パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。 矛盾やミスあるかも……。

まだ所内回りは続くのじゃ。


未知と撮影と。

 

ジャイペンによるジャイペンの為な、ジャイペンだけじゃない話が終わった後。

普通なら信用に値しない単語や言動をやらかしてなお、カコは俺に対してソレ以上の言及はしなかった。

というか、出来なかった。 お見合いの時にするような言葉を、ジャイペンが投下したからだ。

なんだよ。 「末永くお幸せに」って。 唐突過ぎるだろ。 カコとは、その、そういう関係じゃない。 なりたいとは思うけど、その、こんな男だし。

その前にパークやフレンズの安全を守らねばならないし……。

そんなワケで。 荒ぶるカコを落ち着かせて、所内案内へと戻った。 気まずさはあるんだけどね。 いつか、俺の話をしようとは思うんだ。 やはり隠し事してるって気持ちが悪いじゃん? 相手も嫌じゃん?

 

 

「あー、いつか話すよ。 俺の話をさ」

 

「うん」

 

 

こんな短いやり取りを交わして、ソレ以上は言葉を交わさず、廊下を歩き続ける。

馴染みじゃなくても分かるが、この手のものは話たくないワケじゃないんだ。

お互いに何か話そうとはしているんだが、言葉が見つからない。 雰囲気の牢から脱獄するのは至難の業故の空気。 ツライさん。

こんな時こそ、若干KYなフレンズが居てくれれば場が和むんだがなぁ……。

都合良い時ばかり求めてるな俺。 いかん。 これは自分の問題、何とかしなきゃ。 何か……そう。 案内してもらってるんだから、それ関連の話をしよう。

 

 

「なあ」「ねぇ」

 

 

被った。 レディに譲ろう。

 

 

「どうぞ」「先に」

 

 

…………こんな時に息ピッタリ。 デジャヴすら感じるんだけど。 いや、前にもあったよ絶対に。

 

 

「ふふっ」

 

「お、おう」

 

 

カコが笑ってくれた。 良かった……妙な安心感を得たわ。

このままセルリアンに輝きを奪われたような神経で、所内を過ごしそうだったからね。

笑顔とは周りをポジティブにしてくれる。 特に大切なヒトのは。 俺も釣られて口角が上がったよ。 笑顔いちばん。

 

 

「───誰にでも、話せない事はある。 あんじゅが大丈夫な時に話して欲しい。 そ、その時は私も……話すから」

 

 

カコさんも何か隠し事があるのか。 柔らかな口調ながら、ほんのり朱が差してるんだけど。 研究所勤務だし、秘匿事項は多い。 その件ならば、それは仕方ない話だ。

話されたところで、俺にどうにか出来るか分からん。 努力はするが。

 

 

「分かったよ。 お互い、大丈夫な時にな」

 

 

曖昧な。 だけど温かい言葉と表情。

ハッキリしてなくても、心地良いものだった。 あるんだな、こんな事も。

 

 

「よし! 気を取り直していこうか。 次は誰を紹介してくれるんだ?」

 

 

明るく行こう。 道のりは長いんだから。

 

 

「仲間の研究員。 記録保存チーム」

 

 

記録保存チーム? それはまた……パークを記録するヒトたちか。

だとしたら、撮影された、記録された資料が遠い未来まで残ったりするのだろうか。

ひょっとしたら、かばんちゃんの代にも、遺っている資料があるかもな。 ボスのミライさんの映像みたいなの。

かつてあった、もうない輝きを未来に遺す。 寂しさと懐かしさ。 そこに何かの意味があるのかと問われれば、きっと、形作ってきたものを、当時の想いを忘れたくない、覚えていたいのからなのかも知れない。

それはアルバムを開いた時の感覚のひとつ。

俺の場合、開いても集合写真以外、無いか、あっても見切れており……。

うん。 やめよう。 それ以上はいけない。 ツライさんになってしまう。 過去の記録とは無いと悲しいが、あっても悲しい時がある。 俺の黒歴史は消せないが、思い出したくはない。

 

 

「どうしたの?」

 

「あー、いや。 紹介よろしくな」

 

「まかせて」

 

 

ボスかい? フラグなのかい? 声色は違うけども。

ボス……ふと蛇のフレンズに会いたくなった。 そして隠れんぼとか、楽しいんじゃないかな。

蛇に会うなら、キングコブラに会いたい。 アニメに出てきたからね。 そしてヒューッ! と言いたい。 最後は首を絞められ毒を注入され昇天する、しちゃうんかよ。

そんな感じに、しょーもない妄想をしていると。 いつのまにか部屋の一室までやって来ていた。

 

白い扉の前には、透明テープで貼られた画用紙が。 「UMA(ユーマ)探求!」とデカデカと手書きで書いてある。

はて。 この文面通りなら、ココはUMA探求クラブであり、映像保存チームの部屋じゃない。

というか、なんか、部活動の部活部屋みたいなノリになってる。 ここ、研究所だよね? チームは非公認クラブじゃないよね?

 

 

「仕事場のデスクで、会報書いてるヒトたち?」

 

「そんな事はないけど……何の話?」

 

 

カコさんにネタは通じなかった。 ワニキャップも通じなさそうだ。 いや、通じるか。 格好良いとか良いアイディアだと言われそう。 ミライは特に言いそう。 フレンズ相手ならウケるすらある。

そう思う俺のセンスはきっとオカシイのだろう。 或いは相手。

 

 

「失礼します」

 

 

俺を置いて行くように、ノックして入っていくカコさん。 ああ待って! 置いてかないで!

 

 

「お、お邪魔しまーす」

 

 

後続で入れば、小さな部室……じゃなくて研究室。 四方を囲むように並ぶ、天井までの本棚と、小さなディスクが真ん中。 誰かが座って一眼レフカメラを紐で首から下げる中年の痩せ男。 人相の良さそうな顔だ。

白衣ではなく、ラフな格好。 菜々たち飼育員の着るジャケットに近い。 モスグリーンじゃなくて、ブラウンだけども。

そこを基点にコの字を描く小さな折り畳み机とパイプ椅子。 ずいぶん簡易的だ。

ただし。 テーブルの上や周りは、ナニかの本や雑誌、崩れた書類の山で散乱状態。 ノートパソコンや、バインダーも転がる。 汚い。 研究に忙しくて こうなったのか。

 

 

「やあ、カコ博士! そして杏樹君だね! ようこそ記録保存チームへ! 今は私しかいないが……それに散らかっているが、ゆっくり語り合おうじゃーないか!」

 

「う、うっす」

 

 

そこそこの歳に見えて、超元気なヒトだな。 思わずたじろいちゃったよ。

 

 

「こちらは、ジャパリパークや外界の発掘現場など、様々な場所へ行って写真を撮っている方で───他のメンバーは?」

 

「探検隊や保安調査隊に同伴して、未踏の地へ旅立った。 或いは火山の調査だね。 アニマルガールやセルリアンに出くわせば、そちらの撮影も合わせているよ」

 

 

散らかっている部屋に、カコはナニも突っ込まず、普通に仕事の話をする。 これがカコの日常なのでしょーか。

そして俺、イキナリ置いてかれているんだけど。 寂しいんだけど。

なんだろ。 この世界に俺が存在してないって感じで悲しい。

カコはもう幼少の時みたいに、側にいる存在じゃないんだなって…………。

なんで職場違うんだよ。 よよよ。

いや、仕方ないんだけどね。 頭の出来具合もあるんで。 こうして、一緒にパークを歩けるだけでも幸せなんだろう。 そう思わなきゃな。

 

 

「まあ、それはソレとして。 杏樹君!」

 

「な、なんスか?」

 

 

沈んでいた思考からサルページ。 感謝はしない。

 

 

「手紙を皆で読んだんだがね! アレはどういう事だい!?」

 

 

うっ……クワッと責めてきた。 やはりか、他のヒトと会えば突っ込まれると覚悟していたつもりなのに。

こうしてやられると、悪い事をした気分になってしまう。 見た目がこんなヒトでもパークの為に日夜努力を重ねているのだ。

俺の妄想に振り回されていると思うと、とてもツライさんに……。

 

 

「ツチノコの事が僅かながらに書いてあったんだが! そこんとこ 詳しく頼む!」

 

 

違った。 勘違いだった。

 

 

「扉にUMA探求と書いてあったでしょ? UMAが好きなの。 けもの や自然の光景も好きだけど」

 

 

カコが、苦笑しながら耳元で説明してくれた。 ああ、うん……そうみたいですね。

やっぱ記録保存チームというか写真部の部長みたいというか、非公認クラブのUMA探求クラブじゃね、ココ。 来るとこ間違えたんじゃね。 合ってても名前を変えた方が良い。

そんな思いをつい知らず。 部長───もう部長で良いや───は、肘をテーブルに付き、両手を前に組んで語り始める。 深い思考のポーズですかね?

だけど俺の意図とは違う模様。

 

 

「世界には存在を主張、噂されていながら、学術的に確認されていない未確認動物、UMAがいる。 日本にもだ」

 

「そうなんじゃないッスかね」

 

 

…………ツチノコ捜索があった時、部長が絡んだんじゃないだろうか。 そんな気がしてきたぞ。

 

 

「絶滅種も分類される事があるが……パークでは、アニマルガールとして出会う事が出来る。 素敵な話だと思わんかね!?」

 

 

ワイもそう思います。 UMAやカミサマ、絶滅種のフレンズと出会える。 奇跡の仕組みは分からないが、スゴい話だ。

 

 

「あー、はい」

 

「そして未来の話で書いてあったツチノコという単語……アニマルガールとして、遺跡の調査をしているんだと!?」

 

 

喰いつくとこ、そこですか?

もっとこう……あるじゃん。 ヒトが消えて、建造物が遺跡扱いとか。

良いんだけどね。 興味を持ってくれる事はさ。 唾棄されてポイされるよりかは。

 

 

「俺が見た、その……予知夢的なヤツでは」

 

 

カコが隣にいる状態だけど、そう言っておく。 もう気不味い空気は脱したからね。

 

 

「ふむ! それもまたUMA的な話ではあるが、私も信じているぞ」

 

「……ども」

 

 

UMA的って。 喜んで良いのか微妙な事を言われたよ。

 

 

「前にツチノコ捜索の依頼を出した時は、残念ながら見つからなかったが、きっとパークにいると信じている」

 

 

遠い目をする部長。 やはりアンタが絡んでましたか……。

ツチノコはいるんだよ、フレンズとしてパークに。 でもフレンズだからこそ、見つけても報告はしなかった。 マッチョな森林警備員に論されてね。

だから「見つからなかった」と思っているんだろう。 悪い事をしたつもりはないが、少し申し訳ない気もする。 気がするだけだけど。

このヒトは悪いヒトではないだろうけど、どこからか情報が漏れてしまえば、ツチノコが本気でお尋ね者扱いになってしまう。

そうなれば、外の世界を怖がってしまうかも知れん。 この世代のあの子は、物静かで そういう騒ぎは嫌いだろうから。 だから避けれる、余計な情報は お口にチャックだ。

 

 

「まあまあ。 ツチノコ以外にもいるッスよね、UMAって」

 

「モチロンだとも!」

 

 

よしよし。 話を反らせた。 意外とチョロいかも知れん、この部長。

 

 

「リウキウ地方のシーサーは、カミサマのフレンズであったが……写真に収めさせてもらった」

 

 

そう言って、写真を引き出しから出してくる部長。 夏を思わす入道雲と綺麗な青空の下、堂々と笑顔で、左右に赤青のシーサーが写っている。 背景は石垣で囲まれた家屋……琉球建築の建物。

結構、彼女たちの格好は際どい格好をしていると思うんだが、写真を撮って良かったのだろうか。

知らんヒトが見たら、なんのグラビア的な写真かと思ってしまいそうである。 俺は知ってるけど。 知っててもシコい。 これ、後で焼き増ししてくれない?

 

 

「それからラッキービースト……ッ!」

 

「へ?」

 

 

何故にココでラッキーの名前が?

思わず変な声が出たが、落ち着いて前世の記憶を漁ってみると……なんとなーくだが、分かってきた。

アレだ、コンセプトデザイン的な話であった……気がする。

ラッキービーストは、アニメだとロボットであるが……ある設定ではパーク上空を飛んでいる姿を度々見かけられている、UMA的な存在だった……か?

見かけた時は、研究だとか成功する事が多かったとか。 故にラッキービースト。

レンズではなく、虹色の液体が入った小瓶を下げる。 パークのマスコットキャラみたいに。

なんか、そんな感じだった気がするな。 記憶が曖昧過ぎて、良く思い出せん……。

 

 

「当研究所でパークガイドロボットとして開発されているラッキービーストは……今は火山関連で開発中止になっているが、元はパーク上空で度々確認されていた謎の飛行物体がモデルだ! 恐らく 何らかの 生物であると考えられているが……私はUMAだと思っている! その撮影には成功、それを元にデザインされたのが今のラッキービーストだな!」

 

 

嬉々として、もう1枚の写真を出す部長。 見やれば、星空に浮かぶ、小さな青くて丸っこい何かが。 被写体は小さくブレてはいるものの、それがラッキービーストなんだなってのが分かる。

 

 

「ブレてしまったが、偶然にも撮影出来たのは僥倖であった。 だが、次に写す時はハッキリ写したいと考えている!」

 

 

嬉しさと熱意が伝わってくる。 やっぱ好きなんだなぁって思えるよ。 いつか凄い発見をするんじゃないだろうか、このヒト。

俺も釣られて笑みを浮かべ、頷いた。 年配になっても、その熱意。 感服の至り。

俺も歳とっても……そういった熱意を持てるだろうか。 人生楽しそうで羨ましいよ。

 

 

「他にも?」

 

 

だからか。 最初は変なテンションについていけなかったが、部長の物語を聞きたくなってしまうのは。

 

 

「ああ! 空飛ぶといえば……スカイフィッシュ!」

 

 

スカイフィッシュ、か。 聞いたことはあるな。 長い棒状の身体を持ち、空中を高速で移動するというUMA。

欧米ではフライング・ロッドとか、単にロッドと呼ばれたりするとか。

でも、夢のない話をすると、その存在は否定されている。 正体は昆虫とされ、その残像がそうだとか。 モーションブラー現象だっけか?

だがしかし……ジャパリパークには夢も奇跡もあるんだよ。

スカイフィッシュ。 前世の記憶通りなら、フレンズとして存在します。 喋れないっぽいけども。

 

 

「ゴロンドリナス洞窟に行けば或いは……とも、思ったが。 残念ながら私は見つけられなかった」

 

 

ナニそれ行動力の化身。 それを片付けの方向へ少し向けていただいても……いえ。 なんでもないです。

 

 

「だがジャパリパークでも、スカイフィッシュがいるらしい報告があってな。 私も それらしきものを撮影する事が出来た!」

 

 

そう言って、別の写真を見せてくる部長。 見てみたが……白いナニかがブレまくっている様にしか見えない。 アニマルどころか棒状のナニかにも見えなかった。

 

 

「これが……?」

 

「ああ。 やはりUMAは 一筋縄ではいかないな。 だがいつの日か、カメラに ハッキリ収めたいものだ」

 

 

この写真に写るものが、UMAかどうかは分からないが……浪漫のある話だ。 成功するかどうかは置いておいて、不思議と応援と期待をしたくなる。

UMAには、そこまで興味は無かったが、部長の話を聞いていると、こっちまでワクワクしてくるよ。

 

 

「おっと、UMAの話ばかりですまない。 私は普通に けもの や アニマルガールも好きだし、景色も好きだ。 だから、このパークや世界の風景、けもの の写真も撮っている。 生きとし生きるもの、その輝きを両の眼に、カメラのレンズに写したい。 そして後の世に、この時の感動や喜びを伝えたいからね」

 

 

おう……立派なヒトじゃないか。 眩しくて頭が下がります。

それに比べて俺は……いや。 頑張ろう。 何を頑張るのか分からんが、何かを考えて頑張る。 具体的には不明です。 UMA状態です。

 

 

「───杏樹君」

 

「は、はい?」

 

 

ここで微笑んだ顔を向けられて、

 

 

「君は…………我々人類が、UMAや絶滅種の様な状態の世界を知っていて。 そして、その世界の素晴らしさも知っているとして悩んでるとしたら……素直に、自分の心に従いなさい。 上手くいかなくても、それは自然の結果なのだ。 だから、未来や今を気に病む事はないよ」

 

「ッ!」

 

 

驚いた。 突然、そのような事を……。

その思考も、頭の隅ではあった。 アニメのように、職員が、ヒトのいない世界の方が良いんじゃないかと。

だけど、多くのヒトを、職員を見てきて、滅んで欲しくないとも。 矛盾した考えは、俺を無意識に苦しませたのだ。

このヒトは、そんな心境を見透かしていたかのよう。 伊達に生きてきていないという事か。 全く、恐れ入る。

 

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

こういう意味での理解者もいる。 俺の心は、足枷(あしかせ)は軽くなった。

味方。 いるじゃないか、ヒトの世界にも。 こういった、話をしてくれる方が。

カコも、こうなるのが分かっていたのか分からないけれど。 いんや、分かってやったのだろうな。 隣で ずっと聞いてくれていたし、今じゃ俺を見て微笑んでいるから。

 

 

「ところで」

 

 

と、部長。

 

 

「君もUMA探究クラブ……ごほん。 記録保存チームに入らないかい!? 臨時の手伝いとして募集するから、ぜひ一度!」

 

 

俺は脱力した。 感動を返せ。

やっぱUMA探究クラブじゃないか、ココ。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
ゴロンドリナス洞窟
メキシコにある地球最大級の縦穴洞窟。 直径55メートル、深さが約400メートルもあるんだって。 東京タワー(全高333メートル)がすっぽり入ってしまう。
薄暗く下の見えない洞窟に、スカイダイバーたちが飛び込む事でも有名らしいよ。
また、初めてスカイフィッシュの存在を発見した場所としても有名なんだって。

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