターという職場だ。 同罪だよ(暴論)。

 

 

「小動物に会わせてくれ。 臨時職員の杏樹(あんじゅ)が用事あると伝えて」

 

「しょ、小動物ですか? フレンズでしょうか?」

 

「ある意味フレンズだな。 背の低い女性で世話焼きのヒト」

 

「あ、ああ。 はい。 お待ち下さい」

 

 

そう言って、固定電話でナニやらゴニョゴニョ言う受付嬢。 「背の低い女性」「世話焼き」で分かる辺り、有名なのだな。

だが言いたい事は言わせて貰う。 その結果、周囲に「何お前、俺らのアイドルにナニしてくれてるん? おおん?」となれど。

悪に染まる。 パークの為に……! そしてボコボコにされるまである。 されちゃうのかよ。

そんなしょーもない事を考えると、やがて。

 

 

「───すいません。 現在、欠席しています」

 

「そうかぁ欠席……ファッ!?」

 

 

受付嬢に言われて奇声が出てしまった。 周囲の視線が痛い。 恥ずかしい。

だがいないとは何事か。 真面目そうなヒトだ。 勤務状況は把握していないが、休むヒトには思えない。

 

 

「病気かナニかで?」

 

 

だから、欠席理由を つい聞いてしまう。 部外者なのに。 越権行為等に当たるか。 だとしても気になる。 ニホンオオカミじゃないが。

 

 

現場巡回(げんばじゅんかい)をされています」

 

 

だがしかし。 あっさり教えてくれた。 さっさと厄介払いしたいからか。 それは考え過ぎか。 そんな理由で情報をホイホイ漏らさないだろう。

身内も そうだったらなぁ。 イタリアオオカミの件的に。

 

 

「現場巡回?」

 

「はい。 セルリアンの出没情報や対策の為にと」

 

 

彼女が?

俺は首を傾げた。 現場職じゃなくても、背広が現場に行く事はあるだろう。 視察等の為だ。 それは分かる。

だけど彼女は、それなりの地位があるヒトに思える。 詳しくないが管理職側だ。 抜けて他のヒトが困らないなら良いが。

 

 

ひょっとして、俺の為に……?

 

 

いやいや。 こんな問題児の為に現場まで……行きますねぇ。 マヨ事件の時、寮の前まで来たし。 世話好きというか有り難いというか。

まあ、なんだ。 詳しくない俺が突っ込んでも仕方ない。 取り敢えず いないという事実からどうするか。 それを考えよう。

 

 

「分かりました。 ありがとうございます」

 

「伝言が ございましたら」

 

「そうですね。 『()()()()()』だとお伝え願えれば」

 

「分かりました」

 

 

そこまで言うと、会釈して管理センターを後にする。 ベトつく身体に吹き付ける風が寒い。 気分は良いものではない。

 

 

「帰ろう。 そして仕切り直しだ」

 

 

風呂。 足りない分の食事。 携帯の充電。 睡眠。 俺にも したい事がある。

寮の自室へと俺は再び足を引きずっていく。 陽は折り返し、地へと沈み始めた頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り あんじゅー!」

 

「うおっ」

 

 

寮に戻れば、笑顔で出迎えたる同居犬。 ぴょんと抱き着いてきてスリスリ。 擽ったくも温かい。 尻尾もはち切れんばかりにブンブン振っているときた。

彼女を見ると説教したい事やイライラが、刹那に吹き飛んでしまう。

お帰りと言われる事が、こんなにも沁みるとは。 これで「お風呂にする? ご飯にする?それとも わ・た・し?」というセリフがあれば……冗談だ。

 

 

「ただいま。 ごめんな、何日も留守にして」

 

 

頭を撫でつつ、謝った。 パリピがいるから大丈夫だと思ってはいたが、突然部屋主が消えたら心配なりするだろうから。

 

 

「もー! どこ行ってたの? 心配したよ! なんでか部屋は窓が壊れてたし、れんじゃぁっていうヒトがボロボロで倒れてるし、イタリアオオカミの匂いがするし……あんじゅ の匂いは都市部の匂いが強くて分からないし!」

 

「ごめん、ごめんよ」

 

 

不安にさせた事への罪悪感。 同時に感じる愛情。 複雑ながらコンコンと湧く温かさをより実感したくて、ニホンオオカミの頭を撫で続ける。

最近は お風呂にいつも入っているから、シャンプーの良い匂いがフワッとする。 落ち着く香り。

風が無いから、ふと窓をチラ見する。 綺麗なガラス板が嵌められていた。 破片の一切は無い。 寮母さんが対応してくれたのかな。 ありがたい。

 

 

「色々あって」

 

「どういうこと? 気になる!」

 

 

おう。 上目遣いで言われてドキッとしちゃったじゃない。

問い詰めるというより、純粋な好奇心からの眼差し。 うむ。 いつもの、明るい彼女になって良かった。 俺も明るくいこう。

 

 

「そうだな……イタリアオオカミと追いかけっこをしていたよ」

 

 

だから。 事実ではあるけれど、楽しそうな感じで話してみる。 モノは言いようさ。

 

 

「そうなんだ! 私もやりたかったなぁ」

 

「今度、一緒にやろう」

 

「うん!」

 

 

なでなで。 ヘッヘッと喜び、尻尾をブンブン振るニホンオオカミ。 可愛い。 パリピと戯れ合うから俺の世界の子じゃないと思っていてすまない。 君は立派な家族だよ。

 

 

「うー?」

 

 

そう思っていると。 くんくんと匂いを嗅いでは首を傾げ、

 

 

「なんかあんじゅ、変な臭い

 

「ぐはっ!?」

 

 

家族から痛恨の一撃を貰った。 臭うとか……言われるのはスゲェショックなんですがそれは。

 

 

「……悪い。 風呂、入ってくる」

 

 

そっとニホンオオカミを引き離し、ふらふらと風呂場へ。 今の攻撃で俺の中のナニかな輝きが消えそうになるが、何とか耐えた。 メンタル弱者にしては良くやったと褒めてくれ。

前世での嫌な経験が生きたか。 感謝はしない。

 

 

「私も入るっ! アワアワ楽しいもん!」

 

「申し訳ないが、別の意味でアワアワしちゃうのでNG」

 

 

ヤバい事を笑顔で言うので断っておく。 フレンズと混浴とか、バレたら大変だ。 特に毛皮を服として脱げるのを知っているから尚更に。 当然というか、脱いでくるよね。 アウトだよね。

ミライなら羨ましく思われるだけで済むだろうが、カコや菜々、管理センターを思うと……考えるのはよそう。 怖い。

 

 

「えー! ひとりより、ふたりの方が楽しいし、気持ち良いんじゃないかな!」

 

「ヤメテ? 俺をケダモノにしても楽しくないヨ?」

 

 

喋りながらも、見えないように風呂場の内側で脱衣していく。 下を向けば剥かれた唯一無二の相棒。 穢れたバベルの塔。 ぬらり。 てらり。 アテもなく虚しい主張を始めている。

通報されたらオワタ状態。 フレンズがいたら更に。

◯◯◯◯フレンドですってか。 笑って許してくれる事案じゃないよね。 友も居場所も全部失うのは勘弁。

 

 

「とにかく。 入ったらオシオキだから。 許さないからなぁ?」

 

「……くぅん」

 

「ワンコみたいに落ち込んだ声を出してもダメ」

 

 

服を出し、シャワーの蛇口をひねる。 直ぐに出た湯を浴びつつ、そう返しておく。

天真爛漫な彼女だが、最近は言い付けを守れるからね。 ここまで言えば大丈夫だろう。

フレンズとヒト。 同居で問題があるとしたら、こういうトコかな。 フレンズは元がオスでも、サンドスターに当たると みんな女の子だ。 見た目は可愛い子ばかり。

ヒトのオスがハッスルしちゃったら……後は取り返しがつかない。

 

 

「それとも」

 

 

両者が愛し合っていれば大丈夫か? パークや周りは許してくれるのか?

 

 

「いや。 フレンズはフレンズだよな、きっと」

 

 

友は友。 もっと言えば けものフレンズ。

ヒトが思う「好き」と相手の「好き」は違うかも知れない。 愛がズレている可能性がある。

じゃれつくようなモノかもだし、懐くとか、そういう話かも知れない。

 

 

「って、俺はナニを考えてるんだ。 ヤメだヤメ!」

 

 

邪な想いは捨てよう。 今、考える事じゃない。 それよりパークの未来を案じろ。

 

 

「先ず起きるのはセントラル事件か。 そして女王事件。 だけど、妄想の通りなら放置しても解決する事件だ……園長が来れば」

 

 

園長。 アプリ版主人公。 来園経緯、正体不明な英雄(ヒーロー)

だけど、それらしき話は未だ聞かぬ。 大丈夫だろうか。 心配だ。

いや、きっと大丈夫。 必ず来てくれる。 そして解決に尽力してくれる。 そう信じよう。

 

 

「だけどカコは、守らなきゃ」

 

 

カコ。 我が馴染み。

俺の記憶や妄想通りならば、セントラル事件でセルリアンに襲われて輝きを奪われる。 それは園長が知らないトコだ。

その輝きからセルリアンの女王が生まれ、女王事件へ発展。 全ての輝きを失いかねないパークの危機に。

そうでなくても、馴染みが襲われるのは良い心地ではない。

 

 

「女王事件、ね。 ひょっとしたら阻止出来るんじゃないか?」

 

 

身体を洗いながら思う。 連絡先も知っているし、管理センターや調査隊のミライの連絡先も知っている。 最近はその、連絡が取れないのが悲しいけど。

兎に角。 カコを守れさえすれば、セントラル事件が発展する事はないのだ。

 

 

「セントラル事件は、どうして起きたのか分からないけど」

 

 

セントラル事件。 セルリアンによるパーク・セントラル襲撃事件である。

基本的に意志が無いとされるセルリアンが、どうして集団で、突如として客さんの玄関口であるセントラルを襲撃したのか謎である。

輝きに反応するにしても、それまでは大丈夫だったのだろうし。

 

 

「オイナリサマは知っていたようだけど。 会えれば良いけど、どこにいるか分からないからなぁ」

 

 

皆に夢の中か何かで語りかけていた様子のオイナリサマ。 戦える者は心の用意を、弱い者は逃げる用意を……だっけか。

 

 

「逃げる、ね」

 

 

パーク・セントラルから離れよ、という事かな。 だけどダメなんだ。 逃げちゃダメだ。

 

 

「俺は()()()()()だ」

 

 

フレンズの様に強くない。

カコ達の様に頭は良くない。

他の職員の様に、優れた技能は無い。

 

でも俺は皆に助けられて、やっとの想いでパークに地を着いて立っている。

報いたい。 皆が好きだから。 それもまた、愛じゃないか?

 

 

「バタフライ効果に期待して……足掻いてやる。 ジダバタして、子どもの駄々みたいになっても。 それで何か変わるかも知れないんだ」

 

 

ポジティブに行こう。 味方(ともだち)がゼロってワケじゃないんだ。




あーかいぶ:(当作品設定等)
パーク・セントラル襲撃事件
お客さんの玄関口、パークセントラルがセルリアンに襲撃された事件。 オイナリサマは知っていた風だが、セルリアンも含めて謎が多い。 職員やフレンズは避難出来たみたいだけど、カコは輝きを奪われて昏睡状態に。 結果、その輝きからセルリアンの女王が生まれ、女王事件へ発展。 パークの危機に。

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