突然現れた、ウロボロスと名乗るフレンズ。
こんな展開、想定に無かったよ。 だって前世の記憶に無いんだもん。
フレンズそのものの存在、アプリ版ストーリーの展開に無い事だ。
いや、俺というイレギュラーの所為で こんな事になったのか?
もしくは。
ファンによるオリフレの様な存在が、パークに存在していたとしても おかしくない。
フレンズ化の条件も正確に分からない。 実在する けもの 以外でもフレンズ化するからな。 絶滅種以外だと 神さま とか UMAとか伝説とか妖怪とか。
ウロボロスの場合は古代の象徴のひとつか。
己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜……だったか?
脱皮して大きく成長するさまや、長期の飢餓状態にも耐える強い生命力などから、「死と再生」「不老不死」などの象徴とされたとか。
そのヘビがみずからの尾を食べることで、始まりも終わりも無い完全なものとしての象徴的意味がある……のだったか?
永遠。
その、フレンズ。
なんか、ヤベェ事になってね?
うむ。 落ち着け杏樹。
イレギュラーな展開なんて、今に始まった事ではない。 マヨネーズ事件とか、チ●コ奪われた時とかそうだ。
でも、何とかしてきたじゃないか。 性件は未だ解決していないが、狼狽える事は無い。 ははは。
「そ、そ、そそそんで? 偉大で美しく真紅の絶対女王な竜なのかヘビなのかな永遠の象徴的ウロボロス様が、超非力な下っ端職員に何用でありましょうですますかぁ!?」
あーもう滅茶苦茶だよ。
「杏樹。 アナタが気に入っちゃったの。 我のナワバリに来ない?」
「ファッ!?」
ねっとりと、誘う様に見つめられた。 潤んだ瞳、清らかな、だけど真紅の服の胸元の膨らみとか……距離は空いているのに、何という妖艶さ。
それは告ってるんスかね?
大丈夫? ナワバリ入っちゃう? 交尾する?
いや落ち着け。 今の俺は女の子。 男ではない……ハッ!?
まさか百合属性!?
などと馬鹿な思考をしてみた。 少しでも冷静になれるように。
逆に混乱する頭。 あほくさ。
「と、とつぜん現れて誘われましても……そも、ナワバリってどこです?」
何とか言葉を返した俺。 肯定でも否定でもない、疑問の言葉。 エラい。
敬語なのは畏怖の念から。 情けないが、突然過ぎる展開だし、俺無力だし。
言葉を返せているだけ、すっごーいと褒めて欲しい。
だが嫌な予感が、ずっとする。
ナワバリって、たぶん、物理的なものじゃないよな。 彼女がウロボロスというのなら。
俺の妄想脳がアレコレと考察していく。
「敢えて言うなら、時の流れの中かしら」
ウロボロス様が、パワーワードを言った!
なんとなーく、予想の範囲だった。
俺の妄想が膨らんでくる。 先程 園長に言った、時間のループが関係しているなオメーと。
「と、いいますと。 決められた時間を無限ループしていて、その無限の環がウロボロス様のナワバリ?」
「そうよ。 やっぱりアナタ、我の事を知っていて名前を言ってくれたのね。 嬉しいわ」
妄想は当たっていたらしい。
俺の言葉に、ニコニコと笑顔を浮かべるウロボロス様。 怖い。
なんだ。 俺が園長との会話で、ウロボロスの事を言ったから、嬉しくなって現れたというのか。
「質問を重ねていくようで悪いんですが、園長の《ときわたり》に絡んでいる?」
「あら、そこまで知っているなんて。 ますます気に入ったわ」
知っているのか。
時間がナワバリというのだ。 おかしくはない。
園長という、セントラル事件後の愛称も知っている感じだしな。
やはり、園長は無限ループしている?
もしそうなら《永遠》の彼女が関与し、無限の環に閉じ込めている?
あくまで俺の妄想。
しかし、もしそうなら。 彼女は園長を苦しめている可能性がある。 そう考えると、フツフツと怒りが湧いてきた。
「気に入ったついでに、教えて下さい。 アナタは、園長を《ナワバリ》に閉じ込めているので?」
疑惑と怒りの声を出す。
先程までの緊張は無い。 自分でもびっくり。
聞いたウロボロスは、妖艶な笑みのまま口を開いた。
「そうとも言えるし、違うとも言える」
「と、言いますと?」
「あのヒトは、自ら同じ時を廻っている。 気がつけば、我のナワバリに入っていたの」
「えーと?」
「我から手を出したワケじゃない、という事」
俺の感情を知ってか知らずか、そう言い放つ彼女。
趣味趣向で手を出したワケじゃない。
鵜呑みにすると、不思議と脱力する。
「そうですか……良かった」
「良くないわ」
ウロボロス様、笑みからムスッと頬を膨らませる。 あら可愛い。
恐ろしい印象が無くなったよ。 やっぱりフレンズ。 可愛いってハッキリワカンだね。
「何故です?」
「じゃあアナタ、自分の巣に知らない子が入ってきたら どう思うの?」
嫌ですね。 キタキツネとか、イタリアオオカミが勝手にお邪魔してきたりとか……。
いや、クリスマスの時は嬉しかったけどさ。 時と場合によるね。
「困りますね」
取り敢えず定型文的なのを述べておく。
「でしょう?」
同意を得て、笑みを浮かべられた。
見た目はドキツい色だが、表情は子どもみたいで可愛い。 可愛くない?
「ああ、でも」
と思ったら、憂いを帯びた顔に。
「逆に我が、あのヒトのナワバリに入ってしまったのかも知れない」
「ワッツ?」
どういう事だってばよ。
まるで意味が分からんぞ。
不法侵入されたと思えば、逆にしていた。
何を言っているのか分からねぇと思うが、彼女はそう言っている。
これもうワカンねぇな。
「だってフレンズ化したのは、アナタが我の名前を言ってくれた時だもの」
「マジっすか!?」
まさかの事実。
ウロボロス様は、俺の妄想発言で具現化してしまった!
マジでフレンズ化の条件は不明なんですがそれは。
たぶん俺の妄想発言は、ひとつのトリガーに過ぎない。
メインの触媒的なのは、やはり園長の お守りによる《ときわたり》だろう。
とか妄想してみる。 実際は知らない。
問題なのは、この状況。 どうすれば良いの。
「その前の記憶はアヤフヤ。 でも、園長が同じ時間を繰り返しているのは見た。 その繰り返している時間を我のナワバリにした。 元々繰り返していた時間だから、園長をナワバリに閉じ込めたワケじゃないし、寧ろ我が園長のナワバリに入ったと言える」
「じゃあ、ウロボロス様が園長のナワバリに不法侵入したんじゃないですかヤダー!」
「しょ、しょうがないじゃない! 心地良さそうだと思ったんだもの!」
可愛いらしく、頬を膨らませる彼女。
でもそれ、悪いのは貴女だよね。
「さっきの言葉、そっくり返しますよ。 自分の巣に知らない子が入ってきたら、どう思います?」
「別に園長を困らせてないし、彼も自覚は無いのよ?」
「無ければ良いの? 知らないウチに犯して無知プレイみたいな事して楽しいの?」
「なによ……さっきまでオロオロしてたのに」
ブツブツいって拗ねる彼女。
園長に害を為してないなら良いが、となると無限ループは彼女の仕業じゃないようだ。
いちおう、聞いてみるか。
無限ループを断ち切れないか、どうか。
「じゃ、ナワバリにしてるところ悪いんですが。 園長の為に輪を解いてくれません?」
「我には出来ない」
へ?
なぜに。 時間をナワバリにしているんだから、なんかスゲーチカラで無限ループを断ち切れないの?
「彼自ら時間を繰り返しているのよ。 それは強いチカラで。 我が深く干渉しようとすると、跳ね返させて無理」
「なんかよく分からないけど、無理なのは分かりました」
ほんま、つっかえ……じゃなくて。
やはり考えないとダメか。
当初の予定通り、といって良いのか分からないけど、繰り返さないといけない状況を変えないとな。
「……我のナワバリ、壊す気?」
急に怖い顔をしないで下さい。 チビります。
でも言いたい事は言わせて貰います。
「園長の為、パークの為です」
「幸せな時間を繰り返すのも、またパークの為だと思わない?」
「俺は前に進みたいんで」
「それはアナタの都合よ」
「ウロボロス様も、自分の都合で園長を利用しているのでは?」
「彼は自ら時間を繰り返しているわ」
「その理由はなんです?」
「幸せの為よ」
「セルリアンのような《再現》に成り下がってません?」
「サンドスターによる《奇跡》は幸せにしている」
「その奇跡で、新しい幸せを探そうと思わないのですか?」
「繰り返す方が幸せよ」
「ビターエンドは求めない」
「先はバッドエンドかも知れない」
「なら、繰り返す時間に俺は、杏樹はいたか!?」
「……ッ!」
怯んだ!
ここだ! 攻めろ杏樹!
「やっぱ、いなかったな!? アンタが気に入った理由も、そうだからだろ!?」
「それ、は」
会話のドッチボールの中、一気に攻める。
手を、いや口を緩めない。
もう勢いに任せる。 休んだら恐怖で話せなくなりそうだから。 足は既にガクガクしてるけど。
「なら、賭けても良いじゃないか。 フレンズ化したのだって多少は俺の お陰もあるのかも知れないし。 そう考えると出会えた事は、こうして話せているのは奇跡だ。 その奇跡を起こせた俺に、ちょっとは託してくれないか? アンタも俺が気に入ったなら、協力してくれないか? 保証は無いけどさ、新しい幸せ探しを手伝って欲しい」
もうナニ言ってるのか、自分でも分かんないや!
でも見方によっては、コレ……告白みたいになってね?
でも断じて違う。 これは説得であり告白ではない。 だから、服や周囲の光景同様に、肌まで赤くならないでウロボロス様。
「う、うぅ」
「すみません何でもはしませんが許してください、何でもすいません」
意味不明な事を口走りながら謝る俺。
ほんま、ナニしてんだろうね俺。
「……分かったわ。 アナタが創る新しい時間。 見させて貰うから」
「あ、アザッス!」
上手くいったか!
「もし、我と話したくなったら名前を呼んで。 そうでなくても、我から会いに行く時もあるかもだけど」
「ウッス、かしこまり!」
「上手くいかなかったら、永遠の時の中で抱擁してあげる」
「ファッ!?」
え。 ナニソレ怖い。
永遠のハグとか、絞り取られちゃうのかな?
「冗談ですよね?」
「ふふ。 どうかしらね」
「ヒェッ」
クスクスと、妖艶な笑みを浮かべると。
ウロボロス様は、幻のように消えていなくなった。
同時に周りの光景も元に戻り、元の色が戻って時間が正しく流れ始める。
置物の如く、微動だにしなかったニホとジャイペンも動いて、ああ やっと解放されたのだと感じた。
ああ……スゲー疲れたぞ。
「あの子は……アレ、消えた!?」
「今のは幻……じゃないよね、杏樹?」
驚くニホとジャイペン。
ふたりには突然消えた様に見えたのか。
時間が止まっていたのだろう。
そう考えると、不思議な現象を体験したなぁ。 あまり心地良い空間とはいえなかったけど。
「ああ。 フレンズだな」
「また会えるかな?」
「きっと会えるさ。 パークが平和になったら」
テキトーな事を言って、踵を返す。
やる事はあるのだ。 忘れかけていたが。
「後続のフレンズが来たら、園長の行き先や顛末を教えて管理センターに行こう。 資料を渡さないとな」
下っ端の臨時職員なのにツライさん。
でも、不思議。 絶望感は無い。
妙な満足感。 さて、未来が楽しみだ。