緋弾のアリア 円盤は静かに転輪する   作:新月の時を待つ人

8 / 11
 黄金の風最終話スペシャルの構成に痺れたので初投稿です。

 初見だと意味なさげに見えてしまうローリング・ストーンの話もしっかり読めば五部を統括する話だと心で『理解』した時は気持ちがええんじゃ。


誰が正しいって訳じゃない

「アリア、起きてるか?」 

 

 武偵病院の一室――――――小奇麗な個室のベッドには頭部に包帯を巻き、ベッド上でももまんを頬張る少女(アリア)とバツの悪そうな表情で少女を見るルームメイト(遠山キンジ)がいた。小奇麗なはずの病室だが空気はそうでもないらしく、澱んでいる。その原因は勿論……

 

「あんたが強襲科に戻ってからの一件。それが済んだんだからあとはどことなりと行けばいいわ。契約は満了よ」

 

「なんだよそれ……勝手な奴だな。あんだけ強引に引っ張りこんで用が済んだらそれか?」

 

 Q.このようなタイミングで病室に入ってしまった場合の心境を答えよ。配点は心の平穏である。

 

「こんな狭いところでドンパチ賑やかにされちゃあ病院も迷惑だろうよ。キンジ、さっさと帰んぞ。アリアもアリアで怪我人らしくちょいとばかし大人しくするべきじゃあないか?」

 

 言葉尻に少し棘があるのは自分には神崎・H・アリア様からお声が掛からなかったからというのもある。ええ、ええ。表向きは特に武闘派という訳でもないですしね。……バスジャックの一件で呼ばれすらしなかったというのは流石に驚愕の意を表さざるを得ないが。自分はそこまでクソザコナメクジにしか見えないのだろうか。

 

「掟造。これはあたしとキンジの問題だからアンタは……」

 

「本当にそうだろうか? アリアの言うパーティー(ドレイ)とやらはキンジだけではなく俺もだろう。アレか? 俺はキンジを引き込むためのダシって訳かい?」

 

「そうよ! あたしはどうしてもキンジの力が必要だった! だから手っ取り早くキンジを引き込む為に掟造、アンタを利用したに過ぎないのよ! だからもう二人とも出てって!」

 

「おいアリアお前……!」

 

 キンジがアリアの病衣の裾を掴み上げようとしたのでアリアとキンジの間にそっと手を出して制する。キンジもアリアの態度がトサカに来ているのはわかる。だが……

 

「勘違いするなよアリア。『ダシ』ってのはしっかりと絞らないといい味を出せないんだ。つまり、何が言いたいかというとお前はキンジという素材の長所を引き出すどころか殺してしまっている。俺という素材に至っては使っていないじゃあないか……そんな調子で武偵殺しを捕まえる? イギリスの貴族というのは冗談のセンスもメシマズってか?」

 

 ダシとして使われた事に怒りを覚えている訳ではない。使うのであれば最後の一滴を絞り出すまで徹底的にやれ、ということだ。

 

 ……まあ全力(スタンド能力)を一切目の前で見せていないからアリアの采配自体は納得ではあるが、此方もアリアからキンジを引き抜くサポートをする、という名目で依頼を受けているのに当のクライアント自身がその機会をパーにするようではサポートもクソもない。

 

 ……仕方なし、か。

 

「キンジ、お前もお前で頭を冷やすんだ。俺たちが今やらなければいけないのは取っ組み合いの喧嘩じゃなくて武偵殺しの足取りを掴んでブタ箱にブチ込むことだろ。それともお前、アリアに辞めろって言われたから辞めんのか? 半端な仕事して勝手に諦めて投げ出すのはカスのやる真似だ。一度始めたんなら最後まで責任持ちやがれ!」

 

 自分が突然怒りの丈をぶちまけたせいで病室はしん、とした。先程まで取っ組み合いを始めようとしていた二人も動きを止めている。ここにすかさず――――――

 

「あんた、出て―――――いっ!?」

 

「掟造なにを―――――うっ!?」

 

 後処理が面倒だが、自分が悪役を買って出ることにする。

 

 破裂音と鈍い音が静かな病室に続けて鳴り響く。軽い平手を受けたアリアの目は潤み、拳をボディーに叩き込まれたキンジは怒りよりも先に自分が手を挙げた事に驚いていた。

 

「今これ以上喋っても時間の無駄だ。先に帰ってる」

 

 呆然とした二人に背を向け無情な足音を立てながらその場を去った。

 

 

 

 最善ではないが、とりあえず自分が悪役になっておけば二人の矛先は自分に向ける……はずだ。

 いや、少し強く叩き過ぎたかもしれない。キンジが怪我してる女に手を挙げるとかおまえマジか……みたいな視線を向けていたし、アリアに至っては捨てられた子猫みたいな目になっていたし。勢いでやってしまったが関係修復とかできるのか……?

 

『損ナ性分ダナ?』

 

 おっそうだな(白目)何が悲しくて喧嘩の仲裁なんぞしなければならないのか……? 彼らにあそこまで言っておきながら何もしてませんでしたー、なんてのも格好がつかないし……バスジャックの時に駆け付けられんかった分働くとするか。

 

 

 

 

 なので、その翌日朝一番に探偵科棟に足を運んでいる。徹夜でバスジャックに関するファイルを纏めていた同学科の生徒によると、当日は右へ左へてんてこまいだったそうだ。呑気に授業を受けていた自分が恥ずかしい。

 

「あっ、ジョジョおひさー! 昨日は大変だったねぇ」

 

「久しぶりって程ではないだろ……」

 

 早速お目当ての人物を見つけた。ふむ、今日は甘ロリか……彼女は一体何着の改造制服を持っているのだろう。

 

 何かの拍子に騒がしくなったら他の生徒にも申し訳ないので理子に女子寮前のビニールハウスに先に行っている事だけを伝え、キーボードを叩く音と必要最低限の会話のみが交わされる部屋から出た。

 

 

「アリアとキー君がそんなことをねぇ……ま、ジョジョがそんなに気に病む必要はないんじゃない? アリアは言わずもがなだけどキー君もプッツンするとめんどいとこあるし別にいーんじゃないの? やり方はあんまり褒められたもんじゃないけどねー」

 

 女の子に手をあげるなんてがおーだぞ! と大分お怒りのご様子。

 

「まあ灸を据えるにしてもあれは少しやりすぎたかもな……で、理子。バスジャックの件で何か進展はあったか?」

 

「うーん、そーだねー……」

 

 理子曰く、現場検証は理子を中心とした探偵科の生徒が執り行ったということで、調査の大きな進展は今のところないということだ。

 

「……って訳で手がかりという手掛かりもナシ、犯人の足取りもチンプンカンプンの無理ゲーなんだよジョジョ」

 

 下手人の性別は不明。年齢も不明。人数も不明。UZIの搭載されたスポーツカーに至っては盗難車と来た。何もかもが不明の姿なき犯罪者。幾ら探偵科の面々が優秀でも無から足跡を追うのは困難……というより不可能だ。証拠品が一つでも見つかればいいが、何もないということを証明するのはそれ以上に時間と労力を費やす羽目になる。

 

 ……だが本当に手掛かりは一切ないのだろうか? ここは一つ……

 

 

「……そういやさあ~ッ、アリアの奴が今回の件は武偵殺しって奴が絡んでいるって話してたんだが本当か? 現代の情報怪盗の理子なら何か知っているんじゃあないかと思ったんだが……もしかして初耳か?」

 

「うーん……メンゴ、ちょっとわかんないや。それよりジョジョ、今度理子の用事に付き合って?」

 

「そればっかりは内容次第だなぁ……徹夜してまで調査してくれてご苦労さん、理子」

 

 ふむ。まさかほんの四半時で自分がここにいる必要がなくなるとは。さて、後は相手の尻尾をどの様にして掴むかだが……

 

「ねえジョジョ。そんな小難しい顔してどうかしたー? 何か悪い事でも企んでるんだったら逮捕しちゃうぞ~っ?」

 

「別に……」

 

 理子がヒエヒエな対応のジョジョも意外とありかもねー、などとなかなかに度し難い事を言葉にしているが、精神衛生上の観点から聞かなかったことにする。

 

「ほれほれ、何か悩み事があるなら今ならタダで聞いちゃうよー? 理子ってお得意様にはサービスとかもしちゃうんだぁ……」

 

 何故か「サービス」と聞いて嫌な予感と内から湧き上がる好奇心が噴き出てきたがあまり深く追求しない方がいいと自分の直感が告げている。

 

 だがまあ……アリかもしれない。

 

「もしも……突然謎の声やポルターガイスト現象が起きたら理子ならどうする?」

 

「SSRの生徒にでも頼むかなー。ってかそういうクソ真面目な感じの質問じゃなくてさー……もう! 他にないの!? コイバナとかさ! 面白そうな話だよーっ!」

 

 プンプン、といった効果音が聞こえてきそうな頬を膨らませて怒る仕草もなかなか可愛らしいが……

 

 

 

 灰色だ。彼女に対する評価としては黒よりの灰色だ。 

 

 

 彼女の能力を以ってしても現場に読み取れる痕跡が一切残っていない? 冗談はよせ。本当に何もなかったのかもしれないが、情報とはありとあらゆる場所から絶えず発信され続けるもの。それを拾えていないということは情報を読み取る能力がない、或いは――――――

 

 

 

 何者かが意図的に隠蔽している。そして自分はあろうことか――――――彼女(峰理子)が最有力容疑者だと疑っている。

 

「面白そうな話? 例えば……お前の前に幽霊が見えたり、か?」

 

『チョッ……オマッ……!?』

 

 突然出現させたので珍しく狼狽えているホワイトスネイクを理子の目の前で寸止めパンチしてみるが、頭を庇う姿勢も見せなければ目をつぶったりもしない。

 

 妙な空気が自分と理子の間に流れ始めた……が、当の理子は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「なにそれなにそれ!? ……ジョジョってば結構オカルト被れだったりするの? 厳つい顔つきに反してなかなかに胡散臭い趣味をお持ちですなぁ~?」

 

「見えないものはそこそこ信じるし、突如飛来した隕石にロマンを求めるくらいには男の子だが、月間ムーを愛読する程じゃあないな……」

 

 ジョジョってばおっかしーの、とまあ散々な言われようではあるが一つだけわかったことがある。

 

 こいつはシロ(非スタンド使い)だ。やはりスタンド使い同士が引かれ合うなんてのは登場人物の顔つきがどいつもこいつも濃すぎる世界だけなんじゃあ……

 

 それを確認した代償として理子の中で自分はオカルトマニアにカテゴライズされてしまったらしく、別れ際に「今度、遮光器土偶のストラップでもあげようかな……」といった理子にしては珍しく本気のトーンが耳に入ってきたが。

 

 

 

 

 

「キンジ……お前本当にいいのか?」

 

「どうとでも言えよ。ただ……少しだけモヤモヤするんだよ」

 

 なんでボディーブロウお見舞いされたのか本当に分かってんのか……?

 

 あれから3日後。アリアが退院し、キンジは強襲科から再び探偵科に戻る手続きの用紙を黙々と用意している。

 顔を合わせても何となく気まずく、同じ部屋にいても最低限の会話……おう、とかああ、とかいった相槌をお互い打っていた。

 

「何度も言っているが、このままだとおまえマジで後悔するぞ。俺は友人の心が腐って死んだように生きていく姿なんぞ見たくもない」

 

「かもな。あんなみっともない体たらくで、挙句の果てにお前に止められてさ……正直どうすればいいか悩んでる。お前はどうすればいいと思う?」

 

 道を示せと? 変なところで面倒臭いなーコイツ。ホワイトスネイクとは別方向にめんどい。ネガティブな部分のある男だとは前々から思ってはいたが、何かの拍子で拗らせたら酷いことになりそうだ。

 

 ……今がその「何かの拍子」かぁ。あっそっかあ(手遅れ)じゃあある程度助言(心のお薬)ブチ込んでやるぜ!

 

「……人に用意された幸福は果たして幸福足り得るのか?」

 

「何の話だ?」

 

「いいから黙って最後まで聞け。仮にお前は人に……今の状況だと俺か。俺がこうすれば幸福になれますよ、なんて言ったらそれを素直に実行するか? お前は絶対やらないよ。能力的に不可能だし、仮に可能だったとしても性格上やらないだろうね。それに――――――」

 

「それに?」

 

「……あとはお前次第だ、キンジ。やりたいことをやりゃあいいんだよ。人生なんざそんなもんだよ」

 

 長々と語ったら絶対寝るからなキンジは……今度からあんまり抽象的な話じゃなくてちゃんとオチのある話を考えておかんといかんね。でもそこまで難解な話をしたつもりはないし、何となーく、それっぽーくきっと彼に伝わるでしょう(希望的観測)

 これでもし俺はアリアと仲直りしない! 俺は一切悪くねぇ! とか変な意地張り出したら残念ながら度を過ぎた人間の屑か同性愛者の疑いをかけなければならなくなる。キンジは異様なまでに女性を避けたがるし、もしかして本当に……

 

「肝心要の部分でそれかよ。お前はいきなり突飛な行動に出ると思えば今度はふわっとした助言しかくれないし……本当はどうでもいいとか思ってないよな?」

 

「んなこたぁない。……8割くらいは」

 

「おい。まぁ、掟造の言い分に納得したわけじゃないが、アリアに対して必要以上にムキになってただけって話なのかもな」

 

「俺の戯言なんざ秒で忘れようとも構わねえよ。ただ、自分の芯を持つ――――――これだけは例え死ぬ寸前でも忘れんなよ」

 

 最後に進むべき道を決めるのは己自身。常日頃相手のことだけを考えて気を遣い続けるのは正直疲れる。8割も気を遣われているというのは充分すぎるくらいではないか。助言も方向性次第で()だ。

 他人の精神に作用する言葉、といった意味ではスタンドの様でもある。ホワイトスネイクも精神をこねくり回せるが、そのようなものがあろうがなかろうが人の心は弱く、脆く、移ろいやすい。しかし、だからこそ――――――

 

「おう。んじゃクリーニングに……」

 

「ん、そんじゃ俺の制服も代わりに出してきてくれねーか? 昼飯作って待ってるからさ。天気予報では夕方降るそうだからさっさと帰って来いよー」

 

「へいへい……お前は俺の母親かっつーの」

 

 人は誰でも己の弱さを認める強さがある。今はただそれを信じたい。

 

 

 

 尚、キンジが帰ってきたのは夕方と夜の境目……当然濡れ鼠。さっさと帰ってくるようにって言いましたよね? 

 

 しかも、曇り空よりもどんよりとした顔つきで帰ってくるというおまけつきである。

 




 頬を思いっきりベチン! と叩かれるよりも軽くペチペチやられる方が精神的には来るらしい。

 それはそうとアリアに何の脈絡もなくビンタかましたら絶対「ふぇ……?」って言って泣き出しそう……泣き出しそうじゃない?(唐突な性癖暴露)

 でもガチビンタはかわいそうなので抜けない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。