管理センター。
その地下にある防災センターに、俺達は戻ってきた。
無線で小動物を呼び出すと、ヘルメットを被る小柄な女性がやって来る。
「お疲れ様です。 危険な中、ありがとうございました」
礼を言われた。
嬉しいね、当たり前だとして資料をひったくるクズの記憶がある身としては余計に。
じゃ、感動もソコソコに話をしましょうかね。
「いえいえ。 小動物の可愛い声でのサポートがあったからこそ」
「次、余計な事を言うとカコ博士に言いますよ?」
「ごめんなさいすいませんでした、ハイ」
笑顔で脅迫されたよ!
小動物、恐ろしい子!
戦々恐々とする俺に反して、ニホとジャイペンはちょっとした冒険譚を語る。
「私達、頑張ったよ! お城のセルリアンをやっつけたんだ!」
「ありがとうございます、ニホンオオカミさん。 とても助かりました」
「私も、それなりに頑張ったかなー。 付き添い程度だけどね」
「初めまして、ジャイアントペンギンさん。 ありがとうございます、杏樹さんの保護者をしてくれて」
フレンズにも礼を言う小動物。
同じ笑顔なのに、雲泥の差を感じる……。
「ま、まぁ……俺は女の子のままだけど。 それより資料をどうぞ」
頼まれていた書類を渡す。 ちょっとシワが出来てるけど、問題ないだろう。
さて。 本番はここからですよ。
「ありがとうございます、確かに受け取りました」
「そんで、その件なんだが」
仕事に物申す。
黙ってやれと、前世では言われたものだ。
だけど言う。 黙認出来ない。
それと小動物なら聞いてくれると信じて。
「内容を見て。 意見を聞きたい」
「いえ……勝手に見るのは」
「うっかり目に入ったくらいで読んで欲しい」
うっかりで読むって、それガッツリ系に分類されそう。 でも言わない。 読め。
小動物、逡巡して……結局は読んでくれた。 視線が紙に落とされる。
表情が険しくなるサマから、俺ら同様に良く思っていないか。
「…………セルリウムによる故人の再現ですか。 薄々はあるだろうと感じていましたが、改めて見ると重いですね」
情報を扱う、管理職員の身だからか。
セルリウムの特徴も、多少認知していたのだろう。 それっぽい思考は出来た様子。
「同意見。 して、将来的にパークに害なす技術ないし実験が行われる可能性がある。 俺はソレを止めたい」
脇にいるニホとジャイペンも、真っ直ぐ小動物の目を見る。
止めるのに協力して欲しいと、言わんばかりに。
ところが。
「私は上の指示に従わなければなりません」
は?
それはまた……王道、社畜道をいく。
予想は出来たがね。 真面目ぽいからね。 小動物は。
だから、俺は説得する。
頭が悪いんでね。 まともな意見じゃないが。
「堂々反目しろとは言わない。 従うフリをしていれば良い」
「杏樹さん、私達は職員です。 上の意思決定や指示には従わないといけませんよ」
「それで小動物は、満足なの?」
「満足とか、不満足の問題ではありません」
「今後、この件で悪事の片棒を担がされてる可能性もあるぞ」
「可能性は、常にあります。 それはパーク職員全体に言えることです。 この島は綺麗な仕事ばかりではありません」
「いちぶ組織や個人の利権の所為で、フレンズを悲しませる結果になるんじゃないかって、考えられない?」
「…………私達は、ヒトです」
「悪意もあれば善意もあるのがヒトだ。 でも小動物は良いヒトだ。 そうだろう。 ニホ、ジャイペン?」
「うん! おねーさんは良いヒトだよ! 私があんじゅの部屋を汚しちゃった時とか、助けてくれたし!」
「パークの為に、自主的に見回りしてる背の低い職員がいるって、フレンズから聞いたよー。 それって、おねーさんの事だよね」
ここで清らかな(?)フレンズの言葉を浴びせて精神攻撃。 精神攻撃は基本。
小動物の良心の呵責に期待しよう。
「うっ……ズルいです、杏樹さん」
「へ? ナニ? 心を込めて、もう1回!」
「ズルいです! 私だって、何とかしたいですよ! でも!」
「怖いから?」
「…………何をされるか」
だよね。 俺も怖い。
この話をしてる時点で、内心ビビってます。 どこかで聞いてるヤツがいて、チクられて、次の日行方不明扱いにされるとか。
前世の様な過労死ENDも勘弁だが、そういう終わり方も嫌だ。
でもジャパリパーク、フレンズ、そしてヒトの未来の為だ。
不安要素は消したい。 苦難は群れで分かち合え。
「俺も怖いよ。 他にも、この件を話したヒトはいるけど、そのヒトも怖がってたよ」
「それは……保安調査隊の」
「うん。 でもフレンズの為に前向きに頑張る姿勢だった。 それって、個人の倫理観もあるけど、パークやフレンズが好きだからじゃないかな。 小動物はどうだ? パークがお好きですか?」
「…………好きです。 だからこそ、私に出来る事をやりたいと思います」
「なら、やろう。 後悔しないように。 小動物だけに重荷を載せないから。 皆でやるから、大丈夫」
島の中……パーク職員だけの問題に留めるつもりは無いからね。 世論……外界も巻き込みます。
ヒトの世界が混乱する?
知らんな。 悪事を働くヤツが悪い。
それと予定の味方は、不特定多数の無責任論者の名無しな皆様だ。
ぜひ声を荒げてパーク談義を交わしたまえ。
運が良ければパーク上層部が無視出来ず、実験中止まで漕ぎ着ける。
「よし。 作戦はこうだ。 小動物がネットの掲示板だとかなんかで、こういう事がパークで行われているらしい事をほのめかす。 それを薄く広く拡散させていく。 上手くいけば伝染して勝手に広がるだろう」
「それで、この件が解決するのでしょうか」
「上手くいけば、最終的に。 世論が騒ぎ始めれば調査団やらなんやらが介入して実験中止になるかな。 最悪、影でやろうとしたら研究所をフレンズや俺らが荒っぽい手段で止める」
「すごい……乱暴で粗末で、失敗しそうな作戦ですね」
ごもっともである。
結局最後は、暴力になるかも。 フレンズ……協力してくれるかなぁ。 無理かも。
「ナニもしないより良い。 他に良い方法があるなら頼むよ」
「考えておきます」
「拡散しなくてもさ。 自然の結果って事で諦めもつく。 噂程度で分散するぶん、責任逃れも出来る」
記録保存チームの、部長の言葉を思い出しながら言う。
諦めても新しい幸せが、この島で生まれる。 悲しみは続かないハズだから。
「雑で卑怯ですね」
「それもヒトだから」
そう思うヒト、俺。
楽観視している自覚はある。 でも、なんとかなるさ。
するとニコッと。 小動物は微笑んだ。
カコと出会ってなかったら、結婚しよと考えたかもね。 背と胸無いけど、良いヒトだもの。
「分かりました。 大した事はしません。 後は流れに任せます」
「それで頼みます」
そう言うと、ニホとジャイペンが「お願いするよ!」とか「よろしくー!」とか続けて言った。
フレンズに言われるとね。 くるものがあるよね。 絶滅種だと余計に感じる。
「分かりました。 何かあったら、連絡します」
「しくよろ」
「それで、アナタの今後ですが」
仕事の話にシフトですかそうですか。
危険な目に遭ったばかりなのに、休ませてくれないんスかね。
「ウィッス。 なんスか?」
「いちど所属決めをしてみませんか?」
はい? 所属ぅ?
パーク臨時職員という肩書きを変えるというのか。
「あのー。 それは臨時職員でなくて、どこかの組織や専職に組み込まれるという事でしょーか?」
「はい。 そうすれば、その組織でアナタは色々と保証されますし、スキルも身につきます」
うーん。 これはありがた迷惑かも。
臨職は大変だが、簡単な事をやらしてくれたり、重い責任を負わされない。 今のところ。
今日みたいな、危険な仕事ばかりなら考えるが、派遣先の職員は皆雰囲気良いし、仲良く出来ている。
残業モドキはあるが、笑顔の中に包まれていると苦ではない。 肩書きで周りの目も気にならないしな。 前世と大きく異なる。
「いやぁ、別に現職に大きな不満は無いんすけど」
「様々な部署が、アナタが欲しいと良く連絡されるのですよ」
マジで?
こんなダメ男……いや、今は女を?
「動物研究所からも、誘いがありましたよ」
「マジ?」
それはチャンスじゃね?
カコと一緒にいられる時間が増えるやん!?
「そ、その……アナタが望めば私の部下としても」
「ジャパリパーク動物研究所に所属しますですよハイ!」
「あ…………はい、そうですか……先方には連絡しておいて下さいね……これ、連絡先です」
連絡先が書かれた紙を渡された。
なんか小動物が意気消沈しているが、気にしない。
それより連絡だ!
所長の問題はあるが、近くにいた方が監視もしやすいだろう。
「はぁ、杏樹ちゃーん。 女の子になったなら、もう少し、もうすこーーし、気持ちを勉強した方が良いぞー?」
急にパイセンに溜息吐かれたぞ。
俺がナニしたってんだ。
「みんなと仲良くしなきゃダメだよ!」
ニホには吠えられた。
なんなんだ、一体……。
「まっ。 大切なのはこれからかねぇ。 私はパーク復興に備えて、ひとまずPPPのトコに戻るよ」
「あ、ああ。 気を付けてな」
パイセンはPPPのトコに行ってしまった。
アッサリしている。
道中が心配だが、都市部の駅に来れたのだ。
セルリアンが沈静化したみたいだし、彼女も強そうだし。 大丈夫だろう。
「じゃ、じゃあ研究所に連絡するか」
パイセンの言う通り、大切なのはこれからだ。
どう転ぶか分からない。
ウロボロスのフレンズとの出会いという、下手するとヤベェ事態になっているが、うん。
フレンズがいる。 何とかなるさ。