「クロコダイルさん?」
クロコダイルが黙ったのを不審に思ったのか、ロレンソが顔を覗き込んできた。その顔をよく見て、疲労の色が滲んでいるのをクロコダイルは感じとる。
はァ、と大きなため息をひとつ吐くと、「てめェはなんでそんなに頑張るんだ」と怒ったように聞いた。
突然のことにロレンソは訳がわからず、すっとんきょうな声をあげている。けれどしばらくすると意味が分かったのか、頬を膨らませた。
「だから、いつも言ってるじゃないですか。家族を見つける為です」
「…もしその家族が、お前の考えに…反するような形で生きていたら、それでも良いのか?」
「……え?」
きょとん。そんな効果音が似合う、無駄に子供みたいな顔。背も高く、顔は大人の女のはずなのに、時折見せる子供のような表情は、クロコダイルの心を大いに掻き乱す原因であった。
ロレンソはしばらく考えて、唸って、にこっと笑った。
その笑顔が、たまらなく輝いているように見えて、クロコダイルは目を擦る。バカバカしい。
「生きていてくれたなら、それでいいです。生き延びたら自由に生きなさいって言ったのは私だから、どんな道を歩んでても、なにも思いません」
生きていたら、それでいい。それだけでいい。
そう彼女に言わしめるソイツは、もう残虐非道な海賊だというのに。
何も知らないからこそ言える言葉なのか。それとも知ってしまっても尚、この女はそうほざくのだろうか。
けれど彼女のこの、本当に愛しそうな顔。記憶の思い出のアルバムをめくっているのか、懐かしいような形容し難い顔をしている。
心から愛しているのが伝わって、見えたのは一瞬であるが彼女はきちんとした「姉」なのだと思った。
ロレンソが弟に会うことで、何か変わるのだろうか。
彼女の心の黒い気持ちや演技くさい笑顔が、姉としてのただの意地だとしても、取り払われたりするのだろうか。
弟たちに醜い自分は見せたくない、という意地が今、この歳で発動したらーー彼女は、変われるのだろうか。
俗に言うお節介というやつであることは、クロコダイルも重々承知していた。
だが、家族のため家族のためと、頑張り続けるコイツに、1日くらい休みを与えてもバチは当たるまいと思ったのだ。
たまには優しくしてやろう、なんていたずら心。クロコダイルは咳払いをすると、紙に何かをさらさらと書いて手渡した。
「…ここへ行ってみたまえ」
クロコダイルの突然の猫かぶりに鳥肌を立たせながら、ロレンソは紙を受けとる。
そこには聞いたことのない地名と、場所が書いてあった。
「“スパイダーマイルズ ゴミ処理場”…なんですか、これ」
「…私から君へのプレゼントが、そこに“居る”はずだ」
「プレゼント? 居る?」
「…つべこべ言わずに行ってみたまえ、ロレンソ君」
「ひっ…行きます、行きますからその敬語やめてください…ひぃ……寒気が…」
クロコダイルも、家族のために死に物狂いで働いている同い年の少女の欲しいものを知っていて、しかもそれが手の届く場所にあるのだとすれば……少し、高いところにあったとしても、取ってやりたいと思う心はあったのだ。
クロコダイルの唯一の弱点。唯一、彼が心の奥では少し、信じてしまっている女。
バカバカしい、と思えども、葉巻の減るスピードがすべてを物語っていた。
少し早いですが、逆転勝利がなさそうと判断し…。
出会わせることにしました。
……本当のことを言うと、もうこれ以上延ばせないぞっていう作者の力不足でした。