誤字報告、修正ありがとうございます。これかもご助力願えれば幸いです。
※独自設定含む回です。閲覧注意。
※登場キャラの口調に違和感がある場合コメントにて指摘くださると幸いです。キアラさんの口調難しい…。
※追記 今作のキアラさんは魔人柱をインストールした直後、電脳快楽土を作る前に主人公と出会ったという設定しております。わかりにくい描写で大変申し訳ありませんでした。
ーーーー最悪の目覚めだな。
思わずそう口走ってしまう程に、今の気分は最低だった。
明瞭なはずの思考は纏まらず、2年先までシュミレートしていたスケジュールが思い出せない。きっと今の自分の顔は五徹を乗り越えた時よりも酷い顔をしている筈だ。
自身がそうなっている理由は言わずもがな、夢の中で出会った自称魔法使いの存在に他ならない。
今自分が此処で目が覚めたという事は先ほどの出来事は間違いなく夢の中の出来事という事になる。全くふざけた状況だ。俺は明晰夢を見るために眠った訳じゃ無いのだが…。
ーーーー願いの原点、か。
意図せずに口から言葉が漏れる。
魔法使いが残したあの言葉が頭の中で反芻され、何度も何度も自分に問いかけてくる。
––––––魔法使いはなんの意図を持ってあの言葉を残した?俺が濁っている?何故?何処が?
思考がどんどん沼に落ちていく事を自覚するが、それでも自問を止める事は出来ない。
ーーーー正義の味方。
自身の核を構成する概念。それこそが正義の味方なのだ。
より多くの人を救う。より多くの人を助ける。それが正義の味方のあり方であり核心に他ならない。
その為の手段など問う暇などない。手段を迷ってる間にも理不尽に苛まれる人は増え、絶望を嘆く人は増加する。そんな彼らを救わずして正義の味方を名乗ることが出来るのか。
否、そんな事はあり得ない。
要は救えば良いのだ。ありとあらゆる手段を行使し、地球に生きる70億の生命を助けるのだ。
途中で100万人が死んでもそれで70億人が救われるのであれば問題はない。100万の人より70億の人の方が価値がある。それだけの話だ。
ーーーー大丈夫だ。俺は、あの原点から何一つ間違えてなどいない。
そうだ。俺は間違えてなどいない。より多くの人を救う、助ける事をあの人は正義と呼んだ。ならば、俺は間違いなく正義の味方なのだ。
ーーーー取り敢えず、夢の一件については追い追い調べていくか。
明晰夢、というには余りにはっきりし過ぎた夢の出来事。できることなら今すぐ専門の機関に検査に行きたいところだが南極ではそれも叶わない。
部下にそういった事例があったかないかだけ調べさせ経過を見るのが一番だろう。最も、疲れからくるものと言われればそれまでだが。
…まさか局長の言う所の魔術とかオカルトめいた事が原因な訳無いだろうし。
ーーーーそんな訳ない…よな?
何故か湧き上がる疑問に疑問を浮かべつつ、携帯を開いて電話帳を開く。
……正直、とても苦手な部類に含まれる人間なので関わり合いたくはないのだが仕方がない。折角下部組織と繋がりがあるのだ、利用しない手はない。
躊躇いつつ通話ボタンを押す。蠱惑的な声が聞こえてきたのは、その後すぐだった–––––––。
__________________
–––––––海洋油田基地・セラフィックス 所長室
『ピピピッ、ピピピ』
「––––––あら?」
決裁書類に追われて手を動かしていると机に据えられた電話機が電子音を鳴らす。番号は非通知でだれが掛けてきているかは分かりません。
しかし、電話の相手が簡単に想像が行きます。なぜならこの固定電話の番号を知っているのはたった一人、情報が漏れている可能性も『あの人』なら万が一にもないと言い切れましょう。
だから早くあの人の声が聞きたいと急いで電話を取り「もしもし?」と繋げる。
ーーーーもしもし、仙道です。
––––––あぁ、何度聞いてもこの声は甘美な音を立てる。
「ご無沙汰しておりますわ、仙道様」
ーーーーえぇ、三ヶ月振りですね。お久しぶりです、殺生院さん。
仙道と名乗る人物はこのセラフィックスにおいて知らない人はいない程有名な人物、それは勿論、悪い意味ではなく良い意味で。
ーーーーあれから運用状況はどうですか?
「なにも問題はありませんわ。皆様一生懸命働いて下さっております」
ーーーーそうですか、それは良かった。
––––––三ヶ月前までここの職場環境は、それはそれは酷いものでした。人間同士の不仲や職場環境への不満が溢れ、当時カウンセラーとして働いていた私に毎日相談者が現れる程でした。
そんな状態だったセラフィックスを立て直した人物こそ、仙道様なのです。
「仙道様もお変わりないご様子で安心致しましたわ。貴方に何かあればと思うと、私不安で夜も眠れませんでしたから」
ーーーーご心配ありがとうございます。ですが大丈夫ですよ、身体の丈夫さには自信がありますから。
そうやって子供みたいに笑う彼。しかし、私は知っているのです。
その笑顔の裏には、ありとあらゆる闇を飲み込む程の漆黒を飼っている事を。
普段は常識人ぶっているのに、そのくせ本質はどこまでも異質な魑魅魍魎の類。
––––––––あぁ、なんと美しくも悍ましい在り方でしょうか。私、とても疼いてしまいますわ。
ーーーーそれですいません。突然で申し訳ありませんが、そちらのデータベースへのアクセス権を提供して貰えないでしょうか。
「アクセス権ですか?」
ーーーーはい。少し厄介な事案を抱え込んでしまいまして、そちらのデータを使いたいんですよ。頼めませんか?
本来此処はフィニス・カルデアの下部組織。データベースへのアクセス権という重要機密は外部の人に渡すべきではありませんが……。
「まさか、貴方様の頼みを断る人は此処にはおりませんわ。直ぐにご用意致します」
ーーーーありがとうございます、殺生院さん。
「構いませんわ。––––その代わり、一つお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
ーーーーお願い、ですか?
彼の声色が冷たい物へと変化する。こちらの要求を危惧しての事でしょう、既にあの人の頭の中では様々な対応パターンが巡っておられる筈。
––––––本当に面白いお方。
「えぇ。今度一緒にお食事にでも如何でしょうか?勿論此処ではなく、どこか外で」
ーーーー食事、ですか。
平坦な声が聞こえる。
「そうです。是非とも仙道様とお近づきになりたく思いまして…、もしかしてお気に障りましたでしょうか?」
ーーーーいえいえ。殺生院さんの様な美人に誘われるのに慣れていないので、少し驚いただけです。
「まぁ、お上手ですね」
流れる様なお世辞も変わらないご様子。やはりあの鉄面皮を崩すのは正攻法では難儀でしょうか…。
ーーーー食事程度でしたら、こちらこそ是非。
「まぁ!ありがとうございます、仙道様」
ーーーーそれはこちらの言葉ですよ。場所と日程はこちらで決めさせていただきますが、よろしいですか?
「えぇ、お願い致しますわ。ホテルまで予約して頂いたらもっと嬉しいのですが…」
ーーーーそれは私の予定次第、という事でご勘弁頂ければと。
やはり食事には誘えても夜の営みの方には乗ってきませんか。ほんとうに手強いお方。
––––––だからこそ、私の手で堕落させて見たいのですけど。
「ふふっ。それではお食事の件、楽しみにしております」
ーーーーえぇ。そちらもアクセス権の方、よろしくお願いします。
「はい、お任せください」
ーーーーそれでは失礼します。良い夜を。
その言葉と共に通話は途切れ、ツーっ、ツーっと電子音のみが聞こえるだけとなった。
「あぁ、本当にあのお方は……」
久方振りにあの人の声を聞いた為、身体のあちこちが火照って仕方がない。もし此処に国際連合の仕掛けた監視カメラが無ければ今此処でこの昂りを『処理』するのですけど……。
「公衆の面前でそういった行為をした場合、私は即座に殺されてしまいますからね」
『ーーーー貴方、絶望的なまでの自己愛者ですね』
私の中に宿った誰か––––––今はもう名前も思い出せませんが–––––によって私の本能は目覚めた。当初は此処を私の快楽土へと変えるつもりでしたが、そんな時に出会ったのが仙道様でした。
三ヶ月前に始めた出会った時、彼は私の中にある本質。即ち自己愛主義を一目で暴いてみせた。
自身の快楽のために多くの人を誑かし、地獄へと突き落とす魔性の女。有象無象の方々が私を聖人だと崇める中、あの人だけが私をどうしようもない悪人であると見抜いたのです。
それからの彼の行動は迅速でした。私を此処セラフィックスに縛り付ける為に後ろの暗かった上層部の席を全て伽藍堂にし、そこに所長として私を押し込みました。
あの方が私を殺さなかった理由は至極単純。『使い方によっては多くの人を救う道具として使えるから』と考えたからに他なりません。
私は腐っても聖人。より多くの人の信仰や信頼を集める私をトップに据えることで内部不和を解消させ、さらに問題の私を責任者職として椅子に縛り付ける事ができます。
この状態を僅か一週間で作るなんて、流石仙道様と言わざるを得ません。
「あぁ。早くお会いしたく思いますわ」
内側に潜む化け物を表面の常識人ぶった考えで押さえつけるお人。休みが欲しいなどと口では言うものの、その実休む暇すら持たずに人を救いたがるようなお人。
なら、表面の常識人を取り払ったらあの人はどうなるのでしょうか。
やってみたい。私の手で偽りの仮面を壊し、内側の本能を曝け出したい。
そしてその本能をむしゃぶり、堕落させたい。
文字通り世界を守っている守護者をこの手で堕落させた時、私はきっと、天にも昇る様な快感が得られるに違いない。
その瞬間を想像し、火照った身体を椅子に抑えそっと息を吐く。
「楽しみですわ、本当に…」
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–––––––D.C ワシントン ホワイトハウス
ーーーーお久しぶりです、大統領。今お時間大丈夫ですか?
––––––今日は最悪の昼過ぎだ。
大統領選の準備で実に多忙の中、ランチを楽しむ余裕もなくサンドイッチに噛り付いていると『ピーッ、ピーッ』と携帯が鳴った。
この電子音が鳴る相手は一人しか居ない。猛烈に電話を取りたくない気持ちに襲われるが、それをした場合どんな手痛い攻撃に会うかわからない。
渋々普段使う携帯電話……ではなく、国際連合から支給された携帯を取って通話ボタンを押した。
「とても多忙だ。後日掛け直すから今は遠慮してくれないか?」
ーーーー大丈夫です。こちらの用事は手短に済ませますから。
飄々と返してくる。相変わらず気に触る奴だ。
「聞いていたか?私は今忙しい…」
ーーーーサンドイッチなら食べながらで構いませんよ?
意図せず目を見開く。目だけで辺りを見回すが、カメラと言ったものは見つけられない。
そもそも此処はホワイトハウス、アメリカの中心部だ。その更に中心部に監視カメラを配置するなど–––––––。
ーーーー監視カメラの他にも盗聴器も置いてあります。下手な事はしない事を強くお勧めしますけど?
「–––––ふん、相変わらず手段を選ばないな」
ーーーー軽蔑しますか?
軽く息を吐いて椅子にもたれ掛かる。
–––––いや、それが出来る相手なのだ。受話器越しで話している相手は、通常の範疇に存在しない。
一人で世界中の国を相手取り、そして勝ってしまう程の人物だ。そんなもの、
「まさか。私も陰謀の一つや二つこなしている。最も、君ほど腹黒くはないがな」
ーーーーそれは結構。それでは本題に入ります。
実を言うならば、電話を掛けられるのは初めてではない。今までも国際連合への寄付金の増額や難民の受け入れなどの指示は受けていた。
依頼ではなく、指示というのが重要だ。相手はその気になれば一月も経たずに政権を崩す力を持っている、逆らえばどうなるか簡単に想像がつく。
「それで、君は我が米国から何を求めるんだ?」
やっつけ気味に言葉を発する。どうせ逆らえないのだ、これ位の口調は許されよう。
ーーーーそちらの海兵隊、前に南極に施設を設置してますよね。その詳細を知りたいのですが。
「……何?」
我が海兵隊が南極に設立した施設。恐らくだが、旧国際連合に依頼されて作った物だ。しかし、なぜ今それを…。
ーーーーあぁ。事情の詮索は無用です。要らない探り合いをして傷を負いたく無いですよね?
「無論だ。しかし、そんな前の書類を用意するのは中々難しいぞ」
「成る程…」と言って相手が少し黙り込む。こちらの意図には気づいているだろう。
国際連合から『お願い』を聞くのはこれが初めてでは無い。しかし、今までも聞いて来た『お願い』には、それ相応の対価が用意されていた。
野党の重鎮のスキャンダルや、発展途上国への優先開発権など、こちらの欲しいものを奴らは用意してくる。全く忌々しい事この上ない、つまりはこちらの欲しい物は相手に筒抜けという事なのだから。
ーーーーそう言えば、近々PKO活動軍で新世代主力機の競合が行われますね。
「…ほう?」
ーーーー私と貴方の仲です。もしよろしければ、色々と便宜を図りますけど?
PKO軍の新世代主力機の競合…、もし勝つことが出来れば我が国は名誉のみならず、継続的な利益が得られる。機体の購入は勿論、整備用の部品や整備員を派遣することも出来る。
たしかに、悪くない条件だ。
「まぁ、それは君に任せよう。それで南極の件だが、私と君との仲だ。全力を尽くす事を約束するよ」
ーーーーそれは良かった。それではなるべく早めにお願いしますね。
「わかった。そちらも宜しく頼むよ」
ーーーーえぇ。それでは。
プツッとした音と共に電話が切れる。かなり腹の立つ男だが、奴が我がアメリカの役に立つのもまた事実。今は操り人形になっているが、何れはまた世界の覇者として我がアメリカを帰り咲かせてみせる。
直ぐに政府内の内線通話を開き、国防総省に電話を繋ぐ。
「南極に設置した研究施設について直ちに書類をまとめろ。いいか、大至急だ」
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––––––子供の頃、正義の味方に憧れていた。
一人の男の哀しそうな表情を、俺は覚えている。
––––––それじゃあ、諦めたんですか?
その時の表情が余りに哀しそうで、当時の俺はついそう口走った。
––––––うん。正義の味方は期間限定で、大人になればなるほど、なるのが難しくなるんだ。
きっと、この出来事が日の目を浴びる事はないのだろう。
沈み込む様に息をする『正義の味方』に、それを見ていたたった一人の無力な青年。
もし此処でお話が終わるのであれば、これは何の変哲も無い世間話で終わった筈だ。大人が夢敗れた話を子供に聞かせる。なんてありふれていて、そして美しい出来事だろうか。
––––––じゃあ、しょうがないですね。
––––––うん。しょうがない。
––––––はい。ですから………。
––––––俺が代わりに、その正義の味方をやります。
夜空に浮かぶ満月が照らす夜の一幕。仮にこの願いをもし別の誰かが受け取ったのであれば、それは別の物語を産んだのだろう。
自己の願いと現実の齟齬に苦しみ、未来の自分に打ちのめされ、それでも答えを見つけ出す。そんな物語が始まった筈だ。
けれど、この世界ではそうならなかった。
一人の男の切なる願いを受け取ったのは赤毛の少年ではなくて、黒髪の青年だった。
きっとこれは、ただそれだけの話なんだ––––––––。
主人公
衛宮の系譜を継いだ正義の味方にして執行者。より多くの人を救う事のみを善とする度し難い聖人の一人。救われた数こそが正義の証明であり、「最小労力による最大の救済」を正義と志す。人を救う手段に拘りなど無く、多くの人を救う為ならば他人すら手駒にする。国際連合という組織の根幹を成す
仙道照史という名はあくまでも調査官としての一側面に過ぎず、彼を呼称するに値する個体名ではない。ありとあらゆる仮想人格や戸籍を持ちうる彼を真に表す名前は無く、強いて挙げるとするならば「エミヤ」が妥当だろう。
原作における「エミヤ」は死後抑止力の一員として
殺生院 キアラ
仙道の持つ正義の味方としての側面に魅せられた人類悪の卵。魔人柱をその身に宿し月の自分を追体験する為に活動している所、仙道にその危険性をいち早く見抜かれセラフィックスという海の孤島に縛り付けられた。
その気になればセラフィックスの掌握など容易いにもかかわらず、彼に執心する余り他の出来事に関心を持っていない。文字通り世界を守る人間を自身の手で堕落させた時どんな快楽が得られるのかを想像し、日々の昂りを収めている。
米国大統領
仙道の被害者の会その一。支持層の母体の殆どを国際連合に懐柔され、実質国際連合の言いなりに成り下がった可哀想な人。。内心では来期の大統領選で再び勝ち連合からの脱却を目指しているが、来期は別の候補者を既に連合が擁立している為勝ち目はない模様。