パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。

事件発生。


パーク・セントラル事件
発生


それは前触れもない、台風や土砂降りのような災害であった。

突如として、島を丸ごと動物園とした超巨大総合動物園《ジャパリパーク》に来園する お客さんの玄関口《パーク・セントラル》が謎多き敵《セルリアン》に襲われたのだ。

後に《パーク・セントラル事件》と呼ばれる大きな事件の発生。 アプリ版へと繋がる転機。

時期は分からずとも、来る事は予想出来た。

 

でもさ、早すぎじゃね?

 

それが俺の感想。

何故なら漫画版は約1年を描いていたようだから。 世代交代の話も聞かない。 もう少し余裕があって良かった筈なのだ。

 

 

「くそっ、セルリアンめ! もう少し待って良いだろ!」

 

 

だが起きてしまったものは仕方ない。 起きた事に対して最善を尽くさねば。

俺は悪態をつきながらも、ニホンオオカミと共に走る。

鳴り響くサイレンの中。 多くのお客さんと職員、フレンズが港側へと避難していく一方で、俺と相棒のニホンオオカミは波に逆らって逆方向へと進んでいた。

目的地はジャパリパーク動物研究所。 俺の幼馴染、カコが勤める場所。 俺はそこに走って向かっている。 車なんて無いからね。

前世の浅い記憶をアテにするならば、この事件の際にカコは、セルリアンに襲われてしまうからだ。

結果、カコは輝きを奪われ昏睡状態。 事件収束まで目を覚まさない。

また、奪われた輝きから《セルリアン女王事件》へと発展。 全ての輝きが奪われそうになるという、パークの危機に。

しかし。 園長と後々呼ばれる英雄やミライ、第2世代サーバル一行の活躍によって、事件は収束。 つまり、放置しても野郎とフレンズが解決するのだが、

 

 

「カコはッ! 俺がッ! 守るッ!」

 

 

大切な幼馴染を、放置出来ないよなぁ?

 

セルリアンにチョメチョメされるなんて、歴史が許しても俺がゆ"る"さ"ん"!

なんなら俺も混ぜろ。 違った、そういう問題じゃない。

緊急事態なのにアホな思考をしながら走りつつ、気が付いたら研究所前まで来ていた。 我ながら緊張感なさ過ぎである。

 

 

「セルリアンの匂いが いっぱい する!」

 

「早くね!?」

 

 

ここに来て、ニホンオオカミが悪い情報を教えてくれた。

前を見やれば、白衣を着たヒト達が書類やらバックやらを乱雑に抱えて外に飛び出しているではないか。

セルリアンは確認出来ないが様子からして、セルリアンが中にいるということ。 して、白衣の中にカコの姿は見当たらない。

これはマズイ。 そう思って、すぐにでも突撃しようと思っていると。

 

 

「ああ! 杏樹さん!」

 

 

俺を見つけた知り合いの警備員が叫ぶ。 手に持つ警棒が心許ない。

 

 

「突然セルリアンがっ!?」

 

「見りゃ分かります。 貴方は警備してたんでしょ。 みすみす通したんで?」

 

 

緊急事態に興奮しているのと、上手くない状況へのイラつきで、辛く当たってしまう俺。

相手の努力や苦労を知らない、言葉が過ぎるものだ。 自覚はある。 だけどヒトも生き物である。 感情の完全制御は効かない。

 

 

「裏から侵入されたんです! それと、相手は大群。 警報するので一杯です、ひとりじゃ無理だったんですよッ!」

 

「もういい分かりました。 カコ博士は見ましたか?」

 

「い、いえ。 見てません。 皆と一緒に避難したかと思いますが」

 

 

狼狽しながらも、曖昧に答える警備員。 ホンマつっかえ……いや、仕方ないね。 緊急事態である。 バケモノが襲って来て冷静でいられる方が変だろう。

研究員の数も、中にいたフレンズの数も、結構多い。 格好も白衣、似たり寄ったり。 いちおう、カコはパリ●リバー、縞々の尻尾な髪飾りをしているが、混乱の中では意識しないと見つけられないだろう。

それと警備員の話はアテには出来ない。 アプリ版のミライの話的に、避難はスムーズだったそうだが、カコは襲われた。 一体、ナニしてたんだろうか。

 

 

「まさか、けもの病院か?」

 

 

ふと思い出す。 第2世代サーバルとなる(筈だった)、脚を骨折した けものサーバルを。

アプリ版のサーバルの話だと、励ましてくれたヒトがいたらしいが……たぶん、カコの事だったのでは?

だとしたら、カコは病院なんじゃね? 研究所に来た俺は無駄足じゃん。

悩んでるヒマはないというのに……どうすれば。 そんな時、警備員と隣のニホンオオカミがヒントをくれた。

 

 

「カコ博士は研究所から出ていない筈です。 記録にはありませんから」

 

「あんじゅ! 電話通じない?」

 

「はっ!? その手があったわ」

 

 

ここに来て、文明の利器の存在を忘れていた。 それを賢さは劣ると内心思っていたニホンオオカミに指摘される恥ずかしさ。

コノハ博士やミミちゃん助手が聞いたら罵倒されそうである、して喜んじゃう、喜んじゃうのかよ。

だが恥じるのは後でもできる。 慌ててスマホを取り出し、電話帳からカコを選択。 数秒のコールの後。

 

 

『ただいま、大変混み合っております───』

 

「ダメだ、パンクしてる」

 

 

しまった。 そりゃパンクしていてもおかしくないわ。

諦めてスマホを仕舞う他ない。 たぶん、お客さんや職員が一斉に電話してるのだろう。 家族や仲間に安否確認で。

緊急事態なので、焦る気持ちはある。 だが仕方ない。 都合良くいかないものだ。

繰り返しコールする暇もない。 研究所にいるとしても、何処にいるか分からない現状、ココは突撃するしかない。

 

 

「ぱんく?」

 

「みんな電話してて、繋がらないんだ。 とにかく、中に入る。 俺は戦えん、ニホンオオカミが頼りだ、付いて来てくれ!」

 

「分かった!」

 

「杏樹さん! 無茶です、危険です! 中はセルリアンが侵入してるんですよ!」

 

 

警備員に止められた。 そんなの知ってる、でもココで何もしなかったら後悔しかない。

 

 

「大事な馴染みが取り残されてるかも知れないんで」

 

「避難してる可能性もあります! 今は身の安全を優先して下さい!」

 

 

もっともである。 助けに行ったら、自身も被害に遭うなんて よく聞く話だ。

だが今回、命綱を連れて来た。 ココは信じて突撃だ。

 

 

()()()()がいるんで大丈夫です」

 

 

そう言って、俺は所内へと走り出す。 背後からの制止の声も聞かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所内に入れば、喧しい警報音。 偶に聞こえる破壊音。 ヒトより聴力が良いであろう、ニホンオオカミはしかめっ面。

すまない。 だが我慢してくれ。 カコを探さなきゃならないんだ。

 

 

「匂いは?」

 

「する! こっち!」

 

 

そういって、先行してくれるニホンオオカミ。 俺は後に続く。

助かる、俺だけでは何も出来なかっただろう。

戦闘は前提としていないとはいえ、ヒトの目での捜索は困難だ。 時間が掛かる分、セルリアンに出会すだけでなく、カコがチョメチョメされる危険も高まる。

その点、ニホンオオカミはヒトより嗅覚が優れるし、たぶん戦闘もこなせる。 なにより研究所は元々彼女がいた場所でもあるから、頼りになる。

 

 

「ココ!」

 

 

そうしてセルリアンに会うことなく辿り着いた場所。 それは……。

 

 

「カコの研究室じゃないか」

 

 

とある扉の前に辿り着く。 側面のネームプレートには『カコ』の文字。

研究所に来て、色々話した場所でもある。

なんでココに……?

まさか警報や騒ぎに気付かないなんて事はあるまい。 仲間の研究員だっているのだ、声掛けだってある筈。

ましてやカコは副所長。 放置は出来ない…………いや、ヒトは緊急事態の際、本質を露わにする。 身の可愛さを優先して、他人に構わず蜘蛛の子を散らすようにフレンズや他を見捨てて逃げた可能性はある。

そうだとしたらヒトは……それがヒトだとしてもやはり……。

 

 

「考えるのは後だ!」

 

 

ネガティブ思考に溺れる自身に一喝。 今は今すべき事を為す。 為さねばならない。

俺は扉に体当たりするように勢い良く開けようとするも、

 

 

「あ、開かない!?」

 

 

ドアノブが回らない。 押しても引いても開かないときた。

内側からロックが? でもこの騒ぎだぞ?

怖くて出られないとか。 いや、そんなコトは……。

 

 

「おい! おいカコ、俺だ! 杏樹だ! いるなら返事くれ!」

 

 

ドアを乱暴にノックするも、声は返ってこない。 逆に返ってきたのはガタタッという物が崩れる音。

やはり「いる」。 それがカコかは分からないが、カコだと信じる。

 

 

「セルリアンが! セルリアンが来たよ!」

 

 

ニホンオオカミが吼えた。 振り向けば、廊下の空間を埋めるようにせまる大型のセルリアンが。

赤く、頭部はプテラノドンみたいなシルエット。 アプリに出て来たセルリアン、アカガウだっけか?

狭い廊下を抉るようにソイツは、遅く、だけど確実に。 俺を喰おうと、身をくねらせ攻めに来た。

 

 

「くそっ!?」

 

 

焦る気持ちが色濃くなり、比例してドアを乱暴に叩いた。

猶予がない。 赤点頭でも分かる結論。

ニホンオオカミに任せようと思ったが、戦闘経験は たぶんない。 ほぼ都市部暮らしの都会っ子なのだ。

例え戦えても、初陣で大型セルリアンは無茶だ。 ならば。

 

 

「おいカコ! ヤバイんだよ、いんなら早く出てきてくれ───ニホンオオカミィッ!」

 

「な、なに!?」

 

 

ダメだ。

俺は判断を変えた。 ココで開くかも分からない扉と相撲して喰われるくらいならばと。

俺は扉から離れて───。

 

 

「この扉! ぶっ壊せぇッ!

 

 

乱暴に、そう叫ぶ。

押してダメなら引いてみろ。 それもダメならと。

そして言った刹那。 ニホンオオカミは疑問や抗議の声を上げる事もなく、逡巡なく腕を白く輝かせて、鉄製扉に振り下ろした。

 

 

ドカァンッ!!

 

 

大きな音。 へしゃげる鉄扉。 部屋内に吹き飛ぶドアだったもの。

フレンズのパワーと不思議に驚かされつつも、俺は言う。

 

 

「良くやった!」

 

 

言いつつも、中へと入っていく。 撫でくりまわす余裕がない。 今はカコだ。

 

 

「いるのか!?」

 

 

研究室内を見渡す。 散乱した紙片の中に、カコが女の子座りで震えていた。 なんだ、いるじゃないか。

手には()()()()()()()()()。 何か。 研究中に警報を聞いて、ビビって動けなくなったのか?

 

 

「…………あ、あんじゅ」

 

 

震え声で呼ばれる。 怖い想いをさせて悪かったが、緊急事態だ。 今は逃げねば。

 

 

「何してたんだよ。 すぐ逃げるぞ!」

 

 

手を取り、無理やり立たせる。 震えている様子はない。 自力で歩けそうだ。

俺は引っ張るように廊下に連れ出した。 アカガウは通路に引っかかったのか、あまり進んでいない。 口を大きくバクバク開閉しているサマは恐ろしいが。 リアルパック●ンかな?

 

 

「行け行け!」

 

「うん!」

 

「カコ、歩けるな!?」

 

「だ、大丈夫」

 

「よし」

 

 

ニホンオオカミを先行させ、俺はカコの手を取り、早歩きで出口を目指す。

だが走りたい衝動をグッと堪える。 曲がり角でセルリアンと運命のゴッツンコなんて味わいたくないんでね。

 

 

「ま、前!」

 

 

だけどタイミングが合わずとも都合が悪い事もある。 ニホンオオカミが吠えたので、前方に注視すると、そこにはセルリアンの群れが。

 

 

「さっきまでいなかったろ……ッ!」

 

 

ヌッとエントランスに集まっているときた。 出口は群れの先。 突破は無理か。 ドギツイ色で目がチカチカするまである。

受付カウンターの上には、そら豆みたいな形のセルリアン。 コチラに気付くと、ピョイと飛び降りて向かってきた。 どこに足があるのか、どうやって動いているのか、ホント謎。

しかしなんだ……コイツか? 正史でカコを喰いやがり、女王にまで成長したヤツは。

 

 

「下がって!」

 

「頼む!」

 

 

ニホンオオカミが唸り声を上げて、セルリアンと対峙する。 直ぐに飛び掛かり、ドッタンバッタンと埃を立てる。

ところが戦闘に不慣れだからか、中々倒せない。 そうこうしている間に、他のセルリアンが集まってきてしまった。

 

 

「下がれ! エントランスは諦める!」

 

「ウゥ……分かった」

 

「カコ、他の道、非常口は!?」

 

「さ、さっきの道と……逆」

 

「悩む暇はない。 行こう!」

 

 

そう踵を返して───。

 

 

「ッ!?」

 

 

アカガウが見下ろしていた。 いつの間にか追い付いてきたらしい。

この警報とセルリアンの数だ。 ニホンオオカミも音や匂いでピンポイントに分からなかったのだろう。

 

 

「ハハ………………マジかよ」

 

「───あ」

 

 

カコの、なんとか声に出た、恐怖ではない、諦観の声が聞こえ。

大口が、闇が迫り───。

 

 

逃げてッ!!

 

 

ニホンオオカミの悲痛な叫びが木霊する。 それらは距離から間に合わないと本能が察してからくるものか。

なんにせよ、俺も本能からか。 カコを守らねばとほぼ無意識にも、カコをこの場から撥ねとばす。 刹那。

 

 

 

バクンッッ!!

 

 

 

そんな音と共に、俺の意識は闇の中へと消えていった……。

 

最後に。 どこか遠くでカコとニホンオオカミの叫び声が聞こえた気がしたが、それをしっかり感じる余力は、既になかった。


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