The New Wolrd ~404 not found~ 作:天海望月
「さあ、入りたまえ」
「ええ……」
「失礼する」
白装束の男性に促され、416と響は部屋の奥へと入っていく。
大きな両開きの扉を開けた正面には、カリーナや416の指揮官など非戦闘員が使用するような大きな机が堂々と置かれ、男性はその机に備え付けられたこれまた大きな椅子に腰かけていた。
「一つ謝らせてほしい」
「……何かしら?」
すると男性は机から書類を取り出す。
「君が寝ている間、君の身体を色々と調べさせてもらった」
「……はぁぁぁぁぁぁ!!??」
416の頬が真っ赤に染まる。
「なっ、なっ、何てことしてんのよ!正気なの!?」
「落ち着きたまえ!誤解だ!そういう意味ではなく、X線やその他諸々で体の構造を調べさせてもらっただけだ!」
「……服は!?脱がしてないでしょうね!?」
「それはまあ……致し方のないことだ。X線の邪魔になってしまうからな」
「はっ、えっ、嘘でしょ?はぁぁ!?」
今にも殴りかかりそうな雰囲気の416との間に立ち、響が仲裁に入った。
「まあまあ。今のは司令官の言い方が悪かった。本当に416の身体を検査したのは司令官じゃなくて、女性の技術スタッフだよ」
「なっ、あっ……。――でも」
その言葉を受け、416はさらに恥ずかしくなり、顔を背けてしまう。
「司令官のせいだよ」
「……なんかすまん」
だが司令官と呼ばれた男性は立ち上がり、416に話しかける。
「まあ気を取り直してくれ。君には聞きたいこと、話したいことがたくさんあるのだ」
「……何よ」
「君は416と言うのだろう。私はその数列に聞き覚えがあってな。――ドイツの銃の名前だろう?」
「っ。……ええ。その通りよ。それがどうかした?」
「これを見たまえ」
すると司令官は机の下から箱を取り出した。
「これは?」
「開けばわかる」
そう言われて416は箱を開いた。
――中に入っていたのは彼女のライフルであった。
「これ……!」
新品同様に磨き上げられ、バレルについていたグリップや光学照準器はないものの、今まで使っていたなじみ深い形になっている。
「うちの技術整備担当、“明石”とその助手たちが一晩でやってくれた。出会ったら感謝してやってくれ」
「機関部はそのままみたいね」
「本当は新品に交換したかったようだが、響がどうしても残せというのでな」
「響……」
機関部に烙印システムが搭載されているという話をしたのは響だけだ。416は少し嬉しくなる。
響を見ると、彼女は軽くはにかむ。
416はライフルを受け取り、付属していたスリングで肩にかけた。
「では本題に入ろう」
「ええ」
司令官は机の上に出していた書類を持ち上げると、それを横目に見ながら口を開く。
「検査の結果、君は人間ではなく、俗に言うロボットであることが分かった」
「まあ、その通りね」
「だが、私たちの時代にそんな技術はない。よって、響が言う通り君が未来から来た可能性が浮上したわけだ」
司令官が書類のページをめくる。
「次に、響が正しければ、君は“第三次世界大戦”や、“コーラップス”という言葉を発していたようだな」
「間違いないわ」
「だが、第三次世界大戦はともかく、我々の時代にコーラップスなんて言葉は存在しない」
「……え?」
それはおかしい、と416は思う。
この時代が201X年なら、すでに1900年代にはコーラップスは発見されているはずだ。
なので、この時代にコーラップスの概念がないなら、つじつまが合わなくなる。
「じゃあ、北蘭島は?まさか島一つ丸々無いなんてことはないわよね?」
「いや、聞いたこともないな」
そう言って司令官は上着のポケットから端末を出す。
程なくして、彼は画面を見せてきた。
「ヒットなし。どうやら存在しないようだ」
「まさか……」
「ということは、やはりそうか……」
司令官が椅子に座る。
手を組んで、416の方を見た。
「うちの参謀役が勝手に想像したことだが、落ち着いて聞いてほしい。多分君は――」
一呼吸おいて、司令官は口を開いた。
「別の世界からやって来たのだろう。私たちの世界とよく似た、別の世界に」
「別の世界?タイムスリップではないの?」
「恐らく。考えてみたまえ。我々は、深海棲艦を相手に日々戦っている。奴らは世界を脅かす脅威だ。そんな危険な奴ら、そして私たちの記録が、未来に残されていないはずがないだろう?」
「確かにそうね……。深海棲艦とやらのことも、あなたたちのことも、全く聞いたことがないわ」
「だろう。我々がコーラップスとやらを知らないのと同じだ」
この男の言う通りなら、今までのこととつじつまが合う。
なるほど、にわかには信じがたいが、一理ある。
「まとめると、私はタイムスリップしてきたわけじゃなく、別の世界からやって来たってことね」
「そういうことになる。そこでだ」
司令官が机から一枚の紙を出した。
彼は416にその紙を取るように促す。
「契約書?」
「ああ。君には帰るところがないのだろう。それに君は、装備から見て戦いを生業としているのだろう。どうだ?うちに来て、我々と共に戦うつもりはないか?」
「ふーん。そういうことね」
願ったり叶ったりとはこのことだろう。
これは千載一遇のチャンスだ。
今一番信頼できる団体はここ、さらに戦闘組織だ。
民生用人形のように真面目に働くなど今更したくはないし、416にこれを断る理由はなかった。
だが。
「いいの?私の銃は、その深海棲艦とやらには通用しなかったわよ」
以前軽巡棲鬼と交戦した際、見事に拳銃の弾を跳ね返されてしまった。
そんな敵に、銃で戦えるのだろうか。
「そうだ。人類の既存の装備は、奴らには効かないのだ。そのために、艦娘は生み出された。だが、これを見てほしい」
そういって、司令官はまたもや書類を出した。
「書類ばっかり出すわね」
「ああ。私の仕事はほとんど書類仕事だからな」
416は書類を取り、内容を一瞥する。
「対深海棲艦用試製弾薬?」
「その通り。今までの艦娘の戦闘データを活かし、既存の装備でも奴らに対抗できるよう作られたものだ。まだ大したデータは取れていないが、少なくとも装甲の薄い深海棲艦は倒せることは分かっている」
「要するに、これがあれば奴らに対抗できるってわけね」
司令官が頷く。
この世界でやりたいことはたくさんある。
小隊メンバーを見つけたい。元の世界へ帰る方法を模索したい。何よりも――
元の世界では汚染地域が広がっているせいでできなかった、観光がしてみたい。
この世界を、もっと知りたい。
それらのためなら、彼らに力を貸すのもいいかもしれない。
「分かったわ……」
416はペンを取り、書類にサインをする。
「我々と共に戦ってくれるんだな」
「――ええ」
彼女はライフルに手を掛ける。
「HK416、ちゃんと覚えてくださいね、司令官」
そして、“HK”の部分をやたら強調してそう言った。
これで416にはこの世界に留まる理由が出来ました。
明石「はあ?これを直してほしい?新品にしちゃダメなんですか?」
司令官「響がどうしてもというんだ。頼む!」
明石「ええ……。残業代出ます?」
司令官「……」(明後日の方向を見ている)
明石「訴訟いいすか」