パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。 間違いあるかも……。

マンモスと、研究等の話。


凍土の眠りから覚めた太古の巨象と、研究の話。

ヒトが誕生する前の時代。 恐竜が地上を支配していた、6650万年前にあったという大事件。

それは巨大隕石の落下。 生命の75%が絶滅したとされる第5の大量絶滅。

 

衝突による火災と衝撃で巻き上げられた塵埃で太陽光は遮られ、地球全土の気温は低下。

激変した環境に耐えられず、多くの命が死に絶えた。

 

植物の光合成が2年も滞ったとかいう話を聞いた事がある。

動植物にとって陽は重要であろうに……薄暗く、命の音が聞こえぬような時代が地球にあった。 想像出来るだろうか。

 

恐竜時代の終わり。

 

それはあまりに唐突であった。

 

だが、それでも。

 

それでも生き延びた命があったのだ。

 

食料も乏しく、陽もなく、それでも生命の大量絶滅を乗り越えて……進化して。

今の地球が、命がある。 ヒトがいて、たくさんの けもの がいる。

 

命の強さ。 或いは奇跡。 様々な偶然や必死が重なり、今日まで続く。

 

だがしかし。 乗り越えた先にも苦難とは常に待ち構えていた。

 

氷河期。 地球が寒い時代。

 

いや、まあ、サイクル的には今も氷河期らしいんだけど。 今は暖かい氷河期らしい。 イメージがつきにくいが。

 

だが昔の環境は、比べものにならないくらい、厳しかっただろう。

 

雪と氷の大地。 少ない食べ物。 生命を鈍らし、死へと誘う凍てつく寒さ。

 

そんな厳しい時代。 ご先祖様と……毛の長い太古の象、マンモスは頑張っていた。

剣歯虎のサーベルタイガーも、逞しく生きていたのだろう。

 

だが……結果は、多くのヒトが知っている通り。 マンモスやサーベルタイガーは、どうなったか。

 

 

絶滅

 

地上から、地球から姿を消した。

 

 

諸説ある。 ヒトが狩りをしたからとか、病気だとか、寒冷化が進み過ぎたとか。

 

何にせよ、姿を消して時間が経ってしまうと人々の記憶とは風化するもの。

どのような姿だったのかも忘れられてしまう。

 

マンモスの話であるが、200年ほど前、永久凍土の中からマンモスが見つかるまでは、ヒトは骨から どんな生命だったか想像していた。

 

巨大な骨……巨大なネズミか? いや巨大なモグラだろうと考えていたという。

今でこそ、マンモスは象だと考えられるが、昔は大きく違ったようだ。

 

ちなみにマンモスは、モンゴロイド族の一部が使うサモエード語で「マー(地中の)」「モス(動物)」が語源とされている。

考えが改められても、この名が残った事になるのかな。

 

さて。 そんな永い年月を得て、永久凍土の中から掘り起こされたマンモス。

それは前世同様、この世界でも多くの謎や感動を人々に与えた。 また、細胞核等から復活出来ないかという試みの話を耳にしている。

 

前世では、大きなニュースもあったな。 実験で2万8000年前のマンモスの細胞核が動いたんだっけ?

 

復活までは、技術的に、道徳的な問題が山積みだけれど、その研究過程で発見された事は、人類にとって大きなチカラになるかも知れない。

 

そして…………この世界。

 

奇跡の島、ジャパリパークがある今はというと。

 

 

ケナガマンモスと言います。 えと、宜しくお願いします」

 

 

どこかの民族衣装を思わす、茶色を基色にした服装と、象のフレンズを思わせる長いマフラーを着たフレンズが目の前に。

 

目にハイライトがない。 絶滅種だから。

 

 

「俺は杏樹。 ヒトだよ。 パークでは臨時職員という扱いになってる。 宜しく」

 

 

フレンズとして。 彼女は……いや。 彼女たちは蘇った。

 

───蘇った、という表現は正しいのか分からないけど。

 

そもそも……ヒトによって誕生した絶滅種の生命は……。

 

やめよう。 今は素直に喜べ。

俺はモヤモヤを心の内側に押しやり、莞爾として握手した。 手というか、俺は彼女のマフラーを軽く握った。

 

いや、普通にマフラーが動いて俺の前に伸びてきたから。 ホント、どうなってるんだろうね。

 

サンドスターの研究。 それは希望か誤ちか。

 

今の俺には……答えられん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女はケナガマンモスのフレンズ」

 

 

そう紹介してくれるは、共に研究所を歩いていたカコ。

休憩スペースのような場所で、マンモスのフレンズと出会い、このような形になった。

 

ケナガ、と言っていたが。 マンモスにも種類がある。 俺は詳しくないが、ケナガマンモスは日本では有名な種類なんじゃないかな。

 

でもフルで言うと長いし、ケナガって女の子に言うのは失礼な気がする。 カコは良いのかもだけど。

俺はマンモスと普通に呼ぼう。

 

それにしたって、ちょっと抵抗あるけれどね。 マンモスって言葉は何かの表現で使われるから。 デカい的な意味で。

 

 

「研究所で、サンドスターで生まれた子」

 

 

カコに言われた。 まあ、所内にいるんだし そうなんだろう。 ハイライト無いし。

 

 

「最初、ここがどこなのか……私は なんの けもの なのか分からなくて。 だけど、ココにいるヒト達が教えてくれました」

 

 

微笑みながら、説明するマンモス。 大人しさを感じさせる、温厚な子のようだ。

 

しかし……なんだ。 妙な気まずさがあるんだよね。 俺の中で。

ヒトの勝手で復活したワケである。 自室のニホンオオカミもそうだから、今更ナニ思ってるのよという話だが……彼女的には大丈夫なのだろうか。 生まれた事を喜んでいるようにも感じるが……聞き辛い。

 

 

「そうか。 俺も教えたり、教わったりする立場だから、その喜びは 何となく分かるよ」

 

 

取り敢えず、適当に濁していこう。 EXのフレンズには、デリケートな話かもなワケで……。

 

 

「牙の一部に、サンドスターを当てる事で生まれた」

 

 

ちょっ、カコさんや! 容赦なく言い始めたけど!?

 

何故か俺がアワワワしながらも、マンモスさんをチラ見。

大丈夫かな? 大丈夫かな!?

 

 

「はい。 永い時間を氷の中で眠っていました」

 

「おぅふ」

 

 

ほらみろ。 どことなく寂しい話になってきたじゃない。

会えた奇跡に万歳するつもりが、これではお通夜モードじゃないか!

ここは第三者な俺が、場を切り替えなければ。

 

 

「ほ、ほう。 牙……それは凄い! 博物館や写真で見た事があるけど、立派だよね〜!」

 

「実験では状態の悪いものが使用された」

 

 

おいいい!? カコ、お前空気読めよ! マジKY! あっ、これはEX語か!

 

 

「状態の良いものは、外界の研究所や組織から反発があってパークに持ち込めなかったの」

 

 

ええい! 政的な話をするんじゃないよ、このエロ乳博士め!

 

 

「牙、というと。 マンモスが発掘される永久凍土には古生物学者以外にも、マンモスハンターが訪れる。 象牙の代わりにマンモスの牙が高値で取引されるため」

 

 

そんな情報、いらないです。 というかイヤラシイ話をしてんじゃないよ、カコォ!

 

 

「あ、あの……あんじゅ さんが荒ぶってますけれど。 大丈夫ですか?」

 

「大丈夫。 荒ぶる気持ちは分かる」

 

 

ホントかよ! ならこの話題変えようず。

 

 

「あんじゅは、自身も発掘調査に行きたい……のだと思う。 私もそうだから」

 

「なあ、カコ。 自分の気持ちと俺の気持ちが同じとは限らないからな?」

 

 

思わずツッコミを入れずにはいられない。 発掘調査は興味あるけど、今の気持ちは別にあります。

 

 

「カコ博士。 あんじゅさん、こう言ってますが」

 

「大丈夫。 照れてるだけ」

 

「そうなんですか?」

 

「もうソレで良いッス」

 

 

グレた。 諦観。 諦めの境地だよ。

ナニ言っても改善しない事もある。 時に諦めも大切だと学ばされた。 無駄に精神を削る必要はない。

マンモスも、特にカコの会話を気にしている風でもない。 そこはフレンズ故か。 それとも研究所で既に学んだのか。

ストレートで平気か。 変にジタバタしない方が良かったのかも知れない。 疲れた。 俺も普通に話そう。

 

 

「…………はぁ。 それで、マンモスは どんな理由で復活したんだい?」

 

「皆の長年の夢。 好奇心や興味から」

 

 

マンモスの前でソレを聞き、言う俺とカコである。 当のマンモスはウンウンと頷く。 悲しみや怒りはない。

フレンズらしいというべきか。 最初からこうするべきだったかなぁ……複雑。

 

 

「夢?」

 

「そう。 私も含まれる。 マンモス復活、本土でも聞いたこと、ある?」

 

「まあ」

 

 

イギリスの研究所によるクローン羊「ドリー」の技術と同じような方法を使って、冷凍標本から状態の良い細胞を入手して、復活させようという考え……だったか?

 

 

「研究は苦難の連続。 絶滅危惧種である近縁種、アジアゾウの卵子や母体が必要となることや……あんじゅ?」

 

 

うっ。 単語に反応する俺の身体……ッ!

なんという軟弱者か! まさか俺は言葉でも反応するM体質なのか!?

 

 

「あんじゅさん、身を屈めてます。 お腹、痛いのですか!?」

 

「違う。 大丈夫だから、その。 続けて」

 

「へ、ヘンタイ! 変なコト、考えないで!」

 

「カ、カコが変な事を考えるなよ!?」

 

「ヘンなコト?」

 

「マンモス。 君は清い心でいてくれ」

 

「は、はい……?」

 

 

おのれ馴染みめ。 言葉責めは求めてないんだよ。 良いから話を進めようず。

 

 

「あー、とにかく。 苦難の連続だったワケだ」

 

「……そう。 綺麗に細胞核を取り出せない、サンプルの状態が良くない、絶滅危惧種のゾウを母体に使えない等」

 

「その方法だと動物愛護の観点などから、確実に世界中のヒトの理解を得られないよな」

 

「うん」

 

 

それに、とカコ。

 

 

「たとえ蘇らせたコトが出来たとして、マンモスが生態系に どんな影響を及ぼすのか誰にも予測が出来ない」

 

「ふむ」

 

 

俺は頷いて見せる。

 

言っていることは、何となく分かる。

生態系は とても複雑なバランスで成り立っている。 そこに現在の地球に存在しないマンモスが一頭蘇っただけでも、思いがけず大きな影響を出してしまうかもしれない。

 

 

「私が研究所にいるのも、それが理由だと聞いています」

 

 

と、ここでマンモス。 どうやら、前に何かを聞いた様子だ。

 

 

「例えフレンズの姿であっても、外の世界に放つのは少し待って欲しいと。 自然だけでなく、()()()()()にも強い影響が出ちゃうからって」

 

()()()()()……カコ?」

 

 

ここで、それもフレンズの口からヒトの世界が出てくるとは。

ロクなモノじゃない予感がするが、ここまで来たら聞いておこう。

 

 

「マンモス復活は、発表していない」

 

「それ、部外者の俺に言って良い系?」

 

 

また面倒事に巻き込まれるのは勘弁だぞ。 パークの危機の前に俺の危機再び。

 

 

「あんじゅなら良い。 パークを愛しているなら、悪い事はしないでしょう?」

 

「フレンズを悲しませるような事はしたくないさ。 だが、ヒトがパークで間違えた道を行くんだと判断するしかないようなら……俺は止める」

 

 

───()()()()()とかな。

俺の偏見や価値観を押し付けるようだが……上手く表現出来ないけれど……この手のモノは、凄い嫌な予感がするから。

 

カコと俺の間で険悪なムードが漂う。 それも間に挟まるマンモスがアワアワして四散していった。

 

 

「わー! わー! 特別深刻な話じゃないですよ! ね、ね!? カコ博士っ!」

 

「…………そう。 あんじゅなら、たぶん深刻じゃない。 ()()()()ポジションだから」

 

()()()()だぁ? 俺は臨時とはいえパーク職員だ。 直接の管轄じゃなくても、人心が離反するならば、カコでもミライでも……俺は止めっぞおい」

 

だいじょーぶですって! カコ博士、取り敢えず おはなし〜!」

 

「…………分かった」

 

「…………聞こう。 すまん、熱くなった」

 

「こちらこそ、ゴメン」

 

 

なんだか、可愛くも必死になっているマンモスを見ていたら落ち着いてきた。

ふむ。 まるで親の喧嘩を止める子のようじゃないか。 いや、経験はない。 あくまでイメージだ。

 

 

「マンモス復活は、()()がある」

 

「ふむ」

 

「今話してきた細胞からの話とは別に、今回は超常物質サンドスターによるもの。 アニマルガールの身体はけものプラズムによって構成される。 絶滅種の身体や架空動物(かくうどうぶつ)は特に高い。 マンモス……彼女の場合、けものプラズム85%と高い」

 

「それが問題なのか?」

 

「そう」

 

 

はて。 サンドスターだと問題になるのか?

困難なマンモス復活を、サンドスターにより簡易的に行えた。 これがマズいのだろうか。

 

 

「前にも話したと思うけど、サンドスターにより生まれる子は、ヒトの姿形をしている」

 

「本来の姿じゃないな」

 

「そう。 姿形。 アニマルガールとして観察は出来ても、けもの として観察するのは意見が分かれる。 アニマルガールはヒトのイメージするモノが、妄想が反映されるのが分かってきているのもある。 何故かは分からないのだけれど……その分からないも含めて正確性に欠ける。 変に《分からない》を発表すると多くのヒトと世界を混乱させ、危険に晒す事から、彼女の存在を伏せている」

 

 

あんまりな話だよな。

 

ヒトの夢とやらに付き合わされて、このパークに生を受けて。

挙句にだ。 都合で存在しないようにしなければならないとか。 勝手過ぎる。

 

 

「───けれど」

 

 

言葉は続く。

 

 

「いつまでも研究所に閉じ込める気はないの。 皆も同じ考え方。 外を知らずに、友を作れず孤独で終わるなんて、可哀想だから」

 

「そうか。 良かったなマンモス」

 

「はい! いつか、外に出られる日を楽しみにしています!」

 

 

カコ達がそう思うなら、きっと出られる日が来るだろう。 それも、遠くない未来で。

第2世代の時代がそうだと思う。 絶滅種も普通にフレンズとしてだが……外で他の フレンズと共に生を謳歌(おうか)出来る時代。

いつか、来る。 皆で笑い合える時が。

 

 

国際自然保護連合(IUCN)・種の保存委員会によって立案された《保全のための絶滅種の代用種作製に関する基本理念》の理に反するのか……色々な問題があるけれど、きっとなんとかなる」

 

「お、おう。 俺も出来る範囲で協力するよ」

 

 

よしよし。 話は良い方向に向かっているな。

基本理念とやらは分からんが。

 

 

「あれ」

 

 

ここでふと、疑問が湧いた。

 

 

「なあ、カコさんや」

 

「どうしたの?」

 

ニホンオオカミ、絶滅種だよな。 外に出てるのは良いのか?」

 

「……………………ニホンオオカミは、ニホンだから……えと、じこくりょー的な感じで、うん! 大丈夫!」

 

「ホントかよ!?」

 

 

研究所、結構ガバくね? ザルじゃね?

 

ココに来て、結構マヌケな話で不安になってしまう。

 

ほら! マンモスを見てみろ! 始めて困惑した、苦笑いの表情を浮かべているぞ!

 

俺は頭を抱えた。 パークでは、EXの けもの も、ヒトも大変なのだ。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
マンモス(ケナガマンモス)
長鼻目ゾウ科マンモス属
太古の昔。 500万年前から地球に生き、約4000年前に絶滅したとされる。
哺乳類に属し、長い鼻と大きい牙を持っていた。 現代に生きるゾウと違う特徴としては、長い毛と上に飛び出た頭の形。 牙は大きく曲がって、ねじれているのも特徴のひとつ。
牙は最長4.5メートル、重さ100キログラムにもなる。 マンモス同士の戦いや、敵の威嚇に使われたとされる。
大きいイメージのあるマンモスだが、平均すると実はアフリカゾウより小さく、アジアゾウとほぼ同じくらいの大きさ。
人類とは4万〜3万年前に出会ったそう。

杏樹のメモ:
マンモスは絶滅種であるにも関わらず、有名な けもの だ。 いつの時代も、我々、人類とのあいだにさまざまな物語を紡いできた。
太古の時代では貴重な食糧として、また畏怖の対象として。
永久凍土に眠る現代においては発掘の対象として。 そして世界の研究者たちが語る「生命の復活」の対象として。
この先、ヒトが どのような研究や成功、誤ちを行うのか分からない。 ジャパリパークという特殊な環境下で更なる希望を手にするのか、誤ちの道を辿るのか。


《保全のための絶滅種の代用種作製に関する基本理念》
国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会によって立案された。
絶滅した生物を蘇らせた個体そのもの(代用種)を自然に放つ際のリスクや、環境への影響に関しては、これにもまとめられている。
(以下 略文等)
絶滅種の代用種をつくりだす「脱絶滅」は、この10年間に(略)ますます注目されるようになってきました。
絶滅種を蘇らせることに関する議論は、「できるのか」から「すべきなのか」へと移りつつあります。 多くの新しい技術と同じように、強い要望がある一方で、有害な影響が生じる可能性についてもしっかりと配慮して、それらのバランスを保つ必要があります。
(略)
もし代用種の作製が絶滅の危機や生物多様性の喪失を解決する技術だとみなされれば、世間の認識が変わってしまい、種の保全の現在及び今後の労力がないがしろにされかねないでしょう。
現存種や生態系の保全は、何かで代替するのではなく、それを支える努力のもとにあるということが世間にしっかりと認識されることが求められます。
(略)
優先すべきことは、現存種の多様性を維持・向上させることです。 現存種の多様性維持という目的と矛盾しない場合にのみ、生物多様性を修復する目的で代用種をつくるべきでしょう。

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