「確保確保おおぉ!」
「Fuck!Die!」
俺は雪の積もる街中を走り回っている。移動式屋台は諦めるしかなかった。
黒い服を着た連中に追われているからだ。理由は知らない。昨日、お姫様に食材を聞かれて、街を出ようとした翌日に威圧的な態度で俺について来るように告げられた。威圧的なのは、別にいいんだ。
問題なのは、今まで絡んできたギャングとは違うという点だ。ギャングのように暴力を見せつけるのではなく、チラつかせる。それでいて、どこか品と知的さがある。それは仕事として来ているプロだと感じ、厄介ごとであると分かれば俺は屋台を置いて逃げ出した。
マフィアではない。マフィアならば、もっと強引に俺を連れ出す。手段の例を挙げるなら誘拐だ。
それをしないというのは、俺では予想のつかない組織になる。
「だっ!っら!っしゃい!」
「忍者か!?」
路地に入ると、壁を蹴って反対側、2階窓の淵につかんで、そこから壁を蹴って元の建物の3階窓の淵を掴む。それを幾度か繰り返して屋上に上りきる。パルクールという技術と俺の身体能力が可能にした成果だ。子供の体にしては十分でも、トリコの世界だったら一っ跳びで済むのに、不便な体になってしまった。
ゆっくりはしていられない。
屋上に上がってすぐに、屋上から屋上へとパルクールの要領で移動していく。
しばらくして、排水タンクに背中を預けて座り込む。
彼らも屋上に移動されることは予想外だったろう。あとはここでじっとしていればいい。
「っかし、なにもんだありゃ?」
体格もよければ、乗ってきた車も上等な代物。レシーバーを使って仲間との連携。明らかに日本人の顔立ちではないのに、流暢に日本語を使いこなしている。
「昨日のお姫様が関係しているのか?」
だとしても、何の用よってことになるんだよな。
「っと。チャンスだ」
屋上から大型トラックが走っているのを、確認するとすぐさま飛び降りるように、壁を蹴っていきトラックの荷台上に飛び乗る。体を横にして、黒服連中は俺を探し回っているが、こっちには気づいていないようだ。この街を出るまで、タクシー代わりとさせていただこう。
「ふぁあ。ねむっ」
大きな欠伸をかいて、眠りにつく。
でも、あれだわ。迂闊すぎた。
目が覚めた時には、昨日見た顔があった。
「Good morning!」
「Bad morning.Hey,princess.Can I ask you some questions?(おはよう……。お姫様よぉ、質問してもいいかい?)」
「OK.ってなんで英語なのよ」
両手を広げて、明るい笑顔で元気いっぱいを表現する。
彼女の後ろには、男性が一人立っている。雰囲気からして、SPではない。
スポットライトが当てられたように、俺たちだけが照らされた暗い部屋にいる。
「うん。聞きたいことは山ほどあるから、順番に聞いていくね。一個目は、今日の朝こわーいお兄さんたちが俺を追いかけてきたんだけどさ、お姫様の差し金?」
「そうよ」
「そっか。この時点で聞きたいこと増えたけど、一旦置いておこう。二個目は、椅子に縛り付けられている理由は?」
今椅子に手足をガムテで縛り付けられている。さしもの俺もこれを引きちぎるとかはできない。
「彼らから逃げるんですもの、これぐらいしないとまた逃げるでしょ」
「あたぼうよ。三個目の質問と行こうか。こんなことする理由は?」
「あなたに興味があるから。そして、あなたの実力を証明してほしいから」
彼女がそういうと、俺たちに当てられたスポットライト以外の照明がつく。そして、俺の目に映し出されたのは、様々な食材に、古今東西の調理器具が揃った大型キッチンであった。
「私と勝負しなさい。どっちの料理が美味しいか?」
「料理勝負か」
なんでそんなことをするんだ?わけがわからない。横暴だ。勝負をして何になる?
こう言ってやるのが正常な判断なはずだ。
他にも言ってやりたいことが、あったろうに。
「四個目の質問だ。名前は?」
こっちも料理人としてのプライドがある。
「薙切アリスよ」
前世でもあったんだよ。料理勝負がさ。
椅子からの拘束が外され、キッチンに立つ。
闘争心を隠す気はない。アリスも同じだ。
お題が表示され、脳内で何を作るかメニューを選び抜いていく。
「始め!」
開始の合図と同時に、俺たちは動き出した。
「勝つのは俺だ。アリス」
勝利の道しるべとなる食材を掴んで、勝利宣言した。
「ちなみに俺どうやって捕まったの?」
「うちに寄る運送トラックにいたら気づくわよ」
「は、恥ずかしすぎる!」