【ONE PIECE】天駆ける竜   作:柚木 彼方

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3.昔と今(ドフラミンゴ視点)

ーー始まりは、この店の“不手際”だった。

 

 

「……フッフッフ…おれの飯に毒を混ぜるとは、いい度胸してるな?」

 

 

そうカウンターの女に声をかければ、魔法にでもかかったかのようにソイツは硬直した。

この店と、おれを邪魔に思う海賊が繋がりを持ち、おれを殺そうとしているのは知っていた。

知っていて、この店に飯を食いにきた。その意味は……分かるだろう?

きれいに盛り付けされ出されたパスタを皿ごとおれがひっくり返す。それが開戦の合図だった。

 

客に扮していた男共が次々とナイフを取り出しておれに向かってくる。ーーが、その刃はおれに届くことなく床に落ちた。

何の為にディアマンテとトレーボルを連れてきたと思っている?

 

 

「こんなんでドフィを殺そうなんざ笑止千万だ、んね~!!」

 

 

全くもってその通りだ。

おれが手を下すまでもなく、ディアマンテとトレーボルによってそいつらは地に伏していく。

おれはただ、肩肘をついて退屈に、それを眺めていれば良いだけだった。

 

店の女が許しを乞うて来ようが、ディアマンテやトレーボルがその女をどうしようがどうでもよかったが…用件はそれじゃない。

おれはその女を見ながら、「やるべきことは分かっているな」と笑った。

ここの金と、所有権。それを渡せばお前は“自由”だ。

……まぁ、自由になったあとどうなるかなんて、知らねェがな?

 

トレーボルが女に跨がる。

少し気が早くねェか、と呆れたがあきらめた。こいつは昔からそういうやつだった。

特に今女に飢えているわけでもなし、おれは冷めた目でそれを眺めてーーその瞬間。

 

 

「べへぇっ!?」

 

「!?」

 

 

さっきまで居なかったはずのもうひとりの見知らぬ女が、トレーボルの顔面に華麗な回し蹴りを炸裂させた。一瞬起きたことが理解できずに固まってしまう。

だがすぐに「家族が傷つけられた」と脳が判断すると、考えるよりも先に、おれの手が女の喉をひっつかんでいた。対応できなかったのか、苦しそうな声を出した女は、抵抗のつもりか混乱からか足をじたばたさせていた。無駄なことを。

 

おれの家族を傷つけたやつを、おれが生かしておくと思うのか。

 

ギリリ、と絞めあげる力が強くなる。

もうすぐ首の折れる音が聞こえるはずだ。無惨な姿で死ぬがいい。

薄っぺらな正義感。自分を蔑ろにする行為。誰かを思い出させて、異様にイラついた。

 

 

「殺しちまえェ、ドフィ~!!!」

 

「……!?」

 

 

…ふと、女の目が、見開かれた。

遠くなりかけていたと思われた意識が戻って、おれの顔をまじまじと見つめ始める。

それの意味が分からなくて眉を寄せると、女はかすれた声を出した。なんだ、まだそんな力があったのか。ならもっと強く絞めてーーー

 

 

「や、めて……ドフィ…」

 

「……あァ?」

 

「…ドフィ、おねがい…あねうえ、く、るしぃ…、から…ぁっ」

 

 

言っている意味が…分からなかった。

この女がおれを「ドフィ」と慣れた口調で呼んでいることも、自身を「姉上」と呼んでいることも。

 

掴んだまま、容姿を見る。

金色の滑らかな髪に、陶器のような肌。すらりとした四肢だが、左手には包帯。また左脇腹には縫い傷。

これは…あのときの傷か? おれたちを逃がし、矢で射られた…おれの、最後にアンタを見た瞬間の。

はっとして見ると、母によく似た年頃の女が、苦しそうに、今にも事切れてしまいそうな顔をしていた。混乱と慌て。すぐに手を離す。

 

 

「…………あね、うえ?」

 

「っ、ゲホッゲホッ!! …っは、ぁ、ハァ、ハァ…」

 

 

絞められた首と打った尻をさすりながら苦笑にも近い表情を浮かべてくる精神の強かさは、確かに姉のものだ。

他人だと思っていたからイラついていた正義感も、姉ならやりそうだと納得して、顔には自然と笑みが広がる。

 

 

「ダメよ、ドフィ。…人の嫌がることしちゃ」

 

 

ああ、姉だ。柔らかい笑みも、華奢な体も、鈴の音のような声も、すべて、すべて。おれの姉だ。

酸欠状態だったからか上気している顔に、そっと触れる。目尻から頬、と優しく撫でてやれば気持ち良さそうに目を閉じた。

なんて愛しい生物だろう。この世界の中で今、おれは誰より可愛らしく愛しい女に触れている。

 

 

「大きくなったのね」

 

「フフ…あんたは綺麗になったな」

 

 

そう? と嬉しそうに聞き返してくる姉は、昔よりずっと可愛らしく、美しくなっていた。

華奢で白いのにしっかりと芯を持っている姿は、幼く、母と変わらず体が弱いながらも自分たちを守ったときそのままで。

 

 

「もっとこっちへ来い…姉上」

 

「ハイハイ」

 

 

「仕方ないわね、私の天使ってば」と数百、数千の薔薇に劣らない笑みを見せてくる姉。

そう、そうさ。

ギシリと指を動かして、このまま姉を操ってしまいたいのを我慢する。

 

昔は弱かったが、今度こそ。

 

 

「フフフ…フッフッフ!! こんだけ近けりゃ、守れるってもんだ」

 

 

おれの糸は、決して姉を逃がさない。

愛して、閉じこめて、おれが守ってやる。

昔とは違い、おれは力を手に入れたのだから。

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