パーク職員です。(完結)   作:ハヤモ

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不定期更新中。 駄文。

カコの両親を救いたい。


過去を変える。 想いを変える。

カコ博士の想い。

 

死んだ両親に、もう一度会いたい。

 

絶滅動物を再生したい。

 

儚く、届かない想いだ。 普通なら。

何故ならば、失ったら元に戻る事はないから。 どんなに恋い焦がれようと会う事は、叶わない。

 

有機物、無機物問わず、それは万事に当てはまる事柄である。

必然で、故に理不尽。 けれど、どうしようもない。 慄として日々を過ごす。

 

消え逝く輝きは最早、手には掬えない。

 

代用品に手を伸ばし、多少の穴を埋める事は出来ても、喪失感を完全に無くすのは無理だ。

 

その際の喪失感は理解出来る。

 

前世の自身の人生であったり、終わってしまったアニメ、遠く離れた故郷に対して感じるノスタルジーか。 郷愁に似た何か。

 

だけれど。 それでもカコは願い、求めた。

 

して後者は……絶滅動物の件は叶った。

 

超常物質、サンドスターのお陰だ。

 

全く。 凄まじい謎物質である。 科学、医療、軍事、あらゆる分野にて価値があるのだろう。

 

失ったものが戻る。 再生する。 それに、どれほどの価値があろうか。

 

ただの記録媒体……アルバムを立体にしただけと考えて現在進行形のような価値は皆無とするヒトもいるだろう。

セルリアンの女王は、そんな感じであった。

 

だが、パークにいる絶滅種のフレンズや、神さまは、心を持っているようにしか感じない。 俺だけだろうか。

 

例え再現や再生だとしても。

俺は、あの子たちフレンズは、生きていると考える。

 

その流れで。 俺が知らないだけで。

 

()()()()()()()()という、普通なら禁忌に触れかねんコトをやっていたんじゃないか?

 

いや、そうしたら絶滅種の再生は良いのかよという話になるが……今は割愛。

 

その片鱗か。 女王が生まれ、パークが危機に陥ったのは。

 

いや。 実はそれは、それすらカコ博士の計画の内だったのでは?

 

考え過ぎか。 カコもまた、パークとフレンズを愛していたというのだから。

 

いや、しかし。

 

カコを襲い、輝きを奪ったセルリアン。

ソイツは女王にまで成長し、カコの思考や想いの中にある、セルリアンにとって都合の良い部分を発言していた。

 

 

 

───すべての 輝きは やがて 消える。 

失い どれほど 焦がれようと 戻ることはない 

 

しかし 我々 セルリアンは 保存し 再現する 永遠に

 

 

壊れた機械のように。 ミライの訴えに全く反応せずに、何度も繰り返した。

 

それはどこか不気味な光景で、ヒトによっては命の温かみを感じられない、無機質なモノを相手にしている嫌悪感があったであろう。

 

だが、待って欲しい。

 

都合の良い部分とはいうが、それも紛れもない、カコの思考のソレなのではないか。

 

優秀なヒトであれど、満たされる事はなく、心の中では辛かったのではないか。

 

無垢(むく)な少女のように、お母さんに、お父さんに会いたかったんじゃないのか?

 

ミライの話を参考にするならば、表立って想いを吐露(とろ)する事はなかったが……やはり、どこかで願っていた。

 

その結果が、思考が、あの女王の言葉だったのではないだろうか。

 

俺はカコじゃない。

 

だけど家族が死んだ悲しみは、分かっているつもりだ。

 

というか、一度死んだ記憶があるヒトが言って良いのか分からんが……。

 

 

「知っておきながら何もしない。 死んでも死に切れなくなるかもな」

 

 

暗い、自宅の自室のベッド上で横たわりながら独りごちる。

雨の音が、他の音を許ず掻き消していく。

 

明日。 カコの両親と共に、少し遠い所の動物園に行く事になった。

俺の、今世の家族には無理や滅茶苦茶言って、家に何とか残ってもらった。 今回、何が起きるか分からんのだ。

あらあら、デートかしらと揶揄(からか)う両親に、俺は薄ら笑いを浮かべて誤魔化す。

 

嗚呼。 俺にとっては、デートというより修羅場に行く気持ち。 ツライさんなのだ。

 

一方、馴染みのカコは、とても楽しみにしていて、笑顔を振りまいてたな。

 

だがしかし。 俺の妄想脳がヤバいと激しく警笛を鳴らしている。

 

いよいよ。 そろそろだと。

 

策はない。 でも、何もしないワケにはいかない。

 

俺は神さまじゃない。

 

フレンズみたいに、強くない。

 

カコやミライのように、賢くない。

 

寧ろ俺は、馬鹿だ。

 

なんの能力もない、妄想好きの一般人だ。

 

今なんて、非力な幼子の姿である。

 

だけど。

 

 

「カコの……泣き顔は見たくない」

 

 

やはりコレだ。

 

けもの じゃないけど、大切なフレンドなのだ。

 

のけもの には、したくない。

 

後腐れなく、パーク職員になりたい。

 

笑顔の中、夢を叶えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

雨が上がり、澄み渡る青空が点々とする水たまりに映る、美しい日である。

 

ちゅんちゅんと、スズメの鳴き声が聞こえる平和そうな日。

きっと今日も何事もないと。 楽しい1日になるよと。 そう思っても良い光景。

 

勿論、そうなれば苦労しない。 頼むから平和に終われと願う。

 

でもね。 俺の妄想は、今世で良く当たるんだ。 そして、信じている。 信じたくないものでもね。

 

 

 

「おとおさん。 おかあさん。 いって参ります!」

 

「あ、ああ。 気を付けてな」

 

「緊張し過ぎよ?」

 

 

俺は戦場に赴くべく出兵するかのように、たじろぐ今世の両親に敬礼する。

背中には子ども用かばんを背負う。 色々入って、パンパンである。

 

ほんと、何が起きるか分からない。

備えあれば憂いなしというが、カコの両親が「なんの事故」で死んでしまうのかサッパリだ。

用意してもしても、足りないくらいだと俺は思う。

 

だが、このちっこい容姿で用意出来る物は限られた。

家にあった小型の懐中電灯や、防犯を兼ねた子ども用の携帯だとか、お父さんの車にある発煙筒をパクってみたり、お母さんが俺の部屋に隠しているヘソクリを持ち出したり色々したけれど……不安しかない。

 

俺は不安な妄想に追われて、殆ど眠れなかったよ。 下手すれば俺も死ぬからね。 死ぬのは怖い。

カコは……俺が介入しているのだ、一緒に死ぬかも知れない。

 

だから、部屋の勉強机に「()()」を書き残している。

幼子らしからぬ、難しい漢字を多用されているものに仕上がった。 まあ、うん。 遺したかったからね。

 

やっていることが、逆に更なる悪化を招いている可能性は否定出来ない。

だが何もしないよりは良い。 だから動いた。

だがしかし。 結果が全てだ。 泣いても笑っても次はない。

前世の受験勉強より酷い緊張である。 二度と味わいたくないね、これ。 胃が痛む。

 

不安の中、お隣さんの、カコの家の前まで行って待っていると、扉が開いて両親が出てきた。

 

うん。 今日も美男美女です。 互いに見つめて、微笑みあっているときた。

ナニコレリア充爆発しろと、見るたび思うのだが、今日は思わない。 思っちゃダメ。 思う余裕すらないが。

 

さて。 次に我が馴染みのカコ。 母親の裾を握りながら背後に隠れている。 子どもらしいというか、引っ込み思案なカコらしいといか。

 

ちょっと大きくなったかな。 背が。

 

そんな光景に、少し緊張がほぐれた。

して、カコの為にも頑張らねばならない。

 

 

「おはようございます。 今日は(死なないで下さいマジで)お願いします」

 

 

ご両親に挨拶と共に深々お辞儀。 カコ宅の車で行く予定である。 もうこれ、車の事故になるんじゃねと思う。 名推理。

 

 

「ははは。 こっちもカコをお願いするよ」

 

 

お父さま。 阿保な事言わないで。 それ、今の俺には遺言に聞こえるの。

 

 

「ほら、カコも。 杏樹くんに会いたかったんでしょ?」

 

 

お母さま。 引き離さないであげて。 その温もり、下手すると最期だから。

 

 

「お、おはようっ。 きょうは、一緒に けものさん 見ようね!」

 

 

カコちゃん。 その満面の笑み、今の俺には沁みます。 沁みすぎて、ツライさん。

 

 

「……うん。 一緒に、一緒に見よう。 いつまでも、これからも」

 

「杏樹くん。 どうしたんだい?」

 

「いえ。 その、俺はカコちゃんと けもの さんが好きなんです。 嬉しくて」

 

「あらあら。 もうボーイフレンドが出来ちゃったわね、カコ?」

 

「うぅ……もう! はやく、いこっ!」

 

 

頰を染めて、たたたっ、と敷地の車に駆けていくカコちゃん。

 

こんな、こんな平和な会話や日常を守らねば。

 

パークの危機云々の前にカコの危機。

 

忍び寄る死神を追い払わねばならない。

俺にそんなチカラはないかも知れない。 だがやるのだ。

 

 

「はははっ。 それじゃ、行こうか。 ボーイフレンドくん?」

 

「はい。 頑張ります」

 

「あっ、否定しないんだね」

 

 

隣でお父さまがナニか言っているが、構う余裕はない。

 

俺に出来ること。 それをやるのだ。

 




あーかいぶ:(当作品設定等)
セルリアン
サンドスター、フレンズと共に出現、確認された謎の現象。
非常に科学的に実証が困難な《モノや生物から"輝き"を奪い、"形"をコピーする》という性質を持っています。
『輝き』とは言葉や感情や絆といった、形を持たないプラスイメージのモノのこと。 『輝き』を奪われた生物は最悪昏睡状態に陥ることもあり、無生物や場所が輝きを奪われれば魅力のないつまらないモノへと変質してしまいます。
セルリアンは形をコピーする性質によって、翼竜や雪だるま等、様々な姿に変化することが出来ます。 ただしそれは不完全なもので、完全なコピーは出来ないとされます。

危険な存在です。 フレンズやヒトに対して捕食行動を起こします。 捕食されたフレンズは輝きやサンドスターを奪われるとされ、最悪、元の動物に戻ります。
《光》を追いかける習性がある、海に入れない、等の弱点があるようですが、詳細不明。 サンドスター同様に謎が多いです。

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