人間界レベルの料理人がまた転生した   作:ベリアル

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第5話

 

夜の厨房で一人静かに、冷蔵庫から取り出したゼリーを前にして、深呼吸をする。スプーンで口に運び、20秒間かけてじっくりと味わう。

 

「Good.及第点ってぇとこだな」

 

赤、青、黄、緑、紫、橙、黄緑。パッと見七色に濁ったゼリーが小皿の上に置かれている。濁っているといっても決して、汚いものではなく、七色が国立公園イエローストーンのようにゼリー内で煌めいているようなものだ。

 

このゼリーは冷蔵庫から取り出したばかりで20℃以下の冷たさである。冷たい物の匂いは本来であれば、鼻に届きづらいのだが、このゼリーからは甘い香りが漂う。

 

嗅覚だけで味わいを錯覚する匂いは、涎を溜め込んでしまう。その匂いからは脳内で様々な果実を思い出させていく。

 

宝石の如き、果実のゼリー。

 

超劣化番、虹の実擬き。

 

「でも、やっぱ駄目だな」

 

本来の虹の実であれば、一口食べれば色んな味が味わえる。二口食べれば、一口目にはなかった出会いがある。一つの味に対しても、想像を越える極上の味だ。強烈に甘いのに、甘過ぎると感じさせないのだ。

 

俺の作った虹の実ゼリーは甘さは適切でも感動もないし、味の変化もない。一口であらゆるフルーツを圧縮した果実独特の甘さはあっても、虹の実ほどでない。

 

「ああああんもおぉぉぉういやああああああああああああああ!」

 

虹の実の完璧な再現は遥かに遠い。

 

「これじゃあただのフルーツゼリーじゃんかよおおおお」

 

及第点は出したものの、納得いくどうかは別で、あくまでこの世界の食材限定での話だ。グルメ食材使ってこれなら、料理人をやめてるまでにある。

 

初めて虹の実食べたときの、感動凄かったな。いや、虹の実だけじゃない。あの世界は、本当に感動に満ち溢れていた。

 

食材だけでなく、景色を眺めながらの食事とかさいっこうだったなあ。

 

あの時の感動は、もう味わえないのだろうか。

 

「ふひひひひひ」

 

絶望しかない。笑うしかない。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ふひひひひひ。あれ、宗衛さん。こんな夜中にどうしたんすか?」

 

眼鏡をかけたオールバック、薙切宗衛。お姫様の父にあたる方。

 

「それはこっちの台詞だ。甘い香りがして辿ってみれば小皿に乗ったゼリーが異彩を放っていたぞ」

 

一般人からすりゃ、まがいもんでも虹の実は虹の実だもんな。

 

「しかし、このゼリーが霞むほどお前は気味悪かった」

 

「これが通常運転なんすけど」

 

「本気だったとしたら、お前を引き取ったことを全力で後悔するぞ」

 

すいませんね。

 

「宗衛さん。フルーツゼリー食いかけですけど、あげます。失敗作なんで改善点欲しいんですよ」

 

新しいスプーンを渡して、宗衛さんは口に含んだ瞬間、服が弾けとんで褌一丁になって、咀嚼する。

 

おはだけとかいう訳のわからん呪いに掛かっているこの光景は結局のところ慣れだ。

 

「りんご、オレンジ、ブドウ、メロン、アケビなどなど様々果実が思い浮かぶがこれは既存のフルーツゼリーではない新たなフルーツゼリーだ。ありとあらゆるフルーツを圧縮したような甘さは互いを邪魔し合わず、調和のとれた新たな一つの味と言っても過言ではない。この出会いという名の感動は我が妻、レオノーラを。アリス、ベルタ、シーラの誕生。調和は我が家の一つの家族を彷彿させる」

 

長ぇ……。というか、なんで家族に繋がるんだよ。親バカめ。

 

「褒めてくれるのは嬉しいんですけど、改善点とかはどうすかね?」

 

「ん、そうだな。逆に聞きたい。これ以上なにを望む?」

 

「仰る意味が」

 

「君はここに来て、多くの料理を振る舞ってきてくれた。それこそ、この世のものとは思えないほどの極上料理を。包丁捌き、火入れなどプロの中でも見たことがないほどにな。今は追及しないが」

 

この人のこういうところはありがたいんだよな。男同士余計な詮索しないでいてくれるところとか。

 

「ただどんな料理を作っても君が満足したところは見たことがない。このゼリーにしてもそうだ。このゼリーは完璧と言ってもいい。なのに、何故改善をする?どこを目指している?」

 

「満足する料理を目指しています」

 

「なに?」

 

「料理人として食べてもらう人間に喜んでもらう。それは当然ですよね。でも、自分自身が満足しないんですよ」

 

「つまり、料理をするのは誰かの為ではなく自分自身の為だと?」

 

「はい。現状、俺の舌を満足させるのは俺だけです。お姫様も天才の部類っすけど、俺ほどじゃない」

 

「……難儀な天才だ」

 

「天才ってのは本来孤独なもんすからね」

 

「自分で言うものでもないがな」

 

笑い合う男二人。

 

グルメ細胞とは別に俺は隠していることがあった。

 

お姫様との料理勝負は全勝して、負かしては泣かせている。

 

ただ、一度だけお姫様の料理を心の底から美味いと感じた料理があった。

 

少し前に、体調を崩したことがあった。ベルタとシーラの料理が原因らしく、俺をここまで追い詰めるとは中々の腕前と言えよう。後日、涙目でごめんなさいされたので、デコピンで許した。悶絶するほど、痛がってた。

 

体調を崩したと言っても、病院に行くほどでもなかったので、ベッドで横になっていた。辛いものは辛かったので、料理を作る気力もなかった。

 

唯一の救いは食欲があったことだ。

 

そんな時、お姫様は無遠慮に俺の部屋に入ってきてた。

 

一人用土鍋を使って玉子粥を持ってきたのだ。

 

少しのやり取りをして、お姫様の玉子粥を食べきって、感想を伝えた。

 

回復すると、再現しようにも真似ることは叶わなかった。グルメ食材を使ったら分からんがな。

 

お姫様にまた作ってもらうのは、調子に乗られるのが目に見えているので、頭を下げたりはしない。

 

やはり、空腹は最高のスパイスに違いない。

 

 





他の作品でもそうだけど、ヒロインが決まらない。適当なモブにしようか。

ヒロインはともかく、主人公の名前どうしよう。本気で忘れてて、全く考えてなかった。

この作品は本気の本気で思いつきだから、一話の文字数は少ないです。にも関わらず、他の作品に比べて早いペースで、お気に入りがついているのでショックを受けています。

更に言えば、グルメ食材で無双する時があります。いつかは知らんけど。

お菓子の家とか、主人公主催主人公一人ビアガーデンとか、やりたい。

トリコの一番最初のビアガーデンの蟹やらラーメンやら美味しそうに感じたのは、私だけではないはず。


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