The New Wolrd ~404 not found~ 作:天海望月
416は倉庫のような場所を歩いていた。
手には何も持っていない。腰にはハンドガンを吊り下げている。
416はそのまま倉庫の中を歩き、一つの部屋の中に入った。
中には銃器が大量に置かれていた。
司令官によれば、ここにある銃の大半は日本で使われている“89式自動小銃”だという。
元の世界の同僚、FNCの銃に似ている、というのが416の所見だ。
その統一された銃の中に、一つ異色を放つものがあった。
――HK416。その名の通り、彼女自身の愛銃だ。
416はそれを取ると、流れるように隣からいくつか30連マガジンをつかみ取る。
そのうち一つはライフルに挿入し、そのままコッキングレバーを引く。
この瞬間、彼女が手にしている物体は、殺しのための道具へと様変わりしたのだ。
残りのマガジンは服のベルトに括り付ける。
そうして装備を整え終えると、通信機が鳴り出した。
『もしもし。こちら提督だ』
「提督……。そういえば、あなたは司令官とも提督とも呼ばれているわね。なぜかしら」
『それは気にしないお約束になっている』
「そう……」
416は通信を聞きながら、入ってきたのとは違うもう一つの扉から外へ出る。
『とりあえず本題に入ろう。今我々の鎮守府には、深海棲艦が接近している。君にはそれを、我々の艦隊と共に排除してほしい』
「防衛戦ね」
『そうだ。正面海域に侵入されるというのは屈辱ではあるが、とにかく確実に排除してもらいたい』
「任せなさい。完璧に仕留めて見せるわ」
『頼もしいな』
話しながら彼女は倉庫の外に出る。外は慌ただしく人が走り、警報が鳴り響いていた。
『港に響がいるはずだ。彼女に詳しい話を聞いてほしい』
「了解」
無線通信が終了する。
司令官が港といったように、この施設は海沿いにある。そしてその海沿いには、響のように艤装を背負った少女が複数いた。
その中にはもちろん響の姿も。
416は小走りで響の元へ向かった。一方の響は、こちらの足音に気が付くと、振り返って手を挙げる。
「こっちだ、416」
「探したわよ。それで、話があるらしいわね」
「うん。君には港から私たちの支援をして欲しい」
「支援?」
響が頷く。
「ここから、深海棲艦を撃つだけの簡単なお仕事だよ」
「海に出る必要はないのね」
「艦娘じゃないのに、どうやって海の上で戦うんだい?」
以前聞いた話によると、艦娘というのは、以前遭遇した軽巡棲鬼のように海の上を走行できるらしい。
ボートのような乗り物は必要とせず、艤装を背負うだけでいい。何とも便利な品物だが、その艤装は使用者が限られるので、誰しもが使える訳ではない。もちろん416も例外ではない。
「足を引っ張るな……と言いたいところだけど、主役はどうやらあなたたちみたいね。期待しているわ」
「その期待に応えられるよう、頑張るよ」
すると、隣にいた少女が声を上げる。暁だ。
「レディーの私にも期待してよね!」
「もちろん。この状況なら、戦力が多い方が助かるわ。あなたが大人だというなら、最善を尽くしなさい」
「……!ええ、頑張るわ!」
暁の瞳が輝く。間違いなく士気は上がっただろう。
「暁ちゃんの扱いが上手いですね……。あたしにはこんなに上手くできないですよぅ」
「初めて見る顔ね。あなたは?」
「――あっ!すいません、名前を言ってなかったですね、416さん。あたしは阿武隈です!」
金髪の髪の毛に、黒を基調としたセーラー服。
水色の瞳をこちらに向けながら、阿武隈と名乗った少女は軽く笑った。
顔も知らないような人に名や顔が知れているほど、416はこの鎮守府内で有名なようだ。
「よろしく。察するに、あなたはここのまとめ役かしら」
「そうなんです。でも、皆さんあんまりあたしの言うことを聞いてくれないんですよね……。困ってます」
「それまとめ役としていいの?」
416が阿武隈にあきれていると、今までサイレンが鳴り響いていたスピーカーから、司令官の声が発された。
『各員に告ぐ。諜報班によると、五隻編成で駆逐艦が接近中だ。直ちに戦闘態勢を取り、迎撃に当たれ』
「よし、戦いの合図だ。416、頼むよ」
「任せなさい。動いている敵にも完璧に当てて見せるわ」
「頼もしいね」
会話を終えると、響たち三人は大海原の方へ振り返る。
「じゃあ行きますよ。今はいない戦艦の皆さんの代わりに、私たちが鎮守府を守るんです」
「ああ。彼女たちに頼らずとも、守ってみせるさ」
「私たちなら、絶対できるわよね!」
彼女たちが背負っている艤装が唸りだす。
「三人しかいないけど、水雷戦隊、出撃です!」
「頑張るわよ!」
「416、支援射撃は任せた!」
「任せなさい!」
そして三人は、海面を滑るように駆け出した。
しばらくしないうちに、水平線の向こう側から、五つの黒い影が見え始めた。
それは段々と大きくなっていく。
そして、形が鮮明に分かるようになる。
「これは……」
異形の存在と呼ぶのにふさわしい見た目だった。
全身は真っ黒、見た目はサメのよう。
人間の歯のような牙を持ち、目は青色に怪しく光っている。
人の形を取っていない分、鉄血の人形よりも不気味である。
「まだ射程圏外ね、もう少し近づけば……」
416はしゃがんで、銃を安定させる。射程圏内に入った瞬間、撃ち抜くつもりだ。
そしてその頃響たちは今まで見事に隊列を取っていたが、散開して周りに広がる。
やがて、轟音が鳴り響いた。
彼女たちが発砲したのだ。
だが、轟音といったように、彼女たちは小銃を持って戦っているのではない。
彼女たちは手に、小型化された砲塔を持っている。その砲から、圧縮された数十センチ相当の威力の弾薬を発射しているのだ。
その分、音も反動も大きい。
「私も一つ欲しいところよ、あれくらいの武器が」
放たれた砲弾は一つに収縮していき、それは一隻の深海棲艦に衝突する。
――悲鳴が上がった。
この世の絶望、悲しみ、憎しみの声を一つに固めたような、恐ろしい声。そんな声を上げながら、深海棲艦は火を噴いて速度を落とす。
やがて、大きく波を立て、水底に沈んでいった。
『416。私の後ろに一隻付かれた。撃てないかい?』
「え……、ええ!任せなさい。あなたたちは目の前の目標だけを倒すことに専念して」
そんな光景に気を取られていると、無線機に響の声が入った。
報告通り、響の後方にサメのような物体が高速で泳いでいる。
そして射程にも十分入っている。鉄血人形なら簡単に倒せるだろう。
だが相手は新しい敵、深海棲艦。高速で動くうえに、的もそれなりに小さい。
普通なら当てることは非常に困難だ。
「普通なら、ね」
416はライフルを構えなおし、照準を深海棲艦の進行方向の少し先に付ける。
彼女の銃には、烙印システムが搭載されている。
それを持ってすれば――。
「私は完璧よ」
416が発砲した。
放たれた銃弾は山なりの軌道を描き、計算通り寸分の狂いもなく倒すべき対象へと進んでいく。
そして、深海棲艦の胴体を穿つ。
「手ごたえあり、ねッ!」
さらに追い打ち、416は複数発砲する。
その全てが、奴の胴体を貫いた。
最後の弾が突き刺さった瞬間、何かに誘爆したのか深海棲艦が爆発する。
爆炎が辺りを包み、破片が飛び散る。
辺りが晴れると、そこに残骸は一つも残っていなかった。
『わあっ!流石ターミネーターね!悔しいけど尊敬しちゃうわ!』
無線に、暁から賞賛の言葉が入る。
だが、休む暇はない。
『416さん!一隻取り逃しました!今そっちに奴らが向かってます、逃げてください!』
続けて阿武隈の声が発される。
言葉の通り、仲間を倒されて怒り狂ったのか、残りの三隻のうちの一隻がこちらへと猛烈なスピードで向かってきていた。
「多分逃げても間に合わないわ。こっちで対処する!」
『無茶です!あっちが撃ってきたら終わりですっ!動かない人間なんて良い的ですよ!』
「――私は人間じゃない。戦いのために生み出された戦術人形よ!」
その瞬間、向かってきていた深海棲艦が大きく口を開き、そのまま火を噴く。発砲したのだ。
砲弾はまっすぐこちらへと飛び、416の回避は間に合わないだろう。
海上で阿武隈が振り返り、何かを叫んでいるように見える。
砲弾はそのまま416に降り注ぎ、彼女の身体は粉々に砕かれる。
――かと思われた。
「ここっ!」
416は手持ちのライフルの残弾を全て放つ。狙いは砲弾に向けられている。
その弾は一つも外れることもなく砲弾に命中し、その全てはグシャグシャに粉砕された。
だが、二十数発の弾は、砲弾の軌道を変えるには十分だった。
砲弾はそのまま右にそれ、海面にぶつかる。
巻き上げられた海水が落ちきらないうちに、416は弾倉を入れ替え、こちらへ一心不乱に向かう深海棲艦に全弾お見舞いする。
まともに回避運動も取らず、奴は胴体にすべての弾を受け止め、そして爆発した。
416のわずか数十メートル先。そこで、敵討ちもかなわず深海棲艦は海の藻屑と化した。
それと同時に、海に出ていた三人は残りの二隻に砲弾を撃ち込み、見事に爆砕した。
任務を終えた三人はUターンし、港の方へと進む。
『すごいですね、416さん!あたし、もうダメかと思いました……』
『横目で見ていたけど、まるで曲芸みたいだったね』
『暁も、本当に尊敬しちゃうわ……!』
再び、無線機からは賞賛の声が上がる。
「当たり前のことよ。私は完璧なの」
その賞賛に対して、たった二言。それだけを残して、416は倉庫の中へと消えていった。
華々しい初陣を決めました。
……でもこれ、結構無茶あるなぁと思ったのは書き終わってからの話です。
416「砲弾の一つや二つくらい、なんてことないのよ」
響「砲弾ってそんな簡単に軌道曲がるものなの?そもそもそんな簡単に弾って当たるものなのかい?」
416「出来るわ。そう、烙印システムならね」
響「スティーブ・ジョブズか……!」