「5分」
ぎゅん、と視界が急に切り替わって、現れたのはボロボロのベッドと、そこに横たわる一人のか弱い女性だった。
ははうえ、と知らないうちに口からこぼれ出ていた声に女性は反応する。
「おいで、ロレンソ」
ああ、その腕に久しぶりに抱かれたい。あなたのごめんなさいという声はもう聞きたくないけれど、優しくか弱いあなたと、もっとふれあっていればよかった。もっと話していればよかった。
そうすれば、こんなにつらい「5分」は生まれなかっただろうに。
幼い頃の私は、なんと答えたんだったか。ぐるぐると考えてーー思い出した。
「……母上は、こうなるって考えていなかったの…? ドフィが、ロシーが、酷いことされるってわからなかったの…? それとも、知っててここに来たの?」
おねがい、…やめて。こんな言葉紡ぎたくない。もう一度あの人のあんな顔、見たくないんだ。
幼い頃の私、その口を塞げ。そうしないと、もう、取り返しがつかなくなる。
「ロレン…」
「…ッ父上も母上も! 私たちのことなんか考えないで…父上はあほだし! 母上は体が弱いし! ドフィとロシーはちっちゃいし! …どうしろって、言うの? ーー私にどうしろって言うの? 母上!! 答えてよ!?」
母上の顔が、白くなっていく。瞳に、枯れ果てたかと思われていた涙が、溜まっていく。
私の心臓も速くなっていた。そっか、この時私、しまったって思ったんだっけ?
母上がけほけほと咳き込み始めた。持っていた欠けたコップが、床に転がる。水が私の足まで跳ねた。
「けほ、っ……、ロレン、ソ…っ、ごめんなさ…」
「ーーッ!!」
ばん!! と古い木製の扉を荒々しく開けた。
だめ、戻って!!! と心で叫ぶけど、「過去」の私にそれは届かない。過去は、変えられない。
謝る母の顔が、嫌いだった。でもーーそんな顔をさせる自分が、何より嫌いだった。
変えられない過去を見せられるのは、つらい。
自分の無力が、子供さが、憎い。
ーー自分の罪を眼前につきつけられる、まるで拷問みたいな悪魔の実だ、と思った。
こんな力、欲しくなかった。
ーー…ううん、欲したのは私。でも、これは本当に「強さ」なんだろうか?
(私は、弟たちが守れれば、それでよかった)
生まれつきの勘のよさ。身体能力の高さから、ちょっとした海賊の真似をすれば、あっという間に動きが身に付く戦闘のセンス。
それじゃ足りないから、ドフラミンゴにもそれなりのことを教えた。
ロシナンテはあんまり戦い向きじゃなかったから、頭を使うようにと教えてーーでも、救えなくて。
(……海賊のほら、なんとかデッケンとかいう…あれと同等の呪いをかけられても足らないくらい、ひどい姉上だ)
苦笑すらできなかった。
もうこのとき彼らは、私にも母上にも父上にも…期待なんてしてなかっただろう。ごめんね、ドフィ。ごめんね、ロシー。
ーーもういっそ、あなたたちに私を殺して欲しいくらいだ。