パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。

規模は予想より膨らんでいく。 それは希望か欲望か。


方針は少しづつ、されど外界をも巻き込み始める。

ルターと森で別れ、研究所に戻った俺。 取り敢えず報告をしなければ。

そんなワケで、記録保存チームの研究室に戻る事にした。 部長は既に戻っており、カメラを優雅(ゆうが)に弄っている。

おのれ。 ヒトに仕事を振っておいてからに……未来の為の作業をやってるんじゃないん?

 

 

「お帰り。 ()()は教えられたかい?」

 

「いや……知り合いのフレンズに協力してもらったんですが。 微妙ですね。 セルリアンにも襲われたし」

 

「そうか。 だが、参考にはなっただろう」

 

 

おい。 セルリアンに襲われた件はツッコミなしですか? ヒヤリハットってレベルじゃなくね? 口に出すと、また面倒になりそうなんでやめておくが。

 

 

「…………そうだと良いんですが。 変な事にならなきゃ良いんですけど」

 

 

脳筋フレンズの影響で、ルターまでああなったら嫌だなぁ。 いや、ルターなら何やっても絵になりそうだけど。

 

 

「では、この件は終わりかな。 杏樹(あんじゅ)君はカコ博士の元へ戻ると良い」

 

「分かりました」

 

 

ああ……やっと解放された気分。 ルターの将来は気になるが、今は前に進もう。

そう思いながらも、会釈(えしゃく)して部屋を後にする。 して、最初に入ったカコの研究室へと足を運んだ。 特に考えなく、普通に入ったのだが、

 

 

「………………お帰り

 

「ヒェッ」

 

 

冷やかな視線で、カコに迎え入れられた。 え、ナニ。 俺がナニしたってんだ。 ゴーホームなの? why?

 

 

「た、ただいまー。 あの、カコさん?」

 

「……なに?」

 

 

ヤバい。 これはキレてるとかキレてないとかじゃない。 キている。

視線だけでヤられそうだよ。 永久凍土に閉じ込められそうな冷たさだよ。 マンモスたすけて。

 

 

「そのぉ、ナニを怒ってるので?」

 

「怒ってない」

 

 

ウソだゾ。 絶対怒ってるゾ。 幼馴染である、俺は知っているんだ。

昔を思い出した。 本土でも似たような事があったなと。 アレは高校時代だったか。 菜々とミライと一緒にいて、カコが後から来た時だ。

仲間外れにしたワケじゃない。 カコ以外、時間より早く集まっちゃったから、少しダベっていただけである。 そうしたら今みたいな視線になった。 それも俺に対してのみ。

おかしい。 何故俺だけなのか。 俺がナニをしたというのだね。

あの時は、そう。 放課後、ふたりきりでけもトークしながら夜の動物園というイベントに参加したんだったかな。 交通費、入園費は全部俺持ちで。 カップル割引とやらで多少は安かったけど。 取り敢えず、その時はソレで機嫌を直してくれた。

だ、だから今回も似た手段で…………。

 

 

「この子…………だれ?」

 

「ッ!?」

 

 

スッと出されるは、1枚の写真。 ドラマの刑事さんがやるような、警察手帳の提示のように見せてくるソレ。

見やれば、俺とルターが笑顔で顔を向けあい並列しているモノだった。 側から見たら浮気現場を激写された、証拠写真。 良く撮れてると褒めて(呪って)やりたいところだ。

 

 

図ったな! 図ったな部長おおおお!!

 

 

研究室に木霊する俺の絶叫。 ヤツはとんでもないコトをしてくれました。 若者で遊ぶんじゃない。 そのうちパワハラという事で訴えてやろうか!?

 

 

「ねぇ……だれ?」

 

 

そんな俺に反して、絶対零度の視線を向けてくるカコ。 くっ、コイツ目が絶滅種の子たちみたいになってやがる……!

いや、この子は俺の知るカコじゃない。 カコみたいなナニかだ。 血をも凍らせる雪女だ。 ゆきやまちほーにお帰り。 うん、冗談言ってる場合じゃない。

 

 

「ち、違うんだ! これは偶然出会った……そう! 友だちだ!」

 

 

なんで浮気がバレた男の言い訳みたいになってるんですかねぇ? でも事実なんだ信じて。

 

 

「記録保存チームのヒトと、虎を探したついで、マルタタイガーを探すことになってね! そしたら運良く見つかったのさ!」

 

「運良すぎじゃない?」

 

「いえすまむ!?」

 

 

もうダメ。 カコが、ひとこと言う度にちびりそうになる。 なんでこんな怖いんだよ。 よよよ。

それは、カコを想ってるコトの裏返しか? この緊張感は好意からくるもの? はっ。 これが恋ですか。 いや違うだろ。 違うと言ってくれ。

俺がドギマギしていると。 カコがスッと寄ってきて耳元でネットリと呟いてくる。 息が耳に当たって擽ったくも恐ろしい。 それは心を直接冷やすかの如く。

 

 

ふたりで お話しよ?

 

「ヒィッ!?」

 

 

ナニしようというのだね!

俺は恐怖で涙が出そうになるのを必死に堪えながら、ふたり向かい合って座ることになった。

ああ……パークライフの危機なのだ!

 

 

「マルタタイガー。 幻の青虎。 約100年前に報告があったという」

 

「あ、ああ。 記録保存チームにも聞いたよ」

 

「管理リストにも、動植物搬入出記録にもない。 観察記録にも、この手の記録はない」

 

 

ナニか。 そんな膨大であろう記録をもカコは知っているの? だとしたら恐ろしい子!

いや、たぶん検索結果とかだろうけど。 全部は覚えられないだろ常考。

 

 

「そりゃ無いだろ。 あ、或いは意図的に隠しているとか」

 

「あんじゅみたいに?」

 

 

怖い。 怖いよカコ。 それと、それじゃまるで隠して……隠していたな。 転生の話とか。 それとツチノコの存在。

 

 

「でも青虎の件は、その、隠すつもりはなかったぞ?」

 

「ホント?」

 

「ホントホント! 住んでる場所も分かったから、今度紹介するから!」

 

 

そういうと、表情が一転。パッと明るくなる我が馴染み。

ああ、そういう……ケモナーめ。

 

 

「分かった。 許す」

 

 

ナニに対してだい? why? けものさんと仲良くしていた件?

嫉妬深いんだか、愛に溢れてるんだか分からない。 でも、男として。 異性としては けもの だけじゃなくて俺にもその……好意を寄せて欲しい。

それとルターは、見た目も性格もイケメンだ。 そんな子にカコが惚れてしまわないだろうか。 ないか。 ないと言ってくれ。

仲良く腕組みをする図が頭に浮かんできたら、イライラしてきたぞ。 紹介したくなくなってきた。 でも紹介する、これ以上凍えたくないんで。

でもさ。 ちょっとは、その。 カコにも意識して貰いたくて、俺は変な話をしてしまうのだった。

 

 

「あー。 マルタタイガーは、ルターって愛称で呼んでるけど……イケメン系のアニマルガールなんだ」

 

「うん。 写真を見る限り綺麗(きれい)

 

「カコは、その、()()()()()が好き?」

 

「えっ!?」

 

 

好奇心と恐怖心が混ざった声で聞く。 カコには驚かれた声を出されたが、コレは個人的に重要なので。

周りには、フレンズを含むと多くの女性で溢れている。 みんな美人だ。 下品な表現だが、幾度となく欲情したと言って良い。

だけど一線を越えるワケにはいかぬ。 俺にはカコがいるのだ。 個人の貞操観念かも知れないが、つまりそう。

まあその。 ビビりってのもある。

でもカコが俺に興味なかったら、悲しいワケだ。 俺の一方的な片想い。 それって虚しいじゃん。 だから、興味を持ってくれるように、カコの好みになるように聞いてみたが、

 

 

「そ、その……マルタタイガーは アニマルガールで。 女の子だから」

 

 

誤魔化された。 少し攻めないとダメか。

 

 

「いやいや。 男の好みの話だよ」

 

「も、もう この話は終わり! 今後の話をする!」

 

 

赤面されつつ強制終了。 真面目な話にシフトチェンジされては、これ以上は踏み込めないか。

カコの好みは気になるが諦めよう。 取り敢えず未来の話だ。

 

 

「分かったよ。 研究やパークの方針かな」

 

「そう」

 

 

言いつつ、机のバインダーを掴んで言葉を続けていくカコ。 今度は真面目な表情。 仕事モード。 コロコロ変わる様は、見ていて楽しいが、今は真面目に聞こう。

 

 

「ジャパリパーク動物研究所のリソースは、あんじゅの言う未来に備えて割いていく。 上の許可は得てあるから大丈夫。 それから、ココだけじゃ無理があるから、他の研究所や関連施設にも協力して貰う事になった。 本土や大陸からも応援が来る」

 

 

え、マジで!?

驚いた。 俺が思ってるより、話は膨れている。 パークだけでなく外界まで及んでいるとは。 好転するのは良いが、逆にいきすぎて怖い。

 

 

「そこまで俺の話を信じてくれるのか?」

 

「少し、話を曲げている。 たぶん、そのままじゃ信じてくれるヒトは少ないから」

 

「ああ……それは仕方ないか」

 

 

未来予知だのなんだの、信じるヒトは少ないだろうからな。 特に外界は。

そこは機転を利かせてくれたカコたちに感謝だな。 もっと言えば、上手く丸め込んでくれたのだろう。 交渉術が高いヒトがいたのだろうか?

そんな疑問に答えるように、カコは続けた。

 

 

「管理センターの友人*1が良くしてくれたの」

 

 

でた。 管理センターの友人。

いったい何者なのだ。 面倒見が良い。 畑違えど無条件の信用を置いてくれる。 何より、自身の仕事ではなさそうなのに、助けようと手を差し伸べるとは……。

そういう善人がいると知るだけで、心が救われた気持ちになるね。

でも、なんだか 知っている人物な気がするのだが……気の所為か?

 

 

「そうか。 味方が心強いな」

 

「うん。 後は調査隊からの報告や資料を元に動く。 セルリウムや、サンドスター・ロウの浄化装置(フィルター)の開発も進める」

 

 

頑張れ。 俺はスキルがないから応援だけしておく。 本当に他力本願で申し訳ないが、とりま希望が湧いてきた。

後は、上手くいくコトを願うしかない。

 

 

「また進展があったら連絡する。 今日はここまで」

 

「俺に出来る事は?」

 

「ある」

 

「それは?」

 

「ルターを紹介して」

 

「あっ、ハイ」

 

 

また、それぞれの仕事(日常)に戻るのか。 いや、今はそうするしかないか。

 

*1
背が低い女性。 一部からは小動物とも。




あーかいぶ:(当作品設定等)
外界(がいかい)
外の世界。 物理的、社会的になど。
ここではパークの外のこと。 フレンズはサンドスターによる けものプラズム体を維持出来なくなり、そのまま島を離れてしまうと けもの に戻ってしまう。

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