パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。

未だ、ヒトの世界は続いていて。


管理センターへ。

 

セルリアンが跋扈する都市部をこそこそ歩いていると、こりゃ休園状態だなと確信してしまう。

荒れた歩道脇の花壇。 折れた並木。

横転した車。 割れた窓ガラス。

閑散として、だけどセルリアンという のけもの が闊歩する この都市部。

かつて支配者として、大手を振って歩いていたヒトは影も形もない。 今じゃ真逆の立場。 目立たないよう、影から影へ。 路地裏を抜け、時にやり過ごし、音を立てず、こっそりと進む。

学生時代に磨かれたステルス性の高さからか、輝きを奪われたからか。 幸い、セルリアンに気づかれる事なく管理センタービル前までやって来た。 ニホンオオカミの聴力や嗅覚も助けとなり、ある程度の地理を理解しているのも武器となった。

胸の重みは邪魔であったが。 ナニか。 川や海での浮き袋か。 なら役に立つ……って、都市部じゃ役に立たねーよ。

胸の小ささで悩む女子には悪いが、俺には邪魔かも知れん。 自分に欲情しないし、シャッターに突っ掛かるわ、重いわ動き難いわ、デメリットが目立つ。 アニマルガールは、コレを持って戦ったり素早く動けるのか。 ううむ、凄い。 恐れ入る。

そういや、カコは今の俺よりデカい。 やはり苦労しているのだろうか。 デリケートな話だと思うので、聞かないけどさ。

 

 

「で、着いたは良いが」

 

 

立派な管理センタービル前。 他のビルよりかは立派な大きさと横に広いガラス張りの自動ドア……があるはずの前。

手前は病院で見たような、簡易バリケード。 入り口は横一面、シャッターで覆われているときた。 セルリアンこそ集ってないが、これでは入れないではないか。

 

 

「私が壊そうか?」

 

 

ニホンオオカミが提案。 確かに、鉄扉を破壊出来る彼女なら、シャッターを壊せそうではある。

だが、それではいけないと首を横に振って見せた。

 

 

「ダメだ。 そんな事したら、大きな音でセルリアンが寄ってくるし、中のヒトにも迷惑を掛ける」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「こんだけ大きなビルだ。 裏口か、搬入口、中央管理室へ行く出入口があるはず。 それを探そう」

 

「そこに行けば入れる?」

 

「ビルの中が無事で機能しているなら、そこにヒトがいる」

 

「でも扉が塞がってるかも知れないよ?」

 

「表にインターホンがあるか、監視カメラが壊れてなければ管理室の職員に見つけて貰える。 取り敢えず探そう。 地図は……ないな、ビルの周りを行くんだ」

 

 

希望的観測に過ぎない事を言いつつ、ビルの周りを歩く。 セルリアンに見つかったら大変なので、慎重にではあるが。

しかし、ビルが大きいと周りを歩くのも大変だ。 距離というより、付属する施設や階段があると気にしてしまう為だ。

そこに正解のルートがあるかも、という他にセルリアンがいるかも、と考えてしまう。 すると精神的に疲れる。

 

 

「大丈夫?」

 

 

振り返って、聞いてくるニホンオオカミ。

おっと、心配を掛けてしまったか。

 

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「無理しないでね」

 

「おう。 ありがとう」

 

 

ニコッと微笑んでくれる彼女。 優しいなぁ、君がパートナーで良かったよ。 偶に問題があるけど。

 

 

「あっ、あそこから中に入れるかもよ」

 

 

前を向き直り、見つけた地下階段。 手前の看板には「防災センター」とある。

たぶん、ここから行けるかも。 扉が開けばだが。

 

 

「セルリアンは?」

 

「いない。 大丈夫」

 

「よし。 行こう」

 

 

短いやり取りを交わしつつ、周囲を警戒しつつ階段を下る。 道はコレしかないので、後ろを塞がれたらアウト。 結構、危険だが仕方ない。

階段を下ったところ。 ジメッとした空気に鎮座するは1枚の鉄扉。 錆びているが重厚そうだ。

 

 

「開かないよ」

 

「さすがに、施錠はしてあるか」

 

 

先行したニホンオオカミがガチャガチャと文明的にドアノブを回して、押したり引いたりするも動かない。

こんな状況だ、逆に開いていたら警戒するまである。 もう手遅れじゃね的な。

 

 

「すいません、中に入れて下さーい」

 

 

控えめの声を出しながら、見えぬ扉向こうに呼び掛けるも物音しない。

監視カメラが何処かにあるとは思う。 動いていれば俺らが見えるハズなんだが……ダメか。 ヒトがいない可能性も考えねば。

 

 

「ココはダメかもな」

 

「そうだね。 違う道を探す?」

 

 

そう思って踵を返した刹那。

ガチャリと解錠される音が。

びくりもしつつも振り返れば、重厚な鉄扉が開いていくではないか。

 

 

「しっ。 早く中に入って」

 

 

して、ひょっこりと出てくるは警備服に身を包んだ若い男性職員さん。 掠れるような小声を出してきた。

片手の人差し指で「静かに」のサインを出しつつも中に入るように促している。

俺はニホンオオカミと笑顔で顔を見合わせた。 どうやら、俺らを見てくれたヒトが ちゃんといたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく無事でしたね」

 

 

鉄扉の中。 薄汚れた、露出配管や器具がある狭い道を辿った先。

出入り業者を受付するような窓口の前までやってきた。 カウンターにはクリップボードが置かれて、窓口の中は警備服のヒトが何人かと、壁を埋め尽くす監視盤の類。 カラフルに表示灯を点灯させている。

文明を感じるなぁ。 ヒトの世界は、まだ続いているんだって思う。 そう考えると、何故かホッとした。

普段は嫌悪感を感じる事すらあるのに、こんな時は都合が良いと思う。

あっ、また嫌悪感が…………。

 

 

「貴女は こちらのフレンズさんの飼育員で?」

 

「正規の飼育員ではありませんが、そんなトコです。 彼女はニホンオオカミ。 いてくれたお陰でココまで辿り着けました」

 

「えへへ」

 

 

そんな気持ちを誤魔化すように、頭を撫でてやるとヘッヘッと尻尾を振るニホンオオカミ。 可愛い。

 

 

「そうでしたか。 頑張ったね、ニホンオオカミちゃん」

 

「うん! ありがとう!」

 

 

守衛さんも微笑んで褒めた。 良いヒトなのかもな。 いや、見た目に騙されるな。 俺はそれでツライさんになったのだから。

 

 

「体調が優れませんか?」

 

「えっ? あ、いや。 パークがこんな状況になったので……気が動転してまして」

 

 

誤魔化した。 サンドスターやセルリウムで、こういった気持ちを払拭出来ないだろうか。

なんだか出来そうな気がしてくるよね。 精神安定剤とか。

 

 

「確かに。 突然のセルリアン大量発生、集団でのセントラル襲撃。 そして都市部やサファリ区分も被害に遭っています」

 

「状況打開の目処は?」

 

「未だに。 ですがココや他の管理センター、調査隊が全力を尽くしてくれてますから。 きっと大丈夫ですよ」

 

 

その中に全力でヨダレ振り撒いてる隊長がいそうですね。 ちょっとその方に用事があるのですよ。

 

 

「その調査隊長とは知り合いでして。 連絡を取りたいのですが」

 

「分かりました。 担当者をお呼びいたしますので、お待ち下さい」

 

 

そう言って、室内に引っ込む守衛さん。放送を流して、誰かを呼んでいる。

スムーズで助かる。 怪しまれたり身元確認等が無くて良い。 逆にガバくて大丈夫か不安になるんだけど。

 

やがて、奥からヒトの足音が聞こえて来たから、振り返ってみれば、

 

 

「お待たせしました」

 

「あっ」「おねーさん!」

 

 

ヘルメットを被った、背の低い背広の女性がやって来た。 管理センターの世話好き小動物(ヒト)だ。 思いっきり知り合いである。

 

 

「ニホンオオカミさん。 お久しぶりです」

 

「久しぶりー!」

 

「どうも」

 

「初めまして。 新しい飼育員さんですか?」

 

 

うん……気付いてないね。 元の容姿とかけ離れてるからなぁ。 存在が消えたようで地味にツライさん。

 

 

「違うよー。 あんじゅだよ!」

 

 

ここでニホンオオカミが訂正を入れる。 良いんだけどね。

ただ、案の定というべきか。 驚愕された。 うん……その反応も、地味に落ち込む。

 

 

「杏樹さん!? でも、その姿と声……」

 

「女になっちゃったんですよ。 報告ありません?」

 

「あ、ああ。 本当の話でしたか。 てっきり女装趣味に走ったか勘違いかと」

 

「ヒドいッスね!? セルリアンに襲われて、この始末です!」

 

 

流石の彼女も信じきれてなかった様子。 まあ、仕方ないね。 アニマルガールの話ならともかく、俺、ヒトだし。

奇跡の島とはいえ、やはり信じられない事は信じられないか。 俺も信じられない。 というか信じたくない。 ムスコ返して。

 

 

「…………男?」

 

 

ぼそりとした、絶望した声が聞こえたと思ったら。 守衛さんが崩れ落ちていた。

へ、ナニ。 なんでアンタが落ち込んでいるの。 それ、俺の役割でしょ。

 

 

「守衛さん?」

 

「くっ……! 監視カメラに美しい姿が映ったから、助けたらイイ仲になれると期待して戸を開けたのに男だなんて……。 カミサマなんていないんだ!」

 

「欲望だだ漏れしてんじゃねーよ!」

 

 

思わず白い目で、或いはゴミを見る目で突っ込んだ。 ちくせう、コイツも そういう目で見ていたか。 悲しいなぁ。 それが男の性だとしても。

 

 

「いや、でも身体が女なら」

 

「「少し黙りましょうか?」」

 

「アッハイ」

 

 

最低な言葉に対して小動物とハモった。 シンクロしても嬉しくもなんともないけど。

もう守衛はほっといて、仕事の話をしようそうしよう。 これ以上構っても心が傷付くばかりだよ。

 

 

「お互い色々と状況を聞きたいトコですが……何か手伝える事はありませんか。 主に外部で」

 

「ありますが。 この場ではダメなのですか?」

 

「ダメなのです。 俺とニホンオオカミで、ちょいと冒険しなくてはいけないので」

 

「冒険? この状況はイベントじゃないんですよ。 半端な理由なら、危険な外に出すワケにはいきません」

 

「私がいるもん。 大丈夫だよ」

 

「ニホンオオカミさん、正当な理由なく危険には晒せないという事です。 その点、貴女も外には出せません」

 

「ええー!」

 

 

あかん。 真顔で言われたよ。 こりゃマジだよ。 別に遊びでやってんじゃないんだけどな。 危険に晒したくないという優しさは嬉しいけどさ。 俺には やりたい事あるし。

ちゃんと説得しないとダメか。 このままだと拘束されてしまう。

 

 

「い、いやーね! 俺は失ったムスコを取り返しに行かなきゃならないんですよ!」

 

「息子さん? 貴方は既婚者じゃないでしょう」

 

「真面目か! 隠語的なアレだよ! ナニだよ!」

 

「はい? ハッキリお願いします」

 

 

おいおいマジかよ。 キリッとして責めているつもりのサマは逆に可愛く、純粋さが眩いんだが。 たぶん、俺がテキトー言ってると思ってるのだろう。 して、そこを突いて反論出来るならやってみろと。

でもさぁ……そういうのを見ちゃうと、ちょっと穢したくなるよね。

いや、失礼。 話が進まないんで。 真面目な彼女にはストレートに言おう。 ハッキリ言えと仰るワケだし。

俺は悪くない。 暗黒微笑を浮かべながら、俺はハッキリと申し上げた。

 

 

「チ●コです」

 

 

見た目は綺麗、中身は男な女性の口から放たれる衝撃発言。 卑猥な単語。

刹那。 室内のヒトにも聞こえたのか、思わず振り返り。

項垂れていた守衛は、トドメを刺されたように倒れた。 そのまま寝ていて、どうぞ。

ニホンオオカミは、いつも通り。 赤面もしないし大きな反応はない。 純粋過ぎるのだろうか。 少し残念。

して、肝心の小動物はというと。

 

 

「ち、ち、ちん…………ッ!?」

 

 

面白いようにワナワナと震えて赤面した。 茹でタコのように真っ赤。

 

 

「なんて事を……! なんて事を言うんですかーッ!?」

 

「えー? ハッキリお願いされたからハッキリ言ったんですよ。 なぁニホンオオカミ?」

 

「うん」

 

「だからって! ち、ち……なんて!」

 

「はいぃ? ハッキリお願いしますぅ」

 

「子どもですかーッ!」

 

「はい。 ムスコの話です」

 

「もう良いですっ!?」

 

 

いやぁ楽しいねぇ。 これで彼女は大人の階段を上った。 悪く言えば穢れた。

セクハラで訴えられたら負けそうである。 彼女はそんな事しないだろうが、この辺で止めよう。 というか、話が進んでいない。 小学生が好きな子にするイタズラの話で終わってしまう。 それはいけない。

 

 

「とにかく。 俺は輝きを取り戻す為、外に出なければならない。 おわかり?」

 

「うぅ……分かりましたよ」

 

 

赤いまま、ボソボソと引き下がる小動物。 よし、これで良い。 島から出れば戻る可能性はあるが、それを言うと不利である。 このまま行こう。

 

 

「けれど、外は本当に危険なのですよ。 それは貴方が管理センターまで来る時に感じている筈です。 それでも行くんですか?」

 

 

あれ。 引き下がってないね。 食い付いてくるね。 本当に心配してくれているんだろうな。 こういうヒトがいるだけで、俺の気持ちは救われるよ。

でも……ごめん。 俺は外に出たいんだ。

 

 

「はい。 それでもです」

 

「大丈夫。 私が守るよ」

 

「外は調査隊や研究員に任せては?」

 

「俺も職員なんで」

 

「私のトモダチだから」

 

 

ニホンオオカミが合いの手。 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

でも切実な話、ヒトに任せられないデリケートな理由もある。 それを他に任せるとか、いやーキツいッス。

セルリアンが、大きさや形まで再現していたら最悪だ。 それを園長やミライ、サーバルたちに見られる。

そうしたら合わす顔がない。

笑われでもしたら いよいよだ。 そうじゃなくても気不味いってレベルじゃない。 鬱だ、しのう。 パーク職員物語 完!

 

 

「貴方を襲ったセルリアンを倒しても、元に戻る保証はありませんよ?」

 

 

そうなんだよなぁ。 奪われた輝きって、セルリアンを倒しても戻るとは限らないのだ。 その辺、アプリでミライが語っていたような気がする。

でもさ、再現している野郎は消せるよね。 それでもだいぶ違うんだよなぁ。 汚物は消毒。 いや、返しては欲しい。

 

 

「その時はその時です」

 

「島の外へ行くのは? その方が安全に元に戻れるかと」

 

 

あっ。 その可能性に気付いていたのね。 でもさ、やっぱり猥褻物を放置出来ないよね。 正常な精神で眠れなさそうだ。 園長にも会いたいし。

 

 

「でもダメなのです。 どうしても、どうしても外に出たい」

 

「そこまで……貴方には、私と一緒に。 安全に元の姿になって───」

 

「はい?」

 

「い、いえ! 何でもないです!」

 

 

慌てて首を横に振る小動物。 動作や表情が、身長差もあって子どもっぽく可愛い。

だけど、ハッキリ言えという割に自分自身はダメダメじゃね? シモい話は抜きにしても。

 

 

「とにかく。 貴方とニホンオオカミさんは、このまま管理センター内に───失礼」

 

 

絶対出させないウーマンな小動物がグチグチ言っていると。 彼女の懐にあるスマホが震えた。

彼女は取り出すと、どこかと会話をする。 仕事の話かな。 俺と長話し過ぎたか。 申し訳ない。

 

 

「私です。 はい。 ええ、今一緒に…………えっ!? しかし…………はい。 分かりました。 そのように。 失礼します」

 

 

話し終えたのか。 しゅんとした表情でスマホを仕舞う小動物。

ナニか。 ヤバい話なのか。 パークの今の状況的には、どこもかしこもヤバいだろうけど。

 

 

「どうしました? 助けが必要です?」

 

「いえ。 杏樹さん、ニホンオオカミさん。 管理センターから出て大丈夫です」

 

「それはまた」「何か言われたの?」

 

 

さっきと言っている事が真逆。 これにはさすがに俺もニホンオオカミも声を出してしまう。 ニホンオオカミに限っては怖い事でも言われたと思ってか、心配している。 優しい。

でも、そういう訳ではないようで。 小動物は苦笑して答えてくれた。

 

 

「上からの電話でした。 杏樹さんに、知り得る情報を教えるようにと。 そして、出る許可を出してサポートをするようにと」

 

「そりゃありがたいが、上とは?」

 

「管理センターのお偉方です。 他にも……コレは予想ですが。 動物研究所の所長が絡んでると思います。 杏樹さん、深入りしているのですか?」

 

 

深刻そうな顔で、覗き込まないでくれ。

だが確かに深入りしているか。 気が付いたら暗部スレスレの位置にいる気がする。 片足を突っ込む一歩 手前。

 

 

「好きで そうなったワケじゃないです。 それより、サポートしてくれるんでしたね。 無線機を下さい」

 

 

タブーな話は、もう止めだと強引に話を変える。 俺はパークの暗部を明るみに出すつもりはないし、勇気もない。 出来れば関わりたくない。

下手すると、俺の近しいヒトやフレンズに災いが降りかかる。 ヒトのやる事はエゲツないんだ。 欲の為なら、他を不幸にする。

そんな気持ちを察してか。 小動物はそれ以上、入り込んでこない。

 

 

「分かりました」

 

 

そう言う。 今度こそ、引き下がるようだ。 本当に申し訳ないと思う。

して、どこからか無線機を取り出して渡してきた。 ミライが持っているモノと同じようだ。

 

 

「これで連絡が取れます。 チャンネルは、そのままで大丈夫」

 

「ありがとうございます」

 

「無線でのやり取りは、記録されます。 不用意な発言はしないように」

 

「はい」

 

 

不用意、ね。 未来についての話とか かな。 話しても深刻にならないと思うが、面倒ごとは避けたい。 気を付けよう。

 

 

「他に分からない事は?」

 

 

そういう事を言われると悩む。 この手は後で分からない事があって、聞いておけば良かったーとなる。 少なくとも俺は。

何か。 何でも良いから聞いておこう。 それで不安は和らぐ。

 

 

「えーと……じゃあ カコ博士は、こちらに来てますか?」

 

 

管理センターからの迎えがどうこう言っていたカコを思い出す。 用件は分からんが、この管理センターに来ているのだろうか。

 

 

「いえ。 カコ博士は来ていませんし、来る予定はありません」

 

「ありゃ?」

 

 

あれ。 じゃあ、カコはどこに行ったの。 別の管理センターかな? 他にもあるからね。

 

 

「ですが、上の方々が この状況下で席を外しています。 どこかで会議しているのかもしれませんね」

 

「どこか、とは?」

 

「そこまでは。 たぶん、パークの状況について相談するのでしょう」

 

 

明るい話だと良いね。 暗部な話だったら関わりたくない。

 

 

「私は その部分も含めて、外に出て欲しくはないんです。 せめて事件収束まで ここに残る事は出来ませんか?」

 

「心配してくれてありがとうございます。 でも、決めた事ですから」

 

「そうですか」

 

 

ほんと、他人である俺を心配してくれて良いヒトだよ。 カコとの出会いがなければ、このヒトに惚れていたな。

 

 

「……他に、分からない事は?」

 

 

そんな悲しげな顔をされるのはツライさんだけども。 少しでも、ココに残らせようとしているみたいで……その思考になった俺もツライさん。

して、分からない事ね。 何か聞きたい事は……あ。 園長の事を聞いてない。

 

 

「園長、じゃなかった。 こんな状況下でも来客の話ってありました?」

 

「来客? いえ。 私は聞いてません」

 

「そうですか」

 

 

うーん。 英雄は後で来るのか、それとも彼女が知らないだけで、既にパークにいるのか。

 

 

「じゃ、外の仕事で手伝える事は?」

 

「外部の状況を偵察して報告して下さい。 細かい指示は、その都度行います」

 

「分かりました、じゃ、早速行ってきます……お待たせ。 行こうか」

 

「うん!」

 

 

ジッと我慢の子であった、ニホンオオカミに声を掛けて、元来た道を戻る。

パークで、まだヒトの世界は続いている。 それは良い事なのか悪い事なのか分からない。

 

 

だけど。

 

 

子供たち。 フレンズたちの笑顔を奪うような真似はしてくれるなよと、俺は切に願った。

 


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