パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。 違和感あるかも……。

病院から外の都市部へ。 大切なムスコを失うも、前に進む……。


女になっても前進あるのみ。

 

超常物質サンドスターは、元がオスでもフレンズ化の際に容赦なく女の子にしてしまう。

その理由や仕組みは全くの謎であり、身体の構造は、ケモ耳や尻尾がありながら、ヒトの女の子のソレだという。

しかも可愛い。 元の特徴や魅力を引き継ぎつつ、スゲェ美人な子ばかりだ。

けもの好き じゃなくても、健全な男ならば そのエロボディに興奮してムラムラ発情してしまうのも仕方ないのである。

 

 

「…………」

 

 

さて。 その話を前提に進めていこう。

俺は洗面台の、鏡の前に立っている。 写るは美しさと可愛さを併せ持つ美女。 誰しも羨み、貢ぎ、蝶よ花よと可愛いがられそうな子だ。

ケモ耳や尻尾はないが形の良い胸の膨らみ、整った顔立ち。 ショートヘアの髪の長さも綺麗に整っており、肌はきめ細やかだ。

 

 

「…………」

 

 

俺が片手を上げると。 彼女も上げる。 手を振ると彼女も振る。 愛想笑いをすれば同様に笑った。

これだけで堕ちる男はアッサリ堕ちる。 少なくとも前までの俺だったらそうだった。 そう、前までは。

今、目の前の美女を前にしても興奮しなければ発情もない。 代わりに起きるは虚しさと喪失感。

だってさぁ……ナニもないんだぞ?

それから この、鏡に写るの……俺自身なんだぜ?

 

 

「自分に欲情はしないんやなって」

 

 

絶滅種の子たちのように、目のハイライトを消す美女。 大切なムスコを、相棒を、穢れたバベルの塔を失ったのだ。

挙句、ご覧の通り女の子にされた、仕方あるまい。

共に来たる日に備えて戦支度していたというのに。 突如として、希望は奪われた。

その名はセルリアン。 ヤツはとんでもないモノを盗んでいきました。 俺のムスコです。

世界広しといえども、セルリアンに チ●コを奪われて女の子にされたヒトなんて俺くらいだろうなぁ。 ケッ。

 

 

「生きる意味を……失う」

 

 

ボヤきの言葉すら可愛い女の子。 もうやだお嫁にいけない。 間違えた、お婿にいけない。

フラフラした足取りのまま、俺は女子トイレから離脱。 中で着替えは済ませたが、その精神力はガリガリと削れまくっている。

こんな調子で事件の渦中に飛び込めるのか。 不安しかない。

 

 

「どうだった?」

 

「あんじゅ?」

 

 

入り口で見張ってくれていたカコに声を掛けられた。 隣にはニホンオオカミも一緒。

こうして貰えないと、安心して便所にも入れない。 女々しい。 情けない。

 

 

「どうもナニも無いよ。 あぁ……まさかブラジャーまで着用しようとは。 生まれて初めてだよ」

 

「……えっと。 パークの外に出れば元に戻ると思うから。 大丈夫」

 

「そうは言うがな。 この事件が解決するまでは、本土との行き来が難しいだろ」

 

「……そうね」

 

「解決まで我慢するよ」

 

 

カコの言う通り。 サンドスターだかセルリウムだかの影響で女の子にされたならば、その影響がないであろう島の外へ脱出すれば直る……はず。

だがしかし。 事件中は舟が自由に行き来出来ない。 そりゃそうだ。 危険な島においそれと接近する機会は減らしたいだろう。

救助船を呼んで脱出は出来ても、戻るのは困難。 戻ろうなんてとんでもないと止められそう。

そうなると事件を見届けられない。 それは困る。 知らないところでヤバイ事が起きても嫌だし。 だから、うん。 女の子のカラダで我慢する。

そんな心境を察してか否か。 ニホンオオカミがフォローしてくれた。 快活な子どものような、純粋な笑顔と言葉で。

 

 

「女の子になってもあんじゅに変わりないし、匂いもいっしょ! 私は気にしないよ!」

 

「ニホンオオカミ……ッ!」

 

 

嬉しい事言ってくれるじゃないの。 そう思い撫でくりまわそうとしたら、

 

 

「それに今のあんじゅ、可愛いし綺麗だし素敵だし! フレンズにもヒトにも人気出ると思うよ!」

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

上げて落とされた気分になった。 悪意がないのは分かるんだけどさぁ……がっくしと床に膝をついてしまった。

男としては、それは喜べないの。 いや、喜ぶヒトもいるかもだが、俺はダメだった。

 

 

「あんじゅ?」

 

「ま、まあまあ。 直る可能性の方が高いと思うから。 私も……戻って欲しいし」

 

「えっ?」

 

「何でもない。 落ち込まないで、ね?」

 

「…………おっ、そうだな」

 

 

カコの言う通り。 今は悲観している場合ではない。 今後を考えよう。

そう思い、再び立ち上がる。 揺れる胸の鬱陶しさを感じるも、今は胸囲以上の脅威に立ち向かわねばならない。

 

 

「先ずは管理センターと連絡を取る。 それから今後を考えよう」

 

「分かった。 私は、やる事を済ませる」

 

 

やる事?

なんだろう。 こんな状況下でか?

 

 

「ひとりじゃ危ないぞ、一緒にいようか?」

 

「大丈夫。 あんじゅは、あんじゅにしか出来ない事をやって」

 

「お、おう」

 

 

真っ直ぐな眼差しで言われ、思わず下がってしまう。 くっ。 これも女体化の影響か。 違うか、元からか。

だけど心配だなぁ。 せっかく助けたのに、セルリアンに襲われでもしたら、ムスコの犠牲も無駄になるじゃない。

ここはやはり、護衛が必要。 俺にはお見せ出来ないならばフレンズに助けてもらおうか。

 

 

「ニホンオオカミ、カコを守ってあげて」

 

「えっ? でもあんじゅは?」

 

 

さすがに首を傾げられた。 俺を守ると言っていた護衛をカコに回す。 彼女の心境や複雑だろう。

それをやらかす俺。 結構ヒドい。 でもほら、カコが心配じゃん。 もしコレでカコがセルリアンにチョメチョメされたら、ムスコの犠牲が無駄になる。

それに俺は男だから大丈夫…………あっ、今は女だった。

 

 

「俺は大丈夫。 危なくなったら逃げるから」

 

「で、でも! 私が守らなきゃって」

 

 

オロオロしてしまうニホンオオカミ。 平時の命令とあらば喜んで遂行するのだろうが……厳しいか。

それに添えるように、カコも言ってくる。

 

 

「あんじゅ、大丈夫だから。 私は比較的安全な場所を移動する。 それに、管理センターからの迎えも来る」

 

「…………そうか、わかったよ」

 

 

引き下がろう。 カコはどうも、遠慮しているというより、ついて欲しくないようだ。

秘匿するべき研究や資料絡みだろうか。 そう考えると温かみがない冷たさを感じてしまい……ちょっと寂しかった。

 

 

「うん? 管理センター?」

 

 

カコはそう言った。 管理センターから迎えが来ると。 管理センター絡みなのは分かったが、何用だろうか。

 

 

「あ、いや……いいの。 気にしないで」

 

 

今度はカコがオロオロする番に。 隠し事をされるとは、気分が悪い。 だが仕方ないと割り切ろう。 互いに言えない事のひとつやふたつはあるさ、と。

 

 

「分かったよ。 そんじゃ、道中気を付けてな。 何かあったら連絡する」

 

「ごめん。 ありがとう」

 

 

妥協されたのを感じてか、カコは謝罪と礼を言ってきた。 それがナニかは気になるが、今は諦めよう。

 

 

「良いんだ。 さあ、行こうか?」

 

「うん!」

 

 

ニホンオオカミの元気の良い返事を機に、互いに手を振り…………俺とカコは左右それぞれ真逆の方向へ歩き始める。

共に歩んでいるようで、違う道。 近くにいるようで離れてる。

それは物理的にも、心の距離でも。

もちろん、他の誰よりも近しい大切なヒトだけど。 あと一歩。 勇気が出せないんだと思う。

 

 

「───今は事件に集中だ」

 

 

勇気を出す時は、男の時で言いたいなと。

女々しいと思う。 でもしょうがないじゃん、女の子なんだもん(言い訳)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗っ」「暗いね」

 

 

病院のエントランスに出た時。 思わず出てしまった感想である。

非常照明のみなのか、薄暗いんだもん。 照度のみならず、雰囲気も。

外に通じる大きなガラス張りの自動ドアは、非常用隔離シャッターが降りている他、サンギやらバタカク、パレット(荷台)等の木材でバリケードが作られている。

ところどころ隙間が見え隠れし、荒い事から、どうやら職員が慌てて作った急拵えのモノのようだ。 シャッターがあるのに作られた理由……何らかの理由で上手く動作しなかったのか、動いたが降り切るまでの間に合わせで作ったのかと妄想する。 或いは一時避難者の受け入れや入院患者の為に、シャッターまで降ろせなかったのかもな。

その証拠か。 エントランスホールは、木材が散乱している他、トンカチやノコギリ、釘打ち機等の工具が投げてあった。

白衣の職員や、パーク都市部で勤務する警察官、管理職と思われる背広に、比較的健康そうな患者さんが待合の長椅子でぐったりしているのも、何かあったのかと連想させた。

中にはイヌ科やネコ科と思われるフレンズもいる。 やはりか、同じように元気がない。

 

 

これ…………外、ヤバいんじゃね?

 

 

出たらアライさんシティのような状況なんじゃ……ニホンオオカミがいるとはいえ、小さな個体相手でも苦戦する状況なのだ。 囲まれたら酷い事をされてしまいそう。 かゆうま。

それでも、いざクエストへ。 この病院から出て、ひと狩り行こうぜ。 間違えた、ヒト狩りされる側だった。 ムスコの次はナニを剥ぎ取られるんだろうね? 考えたくない。

 

 

「杏樹さん、話は聞いています。 ですが、本当に外へ?」

 

 

見送りの美人の看護婦さんが、心配そうに聞いてくる。 赤の他人なのに、声を掛けてくれるのは正直嬉しかった。

それが例え、仕事だとしても。

 

 

「はい。 やらなきゃいけない事があるので。 その、病院の皆さんも?」

 

「はい。 職員さんも残っていますし、怪我したら治療するヒトが必要ですから。 アニマルガールの皆さんも いますからね」

 

 

笑顔で答えてくれる看護婦さん。 その笑顔と言葉が本物なのか偽物なのか疑う俺が嫌になる。

だけど。 例え仕事であれ本心であれ、その姿勢は素晴らしい。 俺は莞爾として頷いた。

 

 

「けものや、フレンズ……アニマルガールは、動物病院の方で?」

 

「はい。 けもの は、動物病院ですね。 アニマルガールもですが、ヒトとおおよそ同じということで、簡易な病気や傷なら、ヒトの病院で見る事があります」

 

「中央病院は?」

 

「セルリアンに占拠されて、セントラルごと閉鎖されています」

 

 

ああ……予想通りか。

アプリ版のような状況なのだろう。 理由は相変わらず分からんが、今やセルリアンの根城か。

そうならば結界張ってるのかね。 オイナリサマもいるのかもな。

 

 

「分かりました。 ありがとうございます」

 

「はい……病院の外、都市部は既に危険です。 行く当てはあるのですか?」

 

「まあ、一応は。 管理センターに向かいます。 そこで指示を受けたり、調査隊に連絡とる為の無線機を借りようかと。 携帯は繋がりませんし」

 

「そうですか…………気を付けて下さい」

 

 

無理に止めてはこなかった。 互いにやる事があると感じているのだろう。

俺の場合、指示がないのを言い訳に自身の都合で動く。 なんだかサボってるようで罪悪感があるなぁ。

でも動きます。 自由万歳。

 

 

「シャッターを少しだけ開けます。 素早く潜って下さい」

 

「はい。 お願いします」

 

 

そう言って、シャッターの開閉スイッチを操作してくれる看護婦さん。

ガラガラガラと、ゆっくりと上がると同時に、足下から外の光が流れ込んでくる。

その光ある世界は、今やセルリアンの支配下。

俺はその世界を取り戻そうなんて、大それたコトをするつもりはない。 それは英雄の役割だ。 俺は俺で、見たいものを見、確かめたいことや話したいことをする。

 

 

あと、出来ればチ●コを取り返したいです。

 

 

その為に先ず。 ニホンオオカミと敵中突破、同じ都市部にある管理センターまで行かねばならない。

思考している間に。 シャッターが匍匐で抜けられそうなくらいになった。

 

 

「これくらいで」

 

「えっ、はい」

 

 

看護婦さんに止めてもらう。 あまり大きく開けるのも危ないと思ってね。

おバカな俺も気を使ってるのよ? どやあ。

 

 

「よし。 行くぞニホンオオカミ!」

 

「うん!」

 

 

そう言って、匍匐姿勢に。 格好付けて外の世界へ───

 

 

「きゃっ!?」

 

 

シャッターの隙間と胸元の間で挟まった。

思わず女々しい声が口から出ちゃったよ。

これ、地味に痛い。 それでも、胸がへしゃげれば無理に進められる……ダメだ。 痛い。 苦しいです。

 

 

「す、すいません。 もう少し上げて下さい」

 

「分かりました」

 

 

看護婦さんの声が震えてますよ。 笑いを堪えてるんですかね。

恥ずかしい。 くそっ、コレもセルリアンの所為だ。 余計なパイを付けやがって!

 

 

「大丈夫だよ。 私も通れなかったから!」

 

 

ニホンオオカミ。 それ、フォローになってなくない?

いや、気持ちは受け取ろう。 善意あるものだ。 うん。

取り敢えずシャッターを もう少し上げてもらい、何とか外へ脱出。 ニホンオオカミも後に続く。

 

 

「お気をつけて!」

 

 

背後から、看護婦さんの言葉と、閉まるシャッターの音。

それは終わりを意味するのではない。 始まりなのだ。 ムスコを取り返す冒険が、今始まる───!

 

 

「とかいう、メルヘンなRPG話じゃないよね。 目の前の光景はアライさんシティでサバイバル系だもん。 パークがハザードだよね」

 

 

アホな思考は、立ち上がって見えた光景で吹き飛んだ。 道路やビル群の外壁はひび割れ、ガラスは割れて、一部の車はひっくり返ってる。

廃墟というか、災害に見舞われた都市部と形容するべきか。

平和な時に見かけたヒトの姿はなく、代わりに1つ目、もしくは複数の目を並べた小型セルリアンが、その中を跋扈している。

こちらにはまだ、気づいていない。 だがこの光景は衝撃的である。

 

 

「急にどうしたの?」

 

「いや……ヒトのナワバリじゃなくて、セルリアンのナワバリみたいだなって」

 

「うん。 たくさん匂う。 悔しいけど戦ったら、勝ち目はないよ」

 

 

真顔で言うニホンオオカミ。 俺も戦いは避けるべきと考えている。 逃げられるなら逃げる。

当たり前だよなぁ? 俺らはハンターじゃないし。 戦闘は苦手だ。 都会っ子ナメるなよ。

 

 

「行こうか」

 

 

小声で、だけどしっかりとした口調でニホンオオカミに微笑んで。

女の声と揺れる胸、股間の虚無を感じつつ前に進む。

道中、ナニがあろうとなかろうと、ヒトとフレンズがいるんだ。 何とかなるさ。

 


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