パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。

普通って何だろう。
戦闘描写が難しい……。


普通の戦闘?

 

奇跡か運命か。 幻の青虎、マルタタイガーのルターに出会い、普通を教えるべく行動を共にする事に。

とはいえ、口頭による説明は難しい。 ということでヒトのナワバリな都市部に行く事にしたのだが、

 

 

「キャー!」「格好良い!」「ドキドキしちゃう!」「素敵ッ!」「イケてるよね〜!」

 

 

ヒトや、都市部に出張ってるフレンズの注目を浴びた。 ルターが。

しまったなぁ。 こうなるコトを安易に予想出来たはずなのに。 相変わらず俺の軽率さには頭を抱える。 もう少し、賢く行動出来ないだろうかと。

 

 

「隣を歩いてるヤツ、誰よ」「知らん」「ナニ一緒に歩いてんですかねぇ」「モテないからって一緒にいるんしょ」「イケメンに失礼」「価値が下がるわ〜」

 

 

………………こうなる可能性もあっただろうにさ。 離れた俺にも聞こえるような高い声だから心にグサグサくるんだよね、言ってるのはヒトのパリピでゲバいビ●チばかりだが。

 

 

「あんじゅ君、すまない」

 

 

見よ、ビ●チどもが! 貴様ら面食いが騒いでいるイケメンなルター君を! 哀しげな顔を浮かべてるじゃないか!

ちったぁ自重しろよ。 連れて来た俺も悪いが、フレンズやヒトの気持ちを知らずに騒ぐんじゃない。 哀しんでいる顔すら絵になるから、余計に騒いでるけどさ。

 

 

「い、いや……大丈「哀しんでいるのは、あの隣の男の所為ね」「違いないわ!」「ああいう男って、側にいて自分が注目浴びてると思い込みたいのよね」「価値あるように見せたいだけなのよ」「違いない」「ハハハッ」…………おのれ」

 

 

ムカつく。 なんだよ価値がどうこうとか、勘違いしやがって。 事情を知らずに見た目だけで判断するヤツが騒ぐんじゃねぇよ。

俺から言わせれば、連中は皆でひとつを攻撃して一体感や共感を得たいだけ。 逆に集団から外れる恐怖を味わいたくないから、ああするのだ。 俺には分かる。

パークは守りたいが、コイツらは滅んで良い。 俺を殺した原因のひとつでもある。 連れて来た俺にも非があるが、これ以上ココにいても良い事はなさそうだ。

俺の寮部屋か森に移動しよう、直ちにだ。 キタキツネが社会勉強にと連れてかれたコンビニは、都市部のど真ん中なのでやめておく。

 

 

「これがヒトの"普通"なのかい?」

 

 

ルター君。 そんな今にも泣きそうな顔をしないでくれ。 それすらも美しいが、君は悪くない。 笑ってなさい、笑顔がいちばん。

それと、その普通は否定させていただく。 様々な普通があるが、俺にとって"アレ"は普通じゃない。 全俺が認めない。

 

 

「違う。 アレは一部だけ。 良いヒトはたくさん いるよ、俺と一緒にいた記録保存チームのおじさんとか」

 

 

あとは森林警備員のマッチョな隊長とか、管理センターの頼れる小動物とか。

けもの大好きで、ヨダレ振り撒く調査隊長兼ガイドのミライさんとか、服のセンスがなくて、知らないヒトには 少しオドオドしちゃう可愛い俺の幼馴染な研究員のカコとか。

みな、どこか変なトコはあるけれど、良いヒト達だ。 フレンズも良い子が多い。 こちらも癖があるけど。

 

 

「移動しよう」

 

「……分かったよ」

 

 

これ以上騒ぎになって、通報されても困る。 ルターも望むべくもないだろう。

ココよりマシな場所……ウチの寮も大概だが、そっちに向かおう。

そう思い移動しようとした矢先、

 

 

「むっ、あんじゅか?」

 

 

聞いたことのある声が。

振り返れば、ルターと似た姿、だけど神域の白き虎の子。

 

 

「ホワイトタイガー!」

 

「ああ。 久し振りだな」

 

 

そう。 かつてスーパーで出会い、当時はボッチであった彼女。

また都市部で会おうとは。 いやはや、友と会えるのは嬉しいね。

 

 

「共にいるのは、見たところ 我と同じ虎のアニマルガールのようだが……青いのだな」

 

「初めまして。 僕の名前はマルタタイガー、ルターで良いよ」

 

「ホワイトタイガーだ。 よろしく」

 

 

珍しい虎の子同士が笑顔で、それも招き猫ぐーで挨拶している奇跡。 あとスゴい可愛い。

てか、ルターも白虎も招き猫ぐーするんだな。 ギャップ萌えというか可愛い。 可愛いしかない。 お互いにドギマギする事もなく、純粋な笑顔を向けあう美しさもある。

 

 

「何やら騒がしかったから、様子を見に来たら あんじゅ とルターがいたという事だ」

 

「すまん。 俺の所為だ」

 

「いや、あんじゅ君は悪くないんだ」

 

 

俺とルター、互いに落ち込んだ声を出す。 なんだか、けもフレらしくないギスギス感があって嫌だなーと思う。 今更だけど。

ヒトがヒトである限り、そうなってしまうのだろうか。 理想と現実の差を思う度にツライと感じてしまう。

 

 

「ふむ……困り事なら友として、相談に乗ろう!」

 

 

どーん。 そんな気持ちを払拭する仁王立ちの白虎さん。 ドヤ顔ですらある。

友との交流が嬉しいらしい。 俺も嬉しいが、ソレを利用されて悪い事に巻き込まれなきゃ良いが……。

それを感じ取ってか。 白虎は嬉しそうに語り始めた。

 

 

「何、案ずるな。 キタキツネの別荘を建てる時も手伝ったし、ミツオシエのお願いも幾度となく解決してきた」

 

「そりゃあ……エラいな」

 

 

案ずる話が出て来たよ。 それ、良い様に利用されてるよ。 彼女は嬉しそうだからつっこまないけど、聞いてる俺の心境は複雑だ。

キタキツネの別荘の話は、漫画版であったヤツだろうな。 という事は、クロサイもいたのだろうか。

ミツオシエは……まあ、あの性格だ。 やはり駒扱いをしているだろうて。 どちらにせよ、会ったら説教垂れねば。

俺は職員として、何て言ってやろうか考えていると。 一緒に聞いていたルターが称賛の声を上げる。

 

 

「良い行いをしてきたんだね」

 

 

良い行い、ね。 そうだろうな、相手の役に立ったのだろうから。

でも頼んだ相手が悪意あるものなら、良くない。 そういう輩は後々面倒を起こすかも知れん。

 

 

「(きゅん)と、友として……普通のコトをやったまで」

 

「普通、か」

 

 

対して白虎は謙遜。 その割には虎の細長い尾を得意そうにユラユラ揺らしてるのが可愛い。

でも普通とはナニか。 ここはひとつ、彼女に相談して普通を見せて貰おう。

 

 

「早速相談があるんだけど」

 

「なんでも言ってくれ!」

 

 

うん? 今なんでもって……いや。 イヤラシイ事はお願いしないよ?

 

 

「ルターにホワイトタイガーなりの普通を教えて欲しい」

 

 

奇妙ともいえるお願い。 普通とは少し違うだろうホワイトタイガーだが、彼女も彼女なりの普通がある筈だ。

俺に言われた白虎は一瞬、キョトンとしたがルターを見て頷いて、

 

 

「普通、か。 分かった」

 

 

そう言ってくれた。 持つべきは心の友。 様々な視線や価値観からくる普通は、時として否定したくなるが、ルターの参考になればと思う。

ホワイトタイガーは、周囲のヒトや けもの を一瞥すると、言葉を続けた。

 

 

「ココから離れよう。 目立つからな」

 

「あぁ……そうだな」

 

「すまない、宜しく頼むよ」

 

 

青虎に白虎がいたら、そりゃ目立つ。 落ち着いて話す事もままならない。

 

 

「あれ、ホワイトタイガーは なんでまた都市部に?」

 

「ミツオシエにハチミツを買ってくるように頼まれていたのだ。 もう大丈夫だが」

 

 

聞いてみたら、悲しい理由だった。 あの子に会ったら やはり説教か。

白虎よ……もう武人なイメージが薄れてるよ。 パシリのフレンズと化してるよ。 友とはいえ反論して良いのよ?

 

 

「では森に行こう。 そこで普通を教授する」

 

 

ゆらゆらと 得意そうに揺れ続ける細長い尻尾。 けも耳も ピコっと動いている。

ボッチを脱して さぞ嬉しいのだろうが、悪い事に巻き込まれたら大変だ。 俺からも、俺なりの普通をフレンズに教授した方が良いかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森にて集られるは、複数の目を持つドギツイ色の物体。 ミカヅキモやその他の単細胞生物を模したと思われる形だが、大きさは犬猫サイズやヒト並み、それ以上のものとバラバラだ。

ただ、共通して目に見える球体の部位がいくつもあったりするなど、ヒトの生理的悪感を招くには十分な見た目をしている。 目だけに。

 

はい。 けもフレに出てくる謎多き共通の敵、セルリアンの登場です。

アニメの、ひとつ目オバケとは異なるカタチ……アプリ版の姿である。

 

それが20は下らぬ数で押し寄せてるのだから、気持ち悪いコトこの上ない。 いや、通り越して恐怖である。 見渡す限りソレだからだ。

草木で視界の悪い森であるが、色が大変目立っているので分かりやすい。 迷彩効果を発揮されて忍ばれるよりマシだが、堂々としているサマは恐怖心を上昇させるに至る。 意思疎通は無理なバケモノだしな、おいでよセルリアンの森。

 

 

これが我の普通だ

 

「ノーマルじゃなくね!? デンジャーなアブノーマルじゃね!?」

 

 

恐怖から思わず叫んでしまった。 サファリに住む フレンズや けもの は いつもこうなのか!?

ジャパリパークって、楽園な一方で厳しい環境でもある。 これはヒトだけでなく、けもの やフレンズにとってもだ。

パークの掟……自分の身は自分のチカラで守るコト。 アニメでカバがそんなコトを言っていたな。 セルリアンがいる時点で パーク運営時代から そういう状態なのだろう。 改めて思い知らされた。

 

 

「何を言っている。 千体組手と比べたら楽な方だぞ」

 

「お前がそう思うなら、そうなんだろう。 お前の中ではな!」

 

「戦いは望むべくでは無いのだけれどね」

 

 

俺とルターが嘆く。 今、我々は大ピンチなのだ。

千体って。 セルリアンって この世代に そんな大量にいるのか!?

小型一体だけでも、ヒトにとっては脅威なのに、そんな数にチョメチョメされたらベッドイン待った無し。

バケモノに犯されるなんてや〜よ!

 

 

「俺はヒトだぞ!? 森林警備隊長じゃないし、武器もナシに戦えん!」

 

 

俺が戦慄している間も、白虎と青虎は それぞれ臨戦状態へ。

白虎は武人のオーラが漂い始め、構えの姿勢に。 青虎は青薔薇を胸ポケットにさし、凛としてセルリアンの群れを見つめる。

 

 

「大丈夫だ あんじゅ。 見せるだけといったろう? 我が鍛錬を見て行くがよい!」

 

「僕も加勢しよう。 奇跡の獅子の名は伊達じゃないんだよ。 この名は好きじゃないんだけどね」

 

 

ヤダ……格好良い。 抱いて!

俺は両手で口元を押さえ、高まる気持ちを押さえつける。

この獅子たち、凄いやん。 惚れてまうやろと。 フレンズの中のフレンズ! ベストフレンズ。 とりあえず今は。

男が女に守られるというのも、何だかアレだが、身体能力の差がある。 ココは任せよう。

そう思った刹那、セルリアンがワッと我々をチョメチョメするべく飛びかかった!

あの姿形から、どうやって大地を移動しているのか分からないけど、とにかく気味の悪いバケモノは虎たちに一斉に襲いかかり───。

 

 

「ふっ!」「ッ!」

 

 

倒されていった。 セルリアンが。

虎の子による華麗な動き。 正拳突きであったり、洗練された回し蹴りであったり、流れ作業のように繰り出し消していく。

けもプラズムを輝き散らせる度、セルリアンは吹き飛び、怯み、その物体の何処かにある石を砕けさせ、破片の輝きで更に森を輝き尽くす。 それは白と青のイルミネーションを見ているかのよう。

 

 

「おおっ」

 

 

昼間だというのに、その美しさには眼を見張るものがある。

戦闘なんてとんでもないと思ってきたが、このような輝きもあるのだと評価した。 ギャラリーがいたら拍手喝采大喝采間違いなし。

 

 

「どうだルター! 我の普通は!」

 

「なるほど。 セルリアン組手……普通の道とは険しいんだね」

 

「普通はセルリアンの大群相手に組手なんてしねぇよ!」

 

 

ツッコミは入れないといけない。 でないと、ルターがあらぬ道に進みそうだ。 ナニをやっても輝けそうなのが また怖い。

そんなマヌケを混ぜつつ、虎はセルリアンを殲滅してしまった。 強き虎の前に散る最後の輝きは、どこか切ない……。

青虎と白虎も思うところがあるのか。 どこか憂いを帯びた表情になる。

 

 

「…………もう終わりか。 鍛錬が足りんな」

 

「言葉ではなく、行動で示すというやり方があるよ。 次から加減して逃せば良い鍛錬になるんじゃないかな?」

 

「ふむ。 次からは峰打ちでいこう」

 

ヤメロォ(建前)! ヤメロォ!!(本音)

 

 

とんでもないコトを言い始めやがったので、止めておく。 死の恐怖がなく、無差別攻撃をするかのような セルリアンにも「逃げる」コマンドはあるようだから、ダメだ。

女王事件の女王となったセルリアンも、元のセルリアンに戻ったとき、逃げたのだ。 それが ナニかのフラグになってパワーアップして戻って来たら大変だ。 稽古はしなくて良い。 セルリアン滅ぶべし慈悲はない。

 

 

「どうやら、我の普通はヒトの目には特殊のようだ」

 

「そうなのかい?」

 

「けもの から見ても特殊な方だろ!」

 

 

いかん。 相談相手をミスった気がするぞ。 他のフレンズを紹介してもらおう。

 

 

「次の普通を見よう。 ラーテルは どこだ?」

 

「ああ、ラーテルなら向こうにいると思うぞ」

 

「分かった、ありがとう」

 

 

白虎に教えて貰い、森の奥へとルターと共に進む。 ラーテルも癖があるけど、少しは普通だと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「束になっても怖くないぜ! かかってこいセルリアンッ!!

 

「ダメだこりゃ」

 

 

行けば早々、森に響く熱血少女、ラーテル魂の叫び。 モフりたいフサフサ尻尾を揺らしながら、集るセルリアンに雄叫びを上げながら、喧嘩殺法を繰り出していく。

 

 

「うおおおお!!」

 

 

走り抜くようにラリアット。 先制攻撃の素早い左ショートジャブからのリズム感あるワンツーストレート。 相手は砕ける。

その声と騒ぎに誘い出され、ホイホイ集まり続けるセルリアン。 俺とルターは とばっちりである。

 

 

「なるほど。 元気良く声を上げるのが普通なんだね」

 

「体育会系はダメだ! 腹黒ミツオシエ助けてくれッ! どうせ側にいるんだろ!?」

 

 

脳筋はアカン。 またもミスったコトを悟った俺は腹黒ちゃんに助けを求めた。 彼女なら助けてくれる…………俺は願いを込めた。

 

 

「腹黒じゃないです、ノドグロです!」

 

 

可愛らしい声が頭上で響く。 見上げれば木の上に小柄な女の子が座っていた。 やはりいたか。

して、スカートの中身は見えなかった。 残念。

 

 

「どっちでも合ってるだろ! それよりラーテルの脳筋を何とかしてくれよ!」

 

「ならないです。 でも、正直で真っ直ぐで良いじゃないですか」

 

「叫ぶのをやめさせてくれよ! セルリアンホイホイと化してるぞ彼女!」

 

「まあ、いつもの事ですし」

 

「なるほど。 ラーテルの普通も、組手なんだね」

 

「日常的に事故ってるだけだろ」

 

 

ツッコミつつも呆れる。 ルターがセルリアン組手を始めないと良いけれど。 パークの平和活動という意味なら、それもありがたい話だが、今は普通を教えなければ。

 

 

「でも、このままだと危ないね。 僕も加勢しよう」

 

 

そう言ってラーテルの元へ駆けていく青虎。 ヒトを凌ぐ速さと、その速度に乗った虎の拳により、セルリアンは瞬時に砕け散る。

石を狙わずとも突き抜けるような鋭い拳は威力が凄まじいらしい。 それとも、この時代のセルリアンはそうなのか?

 

 

「おおっ! ホワイトタイ……じゃないな。 誰だ?」

 

「マルタタイガー。 ルターで良いよ」

 

「そうか! ルターは強そうだな、ちょっとチカラ比べをするか!?」

 

「はははっ、今はセルリアンを倒そうか。 いっしょに、ね?」

 

「(きゅん)お、おう!」

 

 

ラーテルはブレないね。 個性的で良いことだけど。 でも普通とは違う気がする。

やがて、サクッと殲滅したラーテルと青虎。 再び森に静けが戻ってくると、ミツオシエが降りてきた。 なんか、企みの笑みを浮かべて。

ふむ…………揶揄うか。

 

 

「いやー、どうも こんにちはー!」

 

「おや。 君は?」

 

「ノドグロミツオシエです!」

 

「違うゾ。 腹黒ちゃんだゾ」

 

「違いますっ!」

 

 

小鳥にピーチクパーチク言われたが、可愛い囀りだね。 しししっ。

 

 

「こほん。 いやいや、大変でしたね、セルリアンが集まってきちゃって」

 

「お前、ナニもしてないじゃん」

 

「あんじゅさんだって、何もしてないじゃないですかっ!」

 

「俺はヒトだしぃ? 戦闘とか無理ゲー」

 

「私だってか弱いアニマルガールですっ!」

 

 

まあ、これは互いに仕方ない。 ヒトのチカラでセルリアンと肉弾戦とか無理だろう。

フレンズも、みんなが戦えるとは限らないからね。

 

 

「とにかく! お強いですねぇルターさん。 その強さを見込んで、ぜひ私のコマ……じゃなくて、私の友達に」

 

「ルター君、気をつけたまえ。 この腹黒ちゃんは、君を駒にするつもり故」

 

「そ、そそそ、そんなワケないじゃないですかヤダなもー!」

 

 

動揺してるんですがそれは。 分かりやすいのも、可愛らしい。 もう少し揶揄いたいね。 そそるナニかがある。

 

 

「コマ? コマって、紐で回して遊ぶ遊具の事かい?」

 

 

あら。 コマをご存知で。 かしこい。

そういや、蹴鞠とかサッカーとかボーリングとか知ってるんだっけ? 忘れたが。

どこで仕入れたのか分からないが、知識ある けもの は理解が早くて助かる。 ジャイペンみたいな、勘の良い子は別問題だが。

 

 

「そ、そうそう! それで一緒に遊んだり!」

 

「良いね。 なんだか普通っぽいよ」

 

「そうそう。 普通っぽい……うん?」

 

 

ここでナニかに気付く腹黒ちゃん。 おや、この場でイチバン賢そうな彼女だ、彼女の求めるモノに気づいたか?

 

 

「普通が良いんです?」

 

「うん。 僕は普通の女の子になりたいんだ」

 

「なるほど」

 

 

気付いちまったか。 だがしかし、腹黒ちゃんが真面目に良い子な普通を教える保証がない。 いちおう、止めずに話だけは聞いておく。

 

 

「なら、私の下僕……こほん。 私の手伝いをしてくれれば、普通が分かるかもですよ」

 

 

あっ。 ダメみたいですね。

 

 

「もう下僕っていってるし。 ルター、付き合うのは良いけど、お願いは 聞かない方が良いゾ」

 

「ええい! 話の腰を折るんじゃねーです!」

 

 

ピーチクパーチク可愛いなぁ。 でも、職員として少し小言を言わねば。

 

 

「折るついでに聞くけど。 ホワイトタイガーにハチミツ買わせたんだって?」

 

「ぎくっ……べ、別に喜んで やってるんですし、良いじゃないですか。 それに、私じゃ ヒトの群れには勝てないし」

 

「そーだなぁ。 まっ、別にお願いするのは良いさ。 でも、エスカレートし過ぎて、危険な目に合わせるなよ。 もし合わせたら」

 

「あ、合わせたら……?」

 

「さあ? どうなるかな。 ヒヒッ」

 

「ヒェッ」

 

 

あえて不鮮明に、黒く内容を隠して言う。 それからどの程度まで許されるかも不鮮明にしておく。 ナニされるか分からない恐怖。 下手に言うより効果的だろう。

因みに。 ナニか悪さをしたら擽りか、お尻ペンペンの刑に処す。 平和的だろ? 決して女の子のカラダに悪戯したいワケじゃない。

 

 

「だ、大丈夫ですって! あんじゅさん、心配し過ぎですぅ」

 

「あんじゅ君。 あまり友だちを怖がらせちゃダメだよ。 ミツオシエ、大丈夫かい?」

 

「(きゅん)だ、大丈夫ですよ! ちょっとした冗談の言い合いです」

 

 

おうふ。 ルターに微笑まれながら突っ込まれた。 いやいや、性別的には俺がツッコみたい。 変な意味で。 おっと、これ以上はいけない、話題を変えよう。

 

 

「すまん、冗談さ。 ところでラーテルは どこいった?」

 

「うーん? そういえば 珍しく大人しいですね。 いつも騒ぐから、何処にいるか分かりやすいんですが」

 

 

すっかり忘れていたラーテル。 辺りを見渡す。 草木で視界が悪い為、探し辛いが、そこは けものたちの出番。 ヒトより優れた能力が発揮される。

 

 

「空から探しましょうか?」

 

「それには及ばないよ。 匂いが近い……向こうだね」

 

 

とまあ、こんな具合である。 さすが。 戦闘能力のみならず。 こういう けもの成分もまた、魅力的だ。

ただしルターの場合、ヨツンヴァインなる事なく、さも花の匂いを嗅ぐかのような高貴な感じ。 何処までいっても、その貴族オーラは消えそうにない。 差別はしないけどね。

そうして、ルターの後をついて行くと。 草陰にラーテル発見。 なにやらしゃがみこんで、もくもくとナニかしている。 普段騒がしい子が大人しいと、逆に怖い。

 

 

「あっ、いたよ」

 

「ら、ラーテル? どうしたん?」

 

「ラーテルさん、何してるんですか……って!」

 

 

前に皆で回り込めば、そこには熊の、じゃなかった。 ラーテルさんがハチミツの瓶を抱えてペロペロ舐めていた。

口周りと手が、ハチミツでベトベトだ。 その状態で近寄るなよ。 絶対だぞ。 フリじゃないからな。

 

 

「よぉ。 一緒に舐めるか?」

 

「一緒に舐めるか、じゃないですよー! ホワイトタイガーさんをパシって……じゃなくて、買ってきて貰ったハチミツ! 殆どひとりで食べちゃってるじゃないですかっ!」

 

「そういえばそうか。 すまん」

 

「はははっ。 ラーテルは 食いしん坊なのかな」

 

「それもあるだろうが、脳筋がイチバンじゃね?」

 

 

セルリアンをボコした後、平和なヒトコマ。 個性的な子を相手にすると、大変な時もあるが、落ち着いて見れば可愛い子たちの光景だ。

ううむ……やはり、パークは良いところだ。 危ない事もあるし未来は不安だが、やれる事をやっていこう。

 

 

「これ以上は日が暮れて危ない。 そろそろ帰ろうか」

 

「そうだね。 いろんな普通を見れて、考えるキッカケになったよ」

 

「良かった」

 

「…………あんじゅ君。 ひょっとして、ワイルドに食べるのが普通かい?」

 

 

普通の道は、険しそうであるが。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
普通(ふつう)
いつでも、どこにでもあって、珍しくないこと。
他と変わらないこと。 特別ではなく、一般的であること。
その事柄が多くの事例に当てはまるさま。
いつもではないが、ほとんどそうであるさま。 たいてい。
等。

杏樹のメモ:
普通とはヒトによって異なる。 それは文化や生活環境の影響もある。
普通を求めたり、或いは求められるコトはヒトの世界にもあるが、万事共通の普通とはないものと考えている。
普通という言葉を連呼して他者を責める者がいる気がするが、フレンズは個性を大切にして欲しい。 十人十色。 皆それぞれ違う。 それで良い。 そこにも魅力があるのだから。

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