『ーーじゃあ頼む』
そう言って電伝虫を切ったのは、海軍本部の中将…あれ、今は大将だっけか? の、人だった。配達の依頼だ。
海軍に関わっているくせに海軍について大して知らないのは、単に興味がないからだとお分かりいただきたい。それに詳しくなってしまったら、海軍サイドになることは目に見えている。それは何かと面倒だ。
誰にでもものを売る何でも屋として、何かの側についてしまうのはいただけない。
「仕事行ってくるね、シャク」
本音を言うとシャクも連れてってあげたいし、シャボンディ諸島に一緒に行って観光したい。
けど北の海からシャボンディまでいくのは、なかなか大変なのである。
海賊も多いしね。
ごめんね、と謝って、船の扉を開けた。
「……いくらやっても慣れないなあ」
景色がぐるりと変わるというのは。
なんかこの仕事についてから、手袋マジ使うようになった。能力も使うけど、それは海賊に襲われたときとか、生物とかを届けに行かなきゃいけないとき。
ちなみに手袋はいったことある場所や、鮮明に思い出せる場所にしか行けないので、初めて行く土地ーーとくにシャボンディ諸島なんかは、アオさんに連れていってもらうことがほとんどだ。アオさんお世話になってます。
さて、と辺りを見回して……あった、海軍本部。
でっかい建物とずらりと並ぶ海兵さんは、海賊から見れば恐怖の塊であろう。可哀想に。
けれど大海賊時代の今、この新世界へのルートであるシャボンディの治安が海軍本部によって保たれているというのは、大切な事実なのだ。
「こんにちは。何でも屋です」
「はっ! お話はうかがっております! どうぞこちらへ!」
「え?」
届けに来ただけのはずが、中に通された。
なんでか、と考えてはみるけれど、いい理由が浮かばなかった。
バカバカしいけど、こんな「もの」のために何でも屋を活用してるとか恥ずかしい、ばれたくない、だから重要なもののフリとか、ないよね?
いや、まさかね。だって相手は海軍大将。ありえん。
「こちらです。…大将、何でも屋の方が」
「あぁ…もう来たか。さすがだな」
失礼します、と声を出し、扉を開けた。
ガチャリと重々しい音がして、まず目に入るのはでかい部屋。他の海兵なんて何人かで同じ部屋らしいから、かなり良いと思われる。
後ろに掲げられた正義の字と、気難しげな顔。パリ、と彼の食べているものが軽い音を立てた。
「お久しぶりです、センゴク大将。おかき、届けに参りましたよ」
「しーっ!! あまり大きな声で言うな…。おかきのために何でも屋を使っているとバレては敵わん」
「……えぇ…やっぱり…えぇ…」
海軍大将、仏のセンゴク。
無類のおかき好きのおじさん、という印象しかないのだけど。
この間ガープ中将におせんべいを届けたときに偶然出会い、美味しいおかきはないかと聞かれ差し上げたところ、えらく気に入り今じゃいい金づる…じゃない、お得意様だ。
何でも屋が来る度おかきが増えてるんだからみんな気づいているハズなのに、妙な意地を張りたがる年頃なのかな? 隠したがる。
「配達ご苦労。代金だ」
「確かに。まいどあり!」
「…来てもらって何だが、もういいだろうか。何でも屋からおかきを購入しているなどと、息子にでも知られては困る」
「あー例の義理の…わかりましたよ、はいはい」
センゴク大将には義理の息子がいるらしく、それには特に意地を張りたがる。
お義父さんはすごいんだ、みたいのを期待してるのかな?
ばれてるのに。ばれてるのに。
変な意地に付き合うのも大変だ、と苦笑し、手袋をはめる。
「じゃ、またのご利用お待ちしてます!」
◇◇◇
カチャ、と扉が開いて、湯飲みを持った男が、部屋に入ってきた。
男は湯飲みを落とさぬよう慎重に机に置くと、増えているおかきを見て苦笑する。
「センゴクさん、おかき増えてませんか?」
「ん? あ、ああ。部下に買いに行かせたからな」
「ふうん」
男とて知っていた。義父がこのおかきを大量に買い占めるのは、何でも屋からだけだと。
便利な何でも屋は噂に聞いていて、でもそんなに急ぐほどの宅配物も無いし、と利用はしたことがない。
してみたいなあ、どんな人なんだろう、と思ったことはあるけれど。
「…そういえばロシナンテ。ドンキホーテファミリーの動きが最近激しくなっていてな…」
ほわんほわんとそんなことを考えていた彼の頭だったが、一瞬で切り替わる。
ドンキホーテファミリー。彼の最大の敵。止めるべき海賊。愛していた人のいる場所。
「おれは、何でもやりますよ」
昔、決めたから。
自分の目で見て、感じて、考えて。
「ーー兄を止めるためだ」
まっすぐな彼の名は、ドンキホーテ・ロシナンテ。
残虐で無慈悲な海賊の、実の弟でありーー
今や世界を飛び回る何でも屋の弟でもあることは、彼も知らない事実であった。