はあ、と溜め息を吐きつつ、配達主さんの部屋のひとつ前の部屋の戸にワープ。…あ、トイレだ、ここ。
相変わらず派手めな家に、謎のオブジェ。どういう趣味を、という言葉は飲み下した。
コンコン、とお目当ての部屋をノックする。少しの沈黙の後、「…入りたまえ」なんて声が。うへぇ。
「べつに私なんだから猫かぶんなくていいじゃないですかー何でも屋でーす」
「…てめェ以外が来たときに困るからな。やって損はねェ」
「私の背筋にイヤーなものが走るからやめてと…あっハイ、葉巻です」
余計なことは話すなと言わんばかりに睨まれた。だから苦手なんだよ、この人。
ドフィやロシーがこんな大人になってないように祈ろう、と思う。
こんな皮肉とエゴと猫かぶりでしかできてないような男になんて…なってても、弟たちなら……いや、だめ。
私と一応同い年で王下七武海で、アラバスタの英雄なんて言われているこの人の名は、サー・クロコダイル。
実際はものすごい猫かぶりでエゴイストで皮肉屋ないやーな人ですよ、はい。
「クハハ…てめェの配達は早いからいいな…。どうだ、後ろ楯に王下七武海を持つ気はねェか?」
「ないですって、何回言えば分かるんですか」
「…釣れねェ女だな」
まァいい、と早速葉巻を蒸かしている彼は、いつも私の勧誘をする。けれどこの人の部下になって良いことは無さそうだし、信用されている気はしない。運送業は信頼がイチバンだからね、ダメ。
そんなことを考えていると、クイクイッと手招きされた。え、なに。
「まだなにか欲しいものがーーキャッ!?」
突然手を引かれ、優雅に座るクロコダイルさんの胸にダーイブ。…な、なんだこれえええ!!?
元箱入り娘は少女漫画ですら最近のはえっちぃからダメなんぞと言われて見たことないのに!! なにこの展開!? は、ハレンチです!!
いきなりの出来事にあたふたしている私を見て愉快そうに笑うクロコダイルさん。…む、ムカつく!!
言っておくけど、この人と恋愛フラグ建てる気はないから!! 私は!!
「クハハ…そんなに無防備で大丈夫か?」
「…ッ、ご心配どうも!!」
ゾクッとして慌てて体を離すと、鼻スレッスレを義手がかすめた。あ、危ない!!
毎回この人は私で遊ぶから嫌になる。
まだニヤニヤと笑っているのは私が避けると分かっていたからか。くそう。
「お前、海軍に味方する気はねェんだろう? だが海軍はお前を手駒にしようと奮闘している…クハハハ、実に滑稽だな。…もう一度聞く、おれと手を組まねェか? そうすりゃ海軍のしつこいアピールもなくなるだろう」
「…アピールされるのも、嫌いじゃないんで」
「……ふん…わからねェな、てめェは」
ならばもう用はないとばかりに手を振られた。そ、そんなことされなくたって帰るわ!
ほんと、クロコダイルさんってわからない。
なに考えてるのか。私を利用して何をしようとしてるのかも。
とにかくクロコダイルさんに配達した後は胃がキリキリと悲鳴をあげるので、早急に休ませてあげようと思う。ごめんね、胃。
扉をぱたんと閉じた後でも、クロコダイルさんの独特な笑い声が聞こえた気がした。疲れてんのかな。
このときロレンソ21歳、クロコダイル21歳、ドフラミンゴ17歳、ロシナンテ15歳です。
クロコダイルは王下七武海に入ったばかりで、海賊をやっつけてくれる海賊と新聞にも載ったりしていたころでした。