悲しいとき。 どうすれば 良いのでしょう。
さて。 研究所から飛び出して、ヒトの縄張りである都市部や寮での生活に戻ろうとしたのだが。
当然、こんな耳と尻尾ではフレンズ扱いだし、職員証は男性写真のままなので使えない。
いくら『パーク職員です』と名乗っても、通用しないだろう。
どうすれば良いのか。 既に復興の為の作業員は港に集結しつつある。 はえーよ。
このままでは、都市機能が回復してヒトが沢山戻って来る。 そうしたら、いよいよ居場所がない。 こんな俺の姿を見せられない!
「ニホンオオカミ。 一緒に冒険だ」
「わーい!」
逃げよう。
サファリ区分に冒険という名目での避難だ。
取り敢えず、寮の荷物を纏めて置き手紙。 「探さないでください」と書いておく。
うん。 寮母さんなら見てくれるさ。 パリピは知らん! 仕事も、知らん!
広大なパークだ。 闇雲にフラついても、行き倒れてヒトに捕まってしまう。 それは嫌だ。
ではどうするか。 ココは各地のフレンズのチカラを借りようと思う。 食糧や住処を分けて貰うのだ。
先ずヒトが居ない内に、フレンズ用食糧庫から食糧をパクっておく。
次に初代キタキツネの別荘である、森にあるログハウスへ。 まだ朽ちて無いなら使える筈だ。 誰か住んでいる可能性があるが、フレンズなら快く受け入れてくれるだろう。 妄信。
「あんじゅ の 耳と尻尾は どうしたの? 私に似ているけど」
ニホンオオカミに、今頃突っ込まれる。 どうもこうも、ヒトの欲に巻き込まれた結果だよ。 言わないが。
「生えちゃった」
「わーい! 仲間だね!」
股間のは生えなかったが。
対して喜ぶニホンオオカミ。 嬉しいね、傷心した身としては笑顔が何よりの薬だよ。
「ああ……そうだな。 仲間、だな」
感情が高まって、あかん……涙が。 今まで何かを我慢してきたように。 それが溢れて止まらない。 涙を拭っても拭っても。
すると。 ニホンオオカミが近寄って来て。
ペロッと、頰をなぞる涙を舐めた。 擽ったい。
驚いて、見やる。 相変わらず笑顔だった。
「それじゃ行こうか! 冒険! きっと一緒なら楽しいよ! 気になるモノを沢山見つけてさ!」
涙については、とやかく言わない。 そんな優しさ。 そして赦されたような感覚に襲われて。
俺は情けなく わんわん 泣いた。 滂沱した。
俺は暫く休養に入る事にしますよ。
俺とニホンオオカミは、ヒトのナワバリを離れて森へ入る。 楽しい事も、辛い事もあった 初代キタキツネが住んでいた あの森に。
過去は変えられない。 そのくせ、後悔ばかりだ。 嗚呼。 身体が震える。 寒い。
思わずニホンオオカミを抱き寄せた。 いつもより、彼女は温かかった。