パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。

物語変更中……。


「ときわたり」の可能性。 電車と先輩。

 

 

「あー、あー。 こちら杏樹臨時職員。 管理センター聞こえますかー?」

 

 

管理センターから出る前に。 貰った無線機に呼び掛けを行う。 ちゃんと送信ボタンを押しながらですよ。 終わったら応答待ちの為に離します。

無線で送信ボタンを押す前に話し始めてしまうと、相手が始めの言葉を聞き取れないので注意する。

とはいえ。 期待する応答がある保証はない。

もしダメでも、行く当ては あるから大丈夫ではある。 シナリオ通りなら、セントラルに結界が張られているから、その偵察。

 

セントラルにはセルリアンによるバリアが張られており、守られるようにしてセルリアンの親玉がいるのだ。

バリアを消すにはパークの各地にいる、バリアを作り出しているセルリアンを倒さねばならなかった気がする。

ソイツらを倒せば、セントラルに入れるようになる。 そして親玉を倒せばセントラル奪還。 パークのセルリアンは沈静化。 事件解決へと流れていく。

 

ゲーム通りならカコの輝きを奪ったセルリアン……セルリアン女王がいる。 それとオイナリサマ。

女王がパーク中の輝きを奪おうとしてるから、オイナリサマが抑えてるんだっけ?

また特殊なセルリアン、セーバルの運命が大きく変わる場所でもある。 セルリアンである筈の彼女が自ら輝きを生み出し、アニマルガールとなる奇跡が起きるのだ。 そして女王の支配下から離れる。

正確にはアニマルガールと異なるのかも知れんが、『トモダチ』が消滅する危機は去った。

 

だがしかし。 俺がムスコを犠牲にカコを守ったから、女王はいないはずだ。 シナリオは大きく修正されている事だろう。

実際のところ、どうなっているのか不明。 セーバルの存在も気になる。 そういう意味でも偵察はしたいところだ。

 

とか思っていたら無線が繋がった。 声は小動物だ。

 

 

『聞こえますよ。 チェックはしてあるので大丈夫です』

 

 

どこから応答してんだろう。 いつもの事務机かな?

 

 

「良かった。 それで、何かして欲しい事はあるかい?」

 

『セントラルの偵察を。 状況を知りたいのです』

 

「了解。 何かあったら連絡する」

 

 

そう言って、切ろうと思ったがミライの事を思い出した。 聞いてみよう。

 

 

「ああ、ミライは何してる?」

 

『ミライ調査隊長は…………今、急な来客の出迎えに行ってます。 サバンナエリアですね』

 

 

キーボードの音を挟みつつ、答えを得た。

急な来客ねぇ。 もうアプリ版主人公の園長の事だろ。 そうだ。 そうに違いない。 寧ろそうであって。

 

 

「急な来客ねぇ。 この緊急事態に、しかも港から離れたサバンナにか」

 

『パークにとって重要なお客様でしょう。 何か分かれば連絡しますね』

 

 

小動物は言ってくれたが、園長の事は分からないだろうな。 緊急事態に、それもサバンナに現れた客だ。 謎だらけである。

実際、園長は記憶が曖昧な筈だ。 どうして、どうやってジャパリパークに来たのか分からない。 そもそもパークを知らない。

取り敢えず、ミライとも連絡が取れれば嬉しい。 聞いてみるか。

 

 

「どうも。 出来たら、ミライとも連絡が取れる様にしたいんだが」

 

『少し待って下さいね…………ハイ。 無線機のチャンネル2のボタンを押せば切り替えられる様にしました』

 

 

言われて手元を見る。 ラジオみたいにボタンがあって、数字が割り当てられていた。 押すだけで良いらしい。

ショートカットか。 便利だな。

チャンネルを小数点レベルで足したり引いたりしなくて済むのは有難い。

 

 

「チャンネル番号を弄らなくて良いのは助かる、ありがとう」

 

『いえいえ。 ですが、用も無しに連絡するのは避けて下さいね』

 

「了解」

 

 

そう言って、今度こそ無線が切れた。

 

 

「記憶喪失か。 それと設定であったとかいう『お守り』による『ときわたり』か」

 

 

ブツブツと独り言を吐きながら考察してみる。 そう、ときわたりの可能性について。

なんか、そういう設定があった気がするのだ。

 

園長の持つレンズ状のお守りにオイナリサマ、ビョウブ、四神の刻印を刻む事で時間を超えられる。 そして過去の自分にお守りを渡すのだ。

 

 

「それは……無限ループか? だとしたら園長は同じ時間を繰り返している。 その後遺症的なので記憶喪失……?」

 

 

薄れに薄味の前世の記憶を掘り出しながら、無い頭で考える。

園長はこの事件、それか将来起こるパークの危機から救う為に無限ループの旅を?

 

だけど記憶喪失で上手く救えないとか?

上手く言えないが、時間超越をしなければならない事態というのは好ましく感じない。

未来へ進む事がなく、同じ事を繰り返して進展がない。

漫画やアニメの影響かも知れないが、きっと俺の妄想は当たっている。 妄想は今世で良く当たるんだ。 バカにするなよ。

 

 

「…………ウロボロスの輪、か?」

 

「あんじゅ、どうしたの? むげん がどうとか、うろぼろす がどうって」

 

 

と、考察していたらニホンオオカミが声を掛けてきた。

おっと、いけない。 自分の世界に浸かり過ぎてしまった。 早く仕事をしなきゃな。

 

 

「ああ、悪い。 パークにお客さんが来たらしくてね。 どんなヒトかと考えてたんだ」

 

「そっか! きっと良いヒトだよ。 ジャパリパークを好きになってくれると良いな!」

 

「ああ。 きっと好きになるよ……仕事に取り掛かろう」

 

「うん!」

 

 

ニホンオオカミの笑顔に答えつつ、仕事へ向かう。 少し胸が苦しい。 気持ち的な意味で。

 

園長……これからミライ達と事件解決の冒険へ出発し、ジャパリパークを好きになってくれるんだろう。

そして始まりも終わりも無い無限の輪に囚われるのだ。

オープニングの、誰かの言葉。

あれは「ときわたり」する前に言われた言葉なのだろうか。

 

 

「どれほどの時が経っても……あなたが全てを忘れてしまっても……私は決して忘れない」

 

 

自然と口に出た。 無意識だった。

 

 

「へ? 急にどうしたの?」

 

「ああ、いや……なんでもないよ。 セントラルに向かう。 頼りにしてるぞニホンオオカミ?」

 

「ッ! うんっ!」

 

 

適当に誤魔化しつつ、セントラルへと歩み始める。 今、考えても仕方ない。

出来る事。 それをやるんだ。 なんのチカラもない、いち職員としてもやれる事を。

 

それでも願わくば。

園長の永遠(トワ)を断ち切りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうやって都市部を抜けりゃ良いんだ?」

 

 

管理センターを後にして、直ぐに問題発生。

道路やビル群の合間を堂々と跋扈するセルリアンを見て思った。

パークでの移動方法……どうしよう。

 

病院から管理センターまでは、徒歩で移動出来る距離だったから良かった。

だがセントラルまで行くとなると距離がある。 サファリ区分程ではないにせよ、道中セルリアンに見つからずに行ける保証がない。

 

 

「どうする、ニホンオオカミ?」

 

「でんしゃは?」

 

 

文明的な手段を提案するワンコ。 指をさすので、釣られて見やれば、駅がある。 最早驚かない。 そういう時代である。

だが、今はそういう事が出来ない事態。 都会っ子だとね、こういう時困るよね。

 

 

「流石に電車は止まってるだろう」

 

「いちおう、聞いてみようよ」

 

 

聞くまでもないと思うが。

思いつつ、再び無線を使う。

こんな事態になっても動いていたら、それはそれで危ないだろう。 皆が避難済みとはいえ。

 

 

『どうしましたか?』

 

「電車、使えるのか?」

 

『逆に使えると思ったのですか?』

 

 

言われたよ。 無線越しに呆れた口調なのが分かる。

 

 

「いや。 ニホンオオカミに聞かれてね?」

 

『ニホンオオカミさんの所為にしないで下さい』

 

「まぁまぁ。 答えを聞きたい」

 

『使えません。 が、使おうと思えば使えます』

 

 

どういうことだってばよ。

そう聞こうと思ったら、小動物が言葉を続けた。

 

 

『公共施設なので管理センターから、ある程度は操作出来ます』

 

「マジで!? リアリー!?」

 

 

管理センターって、そんな事も出来るの?

伊達に管理してないってか。

 

 

『普段は現地のマニュアル操作ですがね。 緊急事態に遠隔操作出来る仕様です』

 

 

はえー。 すごいっすね……。

将来ラッキービーストにとって変えられたりしない?

 

 

「じゃ、今から電車に乗るから動かしてくれないか?」

 

『少し待って下さいね…………はい、オンラインです。 乗ったら動かしますよ』

 

「ありがとう」

 

『特別ですよ』

 

 

いやぁ、これで何とかなるか?

電車だから駅から駅の移動にしか使えないが、だいぶマシになったな。

やはり聞いてみるものだ。 ニホンオオカミ、ありがとう。

 

 

「ニホンオオカミ、使えるって」

 

「やったね!」

 

「んじゃ、行こうか。 セントラルに」

 

 

ニホンオオカミを撫でて、駅へと進む。

セルリアンには勿論、気付かれないようにしながら。

 

戦闘はなるべく避けねばならない。

ニホンオオカミがいるとはいえ、群れを相手にするのはキツい。

鉄扉を破壊出来るパワーがある以上、決して彼女が弱いワケじゃない。 でも、セルリアンは群れになると厄介だ。

 

と、ここで思う。

 

 

「群れ、か。 こっちもお供フレンズを増やせれば良いな」

 

 

そうだ。 群れをつくれないかと。

ミライ達、園長もやっていたではないか。

冒険で行く先々で共に戦うフレンズを増やし、困難に立ち向かった事を。

 

 

「群れ!? 群れをつくるの!?」

 

 

やはりか、群れという単語に反応するニホンオオカミ。

ハイライトの無い目が、心なしかキラキラして見える。

 

 

「つくれたら、な」

 

「でもあんじゅ。 群れは苦手なんじゃ?」

 

「フレンズなら良いんだ……駅に入るぞ」

 

 

ヒトの群れは苦手だが、フレンズなら許せます。 ニホンオオカミには、少し寂しそうな顔をされたが、諦めてくれ。 それが俺だ。

さて。 誰もいない駅舎に入り、作動していない改札をくぐる。

そこには待ってましたとばかりに電車がホームに止まっていた。 遠慮なく乗車する。

 

 

「貸切の無人電車かぁ。 気楽で良いな」

 

 

ちょっとしたセレブ気分。 前世の時も、こうだったら良かったのに。 圧迫死の危機やヒトとのトラブルを感じて過ごす日々は大変だった。

おっといけない。 今は今。 昔は忘れろ。

 

 

「ごめんねぇ。 先客がいるよー」

 

「その声は!?」

 

 

突如、聞き覚えのある幼い声が!

これはかの幼女なフレンズ……!

見渡せば、前車両から此方へ歩いてくる女の子。

 

地に付くほど伸びたグレーのロングヘアー。

だけど髪を後ろに流し、オデコを晒している。

ペンギンのフレンズらしく、手羽を覆う服はフード一体型。 旧式のヘッドホンを装着し、PPPの文字が。

目のハイライトが無い事から、絶滅種であると考えられる。

 

そう。 ジャパリパーク動物研究所で出会った彼女の名は。

 

 

「ジャイペンじゃないか!」

 

「よっ! また会ったな!」

 

 

ジャイアントペンギン。 略してジャイペンであった。 パイセンとも呼ぶ。

 

 

「あっ! ジャイアント! 久しぶりー!」

 

「久しぶりニホ! いやぁ、元気そうでなによりだよー!」

 

 

ニホンオオカミが尻尾を振って小さな巨人に抱き着く。 ジャイペンは小さな身体に対してアンバランスな、大きな手羽でポンポンとニホンオオカミを優しく叩いた。

ふむ。 そういえば同じ動物研究所で会ってたんだったな、このふたり。

 

 

「なんでパイセンがココに?」

 

「いやー、パークの危機だから?」

 

 

笑みを浮かべるパイセン。 その裏はナニか。

パークの危機で、なんで都市部に出張ったのか。 それも、駅で出会う偶然があるか。

特別研究所から離れてないとはいえ、これは狙っているだろう。

 

 

「理由になってねぇッス」

 

「半分はホントだよー?」

 

「もう半分は?」

 

「あんじゅが女の子になったのをじっくり見にね。 それと、あんじゅなら、電車を使うかなぁと思って待ってた!」

 

 

えぇ……。

俺が電車を使うの分かって待ってたの?

すれ違う可能性とか考えなかった?

とかいう思考を読み取ったのか、ジャイペンは答えてくれた。

 

 

「すれ違う可能性もあったけどねー。 それだったらセントラルに行くだけさ」

 

「へ、ナニ。 セントラルに行くのもバレてる系?」

 

「おっ? 当たったか! いやー、良かった良かった!」

 

 

手羽を上げて、アッハッハと笑うパイセン。

絶対ワザと振舞ってるよ。

俺がこの世界のヒトじゃない可能性を示唆したりと、賢いんだか当てずっぽうで正解してんだか……いや、前者だろう。

フレンズだが油断ならない相手だ。 良い奴だと信じているが、腹の内でナニ考えてんだか。 それが怖い。 ヒトじゃないのにな。

 

 

「そう怖い顔しなさんなって。 私はあんじゅの味方だからさ!」

 

「……そうでなきゃ、困りますよ」

 

「その証拠に! 私があんじゅの仕事に同行しよう! ニホと一緒に、か弱くなったヒトの身体を守ってあげよう!」

 

 

なんか、からかわれたんだが。

まぁ良い。 助けてくれるってんなら。 数は多い方が良い。

 

 

「ホント!? ジャイアントありがとう!」

 

「おー、よしよしよし! よしよしよし!」

 

 

そしてニホンオオカミ。 ジャイペンに撫でくりまわされてるが、お前はそれで良いのかよ。 ワンコだから良いのか。 うん。

 

 

「んじゃ、よろしく頼みます」

 

「ヨロシク頼まれたー!」

 

 

そう言って、無線を繋ぐ。

小動物に連絡を取ると、電車がひとりでに動き出した。

道中、セルリアンに襲われないか不安だが、まあ……パイセンもいるなら何とかなるだろう。

 

何とかなってくれなきゃ困るぞ。

 

 

「ああ、ジャイペン」

 

「んー?」

 

 

これだけは言っておこう。

 

 

「喰われた俺を助けてくれたって? ありがとうな」

 

「良いって良いって! それに、私だけじゃなくて、マンモスやサーベルタイガーが協力してくれたお陰だし!」

 

 

ハッハッハと笑うパイセン。

対して俺は照れ臭くて、目を逸らしてしまう。

 

いや、ほら。

礼くらい言えるよ。 俺だって。

 


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