どうしてそんな子供(しかも天竜人の)がそんな考えに至るようになったかと言えば、それは両親の影響があるだろう。
私の両親は昔から「下界で暮らしたい」という天竜人の中でもかなり異端な考えの持ち主であった。
下界で人間と手を取り合って、慎ましく暮らしていきたい。それが父と母の理想だった。
そんな両親のもとに私、ドンキホーテ・ロレンソが産まれ、4年して更に弟が産まれ、それから更に2年するともうひとり弟が産まれた。長男の名前をドンキホーテ・ドフラミンゴ、次男をドンキホーテ・ロシナンテという。
「…! あねうえ!」
「!! …あねうえ~~!!」
私9歳、ドフィ5歳、ロシー3歳の今。
どちらもかわいい弟たちだ。
いつも散歩から帰ってきた私に飛び付き、撫でろ撫でろとすりよってくる姿は愛しいの極みで、頬がだらしなく緩んでしまう。
ーーが、今日はなんだか少し違うようだった。
いつも私が帰ってくるのにいち早く気付き、私に抱きつく面積を弟より取ろうとするドフィが、声はすれど姿は見えず。
代わりに、半べそをかいたロシーが前につんのめりながら駆け寄ってきたので、それを支えて転倒を防いだ。
ひっく、と肩を揺らしているロシーに「どうしたの?」と優しく問いかけてみる。
「あにうえが…あねうえ、あにうえを止めて…!」
「ドフィ? ドフィがまたなにかしたの?」
「あにうえ、ピストル持ってるの…」
「…はぁ!? ピストル!!?」
私は慌てて立ち上がると、ドフィの声がした方に走った。
ドフィはけしてロシーと違う育てかたをしたつもりはないんだけど、なぜかまさに天竜人という感じにすくすく育っていて怒ると感情を止められないと言うか、すぐに「処刑」をしようとする癖がある。
まったく、どうしてこうなったんだか。
私が帰ってきたとき声がしたし、その後銃声は聞こえていない。だから撃ってはいないと信じたいけどーー。
親戚のドンキホーテの方々が、誕生日プレゼントにと5歳のドフィにピストルを渡したのは、まあ仕方ない。ここでは誰でも持って(しまって)いるし、他の人にドフィが貰った誕生日プレゼントだ。文句は言うまい。
けれど私はドフィにピストルは使うなと言い聞かせていた。撃ったら怒るよ、と。
ロシナンテはそんなことできない子だからよかったけれど、ドフィはわからない。しかも親がアレだ、叱るとは思えないのだから私がしつけるしかないのだ。
とりあえず心当たりのある部屋を片っ端から開け放っていってーー異様に静かなのに、怒りと人の気配がする部屋をひとつ見つけた。
この怒りの気配ーー鋭く刺すような、だがそれでいてどろりとしたーーはドフィだ。5歳にしてこんな…なかなかないと思う。
私はその部屋の扉をおもいきり開け放った。
「ドフィ!!!」
「!! 撃ってない! 撃ってないえあねうえ!!」
「…撃ってない? ……本当に?」
辺りを見てみるが、……うんなるほど? 撃ってないのは本当みたい。
けれど奴隷の青ざめようを見ると、構えられはしたらしい。まったくもう。
「ふー…なんだ、姉上びっくりしちゃった。ドフィが私の言いつけを守るいい子で良かったわ」
「…なんで撃ったらダメなんだえ? 飽きたし、動きも遅くなってきてるし、そうなったら捨て時ってみんな言ってたえ」
「あのねえ、動きが遅くなってきてるって、そりゃ休ませなきゃ疲れちゃうもの。だからゆっくり休ませてあげなきゃ」
「なぜおれが奴隷を気づかうんだえ!? 意味がわからないえ!」
「ドフィ。…生きてるの。人なのよ? 私はドフィにそんなこと言ってほしくないし、人を撃ったり殺したりしてほしくない。…ドフィ、姉上のお願いを聞いて?」
「……だって、」
「ドフィ。…お願いよ、いい子だから。頭のいいドフィだから、わかるでしょ? 何人も殺して何人もまた買うより、効率のよさが」
「……うん」
「いい子。ありがとう。大好きよ」
「…おれもだえ」
そういってぐりぐりと頭を押し付けてきた。
かわいい弟だけど、この説得が毎回大変だ。
ドフィが納得してないのは目に見えてわかるけど、仕方ない。
「それからドフィ、ロシーも怖がらせたんだからきちんと謝ってね? そうしたら、おやつにしよう!」
「わかったえ!」
ドフィの育て方は、どこで間違えたのかーーいや、間違えては、ないのか?
だってここでは異端は私たちで、ドフィは「普通」なんだから。
まあ一番のギモンは、父上と母上のあの優しすぎる心はどうやって培われたのか、なんだけど。
「ごめんなさい、……弟が、ひどいこと」
一応奴隷の男の人に謝っておいたけれど、その目は心の中になんの言葉も入っていっていないかのよう。私の苦手な目。
ひどく空虚で、濁っている。