調査官、カルデアに赴く 改訂版   作:あーけろん

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マスター諸兄達に5000万回殺されたバルバトス君に、心からご冥福をお祈りします…(内137本殺害)


※感想で寄せられた疑問について後書きで少し言及してきます。
※マシュについて少し独自設定が含まれています。ご了承ください。


遭遇/直死の魔眼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––––––あいつの黒い瞳を、俺は良く知っている。

 

今まで見てきたどんな奴よりも、黒い瞳を持っていた。

 

–––––––––––あいつの持つ能力を、俺は良く知っている。

 

平気な顔してとんでもない事をやらかすのは、後にも先にもあいつだけだった。

 

–––––––––––あいつの在り方を、俺は良く知っている。

 

どうしようもないくらい破綻した願いを抱えていているのに、それを手放させない不器用な奴だった。

 

–––––––––––あいつの◾️◾️を、俺は良く知っている。

 

 

 

 

ーーーー◾️、なのか……?

 

 

 

 

……それを知っているから、だから、目の前の男は何としてでも殺してやらなきゃならない。

 

コイツが、安らかに眠るために––––––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ブルーライトに長時間照らされた目頭を押さえ、ふっと息を吐く。

 

 

ーーーーさて、どうしたものかな……。

 

 

カルデアに到着して2日目。財務諸表の精査は既に終わり、今は人事について調べ始めている。

 

––––––勿論、此処の職員達には隠して。

 

 

組織というものは極めて厄介だ。外敵は早急に排除しようとするが、1度身内に入れれば見捨てる事はしない。

 

大きな組織になればなるほどその風潮は顕著であり、ここはその大きな組織に該当される。南極という極限地帯で同じ釜の飯を食って仕事をする、信頼関係が産まれるのは必然と言えるだろう。

 

だからこそ、人事の精査はここの職員に関与させてはならない。友情は客観的な視点に齟齬を生み、信頼は癒着へと早変わりするからだ。

 

その点から見れば、今回の精査はたしかに俺が適任と言えるだろう。潤沢な人脈とコネを適度に使うことができれば、ありとあらゆる情報を集める事ができる。それこそアメリカとロシアの核コードすら把握する事が出来る。…まぁ、当然それを使うわけもないが。

 

 

ーーーーマシュ・キリエライト。やっぱり、何かあるな。

 

 

外部組織を利用してまで此処を調べる理由。それは、とある一人の少女の存在に違和感を覚えるからだ。

 

キリエライトという姓を名乗っているが、戸籍上はアニムスフィア家の養子縁組を結んでいる彼女。

経歴ははっきり言って申し分ない。小学校から高校まで情報系の学校に通い、成績は優秀。今現在も大学に在籍しつつフィニスカルデアで職務に従事している。

一見すると普通の将来有望な少女とも言える。家柄から此処で働いている点も怪しむ点はない。しかし、だからこそ引っかかる。

 

 

ーーーー健康診断の数値、ちょっと綺麗過ぎるんだよな…。

 

 

とあるツテを利用して手に入れたカルデアの職員のバイタルデータだが、その中でも彼女はごく普通の健康体として記録されていた。それは、あまりに健康的過ぎるといえるほどに。特に着目した点はストレスによるホルモンバランスが安定しすぎている点だ。

若いうちから極限地帯での職務、ストレスが生じないはずはない。生まれながらに此処にいるのならまだしも、彼女は若い頃はイギリスのロンドンで過ごしていたと記録してある。

 

 

ーーーーデータ偽装の線が一番か。

 

 

一番あり得るのは偽装工作だが、それをする理由が分からない。たかが一人の少女の健康状態を何故隠す必要が……?

 

そこまで考えた後、思考を端へと飛ばす。結局の所、今の情報量から判断をするべきではない。後は米国大統領からの情報提供を待って、それを見てから判断すべきだろう。

 

 

ーーーー今のうちに、本職の仕事を片付けるかな。

 

 

PCを愛用のOffice画面からメール画面へと移す。ボックスには様々な人格や戸籍で関係を結んだ人物からのメールや情報統轄部から渡された定期報告がぎっしり詰まっており、その数は100は下らない。余りの量と情報量にこのメールボックスの中身を公開するだけでも兆を超える金額が入るんだろうなぁ、なんて見当違いな思いすら浮かんでくる。…やったら最後、死ぬより酷い目に遭うけど。

 

もし溜息をついた分だけ幸せが逃げていくのが本当なら、自身にはもう幸せなど残っていないだろう。何度目かわからない溜息を吐くと、俺は再びパソコンと向き合い始めた––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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––––––午後の珈琲は、私を優雅な気分へと誘う。

 

 

澄み渡る水面を目で楽しみ、高級な豆の芳醇な香りを鼻で楽しむ。そして一口含み、艶やかな風味を口で楽しむ。

 

うん、実に良い昼過ぎだ。

 

 

「失礼します。ゴルドルフ様、コヤンスカヤ様がお見えになっています」

 

「そうかそうか。よし、通してくれ」

 

「畏まりました」

 

 

今日は人理継続保障機関フィニス・カルデアへの査察を前に彼女と最終調整を行う日付となっていた。

 

(長かった……)

 

カルデアをこの手に収め、我が覇道を行くまであともう少しという所まで漸く来ることが出来た。

 

今思えば、さまざまな艱難辛苦がこの私に振り掛かっていた。突如活発に活動を始めたICPOに裏資金の流れを掴まれイギリス政府に資産の半分を追徴課税で持っていかれた。

その資産を取り戻すために訴訟を起こしたら相手側がとんでもない凄腕弁護士を雇っていて成すすべなく敗訴した。

ならばと思いコヤンスカヤから借り受けた傭兵産業で一儲けしようとしたら突如調査官を名乗る男から手紙で「やり過ぎる様なら、こちらも容赦しませんよ?」と言われて数日、傭兵連中の殆どが検挙された。

怒涛の罰則や課税によって一時期パンの耳で飢えを凌いだ事もあった…。しかし、私は漸くここまで上り詰める事が出来た。

 

 

「それもこれも、優秀なアドバイザーが付いたお陰だ」

 

 

因みに言うならばこのアドバイザーはコヤンスカヤ君では無く表向き。魔術とは関係のない人物だ。

 

突如資産の殆どを失って絶望していた矢先に現れた男で、名を小野木 大輔と言う。

日本で税理関連のベンチャー企業の社長をしている人物であり、私に良いビジネスがあると持ちかけてきたのだ。当然最初は疑ったが既に手元はすっからかん、毒を食らわば皿までとその話に乗ったのだ。

 

私は彼の指示通りに色々と動いた。なけなしの金を使って南米の珈琲畑と定期契約を結んでそこに珈琲醸造所を作り(小野木が顔が効くらしくかなり安く作れた)、そこで珈琲を作り始めた。

幸い労働力はホムンクルス達がいるので一々雇用に時間が割かれる事が無かったのも幸いした(因みに給料はちゃんと払っている)。

 

何故珈琲作りをと問うと「そろそろ珈琲の評価が上がると思いますので。あぁそう、珈琲は酸味控えめで作って下さいね」と言われたが、当初の私は半信半疑だった。

 

しかし、結果として珈琲はその後世界的にブームとなった。

 

なんでも世界的に有名なミステリー作家が珈琲喫茶を舞台に小説を作り、それが世界的に大ヒットしたらしく珈琲ブームが巻き起こったのだ。

 

そのブームの中我が「ゴップコーヒー」は酸味が控えめで口当たりが柔らかいと女性達に大ヒットし、一時期発注が間に合わない程売れまくった。

 

そのブームのお陰で知名度が著しく上がった我が「ゴップコーヒー」は今では南米全体の珈琲農家の3分の一と契約し、醸造施設も数を8つに増やす程に成長した。これも偏に私と小野木の手腕の賜物だ。

 

そうして大企業へと瞬く間に進化した我が会社だが、ある程度の時が立つと小野木から社会貢献に尽力しないかと声を掛けられた。

なんでも南米に学校を設立し義務教育を広げるのだとか。勿論私は反対したが、あれこれと説得されていくうちに言いくるめられ、結局最後は学校設立の書類にハンコを押してしまった。

 

 

「それからは早かったなぁ…」

 

 

小野木はその書類を持って南米各地に怒涛の勢いで学校を作りまくった。その勢いは後に世界から「南米に教育の春が起こった」と言われるほどだ。

そして粗方学校を作り終わると、それらの学校の名誉校長に私の名前を置いた。流石に目立ち過ぎる思って止めようと思ったが時すでに遅く、国際連合から国際貢献著しいと勲章を貰った後では後の祭りだった。

 

しかし実際に私が校長としてやる仕事なんて入学式と卒業式に式辞を述べるくらいで、他の雑務は小野木の用意した教師陣がテキパキとこなしているので私に負担など無いのだが。

 

お陰で私は世界中から「南米教育の父」と謳われ讃えられている。嘘、私優秀過ぎでは……?

 

 

しかし、それはあくまでも表向きの成功だ。私の本懐は魔術師、裏の世界で成功してこそ一流の魔術師というもの。そして、その成功の足掛かりとして先ずはフィニス・カルデアを手に入れるのだ。

 

 

「失礼しますわ、ゴルドルフ様」

 

 

そこまで思考を飛ばしていると、扉からとても残念そうな顔を浮かべたコヤンスカヤ君が………うん?

 

 

「ど、どうしたのかね。そんな顔を浮かべて…」

 

「…ゴルドルフ様。例の調査官が今フィニス・カルデアにいると報告が上がりましたわ」

 

「れ、例の調査官って……………あっ」

 

 

コヤンスカヤ君が渋い顔をして言う人物など一人しか居ない。つまり、国際連合のあの調査官が今カルデアにいると言う事だ。

 

 

「そ、そんな馬鹿な!国際連合からはそんな情報など…」

 

「向こう側も極秘に事を動かしていると思われます。ここは一度手を引き、国際連合の様子を見るべきかと」

 

「そ、そうだな。うん、それが良い」

 

 

 

–––––ゴルドルフの強み。それは、勝てそうにない戦には絶対に参加しない所にある。

 

彼がカルデアに査察の延期を打診したのは、それから僅か10分後の出来事だった–––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ーーーーなんだか外が騒がしいな。

 

 

カルデアへの布石を打ってから数時間、何故かカルデアの内部が騒がしくなった。

一瞬工作が発覚して吊るし挙げられるかと案じたが、先程からそんな様子は見られない。

 

 

ーーーーそんな失敗はしていない、と考えたいけどなぁ…。

 

 

情報統轄部の中から情報が漏れる、という事は万一にもあり得ないし米国大統領も態々此処に情報を流して政権を泡にする程愚かではない。となると、漏れるとしたら殺生院キアラのみという事だ。

 

 

ーーーーあの人ならやりかねないなぁ…。

 

 

三カ月程前に出会った彼女。当時はセラピストとして働いていたが、アレがセラピストなんてとんでもない。精神的に参っている人間を彼女に会わせるなんて飢えた痩せ犬の前に生肉を置くより結果が見え透いている。

 

諸々の結果今では所長職として海の孤島に縛り付け、不穏な動きを見せた場合即座に『処理』出来る体制を整えてはいる。が、そんな状態でも彼女なら情報漏洩位平気でやりかねない。

 

一体どんな教育を受ければあんな精神が育まれるのか小一時間ほど問い詰めたくなるが、彼女との長話は色々と危ないのでやりはしない。

 

…もっとも、彼女のような聖人の気質を量産したいと言うのは本当だが。彼女(キアラ)はどこがで方向性を間違えただけで、あれを正しく育てることが出来ればそれは正しく聖人となりえるだろう。

 

 

 

ーーーーそれでも苦手な事に変わりは無いんだけどなぁ…。

 

 

軍勢を作った彼女を相手取る位ならば世界大戦を止める方がまだ気が楽と思うほど、自身の中でキアラの評価はある意味高かった。

 

 

ーーーー取り敢えず、外で話を聞いてくる位はした方が良いな。

 

 

憂鬱な未来の事を考えるより、まずは目先の出来事に当たるべきだろう。世界平和を維持する為にも、早急にここでの事案を終わらせて本部に帰らなければならない。

 

ペンとメモ帳だけ取ってさっと席から立つ。そんなに殺伐とした場所じゃないし、護身用のナイフすら必要ないだろう。そのまま机の上に置いたまま扉を開いて外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––その時だった。

 

 

ーーーー…………は?

 

 

此処にいる訳がない。いや、いる事の出来ない人物が目の前に立っていたのは。

 

短く揃えられた黒くて綺麗な髪に白無垢を想起させるほどに白い肌。淡色の着物にトレードマークの赤い革ジャン。顔立ちがやけに幼い所が気になるが、ここまで揃えば浮かぶ人物なんて一人しか浮かばない。

けれど、それはあり得ない。何故なら彼女は現在両儀家の当主として日本に在住し、高校の同級生だった恋人と添い遂げて産まれた一人娘を懸命に育てている最中だ。決して、こんな南極基地に居て良いはずがない。

 

その彼女は俺の顔を見ると驚愕の表情を浮かべ、その場に立ち尽くしている。

 

 

ーーーー式、なのか……?

 

 

意図せず口から溢れたそれは彼女にも届いたらしく、呆然とした表情を伏せる。

 

 

「–––––っ、そうか。成る程な、そう言うことか」

 

ーーーーその声、やっぱりお前は––––––っ⁉︎

 

 

自身の言葉は、突如刃物を携えて疾走する式に遮られる。頸動脈目掛けて真一文字に振るわれた刃を腰を落とす事で軌道から逸れ、背後に後退する。とっさの動きで膝に痛みが走るが、当たるよりマシだった。

一連の動作の後、頰に一筋の汗が流れる。今の刃の振り方は寸止めを考えたものでは無い。もし膝を折るのが後数巡遅ければ、俺の首からは鮮血が飛び出た事だろう。その事実を認識した時、意図せず右手が首筋を撫でる。

 

 

「なんでお前が召喚()ばれたのかは知らないし、聞きたくもない」

 

 

式が逆手に刃を持ち替え、腰を落とす。

 

 

「…けどな。お前はその呼び声に応えるべきじゃなかったんだ。お前のような、自分すら救えなかった馬鹿野郎は」

 

ーーーーお前、一体何を–––。

 

 

髪の間から覗かれた表情は、憤怒と戸惑いが入り混じっている様だった。怒りに顔を歪めているが、瞳には動揺が走っている。目の前の彼女とはそこそこ以上に長い付き合いであり、それくらいの感情は目を見るだけで分かる。

そして理解した。目の前の式は、本気で俺を殺そうとしている事に。

 

 

 

「ここで、お前を殺してやるよ。それでお前は–––––」

 

 

 

 

 

––––––––––眠る事が出来るだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











小野木大輔

日本に本社を置く外資系の税理関連企業の社長。30代前という若さで年商30億を誇る、日本でも有数の成功者。税理士としての資格と経営コンサルタントとしての知識を兼ね備え、多くの企業の躍進に一役買っている人物。2冊ほど出版したビジネス本はどちらも大量重版が掛かっている。

…当然だが仙道の仮装人格の一つである。


ゴルドルフ・ムジーク

主人公に目をつけられた可哀想な小人。優秀な腕と溢れ出る良心の悉くを調査官に利用され、息つく間もなく南米教育を広げた第一人者としてでっち上げられた。国際連合のとある調査官を恐れているが、その調査官と自分を成功に導いたアドバイザーが同一人物などかけらも思っていない。


主人公

ゴルドルフの存在を見つけた時ピンと来た男。








Q.この世界線って結局どこ主軸なの?

A.特に定めていません。強いていうのであればエミヤさん家の晩御飯時空が1番近いと思います。


Q.主人公って人間なの?

A.分類学上人間です。


Q.主人公って人類愛じゃ……?

A.君のような感の良い(ry


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