パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

47 / 85
不定期更新中。 描写や言葉を探す事の難しさ……。

サーベルタイガーと出会います。


剣歯虎は外に焦がれる。

「初めまして。 私はサーベルタイガー。 そんなに怖がらないで」

 

 

そう言って、招き猫グーで挨拶をする猫なフレンズが目の前に。

古生物を代表するマンモスのフレンズと出会えば、お次はサーベルタイガーときたわ!

まさかの豪華なラインアップに、興奮不可避だよ!

この連続攻撃による感激は、幼少の頃以来だ。 カコに出会い、短期間でミライや菜々と出会えた、あの日々を思う。

有名なフレンズやレアっぽい子との連続した出会いというのは……心踊るものがあるね!

 

 

「大丈夫だ! 感激に打ち震えていただけだから!」

 

「そ、そう」

 

 

ちょっと引かれたが許せ。 興奮が冷めやらぬ。

いやはや。 カコの話からサーベルタイガーは出てきてはいたが、こうして会えるのは感激だからね。

例によって絶滅種だから、目にハイライトがない。

だけど。 こうしてみると……うん。 虎というか猫ぽいというか。 可愛い。 フサフサでしなやかな尻尾とか ケモ耳とか。

名にある大きな特徴である牙の「サーベル」部分は、髪型にて表現。 もみあげ部分が白色で牙のようになっている。

だが、それだけではない。 腰には帯刀……鞘付きサーベルが収まっている。

これはヒトが与えた武器ではない。 フレンズ化に伴い、一緒に形成されたものらしい。

改めてサンドスターとは謎である。 もう何でもアリな気がするんですがそれは。

だからか。 SSプリンターなるモノがあるのは。 ホント、どういう仕組みなんですかね。

火口のフィルターも作れる気がしてくるよ。 作るのは研究員任せだが。

 

 

「彼女もマンモスと同じ経緯。 牙の一部に、サンドスターを当てたら生まれた」

 

「外界のコトは あまり分からないの。 良かったら教えてくれると嬉しいな。 ええと、お名前を聞いても?」

 

「おっと失礼。 俺は杏樹(あんじゅ)だ。 いちおうパーク職員だよ、よろしく」

 

 

片手を軽く上げて挨拶。 そこはヒト式。 招き猫グーをやろうかとも思ったが、野郎がやってもキモいと脳内会議で却下した。

理由は、それこそ引かれるから。 これ以上、調子に乗ってると危険だ。 初リカオンの時みたいになるのは勘弁な。

 

 

「パーク職員? 服装からして研究員ではなさそうね。 飼育員さんかしら?」

 

 

おう。 食い付いてくるね。 俺の事を知ろうと、仲良くしようとしてくれているのだろう。 嬉しいね。

そして職員や服装の概念を理解している様子。 ある程度、教育はされているのだと伺わせる。

話しやすいのは良い。 自然で暮らす野性味溢れるフレンズほど、文明的な話は困難だからな。 助かる。

 

 

「いんや。 臨時職員だよ」

 

「りんじ?」

 

 

とはいえ。 分からない事も多いか。

臨時という言葉を聞いて、疑問符を浮かべたし。

外界のコトを知らぬと言っていたのだ。 仕方ない。 教えてあげながら話をしよう。

 

 

「定まった管轄にいないんだ、俺。 必要に応じて飼育員だったり、警備員や接客員、調査員の手伝いをするんだよ」

 

「スゴいのね。 いろいろなコトが出来て」

 

 

微笑みながら、褒めてくる剣歯虎。 きっと意味が分かっての発言。 かしこい。

そして愛想とかじゃなくて、フレンズらしい、本当に純粋な気持ちから出た言葉。

確証は無い。 でも分かる不思議。 あかん、それを感じたら恥ずかしくなってきた。 それに劣等感も同時に湧いてくる。 申し訳ない。

 

 

「い、いや……本職の方とは、大きく劣るから。 実際は、足手纏いにならないようにするのが精一杯というか」

 

 

そうボソボソと、自信なく素直に説明する。 事実である。 俺なんて猫の手な感じだ。 猫のフレンズじゃないが。 いや、フレンズの方が余程役に立つ。 身体能力高いから。

俺の弱さを見せる……女性に。 なんと情けない男であろう。

そしたら、そんな暗さを察してか。 隣のカコが褒めてきた。 恥ずい。

 

 

「あんじゅは、凄いよ。 職員はみんな褒めている、それに今は預言者……その、英雄(ヒーロー)

 

 

ボソボソ言って聞き取れなかったが、褒めてるのは分かる。

でも剣歯虎は聞こえた模様。 そこは能力の高いフレンズ故にか。 興味津々って感じに、俺に訪ねてきた。

 

 

「よげん? ヒーロー?」

 

 

どこかのグループ名じゃ、ないよな。

英雄か。 カコめ。 昔の事を思い出したか。 更に恥ずかしいじゃん!

取り敢えず、預言の話の方でいこう。 英雄は過去の出来事なのだよ。 というかアレ、間接的に偶然生まれた結果だし。

だからって預言の話も、中二病というか十分恥ずかしい話なんだけども!

 

 

「いや……なんだ。 俺はパークの未来を案じているって話さ」

 

「スケールの大きな話ね」

 

 

こんな話を、それも太古の けもの のフレンズに言うのは不思議な感じだなぁ。

フレンズ化に伴い、かつていた過去の時代を想う事はあれど、未来について彼女達は何を思うのだろうか。

というかその前に。 言って良かったのかなコレ。 ストレートに「未来を知ってるぜ!」とは言ってないけれど。 というか自信持って言えない。 不確定要素たっぷり過ぎて。

剣歯虎をチラッ。 微笑んだままだから、大丈夫か?

次にカコをチラッ。 同じように にこやか。 大丈夫そうですね。 このまま流してしまおう、そうしよう。

 

 

「まっ。 将来起こり得ると予想される災害に対策を講じて貰うべく、俺は研究所を訪れたってワケ。 なっ? カコ」

 

 

ここでカコに同意を求めた。 これ以上言うと、余計な混乱を招く。

ある種の秘密保持の為。 この意図は、カコにも分かってくれるハズ。

ここで同意を得、話を終わらせる方向に持っていくのだ。

 

 

「そう。 あんじゅ は、パークの未来を知っている。 守る為に動いてくれている」

 

「おいいい!?」

 

 

思いっきりバラしてんですけど副所長様! 大丈夫なのそんなんで!?

それとも、そこまで重要な話じゃないのかい? 相手はまだ研究所暮らしのフレンズだろうけど、将来的に教えたらアウトじゃね?

 

 

「知っている?」

 

「あー、いや。 ちょっと間違いだよ……たぶん、こうなっちゃうなぁという予想。 もっと言うと妄想。 当たるかどうか曖昧なんだ。 気にしないで」

 

 

ははは、と乾いた笑いで誤魔化した。 隠し事をしているのは明白な態度、相手に失礼なのは承知している。

だが、この話はカコ含む研究員からしたら荒唐無稽。 半信半疑。 それでも取り合ってくれているのは有難いが、おいそれと情報を広めるべきではない。

パーク全体や外界に知れたら大混乱に陥る危険が高い。 それとカコや俺。 陽の光を浴びて生きていけなくなる事になるのは勘弁なり。

 

 

「ううん。 気にするわ」

 

 

とは、サーベルタイガー。

そうか。 そうだよなぁ。 気になっちゃうよな。 本能のウェイトが高いのもあるか。

でもね。 好奇心は猫をも殺す。 彼女を危険に晒すワケには……。

 

 

「こうして会えたもの。 困っている事があるなら助けたい」

 

 

結構、真面目に協力を申し出られた。 嬉しいと想う。 嬉しいのだが、これ以上ヒトに付き合うのも……。

 

 

「もっと貴方の事を、世界を知りたいの。 それに、友だちを助けたいと思うのは間違いじゃないでしょ?」

 

 

───郷愁を覚える。

けものフレンズ、か。 アニメの最終回を思い出した。

 

 

「あんじゅ。 いつか彼女も外に出る。 その時でも良い」

 

「それとも迷惑だったかしら?」

 

 

カコや、サーベルタイガーから追撃が。 うむ……ヒトの勝手に振り回されているんじゃと考えると、引け目を感じてしまうよ。

だけど友だちというワードを用いられてはな。 ココは意思を尊重するべきだ。 役に立ちたい、助けたいという気持ちは嘘じゃないハズなのだ。

会ったばかりのヒトに友だちというのも、フレンドリーが過ぎる気がするが。 互いの性格を把握してないから。

とはいえ、断る理由はない。 やんわりと受け取る、それが最善じゃないかな。

 

 

「迷惑じゃないよ。 じゃあ……なんだ。 その時は助けて欲しい」

 

「ええ。 喜んで」

 

 

ニコリとされた。 笑顔が眩しいね。

 

 

「たくさん、たくさんの事を知りたい。 今のパークを、島を。 外の事を、世界のことを。 だから必要なら守るわ。 このチカラは、きっとその為に与えられたから」

 

 

腰にあるサーベルの鞘をひと撫で。 それは大切な象徴だ。 おいそれと使うものじゃない。

だけど、必要とあらば使うだろう。 それはセルリアンか、それとも───。

所長とのやり取りの後からか。 どうにもネガティブな思考が抜けない。

だから言ってしまうのだ。 ヒトの世界は輝きだけではない。 その分、影があるコトを。

 

 

()()()()。 この世界には いるんだよ」

 

 

それは曖昧に。 だけど存在するナニか。

セルリアンだったり、或いは。

 

 

「え?」「あんじゅ」

 

 

そんな顔をするなよ……ふたりとも。

輝きを奪うつもりはない。 俺はな。

 

 

「…………セルリアンっていう危険な存在がいるのさ」

 

 

だから共通の敵の名を出して誤魔化した。 こんな時、セルリアンの名は便利だよね。

ヒトの世界でも、共通の敵がいるコトで纏まりがつく事がある。 学生の頃は……ああ。 俺が皆の敵だったのかも知れないな。 役に立てて光栄だ。 畜生共めが。

 

 

「ああ、セルリアン。 知ってます。 教えてもらいました。 写真も見ましたよ」

 

「そうか。 安心したよ」

 

 

その写真。 ヒトが写ってたりしません?

 

 

なら、間違えないな

 

 

万が一は、助けて貰えるかな。

或いは刺されるか。

いかんな。 俺は何を恐れているのだろう。 未来か、それとも けもの か。

いや……フレンズを悲しませること、失うことか。

 

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
サーベルタイガー
ネコ目ネコ科
剣歯虎(けんしこ)とも。 サーベルタイガーとは独自に発達した上顎犬歯が短刀状の大きな牙が特徴。 この牙を持つネコ科動物の総称。 大型動物を狩る為の武器として使用したと考えられる。
高速で追跡して獲物を捕らえるのは困難だったとされる。 その為、動きが比較的緩慢な大型動物を襲ったと考えられている。
牙は折れやすかったらしい。 それがフレンズ化した際に性格として現れているのか、持っているサーベルは、あくまで自衛の為であり、使えば自分も傷付くと考え、無闇にサーベルを振るう事はしない。

杏樹のメモ:
太古の けもの。 彼女もまた有名だと思う。 名にあるサーベルが大きな特徴。 フレンズの彼女は大人しくて優しく、仲良くしようとしてくれる。
その優しさは、きっと本物だ。 パークの皆とも仲良くなれるだろう。
…………ヒトとも、きっと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。