重ね重ね感想、評価、誤字修正ありがとうございます!
※藤丸の経歴「冠位」を「開位」へと変更しました。こちらの不手際で誤解を与えてしまい、大変申し訳ありませんでした。
※一部政治的表現を変更しました。ご指摘ありがとうございます!
ーーーーはい?
––––––––目を開いたら、そこは楽園だった。
視界いっぱいに広がる色とりどりの花々が咲き誇る花畑、どこまでも蒼く澄み渡る空。遠目に見える何かの塔以外なんの構造物見えないここは、まさに楽園と言って差し支えない程美しい場所だった。
きっとこの世界は自分を癒すために作られたのだと、そんな勘違いすらおきそうになる程の秀麗さだ。
ーーーーいや、ないわ。
––––––なんてお伽話を信じる程現実に夢を持っていない。
自分の記憶はベットに横になった時を最後に途切れている。つまり、この世界は夢なのだろう。
ーーーー夢ってのは記憶の継ぎ合せで生まれるなんて聞くけど、こんな花畑なんて見た事ないよな。
「当然だよ。ここは記憶の継ぎ合せなんて陳腐なものじゃなくて、正真正銘の夢の世界なのだから」
突如白いローブを守った男…と見える人物が何処からともなく現れる。さすが夢、出現方法もファンタジーだ。
「ここはたしかに夢の世界だけど、実際に起こっている出来事だよ?調査官君?」
ーーーー…これは酷い。夢の中でも仕事は付き纏うのか。
夢の中の住人にすら調査官と呼ばれる自分に嫌気が差す。確かに仕事人という自覚はあるが夢の中ですらそう呼ばれると心が痛くなる、というか胃が痛い。
「おや。調査官という呼び方は不満かい?では本当の名前で呼んだ方が良いかな?」
ーーーーちょっと待った。
なにか先程から様子が変だ。夢なのに意識がはっきりしているし、目の前の彼?との受け答えも問題なく行えている。
(嫌な感じだな…)
喉に骨がつっかえてる様な違和感が、ありもしない第六感が危険だと告げているような気がする。
ーーーー驚いた。最近の夢ってのは、夢の相手とはっきり意思疎通ができるものなんですね。
「言ったろう?ここはたしかに夢だが、実際に起こっている出来事だと」
ーーーーつまり此処での出来事は記憶として残っていると?
「勿論。なにせ此処で君と話している私は実在しているからね」
彼の言うことを全て信じるのなら、此処は夢の中だけど起こっている出来事は全て実際に発生していると言うことだ。
夢なのに実際に起こっている、それではまるであべこべだ。
ーーーー申し訳ない、頭が混乱しているようです。
あまりの事態に思わず目眩が起きる。…夢の中なのに目眩とはいよいよ俺も末期かもしれない。
ローブの男は「ふむ」と首を傾げた後、爽やかな笑みを浮かべる。
「そうなるのも無理はないか。君は誰よりも現実を見る人だからね」
ーーーーなんだって?
…先程からこいつは俺を見てきたかのような発言をする。こいつの言う通り、俺は現実という物に夢を持っていないし見るつもりもない。
しかし、俺がそう思っている事を知っている人物はこの世で片手といない。当然、目の前のこいつが知っている筈がない。
「それは私が君の事をずっと見てきたからだよ」
ーーーー……表情筋には自信があるんですが、顔に出てましたかね?
「まさか。私は魔法使いだからね、人の内面を見るなんて朝飯前さ」
『人の内面を見る』
その言葉通りに受け取るのならば、こちらの思考が相手に筒抜けという事だ。夢だしなんでもありかとさっきまでは納得できたが、今は事情が変わってきた。
ーーーーもしそれが本当なら、貴方は悪い魔法使いという事だ。
「ほぉう。何故そう思うんだい?」
ーーーー当然、人の内面をジロジロ見るような奴が良い人なわけないでしょう?
「違いない」とケラケラと笑う暫定悪い魔法使い。ここまではっきり意思疎通ができるとなると、ここは夢の中じゃない可能性も考慮すべきか。
自分が眠った後薬物かなにかを盛られ、その後ここに連れてこられたと言う可能性もあるにはある。
…もっとも、こんな花畑なんて世界中何処を探しても見当たらないからそんな可能性もない訳だが。
「流石だね。その現状把握能力は大したものだと思うよ」
ーーーー心を読まないで下さい、やり難いことこの上ない。
内面で目の前の男に悪態を吐く。心が読める相手に何を隠したって無駄だ。腹芸は不可能と思った方が良いだろう。
だからこそ此方から切り込む必要がある。
ーーーー先程貴方は私をずっと見てきた、と仰いましたがあれは本当ですか?
ローブの男は当たり前の事を言うように口を開く。
「勿論だとも。君が学生時代穂群原のブラウニーと呼ばれていた事も、養父から何を託されたのかも、国際連合でなにをしてきたのかも全て知っているとも」
––––––––視界が赤に染まるような、そんな錯覚を覚えた。
ーーーー悪趣味極まりないな、この外道。
咄嗟に胸ポケットにある拳銃へと手が伸びたが、此処が夢の中であることを思い出して踏みとどまる。
口が悪くなったが、目の前の外道に礼節など不要だ。
「おお、怖い怖い。それでも君は現代の英雄なのかい?」
ーーーー生憎そんな者になった覚えはない。それに、目の前の外道を撃ち殺しても俺はなんの感情も湧かないだろうさ。
此処が夢じゃ無ければ目の前の男を衝動に任せて撃っていただろう。
あの人の願いは、目の前の外道が無造作に暴いて良いような物では無い。
あれは誰にも穢されてはいけない、崇高な願いなんだ。
「–––––そうそう。君は本来そうあるべきなんだよ」
ーーーーなに?
ローブの男が突如笑みを浮かべて杖を振るうと幾枚の花弁が空へと舞い上がる。
「君は目の前の悪人を倒す正義の味方を目指した筈だ。君は目の前の困っている人を助ける正義の味方を目指した筈だ」
ーーーーなにが言いたい。
「かつての祈りの源泉を辿ることを強く勧めるよ。今の君は、少し濁り過ぎている」
舞い上がった花弁は俺を中心に渦を巻くようになり、視界が花弁で埋め尽くされる。
「今はお別れだ、現代の英雄よ。君がかつての祈りを思い出すことを此処で願っているよ」
ーーーーそれはどう言う………!
その言葉を最後に、俺の意識は暗闇へと落ちていった–––––––。
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『国際連合機密管理局 情報統轄部所属 仙道照史』
国際連合情報統轄部所属の諜報員。
情報統轄部とは『世界の凡ゆる情報を管理、統制し世界平和への礎とする』事を目的に機密管理局によって作られた諜報組織。仙道照史は創設メンバーの一人であり、世界への莫大な影響力を持つ個人。
国際連合への入局と共に諜報員として世界各国で活動。作家や記者、探偵など様々な役職を通して世界の暗部を調査。各界に人脈を広げると共に政治的重鎮のスキャンダルや大国のスパイと言った機密情報を諜報、情報網の地盤の構築を開始する。
潜入の結果凡そ三年程で世界各国で情報網の構築に成功し、大国の政治的スキャンダルやスパイと言った機密情報は勿論、要人の愛人関係や非合法組織との癒着関係と言ったものまで全て網羅、世界の情報バランスを握る。
その情報網を用いた情報統制マニュアル『平和の礎』を作成し各国への内政干渉を始める。世界との協調路線を目指す政治家への援助、自国優先主義の政界人の失脚などを次々行い世界から自国優先政治を抹消する。
世界の足並みを揃えた後は各国の協力を経てPKO活動、UNICEF、WHO等を利用し紛争地域の介入や独裁地域での公正な選挙の監視、学習環境の提供や公衆衛生の向上を背後から指示。世界中の人々からの信頼をより盤石なものとする。
国際連合が世界情勢に影響力を持った後は世界に蔓延る危険因子の排除に尽力する。張り巡らした情報網や各界とのコネクションを使い非合法組織や過激宗教組織の資金源である違法薬物、傭兵等の流れを全て把握しICPOを利用してその全てを摘発、殆どの非合法組織の弱体化に成功させる。
現在は世界中に存在している情報統轄部の構成員に指示を出しつつ、国連の調査官として世界各地を転々としている。
「……成る程。現代の英雄か」
情報統轄部という組織の目的に彼の立ち位置。個人が背負うにはあまりに大き過ぎる内容だ。文字通り今の世界平和は彼の肩の上、と言う事だろう。
「付随してきたファイルには国連事務総長と機密管理局局長直筆のサイン込みの指令書が添付されています。間違いなく本物でしょう」
「信じられない。これを、個人がやり遂げたと言うのか…?」
局員たちの間にも動揺が走る。
「勿論あの男が手引きした事も含まれると思うけどね。しかし、これは」
やり方があまりに強引過ぎる、と思う。
彼は局長の言う通り、現代の英雄として世界に平和を齎している。しかし、強制による平和はいつか必ず崩壊する。そして、その崩壊の反動は計り知れない。
「これ、もしかしなくても緘口令ですよね?」
「緘口令じゃなくて禁口令だよ。絶対に外部に漏らさないように」
「ですよね…」
心の中で局長へと悪態を吐く。
たしかに彼の情報は欲しいと言った。けど、国際連合の黒い部分が知りたいなんて一言も言っていない。
(これが外部に漏れたら間違いなく消されるな)
悔しいが、これはあいつに一本取られた事になる。このデータがもし漏れたら国際連合という組織は致命的な傷を負う事になる。修復不可能な傷だ、負ったら最後解体まで追い込まれる。
そうなったら国際連合関連の組織である此処も無事では済まない。最悪世界から攻撃される事もありえる。
「いけすかない奴だとは思ってたけど、まさかここまでとはね」
「国際連合はここを潰す気なんですかね?」
局員の不安げな視線が向けられる。それに私は笑って応える。
「さぁね。今は、調査官がどんな査察をするのか見守るだけさ」
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「あ゛〜〜〜〜疲れたよ〜〜〜〜」
板張りの訓練場で竹刀を放り出し、大の字で寝転がる。床の冷たくて硬い感触が火照った身体と思考を冷まし、クールダウンを手助けしてくれるのを感じる。
「お疲れ様です、リツカ。剣道の腕も大分上達してきましたね」
「アルトリアさんに全然勝てないけどね〜」
「いえ、やはりリツカには剣の才能があります。このまま修練すれば、きっと指折りの剣士になれますよ」
青を基調とした甲冑を纏う女騎士『アルトリア』さんからの賛美を「いやいや、そんなことないよ」と返す。
謙遜でもなんでもなく、私は剣士になんてなれない。私が成れるのは精々半人前の魔術師が関の山だろうから。
「訓練お疲れ様です、先輩。これ、エミヤさんから差し入れです」
「よっ」と掛け声と共に身体を起こし、マシュからストローの刺さったドリンクを受け取る。
「ありがとマシュ。流石私の後輩」
「いえ、これくらい当然です」
「謙遜しちゃって、このこの〜〜」
頭を少し強めに撫でる。サラサラとした髪が指の間を抜けるのを楽しみつつ、可愛い後輩を抱きしめる。やっぱりマシュを抱きしめると安心するなぁ。
「ちょ、先輩、暑いです!」
「いいじゃん、これくらい〜〜」
「リツカ。それくらいで、マシュも困ってます」
アルトリアの注意に「はーい」と返事し、マシュを拘束から解く。そのあとドリンクを口に入れると、さわやかなレモンと塩味が口の中に広がる。
やっぱりエミヤのドリンクは美味しい!
「そう言えば先輩、剣道は昔からやっていたんでしたっけ?」
「そうだよ。小学生から高校まで続けてたから、大体8年くらいかな」
「ほう。だからリツカは剣先の動きが良いわけですか」
「いやいや、ほんとそんなんじゃないって。先輩からも、『まだまだ肩の力が入ってる〜』なんて良く怒られたんだから」
「先輩ですか?」
「うん、そう」
通っていた剣道場にいた先輩。強いくせに全然威張らなくて、地元の大会で優勝しても誇らない不思議な人だった。
暇さえあれば全員分の竹刀や防具を点検して回ったり道場を掃除するような人で、「穂群原のブラウニー」とまで言われていた優しい人、そして––––––。
「私の、憧れの人なんだ」
「そ、そうなんですか」
「あれ?なんか私変な事言った?」
「いえ、そんな事はありません。その憧憬はとても素晴らしいものだと思います」
なぜか顔を赤くするマシュに微笑むアルトリア。
「まぁ、その先輩と最後にあったのは8年前なんだけどね…」
「8年前?それ以降連絡とかしなかったんですか?」
「昔は携帯なんて持ってなかったからね。だから連絡先を知らないんだ」
昔は今ほど携帯電話が普及していなかったせいで、当時小学生だった私は携帯を持っておらず、先輩の連絡先を知る事は出来なかった。
本当は知りたかったのに……。
「会いたい、とは思わないんですか?」
「会いたいって、それは……」
先輩にもし会えたら、なんて想像をしてみる。
最後にあった時から8年位経ってるって事は、先輩は今頃30歳丁度。
という事は結婚してるという可能性も…………。
「会いたくない………」
「えっ⁉︎会いたくないんですか⁉︎」
「会って現実を知りたくない………」
「は、はぁ………」
私だってちんちくりんだった頃から比べると大分大人な女性に育った筈だ。胸だって大きくなったし、ウエストだってちゃんと維持してる。結婚とか付き合ってる人さえいなければ、私にもチャンスがあると思うけど……。
「さぁ、もう休憩はいいでしょう。続きを始めますよリツカ」
「えぇ〜〜!もうやるの?」
「当然です。リツカの憧れの人はもっと強かったのでしょう?憧れの人には追いついてこそです!」
「いや、あの人は普通の人間が追いつける範疇に無いっていうか、竹刀が三本に見えるというか……」
「何を寝ぼけた事を言っているのですか!さぁ始めますよ‼︎」
「うぅ、はぁい」
転がっている竹刀を握り、アルトリアの前に立つ。剣圧とも言うべき威圧感が身体に降り注ぎ、自然と身が引き締まる。
流石騎士王だなぁ、なんて最初は感心したっけ。
「それじゃあ、行きます!」
「来なさい、リツカ‼︎」
––––––先輩。貴方は今、どこに居ますか?昔私に語っていた様な『正義の味方』にはなれましたか?
––––––私はこのカルデアで、みんなの助けを貰って世界を救いました。先輩の目指す正義の味方に、私も少しは近づいたと思います。
––––––もし今度会えたなら、その時は色々とお話ししたいです。
––––––だから、もう一度だけ………。
「そこ!」
「あうぅ!」
「先輩⁉︎」
気を抜いた所を横薙ぎで身体毎持っていかれる。
駄目だ、集中しないとコテンパンに打ちのめされる。
「さぁ!まだまだ行きますよ!」
「せんぱーい!頑張ってください!」
「よっし!いくぞー!」
–––––––会いたいです、衛宮先輩。
近衛 雷堂
世界を代表するミステリー小説作家。合計出版数は怒涛の6000万部を超え、多くの文化賞を受賞している。代表作の一つである『郊外の蟲屋敷』シリーズは全世界累計4500万部の異例の大ヒットを記録し、ハリウッドで映画化も行なわれ全世界興行収入歴代八位へと躍り出た。世界の作家や著名人、有識者との繋がりが厚い人物として有名。公共の場には必ず天狗のお面を付けている点とよく失踪することから高飛び天狗との愛称で知られている。
宮瀧 一郎
ニューヨークに拠点を置く世界でも有数の探偵。大企業の企業スパイの摘発や取引先の裏取り調査、要人の護衛と言った大きい案件は勿論、夫の不倫調査や猫の捜索、開かずの金庫の解錠といった小さな依頼も全て完璧に熟す。今までの案件の達成率は驚異の110%を誇る(依頼人の他の悩みを解決する為100オーバー)。
類稀な推理力と隠密性を併せ持つ人物として世界から注目されているが、その素顔は謎に包まれている。
秋田 士道
世界で最も優秀と謳われるフリージャーナリスト。世界中で活動し大物政治家のスキャンダルや芸能人の不祥事を次々暴きたてその国の出版社へと記事を投函している。神出鬼没なスタイルと情報の大きさから「予測不能な情報爆弾」「世界の政治家が最も恐れる男」「歩く週刊文春」の異名を持つ。世界の出版業界や政治界隈に多くの知り合いがいると言われているが、あまりに広大なその人脈は全貌を見ることすらできないとか。
主人公
以上三つの人格の他、ベンチャー企業の社長や敏腕国際弁護士など多数の人格を持つ個人。経歴を誤魔化すために用意した設定の職業がどうしてこうなったのかと困惑している。一度テレビに近衛雷堂(自分)に秋田士道(自分)に宮瀧一郎(自分)の三人で座談会を組まれそうになって目が死んだとか。ちなみに売り上げの半分は国際連合に、残りの半分は足が付かない様に実家へと送っている。
藤丸 立華
人類最後のマスターにして世界を救った英雄。数々の苦難を英霊と分かち合い、乗り越えてきた現代の大英雄。その功績を称えられ、20という若さで時計塔から開位を授かった。
これは余談だが、机の上にはとある人物の写真が飾ってあるとか…?
アルトリア・ペンドラゴン
空腹王にして腹ペコの王。幾たびの大盛りにお残しは無く、天高く積まれた白米は湯水の如く消える。お腹が空いてはレイシフト先でドラゴンを狩る生粋のフードファイター。
マシュ・キリエライト
後輩可愛い…可愛くない?