なんで、という不満満載オーラを放つドフィだけど、私にはそっちの方が訳が分からなかった。
いや、会えたことはラッキーだと思う。成長を見られてすっごく嬉しいし、これからもちょくちょく様子を見に来ようかななんて思っていたのだが、入るなんて一言も言っていない。むしろ何でそうなったのか聞きたい。
空気も凍りそうなこのオーラ。すぐ近くにいると息苦しい。威圧感。…なんだろう、すごいなコレ。
「だって姉上、今お仕事してるんだもの」
「…お仕事、だァ?」
「何でも屋っていうのよ。どうぞごひいきにね」
「何でも屋…」
その名前に心当たりでもあったのか、ドフィの空気がフッと緩む。
横にいた子供たちが息を吐くのが分かった。ごめんね、苦しかったよね。
すると突然、ドフィは肩を震わせて笑い始めた。
ちょ、弟がすごい笑い上戸になってて姉上戸惑いを隠しきれないよ。冷や汗が背中を伝う。これ、言わない方がよかったやつかな。一抹の後悔。
私を抱く手には力がこもって、正直痛い。だからさっきから名前を呼んでいるのだが、聞こえていないかのように笑っている。やだもう怖いって。
「フッフッフ…! 何でも屋…聞いたことはあったが、まさかアンタだったとは! とんだ死角だった。まさかあんなにボロボロだった姉が五体満足で世界を飛び回ってるたァ思わなかったもんでな」
「私も、まさか弟が海賊やってるなんて思わなかったけどね」
海賊っていうかほぼマフィアなんですけどね。ヤのつく自営業っぽいけどね。そっちの方が納得したかもしれない。
…なんて言ったらまたすごい威圧されてどんな手を使ってでもファミリーに入れさせようとしそうだから言わない。
「入れない代わりに、珍しいものとか欲しかったら連絡くれれば大抵あるから。あと秒で配達してほしいときとか。葉巻とかおかきとかそういうものでもオーケーだからさ」
「フッフッフ! まァ今はその関係でも構わねェさ」
今は、と愉しそうに言うドフィは、どんな作戦を立てているんだろう。
嫌がる私を無理矢理入れないのは、そうすると私がドフィからさらに離れるだけだと分かっているからに違いない。だからこそ、一筋縄ではいかない作戦を仕掛けてくるはず。
注意しなきゃ、と溜め息を吐いた。
「ところで拠点ってどこなの?」
「ん? あァ、この町のゴミ処理場だ」
「……ゴミ処理場?」
「嫌か?」と聞いてくるドフィにぶんぶん首を横に振ってーーそうか、そういうことだったのか!!
クロコダイルさんが言ってたプレゼントって、ドフィか!!!
クロコダイルさん、ドフィの居場所知ってたのか…! だから教えてくれたのか…わざわざ…。
そう考えると土下座して感謝を述べたいくらい嬉しかった。く、クロコダイルさんアンタって人は…っ!
今までクソワニ野郎とか言っててごめんなさい。たまに火がつきにくい葉巻を渡すのやめます。ごめんなさい。
心の中でひたすらに謝る私を、ドフィは面白そうに見つめていた。
そんな私と話をしてみたいと思ったのか、ベビー5が私のことを呼ぶ。
「あの、若様のお姉様!」
「あ、私ロレンソ! レンって呼んで!」
「え? い、いいのかしら…? じゃあ、レンさん!」
「なぁに?」
「お家に着いたら、若様が私たちくらいのころのお話が聞きたいわ! それから、レンさんのお話も!」
「えぇー…かなりグロテスクだからやめておいた方がいいかなーって思うんだけど」
「そうなの?」と首をかしげるベビー5改めベビーちゃん。
そうなんだよな、まだ幼いベビーちゃんには刺激が強いかも、と苦笑いしながら言うと、ドフィも「そうだな」と同意してくれた。
「だが、おれには話せ」
「えっ」
「あのあと何があったのかも、今までのこともだ」
「えぇー…」
この弟に言うのか…。なんか、もう思い出したくないし言いたくないしな…。精一杯悲しそうな顔をしながらきゅっとドフィの服を掴んでみる。するとそれまで「当たり前だろ」みたいな顔をしていたドフィが押し黙った。よっしゃァ!!
まあ、思い出したくないのは本心だけどね?
「…嫌か」
「…思い出したくない、かな」
「……そうか。分かった」
ありがとう、と微笑んで、二人の世界を作ってしまっていることにご不満らしいベビーちゃんに「べつのお話ならしてあげる」と言ったら、まるで花が咲くように笑った。可愛いな。ドフィこの子どうやってゲットしたんだろう? 拐ったりしてないよね?
「どんなお話?」
「そうね…私がお仕事で行った町のお話はどう? 素敵だなってベビーちゃんが思ったら、私今度行ったときお土産買ってきてあげるわ」
「本当に!? 嬉しいわ!」
ああ素直で可愛い。弟も可愛かったけど、妹も欲しかったな。
…ああでも、こんなに可愛い妹が居たとしても、私たちみたいな目に遭わせるのは嫌だな。私じゃ守りきれないだろうし。釘で打たれてたりしたら私もう壊れちゃう。
「素直で可愛いねぇ、ベビーちゃんは」
そんな緩みきった私の顔は、どうやらドフィの想像通りだったようだーーーというのを、私はあとから知った。