わあ、と思わず吐息が漏れた。
私が初めて来たこの国の名前は、フレバンス。
草木も町も何もかも真っ白。
そこではどこもかしこもが賑わっており、天才的な画家が描いたような町だった。
笑う人々も画期的な町も、全てが理想。この世の楽園、と形容するに相応しい場所だ。
幼い頃の記憶ではあるものの、マリージョアより美しいかもしれない。…嫌だな、あそこに住んでいたのはもう10年以上も前になるのに、まだマリージョアの風景を思い出せるのはーー少なからず故郷に未練があるからだろうか?
「配達しなくちゃいけないのは、えぇっと…と、とらふぇる……とらふぁる…ーートラファルガー、さん」
不思議な名前だなあ、と思いつつ町の人にトラファルガーさんの家を聞くと、どうやら町一番のお医者様らしい。そこだよ、と指さしてくれた家は普通に大きかった。
この家も例に漏れず真っ白で、清潔感溢れるというか…。おとぎの国に来たみたいだ。
……こんなに幸せな国が、あっていいのだろうか。違和感がする。…こんなこと考えたって仕方ないか。
「トラファルガーさん、お届け物です!」
しーん。いや、町の騒音のせいでまったく静かではないんだけど、家の中からは物音ひとつしない。
おかしいな、医者だと聞いてたからここは医院のはず。そう思って看板を見ると、…なに、今日の今の時間、お休みなの!? 困るな…。けどお医者様だって人、休まなきゃやってらんないもんね。仕方ないか。
というわけで、町を少しぶらついてみることにした。
忙しい時間のピークはまだだから、それまでに届けられればラッキー。散歩しがてらトラファルガーさんを探そう。
まだそんなにおなかがすいていないから、ぷらぷらと歩くだけで、何かを食べることはしなかった。
…というか、ここの食べ物にはこの町が白く染まっている原因である「珀鉛」という鉱石が含まれているらしいね。それに何だか嫌な気配を感じて、食べなかった。
高く売れて加工しやすく富を生む鉱石。そんな…そんな人間が得しかしないものが、あるはずないんだけど。
(神様のイタズラってやつかな?)
若干胸にもやもやしたものを抱えながら歩いていると、トンと私にぶつかってきた小さな人影があった。
「いてっ」と言って尻餅をついたその子供を慌てて立ち上がらせて謝る。
キッ、と睨んできたけどそんなに迫力がない。なんか小さい頃のドフィみたいだな、なんてしみじみ。
「どこみてあるいてんだよ!」
「ご、ごめんね! ちょっと考え事してて!」
「あるきながらするなよな!」
拙い言葉で私を叱るのは、3歳くらいの男の子。
3歳に叱られる20と少しって最悪じゃんか…。
再度ごめんねぼく、と眉を下げて謝ると「おれのなまえはぼくじゃない!」とお怒りのご様子。
うーん! この年頃の子供ってめんどくさいんだね! ドフィとロシーはあんまりにも私にベタベタだから知らなかった!
「そっかぁ、じゃあお名前何て言うの? 私ロレンソ」なんて軽く話しかけたら、じろじろと疑いの目で見られた。
なに、不審者だと思われてないか?
わかんないよ! この歳の子との最適な接し方!!
「…おれは、ローだ」
「ロー?」
「ん。トラファルガー・ロー」
「んっえっ? トラファルガー?」
予想していなかった姓に耳を疑う。トラファルガー? 今、トラファルガーって言った?
やったじゃん! この子に案内してもらえば、配達完了! また電伝虫が鳴るまで船でぐうたらしてられる!
「ろ、ローくん! あの、私何でも屋!」
「……は?」
「何でも屋です! えっと…お届け物! あなたの…お父さんかお母さんに! 壊れたメス直りましたーって!」
「…あぁ、そういえばとうさまとかあさまが、メスを修理に出したっていってた」
「うん修理した! どうしてこんなにポッキリいってたのか分かんなかったけど直しといた!」
はい! と元気よく小包を渡す。
渋々といった感じで受け取ってくれたローくんだったけど、…あっそうだ、これきちんとした大人のサインがないとダメなんだったわ。
「ローくん、お父さんかお母さん近くにいる? サインお願いしたくて」
「おれじゃダメなのか?」
「いや、うーん、…いいのかな。いいのかも」
ダメダメダメ!! と私の心の天使が止めるけど、この子ならお父さんかお母さんにしっかり渡してくれそうな気もする。
…いや、でもなあ!!
しっかり仕事をするべき、という天使とこの子なら大丈夫だって、と囁く悪魔がいる。
……けど、でも、いや…っ!
しっかり仕事をするべきじゃないか。だって弟たちに会いたいんだろう? みたいな声が天から降ってきた。ですよねー!
「ご、ごめんねローくん。やっぱり大人のサインがないとダメなんだ」