【ONE PIECE】天駆ける竜   作:柚木 彼方

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10.ドン・キホーテの道標

母上がいなくなってーーいや、亡くなっても、泣いている暇なんてなかった。

ロシーはその時は耐えきれず泣いていたけど、ドフィは父上を睨み付けたまま動かなくて、家庭内の雰囲気はさらに険悪なものになっていった。

また、父上は母上がなくなったことで、私たちを守らなくてはと必死になっている。そんなこと望んでいないし、期待もしていないんだけど。

 

私は消失感も後悔も全て踏み潰して、生き延びること、また家族を生かすことに全力を注ぐことにした。

それに本気で全力を注げるようになったのは、母上が亡くなってから1年以上経ったころだけど。

 

 

今現在、母上の食料が必要なくなって、かなり不謹慎だけど弟たちのごはんを少し買うくらいの余裕ができた私は、お米を買って家に帰ってきているところだった。

 

 

「ドフィ、ロシー。ただい……ま…」

 

 

けれどそこに、家はなかった。

 

焼け焦げて、木片と炭のみになった「家だったもの」がそこにあった。呆然として、…父上は? ドフィとロシーは!? と辺りを見回す。

すると、そこに私を手招きする手があった。我慢できずにロシーが顔を茂みから覗かせている。どうやら、隠れていて無事だったようだ。ああ、よかった。

 

 

「全員無事でよかっーー」

 

 

た、と言いかけて。私は今にもロシーに襲いかかろうとする人の気配がすることに、今更気づいた。やば、近い!!

あわてて緊急のものが入っているバッグを漁った。けれど特に何もない。……「あれ」、以外は。

何にも気づかず私を待つ家族に、今大声を出したところで間に合わない。ああ、でもなあ。ドフィの教育に悪いけど、でもーー。

 

そう心では葛藤していても、私の手はひんやりとして重い「それ」をしっかりと掴んでいた。

心臓が嫌な音を立てる。私が今やろうとしていることは、それは……。

 

 

(ーーっ、家族を守るため!!!)

 

 

パァン、と乾いた音が辺りに響いて、「私の」家族が肩を震わせて、驚いたように私を見た。

その横では頭から血を流し、死んだことに気づいていないかのように、凶悪な顔のまま死んでいる男がいた。

あねうえ、と私を呼ぶ声がする。

 

けれどそんな声に応えている暇は、なかった。

 

 

「走って!!!」

 

 

父上がハッとし、私を見る。

「撃ちやがったぞ!!」という男たちの怖い声が聞こえてーーゾクッとした。

それでも、叫ぶしかない。父上、どうかお願いします。頼りないあなただったけど、それでも……あなたは私の父上だったから。

 

 

「走って!! 私のことは気にしないで!! …あとから、行くからっ!」

 

「ロレンソ…っ!!」

 

「お願い、早く行って!!」

 

 

まって、と立ち上がったロシーも、わめき散らすドフィも抱えて、父上は泣いていた。大の大人が、なんで泣くかな。

父上、私はあなたのそういうところが、嫌いだったよ。

 

 

「姉上、あねうえぇ!!」

 

「離せ!! っ、姉上!!!」

 

 

でもね。

 

そういう風に父親ぶって、子供のことを命を張ってでも守ろうとするところは、他の家の父親にはなかったし、それはすんごい自慢だった。

ちょっと考えなしなところはあるけど、私たちの幸せを一番に考えての行動だったんだって、後から思えば分かるよ。

 

父上。母上。ドフィ。ロシー。

 

……かみさま、お願いします。

私の愛しい家族を、殺さないでください。

幸せだったんです。迫害されても、殴られても蹴られても。あの家庭を失うのは嫌だった。あの家庭が、好きだった。何より、尊かった。

貰った宝石より、装飾品より、あの場所は輝いていて。幸せでした。どんなときより幸せでした。ーー世界一、幸せでした。

 

 

だから、かみさま。

私がいなくなっても、彼らに、あんな家庭をあげてください。

幸せだなあって、ポロリと口から出るような家庭を。

 

私のことなんか忘れて、幸せになれる居場所を。

 

 

「いたぞ!!! 天竜人!!」

 

「っ、あぁァッ!!」

 

 

ずしゃ、と音がして、私の腹部に矢が刺さった。とてつもない痛みに、意識が飛びかけたけどーーまだ、動ける。今のはちょっと、ビックリしただけだ。

まだ、やれる。止められる。

 

 

(自由になってね、ドフィ、ロシー)

 

 

それが私の人生の目標。道標。

見失わないように。盲目にならないように。

 

 

「ッ、うぁぁああ!!!」

 

 

大したところじゃないから、矢を引き抜いて。お腹の怪我から血がどばどば出ては来なかったからほっとしつつ、私は落ちていた丈夫そうな木の枝をひっつかむとーー勝ち目がないのは知りながらもーー私を睨み、殺そうとする大人たちの中に、飛び込んでいった。

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