再びジャパリパーク動物研究所。
白い清楚な感じの建物は、セルリアンの襲撃で外壁が崩れてたりとボロボロの有様。
ここまで電車から降りて、少し歩く程度。 研究所の側に駅があって良かった。
てか、駅名も『ジャパリパーク動物研究所』とそのままである。
流石に敷地内や真正面には建設出来なかったようだが、だいぶ助かったな。 余計な体力を消耗しなくて済む。
こうして研究所の側に駅があるって事は、パークは研究にもチカラを入れてるという事か。 研究職員が行きやすい様にという配慮かも知れない。
しかしまあ、誰が好き好んで自分が喰われた場所に赴きますかね。
行けって言われたから来たけどさ。 管理センターは配慮してくれなかった系?
「いやー! フレンズ化した場所に来ると帰ってきたかぁーってなるねぇ」
この有様なのに、ジャイペンが朗らかに言った!
ヒトの、実家の感覚じゃないの?
俺だったら悲しいんだが。 喜ぶヤツは相当親に怨みがあるんだろう。
アレ。 その理屈だと、ジャイペンはフレンズ化させたヒトが憎いんじゃ……。
「そうだね! 戻ってきたって感じ!」
ニホよ、お前もか。
尻尾を振って喜んでらぁ。 絶滅種って、やはりヒトを憎んでるんじゃね?
ジャイペンはヒトの時代ではなかったと思うが、フレンズ化させられたワケだし。
「お前ら……俺は関係ないからな?」
「わふ?」
「んー? ああ」
ニホは首を傾げ。
ジャイペンは一瞬だけ悩み、答えを出す。
ニホ、相変わらずのワンコ。
言う事聞いてくれてるウチはヨシ。
ジャイペン、かしこい。
でも、そのかしこさは、俺には恐怖。
「あんじゅが考えてる事は、ないんじゃないかな?」
「そうか?」
「そうそう! カコ博士や杏樹と会えたし!」
しっしっしっ、と笑うジャイペン。
俺の思ってる事と、ジャイペンの考えた事は同じなのか?
分からん。 全然分からん。
だけど笑顔を見たら、グダグダ考えるのが馬鹿らしくなってきた。
仕事は仕事だ。 やるべき事をやるだけ。 答えの出ない、余計な事は考えても前に進まない。
「そうだな。 俺もジャイペンやニホに出会えて嬉しいよ」
「嬉しい事、言ってくれるじゃん!」
「私も嬉しいよー!」
喜ぶ絶滅種のフレンズ。 複雑な気持ちだ。
今は前に進もう。 足踏みしても仕方ない。
所内に入れば、まあ暗い。
何もおかしくない。 停電しているのだ。 そのくせ、電車が動いているのは置いておこう。
非常用回路、照明や発電機はあるだろうが期待していない。
エントランスにいる分には、窓や入口からの明かりがあるから良い。
だが、奥は真っ暗。 俺の気持ちや人生みたい。 って、やかましいわ。
「暗いね」「暗いなぁ」
俺の人生の様に。 って、もう良い!
「ああ。 今まで当たり前だった、電気の有難さを感じるよ」
「セルリアンの匂いはしないけど、瓦礫もあって危ないよ?」
ニホが有益な情報を教えてくれた。
セルリアンがいないのは有難いが、瓦礫も危ない。 暗いと尚更に。
襲撃事件から日が経っている。 電気供給は何らかの理由で停止。 非常設備にしても発電用燃料が尽きたり、セルリアンによる攻撃で非常照明が壊れたり回路が断線しているのだろうな。
だが、ここは重要施設。 いちおうそうなっても措置の仕方はあるはずだ。
「大丈夫だ。 ヒトはこういう所には、非常用の設備や道具を置いているモンだ」
「ひじょーよー?」
「照明を点ける気かい?」
ニホはともかく、かしこいジャイペンは疑問符。 ふむ。 知らないか。 ちょっと有利に立てた気分で嬉しい。
そんなワケで。 俺はエントランスにある受付カウンターの裏を漁る。
受付用ボードじゃなく……筆箱じゃなく、忘れ物入れでもなくてだな……なんでR18本があんだよ!?
よ、よしよし。 あったぞ。 これだ。
「テッテレー! 懐中電灯〜!」
どこぞの青狸……げふん。 猫型ロボットの真似をして取り出すヒトの道具!
棒状のソレ。 暗闇に向けて上部のスイッチを押す。 ピカーッと光り、闇が払われた!
「あんじゅちゃん、さっすがー!」
パイセンよ。 忘れていた事を思い出させてくれんなよ畜生!
「わあー! なにそれ! 気になる気になる!」
じゃれつくニホ。 いつも通りで安心。
ヒトの文化に触れている方のニホも、新しいモノには興味津々になる。 可愛い。
それはヒトも同じか。 いや、個人差はあるか。 俺なんてダメだからな。 懐中電灯よりエロ本の方に興味津々だったし。
あー、でも。 女体化した所為か性欲が湧かない。 悲しいなぁ。 おのれセルリアン許すまじ。
「懐中電灯。 ヒトの道具さ。 スイッチを押せばライトが光る。 暗闇の中を進む時に重宝するよ」
「ヒトって、色々なモノを作るね!」
「いやー! 私が生まれた場所なのに、知らなかったとは。 お恥ずかしい!」
ニホは褒め、ジャイペンはわざとらしく腕をおでこに当てる。
持っているスマホのライト機能も使えるけどな。
光量や持ちやすさなら、まだ本家に軍配が上がるんじゃなかろうか。
普段持ち歩くモンじゃないけどさ。
「俺が作ったワケじゃないが。 これで探索出来るな。 俺について来い!」
「うんうん。 ところでさ、何を探すのかな?」
「資料だな。 あー、管理センターに連絡する」
ジャイペンに言われて、無線を弄る俺。 肝心な事を聞きそびれてたわ。
格好付けていたぶん、恥ずかしいんだけど。
「小動物聞こえるか?」
『何度、ツッコミを入れれば良いのです?』
ぷんぷん丸から呆れ丸に変化した小動物。 次は何になるのかな?
「研究所に着いた。 回収資料とやらは、どこにあるんだ?」
『セルリウム実験室です』
「なるほど、セルリウム……ファッ!?」
セルリウム!?
さらりと、ヤバい単語が聞こえたよ!?
セルリウム。
それは、セルリアンを生み出す未知の物質。
黒いドロドロした泥の様な見た目をしている。 輝きに反応、それを模倣したセルリアンを生む。 うん。 危ない。
一期アニメでは、セルリウムの名は出ていないが、サンドスター・ロウという名前が出てきたな。 コレの所為で大型セルリアンが巨大化していた気がする。
果たしてセルリウムと同一のモノかは不明だが、たぶん一緒かと考える。
それが、研究所にある可能性。
未知に対する好奇心、研究故にか。 謎を解明したい。 結果、パークや皆を守るのに繋がるかも知れない。
それは分かる。 分かるが、やっぱり怖い。 近寄りたくないんですがそれは。
「な、なあ。 セルリウムがソコにあったりする?」
『ある様です』
あるのかよふざけんな馬鹿こん畜生!?
『ですが、蓋をしたペトリ皿に保管してあります。 大丈夫ですよ』
ほんとぉ?
ガチめの密閉容器じゃないでしょソレ。 襲撃もあったワケだし、漏れ出ていたりしない?
い、いやいや! ビビるな俺!
仕事、任務を遂行するのだ。 パークの為に!
「分かった。 施錠されてたりしない?」
『大丈夫です。 普通に入れますよ』
そして閉じ込められてのエンカウント。 俺は詳しいんだ。
『その部屋にある資料を回収して管理センターに戻って来て下さい。 分かりやすいところにあるそうです』
分かりやすいところ?
手に取ろうとした瞬間、ムービーが入るんだろどうせ。 俺は詳しい(ry
「んじゃ、行ってくる」
でも避けられない。 行くしかない。
無線を切る。 意を決して、俺は暗闇へと足先を向けた。
「セルリウム実験室へ行くって?」
無線を聞いていたジャイペンが、明るく尋ねる。
そんな表情が多いよな、この子。 良い事なんだろうけどさ。
でも、何を考えているのか時々分からないのは怖い。
「ああ。 入った事ある?」
「ないなー。 研究職員の、それも一部しか入室出来なかったし」
やや困った様に答えられた。
まあ、聞いてみただけだ。 まさか無関係者やフレンズをホイホイ入室させるとは思えない。
だけど、一部ね。
カコとか、かな。
セルリアン女王のセリフから妄想すると……カコはセルリウムを使用した故人の実験をしていたのでは?
そして、正史といって良いか分からんが……亡き両親を再現しようとしていた?
もう会えない。 会える。
偽物でも。 それでも。
そんな事を言っていたような気がする。
それは、カコの気持ちだった筈だ。 セルリアンは都合の良い部分のみを発言していたが、それはきっと、嘘ではない。
だけど この世界では、俺の存在の所為か。 悪足掻きした結果、カコの両親は生存している。
だから、セルリウムを使用した……そういった倫理観に反する事はしていない筈。
そう、願う。
これから回収する資料とやらも そういう事ではない。 俺の心は否定した。 したかった。
「あんじゅ」
ニホの声が、研究所に木霊した。
「大丈夫だよ。 あんじゅは、私が守るから」
真剣な声だ。 ニコニコ笑顔が似合う彼女らしくない声。
だけど、不安感に襲われていた俺には安心出来るものだ。
「私もいるからなー!」
パイセンはニコニコ笑顔で言う。
だがそれも、俺を安心させてくれた。
そうだな。 俺には今、フレンズがいる。
だから……大丈夫だ。 何があっても。
「ありがとう、ニホ。 ジャイペン」
そう言って……ようやく闇へと歩き始める。
カツン、カツンと木霊する、俺とフレンズの足音。 暗い廊下を照らす、ひとつの光。
不安はある。 また喰われるのも勘弁だ。
セルリアンがいるのも怖い。 変な真実があるのも怖い。
でも、今の俺は ひとりじゃない。 その事実が確かに、俺を動かしてくれていた。
壁に描かれている所内マップ等の案内をみながら、実験室まで歩いている。
道中は暗く瓦礫だのなんだので危ないが、セルリアンがいなくなってくれただけ遥かにマシ。
たぶん、奪う輝きが無くなったかで他所へ移動したのだ。 それが良い事かは知らん。
取り敢えず、資料がセルリアンの手に落ちてない事を願う。 手はないだろうが。
と、考えていたら。
前方を壁に阻まれた。 行き止まり、というワケではない。 非常用の壁だ。
「マズいな。 コレ、隔壁か」
しっかり閉まっている重厚な鉄壁。
通常の施設で見かける防火戸のような感じではない。
避難者や消防隊等の、ヒトが出入り出来る扉がないのだ。
「私が壊すよ!」
そう言うはニホ。
鉄扉を破壊したからな、また壊せると思っているのだろう。
たぶん、ニホには無理だろうな。
これ、かなり頑丈そうだし。 でもいちおう、やってもらうか。
「頼む」
「わかった!」
元気良く返事。
そして手を光らせて、鉄壁に振り下ろすと。
キィイイイィンッ!
「ウッ!? ビクともしない!」
激しい金属音と、軽い火花が散ったが壁はへこみもしない。
これ、クマやゾウのフレンズなら壊せるだろうか。 無理か。 かなり堅牢そうだ。
「ジャイペン。 実験室に行くには、この道しか無いんだろ?」
「だね。 この壁を何とかするしか道は無いよ」
「となると……この壁、セルリアン対策か」
万が一、実験室で事故が起きた時。 セルリアンを中に閉じ込める設備だな。
空調設備……ダクトにもひょっとしたら隔壁が設けられているのかも。
そして、ヒトも一緒に閉じ込められる。 そんでチョメチョメされる。 嫌過ぎる。
だが、内外で上げる方法はある筈なのだ。
セルリアンには扉を丁寧に開けたり、スイッチを押す等の基本知恵は無いかと思われる。
そう考えると、そういった救済処置を設けても良い判断になった筈。
俺は考えた。 近くの壁を光で照らし、探す事にする。
「んー? あんじゅ、非常用の何かを探しているのかい?」
「ああ。 無いと困る」
そして、それは直ぐに見つかった。
スイッチだ。 エレベータースイッチの様に、上下矢印ボタン。 分かりやすくて結構。
「これか?」
上ボタンを押す。 すると。
「わー! 壁が上に上がったー!?」
隔壁が上にゆっくり上がり始め、ニホが騒いだ。
良かった。 これで先に進めそうだ。
これ、後で閉じ込められたりしないよな?
「本当、ヒトは色んなものを作るなぁ!」
ジャイペンが、またワザとらしく言った。
「そう……だな」
だけど……その中にはヤバいモノもあるんだよ。
この研究所も、そういったモノはあるんじゃないだろうか。 特にこれから行く実験室とかさ。
「ふたりとも。 気を引き締めてくれ。 この先、ナニが起きるか分からんからな」
「うん!」「はいよー!」
明るい返事が、なんだか気が抜けた返事に感じて不安になるんだが……。
いや。 大丈夫だ。 ふたりは強い。 信じている。
俺たちは、また先へ進む。
セルリウム実験室と書かれた扉は、直ぐだった。
「ちゃちゃっと済ませちゃおう!」
パイセン。 心の準備をさせて。
「よし。 行くぞ、お前ら」
俺は深呼吸し……それでも緊張した面持ちで、棒状のドアノブを下へ引く。 聞いた通り、鍵はかかっていない。
入室。 部屋は、そこそこ大きい。
色んなモノが目に飛び込む。
球状のガラスドームの様なモノ。
その中にある、ペトリ皿。 中にある、黒い泥の様なモノ。 微妙に動いている。
セルリウムって、あんな感じなのか。 初めて見たが……近寄りたくないな。 黒いドロドロというだけでも嫌だが、微妙に動いているというのも生理的悪感がする。
幸いにも漏れ出ている様子はない。 その辺は触らないでおこう。
部屋の隅には、酸素カプセルの様な機械が鎮座している。
それも何なのかは知らない。 中には何も入っていない様だが……。
「よく分からんモノばかりだな」
「あんじゅ。 あの黒いドロドロ……イヤな感じがする」
ニホが入室そうそう、唸り声を上げた。 その視線の先には黒いドロドロ……セルリウム。
「ニホに同じく。 アレには関わらない方が良いよ」
ジャイペン、真顔で警告してきた。
けもの の本能か? フレンズとしてか?
どちらにせよ、ヒトより優れた子らだ。 警告は素直に聞き入れよう。
「そのつもりだよ。 早く回収して、ここから出ようか」
そういって、資料を探す事にする。 余計な事はしない。
資料らしきモノは、直ぐ見つかった。
唯一あった、机の上に置いてあった。 白い紙媒体の様だ。 文字が羅列している。
そして、手に取るとつい。 ちょっと目で読んでしまう。
難しい言い回しが多く、不勉強な俺には殆ど理解不能であったが。
それがセルリウムを使用した実験内容、計画なのは分かった。
その文の中から、目に飛び込んできた文字がある。
『セルリウムによる故人の再現』
「な、なんでだよ…………ッ!?」
思わず叫んでしまった。
ニホとジャイペンは驚いて、俺を見るも直ぐに気が付かない。
まさか計画者はカコか!?
なんで!? なんでだ!
両親は存命している!
やる理由はなんだよ!?
チカラを紙に込め、くしゃくしゃにしながらも、無い頭を必死に回し、目を上から下に動かして文字も読む。
誰が計画したかは、下の方に書いてあった。
ジャパリパーク動物研究所 所長。
ゲンダイ所長。
なんで所長が?
いや、所長だからか?
所長もヒトだ。 歳だ。 大切な……だけど、故人になってしまったヒトに会いたいと願った可能性がある。
なんにせよ、俺は思った。
ヒトは、ヒトだと。
カコを何とか出来ても、他の……知らないヒト達まで見きれない。 分からない……!
転生者だとしても、けもフレ世界を多少なりとも知っていても。
この世界に生きる、ヒトやフレンズ全てなんて分かりようがないのだ!
だけど、どうする事も出来ない。 どうして良いのか分からない。
俺は、怒りや不安を……ただ……。
とにかく……管理センターに持って行こう。
この情報を、他の組織やセルリアンに渡すワケにはいかない。
それだけ……白くなった頭が、そう結論付けた。