本編待ちの方、興味ない、こんなクロコダイルさん(その他キャラクター)は嫌だ、という方は飛ばすことをおすすめします。
もしクロコダイルさんがお相手だったら
「……葉巻はもうやめることにした」
「えっ!!?」
衝撃の告白に、私は手に持っていたクロコダイルさんの葉巻を取り落としそうになってしまった。
慌ててそれをクロコダイルさんの机の上に置くと、「何でですか!?」と理由を尋ねる。
もしかして、好きな女性に葉巻を吸う人は嫌だ、などと言って振られたのだろうか。それとも、歳を気にし始めたのだろうか。それとも、ただ単に飽きたとか? 気になりすぎていろいろと考えてしまう。
そんな私の様子を見てか、呆れたようにフッと笑ったクロコダイルさんは「バカか」と。…は? バカ?
クロコダイルさんが葉巻をやめる理由を尋ねただけなのにバカと言われるのは心外である。
なぜそう言われなきゃならない、と詰め寄ると、今度こそ完全に呆れのこもった溜め息を吐いたクロコダイルさん。
「日付を見ろ、バカ女が」
「…日付? バカ女!? し、心外です!!」
「そっちに反応してんじゃねェよ」
ちら、とクロコダイルさんの部屋にかけてあるカレンダーを見た。ええと今日は……4月の1日である。……あーっ!!?
そうか、今日はエイプリルフールか。
仕事続きでそういうイベントに縁遠くなっていたから、気が付かなかった。
午前中だけなら嘘を吐いていい日なんて変わっている、と下界へきたばかりのころは思ったものだ。
だからクロコダイルさんってば葉巻をやめるなんて嘘を。
そう考えるとクロコダイルさんが無性に可愛く見えてきてしまった。え、なに!? 私を騙そうとしたの? 葉巻やめるって言って私が驚く姿をみたいなーって思ったの!? なにこの人、かわいい!!!
「……気色悪い顔すんじゃねェ」
「く、クロコダイルさんって意外に可愛いんですね…! 今度からクロコさんって親しみをこめて呼んで良いですか?」
「親しみだと? バカにしてるの間違いじゃねェのか」
「いやまさか!!」
本当はクロコちゃんとかが良かったけれど、それで呼んだら確実に砂にされる。だってクロコさんでも青筋浮いてるもん。クロコさんマジ怖い。
クロコさんが可愛い嘘を吐いたのが悪いのに、今にも私を殺さんばかりに目が据わっているのはおかしいと思う。私はこの理不尽な怒りに異論を唱えたいです!!
「…それに、おれが葉巻をやめる訳ねェ」
「まあ、知ってます。大好きですもんねえ」
「……クハハ。まァ、それもあるがーー」
ガシリ、と顎を掴まれて引き寄せられる。アッこれデシャヴだぞ! 名前無理矢理聞かれたときとおんなじだこれ!!
前回名前を無理矢理聞かれたときはこのあと眼前に義手をかざされたから仕方なく答えたけど…。今度は何だ、なにをするつもりなんだーーーと身構えていたら、クロコダイルさんの口から出した煙が顔に直撃してむせる。な、なにすんのこのひと!! サディスティックワニ!! ……なーんて考えて目を開ける、と。
「ーーてめェがわざわざおれのところに来る機会を…おれが無くすわけがねェだろう?」
すっごく悪戯っぽい笑みを浮かべたクロコダイルさんが、目の前にいた。
その触れんばかりの距離と、発せられた言葉のせいで私は硬直。
けれど、クロコダイルさんはすぐに私から手を離すと、心から楽しそうに笑った。
「く、くく、クロコダイルさん!? い、今のも、エイプリルフール…ですよね!? ね!?」
「さァな……」
「ちょ、クロコダイルさん!!」
何も答えず背を向けるクロコダイルさんと、真っ赤な顔で追いかける私。
嘘を吐き返す余裕は、私にはなかった。