絞められた喉をさすって咳き込むと、ドフィは「悪かった」と言って申し訳なさそうな顔をした。
ドフィが自分から素直に謝るなんて、と思ったけれど、私の見ていなかった15年ほどの間に、彼にもいろいろあったのだろう。
悲しいかな、その離ればなれになってしまった年数と一緒に家族として暮らした年数とでは、離ればなれになった年数の方が多いというのだ。
私これ、姉って名乗って良いのだろうか…。なんて考えてしまう。
「ドフィの姉ちゃんなんだったら先に言ってくれ、んねー!」
「あ、ごめんなさい」
アナタのしようとしてたことがムカついちゃって、と真顔で返せば「似てるわー! ドフィに似てるわー! 鼻出るわー!」なんて意味の分からないことを言い出した。
鼻出るわって、もう出てますけど。
鼻炎? と思ってティッシュを出そうとポケットを探っていると次の瞬間、ふわりと体が宙に浮く。
驚いてその原因である弟を見ると、満足そうに私をプリンセスホールドしていた。なぜ。
けれど、昔は手を引いてやっていた弟が抱き上げてくれるというのは成長を感じて嬉しいし、何よりこんなイケメンに抱き上げられる機会なんてそうそうないのだから、堪能しておくのがいいだろう。
私が抵抗する気がないのを感じとったのか、昔よりちょっと悪い笑みを浮かべると、つかつかと出入り口に向かうドフィ。
「ドフィ、この店と女、どうする? 始末していいならするが…ウハハ!」
「あァ…放っとけ。どうせ海賊は皆殺しにしちまったんだからな」
……可愛い弟から“皆殺し”なんてこわいワードが聞こえた気がしたけど、きっと空耳だよね?
フフ、という笑い声が降ってきたことで、弟が自分を見ていることに気付く。
プリンセスホールドされていることで顔の真横にきた胸板に頭をもたげると、ドフィはくすぐったそうに笑った。
手、大きくなったな。声変わりもしてるし、背なんて3メートルくらいあるし。いいなあ。私もこんくらい大きくなりたい。
「フフ…何を考えてる?」
「あっちょ、前見て歩きなさいよ! …んー? 成長したなって。姉上嬉しい」
「成長、ねェ。…フフフ!」
ギィ、とお店のドアを開けて外に出ると、外に立っていた男の子と女の子が「若様!」と走り寄ってきた。…ワカサマ?
というか、この子たちも仲間だったんだ!? と驚く私に笑いかけると、ドフィは二人の頭をするりと撫でる。
…お兄ちゃんだな。やっぱり成長したな。
「若様、そちらの女の人はだぁれ?」
「フフ、あァ。おれの姉だ」
「若様のお姉さんだすやーん!?」
「まあ! だからそんなにお綺麗なのね!」
「お、お綺麗!? あ、ありがとうね…?」
洋服をすすめてくる店員ばりの褒め方をしてくる10にもならなそうな少女に、ちょっと驚く。
けれど褒めてくれることに対しては不快感はないので、素直に受けとることにした。
キラキラとした目で私を見てくる少女は、名前をベビー5というらしい。…な、名前?
隣でアイスを食べている男の子はバッファロー。
今から向かうらしい拠点にはまだ“ファミリー”がいて、全員揃ってドンキホーテファミリーというらしい。へえぇ。なにそれぇ、って感じだ。
「早く全員の名前を覚えろよ? 姉上はファミリーの幹部に…そうだな、二代目コラソンにでも」
「へ? 幹部? 何言ってんの、ドフィ? 私海賊にはならないよ?」
「……あ?」
ピキイ、と町全体の空気が凍ったようにも感じられた。