パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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幼き頃、不思議な経験や出会いは、ありましたか?


幼い頃の、菜々ちゃんと園長さん。 そして……白いキツネさん。

神社にて出会った男の子。

小さなパンを持って、勇気を振り絞って俺たちに立ち向かってきた。

 

キツネさんをいじめるな、と。

 

いや、いじめてはいないよ。 そう見えたのかもしれないけど。

 

そんな男の子。 特筆するべき格好はしていない。 普通の子だ。 けれど俺の妄想脳は違うと否定する。

 

この子は、後にパークで起こる大事件の解決に貢献するヒトだ。

パークを跋扈するセルリアンに立ち向かうフレンズたちの指揮を執る。 皆から愛されて女王事件収拾後は園長と呼ばれて慕われる。

まあ、その、一部のヤンデレにも絡まれたりもする。

 

ただし。 その正体やパークに来た経緯はよく分からない。

どのような経緯で休園状態のパークに招待されて、記憶喪失になったのか。

 

それと気になる事がある。 キーアイテムである丸いリング状の「お守り」を持ってる様子がない。

 

お守りは、一緒に冒険するフレンズにチカラを与える不思議なものだったか。

これまた分からん存在なのだが……細部まで語られない方が、妄想しがいがあるというもの。 よし、妄想しよう。

 

…………ダメだろ。 今はそれどころではない。

 

俺は和解の為、男の子に、園長に否定の言葉を投げていく。

 

 

「ちがうよ! いじめてないよ!」

 

「そうだよ。 いじめてないもん」

 

 

菜々ちゃんも、一緒に否定してくれる。 これで2対1である。 信憑性が高まる。

 

 

「…………ほんと?」

 

 

少し疑いつつ、けれど信じてくれている声色。 そこに純粋な幼き心を垣間見つつも、微笑む余裕を隠して言葉を繋ぐ。

 

 

「ほんとだよ。 見たかっただけ」

 

「そう。 見たかったの!」

 

 

嬉しそうに、隣まで駆け寄り同意する菜々ちゃん。 よし良いぞ。 もっとやれ。

子どもの笑顔を見ると、純粋にそうなんだろうなと思わせる。 雑念を感じさせない。

 

うん。 いつか忘れていた感覚だ。 職員になっても、この心は持ち続けられるだろうか。

 

いかんな。 俺が雑念だらけだ。

 

そんな俺の心境を知るよしもなく、園長(たぶん)は俺たちを信じてくれた。

 

 

「わかった。 しんじるよ」

 

 

真っ直ぐな視線で、そう言われた。

 

理解のある子で助かる。 別にコチラは嘘を言っているわけではないし、それに対しての罪悪感はない。

 

だけれども。 信じる心を持っているこの子は、きっと強いんだなって思えた。

 

 

「ありがとう」

 

 

一応の礼を述べると、互いの緊張が解れた。

一件落着。 パークに行く前に、重要そうなヒトと不仲になるのは避けたい事案であったからね。

 

 

「ねえねえ! あなたも、キツネさんを見にきたの?」

 

 

菜々ちゃんが、無邪気に話しかける。 先程まで一触即発な事態だったとは思えぬ流れをつくる。

いや、良いんだけど。 寧ろ助かります。 ありがとう。

 

 

「うん。 でも、ぼくは お世話してるんだ」

 

 

菜々ちゃんの笑顔パワーのお陰か。 ニコッと笑いながら手に持つパンを見せてきた。

ふむ。 やはり、お世話をしてるのか。

 

その手に持つ小さなパンが、キツネさんのゴハンなんだろう。

 

 

「そのパンが、キツネさんのゴハン?」

 

「そうだよ」

 

「そうなんだ! わたし、おやつだと思った!」

 

「あ、あはは……」

 

 

菜々ちゃんに言われてちょっと、園長は目線を逸らした。

 

あー、うん。 アプリの回想的に、親に自分のおやつ用だとかなんとか言って、貰ったんだろう。

 

少し罪悪感があるのかも知れない。

 

うむ。 そんな罪の意識を和らげてあげよう。

何の能力もないが、ささやかに、俺に出来る事はある筈だ。

 

 

「実は俺も、パンを持ってるんだ」

 

 

そう言って懐から少し大きめの、丸いパンを取り出す。 ジャパリまんじゃないよ。 クリームパンだよ。

 

 

「ええ!? 良いなぁ」

 

 

菜々ちゃんが、素直に羨ましがる。 俺はニマニマとパンを高く掲げ、アピール。

どうだ、欲しかろう。 園長も欲しかろう。 さあ拝め。

 

ここで有利なのは、より大きい食い物を所持する俺である。 ここは俺が指揮を、いや、司会を執らせて頂こう。

 

 

「でもね、ちょっと大きいの。 キツネさんにあげたいんだけど、良いかな?」

 

「えっ。 いいの?」

 

「あんじゅ、やさしいね!」

 

 

食いついたね。 単純な子たちめ。

 

このまま俺は話を進める。 けれど、意地悪ではない。 互いに有益な話だ。

 

 

「だからね、キミが持ってるパン。 それは食べちゃって良いと思うの。 あまりあげると、キツネさんの おなか、いたくしちゃうかも」

 

「え……あ、うん。 そうだね。 これはぼくが食べるよ」

 

 

よしよし。 これで親への嘘が本当になった。

この意図や意味が、幼き園長に伝わるかといえば「NO」だろうけど、所詮、自己満足。

これで良いのだ。 誰かを救うとか大それたものでもない。 しょーもない事である。

 

 

「わたしのぶんは!?」

 

「……俺のをあげるよ」

 

 

菜々ちゃん。 今の俺の気持ち、飼育員になったら分かるよ。 主にキタキツネに対して。

 

そういって、手でちぎったパンのカケラを菜々ちゃんに渡す。 ちゃんとクリームは入ってるからね、安心して食ってくれ。

 

 

「ありがと! あんじゅ、だいすき!」

 

「お、おおぅ」

 

 

そう言って、早速パクつく。 すごい笑顔である。

 

こっちはだいすきって言われて、動揺しちゃったよ。

 

幼子の「だいすき」は俺の思う不純なヤツじゃないと言い聞かせても、やはりか、聞き慣れない言葉である。

 

愛があるというか。 くすぐったい気持ち。

 

…………言っておくが、俺はロリコンじゃない。 そういう趣味はない。 あくまで、今後の付き合いを考えてだ。 仲良くなっておけば、役に立つかも知れない。

 

嗚呼、駄目だな俺。 利益で考えてしまっている。 もっとこう……純粋に生きたい。

 

 

「その代わり。 キツネさんに会わせて欲しい。 良いかな?」

 

 

パンをあげたのだって、正直に白状すれば、こういう切り返しをしたかったに過ぎない。

やれやれ。 これではフレンズに好かれないぞ、俺。

 

 

「いいよ。 ちょっと待ってね」

 

「ありがとう」

 

「でも、大きな声出したりしちゃ駄目だからね」

 

「っん! わかった!」

 

「菜々ちゃん。 もう少し、しずかにね。 それと食べながら しゃべらないの」

 

「ふぁい」

 

 

食べカス付けながら、お返事する菜々ちゃん。 うん。 可愛いけど駄目なものは駄目ですからね。 お行儀が悪いですよ。

 

パークでは、逆に教える側になるのだから、ヒトとは分からないものだけど。

 

微笑ましく思っていると、園長が社の下を覗き込む。 さっき菜々ちゃんがやっていたところだ。

 

そして、やはりいるらしく、おいでおいでと手招き。 優しげな声をかけながら。

 

 

「おいで、キツネさん。 僕だよ───だいじょうぶ。 ふたりは、悪いヒトじゃないよ。 でておいで」

 

 

そんな様子を、静かに見守る事しばらく。

 

ひょこっと下から現れたは、真っ白……いや、ちょっと汚れた白いキツネさん。 マジでいたのか。

 

キツネさんは、少し離れたところから見る俺と菜々ちゃんを一瞥。

こーん、とひと声鳴いた……気がした。 気がしただけだ。 キツネの鳴き声って、本当は違ったと思う。

 

 

「おお」

 

「ね? ほんとーにいたでしょ?」

 

 

手柄を立てたとばかりに、隣でキャッキャッする菜々ちゃん。 認めてあげて、喜ばせよう。

 

 

「ほんとだね。 菜々ちゃんといっしょに、ここに来てよかったよ」

 

「エヘヘ」

 

 

あら可愛い。 心が浄化されるわ。

おっと。 キツネさんのゴハンを渡さねば。

 

 

「あ、このパンを渡すよ」

 

「うん。 キツネさんも喜ぶよ」

 

 

俺も喜ぶよ。 というか、既に喜んでいるよ。

 

園長に会えて、キツネさんにも会えた。

 

もうじゅうぶん過ぎる。 人物やパークの謎に迫らなくても良いんじゃないか。

あ、でもパーク職員は目指します。 これは譲れない。 転生したのにパークに行かないのは嘘である。 意味ないと断言して良い。

 

妙な決意を固める俺の手から、クリームパンの残りを受け取ると、園長はキツネさんに食べさせてあげた。

くんくん、と嗅いで、次には、むぐむぐと食べ始める。 見ていて癒されるなぁ。

 

このキツネさんが、オイナリサマなのかは分からない。 頭部に載っかる妄想脳は「あなたはオイナリサマね!」と訴えているものの、証拠不十分過ぎて話にならない。

 

けれども、ここまでの展開からして……やはりそうなのではと期待してしまう。

だからか。 つい、格好つけた言葉を出してしまった。

 

 

「えんちょう さん。 おいなりさま。 どうかよろしくね」

 

「へ?」

 

「あんじゅ、急にどうしたの?」

 

 

あー。 うん。 痛い発言をしてしまった。 幼子に首を傾げられても仕方ないね。

そして、聞かれたのが幼子でも、すっごーい恥ずかしい。 ちくせう。

 

キツネさんも食事を中断して、なんかジッと見つめてくるし。

 

やめて! 俺のライフはもうゼロよ!

 

 

「ああ! さて! じゃあそろそろ帰る! 俺と菜々ちゃんは、少し遠い所から来たからね!」

 

「あっ! 待ってよ あんじゅー! 急に行かないでよー!」

 

 

幼き子の声が森に、社に響く。

 

この日の出来事が、将来どう影響するのか分からない。

 

ただ事実として言えるのは。

 

この日から、パークに行くまでの長いようで短いような本土生活にて。

 

園長と、白いキツネに会う事はなかった。

 

けれども。 きっとまた会える。

 

俺の妄想脳は、今世では、良く当たるのだよ。

 

だからさ。 今は、さようなら。

 

 

「なまえ……聞いておけば良かったなぁ」

 

 

それと。 次にあった時は、俺の恥ずかしい発言を忘れていますように願う。




あーかいぶ:(当作品設定等)
日本の神社の数は、8万社以上だそうです。

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