人間界レベルの料理人がまた転生した   作:ベリアル

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第2話

「ramen」

 

「OK」

 

俺は今、無許可で世界地図に載っているどこかでラーメンを販売している。

 

思い立ったが吉日。その日以降は凶日と誰かが言っていた。

 

他の孤児院は知らんが、俺のいた孤児院は子供たちが煩わしいので元々出ていきたい気持ちはあった。そんなわけで有言実行する。

 

密入国の手段は既に考えていた。細かい手段は、省いて簡単に説明すれば、不良外国人を頼った。

 

日本には、不良外国人が車を盗んで海外で販売する事件が起きている。その不良外国人のアジト、ヤードと呼ばれるところは、盗難車を色々と作業しているところだ。ヤードを見つけるのは、そんなに難しいことではなかった。警察は介入し辛いけど。

 

ヤード内に一歩踏み込めば、数えきれないほどの不良外国人が、一斉に俺を睨みつけてくる。そんなものお構いなしに、近くにいた不良外国人に話しかけた。日本語でも英語でもなかったので、怒鳴られるものの俺にはちんぷんかんぷんだった。

 

「I want your boss paged.君のボスを呼んでほしい」

 

日本語と英語を分けて伝えても、彼らには何も伝わらない。どんどん、不良外国人は集まっていく。

 

「仕方ない」

 

今の俺は子供だが、中身は立派な大人で、トリコの世界で荒ごと慣れしている。この程度、なんてこともないし、犯罪者集団だ。容赦するつもりもない。こいつらを力づくでひれ伏せさせれば、こいつらの上司も出てくるだろう。

 

前世から引き継がれたのは、なにも記憶だけではない。前世ほどではないにせよ、戦闘能力も馬鹿にはならない。はっきり言って、黒人ヘヴィ級ボクサーにだって勝てる自信がある。

 

「日本語出来てりゃこんなことにはならなかったんだぜ。社会のゴミども」

 

結果、その場にいた20人近くいた呻き声を上げて、うずくまっている。死んでもいないし、骨折はしていないだろう。ノッキングという技術を使えばなんてことはない。人間はともかく、トリコの世界では使う機会はほとんどなかったけどね。強いし、骨格とか神経とかわけわからんない。知識・経験は膨大でなくてはならない。

 

それらに比べたら、こっちの世界はちょろい。

 

「これだけ大暴れされては、大人がしっかりしつけなくてはな」

 

「子供は元気が一番でしょ」

 

流暢な日本語ながら、声質から日本人でないことが分かった。

 

後頭部には、こめかみには拳銃が突き付けられている。前世ならともかく、これが脳天に撃ち込まれれば、無事では済まない。

 

「いきなりで悪いが、ヤードのボスであるあんたに用がある」

 

「おいおいおいおい。勝手に話を進めてくれるな。これだけのことをしてくれたんだ。無事におうちに帰れると思ってるのか?」

 

「なめんじゃねえぞ、おっさんよぉ」

 

突き付けられた拳銃を弾いて、銃を持っていた腕をノッキングする。手から離れた拳銃を奪い取り、今度はヤードのボスに銃を突きつける。形勢逆転というやつだが、周りにいる不良外国人はレンチやら鉄パイプを持って俺を睨みつけている。ボスも、動じる様子はなかった。

 

彼らも彼らで修羅場を潜り抜けてきたギャングなのだろう。

 

俺は銃をボスに持ち手を向けて、交渉に入る。

 

「取引がしたい」

 

「……言ってみろ」

 

そこから先は密入国への協力。ただし、行き先は俺にも、わからないとのことだった。他にも幾つかの条件を交換し合ったが。

 

「まあ、着いた先が英語圏じゃないのは厳しいな」

 

こうして密入国成功した俺は、不良外国人に用意してもらった移動式屋台を引いてあっちへふらふらこっちへふらふらしている。しかし、着いた先では雪がめっちゃ降っているとは知らんかった。ぜってえわざとだな、次あったら殺してやる。

 

言葉は覚えつつ、メニューは日本語と英語でどうにかするしかない。

 

といっても、メニューは一つしかないのでそのあたりは平気だ。というか、言葉も通じないのにメニューが複数あったら、ややこしくなる自信がある。

 

俺が販売しているのは、しゃくれラーメン。前世にはシャクレノドンという恐竜がいて、ラーメンに使うと美味い。それを器を発泡どんぶりにして、売りさばいている。シャクレノドンの骨を使ったスープの香りが鍋から漂い、客を引き寄せる。

 

器に麺、ネギ、煮卵、シャクレノドンの骨付き肉。最後にスープを入れれば完成。

 

「いいね」

 

今のところ、用意したゴミ袋には、器だけが入れられており、食べ残しは一切ない。

 

ラーメンを買っていく現地の人々は、笑顔でラーメンを頬張っていく。一人で食べて、浸るように微笑んでいる人もいれば、喜びを共有し合う集団もいる。言葉は通じずとも、表情は世界共通であるのは確かであった。

 

どの世界でも、自分の成果で人が笑顔になってくれるのは、嬉しいに決まっている。

 

やっぱり俺には料理しかないのかね。

 

「ねえ、一つ頂ける」

 

「日本語?」

 

視線の先には、俺と同じくらいの少女が立っていた。今の俺は脚立に乗っているので、視線よりも下にある。髪や顔立ちは現地住民のような日本人離れした容姿をしている。

 

「あら、いただけないの?」

 

「あ、や、失礼失礼。日本語は久しぶりに聞いたからさ。おまちどおさん、お姫様」

 

「あら、洒落の利いた店主さんね」

 

「お客様は神様だから、君の場合は姫だから大分劣化してるけどね」

 

「その言葉がなかったらとってもよかったのに!」

 

少女に本日最後のラーメンを手渡すと、店を閉める。用意してあった材料が切れたので、ベンチに座って、行儀よくラーメンを啜る少女の隣に座る。久しぶりに会話が出来る相手に胸を弾ませていた。腹は減らずとも、会話には飢えている。

 

「どう?」

 

「ぐぬぬ。とっても美味しいわ!」

 

彼女は悔しそうな表情を浮かべると、何故か頬を染めて悔しそうにしている。

 

「私じゃ……むむ」

 

なにこの子怖い。

 

どんぶりに口を付けて、スープを飲み込むと、ぎゅうっと目を瞑って全身に力を入れたと思ったら、次の瞬間には力が抜けたかのようにほっと息を吐く。

 

どうやら満足していただけているようだ。

 

「そういや、親は?」

 

「家から抜け出してきたの。今頃使用人たちが私を必死で探してるわよ」

 

「……え、ガチのお姫様?」

 

普通、使用人とかいないだろ。言われてみれば、品が良さげで、着ている服も高そうに見える。

 

「正確にはお嬢様って呼ばれてるわ。あなたこそ、親御さんは?子供一人で店を任せるなんて、不用心すぎるんじゃないかしら?」

 

「俺、親いないよ」

 

「え?」

 

別に話してもいいので、俺はここに来るまでの話をぼかしながら、話していく。

 

「で、食材も用意してもらって、ここに到着ってわけ」

 

グルメ食材の件に関しては、がっつり嘘であるが、問題はないだろう。久しぶりの話し相手につい言葉が溢れ出てしまう。一方で、彼女は瞳を輝かせながら、俺の話に聞き入っている。

 

「すごいわ!あなたみたいなアウトロー会ったことがない!」

 

「アウトローって……」

 

とはいえ、実際ここに来るまでは大変だった。未知の国に着いたまではいいとして、地元ギャングに絡まれたりもした。当然、返り討ちにするが、警察に目を付けられるのも厄介なので、とにかくとどまる選択肢はなかった。

 

地元ギャングも面子を重んじるので、返り討ちにしたら即退散するのが吉。

 

少なくとも自分のことを善人とは思っていないので、悪人呼ばわりされても不満はない。言葉の通じないこの国に来て良かったことは、嘘をつかなくてもいいことだ。

 

言葉が通じないから俺も相手が何を言っているのか伝わらない。

 

つまり、食材のことに聞かれても分からないのだ。

 

もし、ここが日本であるのならば、はぐらかすのは難しいだろう。そもそもとして、日本警察の優秀さを考慮すれば、即効で孤児院に連れ戻されるだろう。

 

英語圏だったのならば、食品偽装をする他なかっただろう。

 

あとはまあ、お決まりの台詞だ。

 

「このお肉なんのお肉?」

 

「企業秘密だ」

 

さて、そろそろヤバそうなので、この土地からも去らなくてはな。

 

ラーメン屋だと有名になりつつあるので、別の店を開かなくてはな。

 

何を売ってやろうか。

 

 

 





しゃくれラーメン食べてみたいですよね。


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