コルボ山は、雄大な自然と綺麗な空気が特徴的な、ロレンソのかなり好きな場所である。
ロレンソが住んでみたいと思うところトップ10に入るくらいに、彼女はコルボ山が好きだった。
「とったどー」
襲ってくる猛獣も含めて。
今日仕留めたのは大きな虎。このコルボ山には猛獣なんて死ぬほどいて、こんなに大きな虎でも序の口というのだから参ってしまう。
これも一応彼に渡せばご飯になるのかなと、尻尾を掴んで引きずり持っていくことにした。
この虎もロレンソを襲ったのが運の尽き。華奢だがついているところには肉がついているロレンソに涎を垂らしながら襲いかかった時点で、この虎の運命は決まっていたのである。
そもそもロレンソに涎を垂らしながら襲いかかってくるのは虎のみならず、コルボ山から抜けて別の町に行ったとて、男に同じことをされるのがオチ。そんなロレンソの不満は高まっていて、いつもなら避けて逃げる! がモットーのロレンソが、今回は得意の蹴りで倒してしまったのだ。
「虎っておいしいのかな…?」
そんな疑問をぽつり、口にしたとき。ガラガラと鉄パイプを引きずる音が聞こえて、ロレンソは振り返った。
そこに小さな人影が見える。
「エース!」
「…久しぶりだな、レン。お、虎狩ったのか」
「毎回毎回しつこかったから! エースにあげるよ!」
「ほんとか? ありがとな」
テンションの差が激しいが、このエースという少年、きちんとした7歳児である。
そしてこの女、れっきとした三十路手前である。
なのにロレンソのほうが子供っぽく見えてしまうこの現象は、一体なんというのだろうか。
「なかなかでけェな」と嬉しそうに笑う少年は、ポートガス・D・エース。海賊王ロジャーの実の息子であり、今はコルボ山の山賊、ダダンに育てられ暮らしている。
「最近はどう? ダダンさんに嫌なこと…はさせられてないか」
「ああ。別に大丈夫だ」
「そっか! …あ、エース! 今日エースに服持ってきたんだ!」
はい、と大きな紙袋に入れて渡されたのは、エースにちょうどいいサイズの服たち。
どうしてこんなにちょうどいいサイズのものが分かるのか、と聞いては見るのだが、「なんとなく」としか返ってこない。
あのマキノでさえ採寸しないとダメだというのに、年に数回会うか会わぬかというこの女が、どうして分かるのか。エースは不思議でならなかった。
「礼は言っとく」
「ふふ、素直じゃないな。…っと、ゴメン。ちょっと電話」
慌てて懐から電伝虫なるカタツムリを取りだし、喋り始めるロレンソ。
その声がいつも客に向けている声とは違って、エースは首をかしげる。…どふぃ、って誰だ? そんなにお得意様なのか? といったように。
「ーーーうそ、」
…突如、ロレンソが目を見開いて電伝虫の相手を問いただしていた。
どうしたんだと声をかけようとしたが、ロレンソの纏うなにかピリピリとした空気に、生唾を飲むことしかできなかった。
それがロレンソの大きすぎる「動揺」という感情であることに、エースは気づくことはなく。
「…すぐ、帰るから。…うん。ご飯の準備しててあげるよ……は? …うん、わかった」
ガチャリと通話を切ったあと、ロレンソは申し訳無さそうに後頭部を掻く。
混乱と、焦り。なんとも言い難い表情をしていた。
「ごめん、エース。帰んなきゃ」
「なにかあったのか? その…ドフィ、ってやつと」
彼女は、聞こえてたのかと苦笑にも近い笑みを浮かべる。
「……弟がさ、見つかったんだ」